無駄飯ぐらいの貴族を殺して回る
アンジとの戦いは睨み合いになった。
向こうから攻める事が無くなったのだ。
まるで軍港での睨み合いの再現。
「こういうのイラつくんだけど」
率直な思いを言う。
戦争とは人が死ぬもの。
それは見ていて辛い。私を慕う人々が傷つき死んでいくことは悲しいことだ。
だが、それが戦争だ。
既に戦争の決断をしておいて、死ぬのが嫌だと言うのも。
「しかし兵士は貴重な存在。わざわざ危険な目にはさせられません。名将と呼ばれる存在は兵士をイタズラに消耗しません……まあ、アラニアのツーバックのような例外はいますが」
「そいつは気にしないの?」
「はい。アラニアの第一軍将軍ツーバック。彼に率いられる兵士は損害など気にしません。突っ込んで殺すか殺されるか。毎回被害は大きいですが、ツーバックのカリスマと厚遇に魅せられて、兵士は常に充実しています」
「……私の戦争のイメージはそういうのだったけどね」
割と戦争は睨み合いが多い。
退屈ね。
「タチアナ様。正直な話この睨み合いはしばらく続きます。一度王都に戻られた方が……」
うーん。
確かにこの状態でずっといるのもなぁ。
「分かったわ。交戦中に離れる訳にはいかなかったけど、この状態でずっといる意味はない。一度グラドニアの王都に戻ります」
グラドニアの王都。
「タチアナ様!」
宰相。
オーディルビスから来てもらったのだ。
なにしろオーディルビスの内官、一回全員クビにしてるからね。
取りあえず無理矢理国を回すために呼んだのだ。
「どう? こっちは」
「はい。……なんというか。我らから見ると羨ましい状況です。国は豊かで食糧に溢れています。貴族達がその豊富な食糧を食い尽くしていた。というのが現状です」
「……そう。んで? その大食らいの貴族共は?」
「はい。今は平民並みの食糧しか与えていません。かなり不満を持っています。それをどうするか……」
「民衆から恨まれているクソ貴族は殺す」
私は即断して言う。
「我らはグラドニアの民の立場にたつ。悪政をしていた貴族、領主を殺して回るわよ。そして民にふれ周りなさい。殺した貴族は貴重な食糧を無駄にしていたと」
グラドニアの掌握にあたって、威嚇もしないといけない。なにしろ無血開城だ。敵も味方も生温い。
降伏した王族は殺せない。
それをすれば今後の侵略戦争で降伏する国など無くなる。
貴族も基本的にはダメだ。貴族を無条件で殺せば死ぬ気で立ち向かう。
だが、理由があればいい。
こういう理由で殺す、と明確にする。
その理由に大義があれば。
それが今回の「不正」だ。
民の食糧を無駄に消費した。
民は飢えている中、貴族達はゴミのように消費して腐らせた。
「貴族を殺す時は立ち会うわ。グズグズやって反乱起こされても困る。速やかに殺して回るわよ」
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帝国本国。
豪華なベッドで寝ている皇帝。
もう明らかに虫の息。
「今死なれると色々困るわ」
エウロバは溜め息をつく。
帝国が奪われる。その落胆で皇帝の体調は悪化していた。
元々病弱だったが、今は熱が収まらない。
エウロバは最高の医療体制を構築させたが、それでも
「あと10日ほどね」
皇帝の眠る部屋から出てジェイロウと話をするエウロバ。
「タチアナはグラドニアの貴族を殺して回っているのか」
エウロバはつまらなそうに言う。
「ヘレンモールはアラニアの援軍を待つようです。その間にタチアナは王都に戻り、貴族を殺しています。王族は保護しているようですが」
ジェイロウが答える。
「民への人気取りだな。グラドニアは先王が無能だった。貴族にもダメな連中が多い。だが優秀な人間もいたはずだが」
「はい。タチアナは貴族への処断だけではなく登用も急いでいます。グラドニアは本来人材も豊富。強化される事でしょう」
「それをこまねいて見ている将軍ではあるまい」
「既にドクドレの部下が忍びこみ採用されています。役割は諜報としてではなく、そのまま軍に溶け込み、軍の中で重用されることです」
エウロバは果実を齧りながら
「悪くない策だ。帝国内の反アラニアの連中はオーディルビスと潰し合ってもらう。オーディルビスに埋毒か。いずれは邪魔になるからな」
「既に他の反アラニアの国が援軍に向かっています。存分に潰し合ってもらおうかと」
「ほう? どこだ?」
「マリネス公国の大将軍、バルドスです。大病で職を離れていましたが、病が癒えたとのことです」
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マリネス公国。
アラニアの隣国で、何度もぶつかり合った相手。
何度もアラニアに敗れていたが、それでも滅びずにいたのは大将軍バルドスが健在だったからだ。
アラニアの王、テディネスが元気な時代、大将軍バルドスも戦い続け、敗北があっても国が滅びることは無かった。
だが、テディネスが表に出なくなると、それに合わせたようにバルドスの体調は悪化した。
戦の最中は一度も病など無かった。
医者からは「極度の緊張からくる心の病です。気を抜いた時に一気に現れるのです」
と言われ、ずっと療養していた。
テディネスはしばらく表舞台から消えた後、正式に死が発表され、エウロバが跡を継いだ。
その直後一気に帝国本国に進軍。
皇帝を監禁した。
数年の療養でガリガリになり、王と国民もバルドスの復活を諦めていたころ。
このニュースを聞いてバルドスは飛び起きた。
「帝国の危機!!! 寝ている場合などではない!!!!!」
そして療養用の栄養価の高いスープをなぎ倒し、肉を食いまくった。
あっという間に元気になったのだ。
これには国民と王も「いきなり元気になったが大丈夫か???」と懐疑的だったが、あまりにも元気いっぱいに
「アラニアに天誅を!!! 一軍をお貸しください!!!」と騒ぐので
「……神教から援軍を頼まれていますし、ちょうど良いのでは……?」
と、バルドスを将軍としグラドニアに援軍に行くことになった。
「このバルドス!!! 皆に迷惑をかけていたがな!!! この身を捧げ国の為に命を使うぞ!!!」
バルドスに付き従うのは老練な兵士達だった。
歴戦の生き残り。
もう世代交代がなされ出世の目がない老いた兵士達。
戦争が無くなり故郷に帰った者もいた。
だが、共に戦ったバルドスが復活したと聞いて集まったのだ。
数は僅か800。
少ない軍勢だが士気は高かった。
そのうちの一人、参謀としてバルドスを支えた副将ネルウォンは
(……800は少ないが、本当に我が国は大丈夫か?)
心配になっていた。
バルドスについてきた兵士達は、バルドスと共に心中する決意で従軍している。
生きて帰ろうとも思っていない捨て身の軍隊。
そんな戦闘意識のある兵士達を連れてきて、そうでない兵士が残っている。
ネルウォンが見るに
(我が国の今後の人材は不安しかない……)
世代交代は上手くいっていない。
バルドスの復活はむしろありがたかったのだ。
ネルウォンから見れば兵士達を鍛え上げて欲しかった。
このまま死地に向かうのは惜しすぎる。
(……どうにか、生きて帰りたいが)
僅か800。マリネスには3万の兵士がいる。
だがネルウォンには
「……この800の精鋭を失って、我が国は立ちゆくんだろうか?」




