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オーディルビス王国の現状

 タチアナは翌日

「転移石を用意しなさい。聖女様に謁見します」

 転移石。聖女のいる大陸とオーディルビス王国はあまりにも離れている。

 船で移動すると何日もかかってしまう。


 その点、転移石は1人しか移動は出来ないが指定された場所に瞬間的に移動できる。

 今回はタチアナ1人移動すればいいだけなので転移石の準備を指示したのだが。


「タチアナ様、まだ政情は落ちついておりません。そんなに出かけられるのも……」

 宰相が止める。


 タチアナはそれを胡乱うろんな目で見て

「私は王だ。分かる?」

 その言葉に背筋を伸ばす宰相。


「先王の頼りなさは詫びよう。その忠告には意味があったと思う。だが今は私が王だ。政情など理解している。それでもなお出かけなければならないのだ。それを止めるからには相応の理由を持って止めなさい」


「も! 申し訳ありません!」

 その姿を見ながら

「分かればいい。私の政策に異論を言うなという意味合いではない。王に敬意を持ちなさい。という話。繰り返すけどあなたのせいではない。先王のせいよ。でも時代は変わった。ついてきなさい」

「はい!」


 頭を下げる宰相を見ながら

「……王の威厳かぁ。僕には苦手なジャンルだよねー。あーあー。面倒くさいなぁ」



 タチアナは転移石の準備をさせている間に兄と話をしようと別室に移動する。


 すると

『わざわざ来なくてもいいですよ。タチアナさん』

 タチアナの頭に響く声。


『やあ、聖女様。ちょっと面倒な話をするからお酒と魚食べながら相談しようかと』


『それはいいですね。ぜひそうしましょう。それはそれとして、神教を滅ぼすと簡単に言われましてもね』

 すべてを知っているかのような聖女ミルティアのセリフに驚くこともなく


『……兄は癒えないのですか?』

 違うことを聞くタチアナ。


『葛藤して相談してくるタチアナさんなら話もしますし妥協もしますが、私は兄の復讐に取り付かれたバーサーカー相手に説得するなんて無駄なことしたくないです』


 溜め息をつくタチアナ。


『結論だけ述べれば、帝国への戦争は認めます。私とエウロバさんは仲良しですが、エウロバさんは帝国の全てを掌握していない。特に神教の強い公国は隙あれば反乱を起こすでしょう。そこへ攻めいるのは、エウロバさんも、私も特に困らない』


 真剣な顔で頷くタチアナ。


『問題はお兄さんです。神教困らせて溜飲下げるぐらいは認めますが、神教滅ぼすまで攻め続けるなど、今の聖女連合国が一丸になっても無理です。龍姫が止めますからね。それでもあのお兄さんならばオーディルビスの国力が尽きるまでやるでしょうね。惜しいですよ。ご長男が生きていらっしゃれば、優秀な片腕として勇んで戦争に出かけていたでしょうに。兄を殺された修羅の状態の今は困ります。なので癒せません。あのままです』


 少し泣きそうな顔になるタチアナ


『王は変わらないから癒してくれ。も無しです。タチアナさんは兄を尊敬されている。今のように囁くように懇願されるぐらいは認めますよ? でも元気になったらレイプしてでも言うこと聞かすと思いますよ。あの人。兄の復讐のためならなんでもする頑固一徹、純真無垢。優秀なお兄さんですけど、悲しいことに王の器ではありません」


 その言葉に頷くタチアナ。

 兄はそういう人物だった。


『まあそういうことです。別に直接会っても構いませんが、結論は変わりません。お魚を一緒に食べるのは大歓迎なのでそれはそれで』


『うん。取りあえず行くから』

『はい。お待ちしております』


 聖女との念話が終わり、脱力するタチアナ。


「さて、お兄様にお会いしますか」



 兄との会話。

『帝国内の神教を擁護する国を攻めることは可能です。ですが無秩序な戦いは難しいかと』

『それは理解する。まずはあの病をバラまいた黒幕の把握だ。そやつのいる国は叩きのめす』

 頷くタチアナ。


『お兄様、私は聖女様とそのあたりの調整をしてきます。その間不自由なく過ごせるよう手配します』


『……ああ、そうか。ならば申し訳ないのだが一つある……』

 その言葉に真剣な顔をして聞くタチアナだが、話を聞くにつれ、困惑の表情に変わり、最終的には怒りで顔が紅潮する。


『……それは、私が戻ってきて体制を変えた最近もですか……?』

『ああ。タチアナが戻って本当に助かっている。だからそこも直してくれると有り難いな』


『かしこまりました。お兄様。すぐに是正します』



 そして部屋を出ると

「お兄様へのお付きの三人を呼び出しなさい!!!!!」


 前回呼び出されたビザルディ含めて三人がタチアナの前にくる。


「……ビザルディには注意した。あれからまだビザルディは当番にはなってはいないから、特別にあなたは免除します」


 タチアナの表情に震えるビザルディと他二人。


「おめえらよー! 王族の介護だって言ってるのに! なんでまともにケツもふけねーんだよ!!! それだけならまだ男の身体に不慣れってことで見逃すけど! 食べこぼしが目に入りそうになったら気付けよ!!! どんだけ適当なんだお前ら!!!」


 目の前にいた付き人を蹴り上げるタチアナ。


「きゃあっ!!!」

「きゃあじゃねーよ!!!」

 兄からの話は

『食事の時に流し込まれる食事の破片が目に入りそうになって痛い』

 だった。


「どんな国に関わる深刻な話されるのかと身構えたら! 内容が介護の基本中の基本じゃねーか!!! お前、寝たきりの身内のおばあちゃんに飯食わせる時に、食べ残しが目に入らないように気をつけるぐらいは分かるだろうが!!! アホかぁ!!!」


 そう言いながらビザルディ以外の二人を蹴り続けるタチアナ。

「ふぎゅうぅぅっ!!!」

「あぐっっ!!!!」


「見せしめに家族郎党ぶち殺すぞ!!! 他国ならば王族への不敬は即、死罪だ!!! 今までが無事だったからと言って舐めるなよ!!! 兄への不敬は私への不敬だ!!! わかったな!!!」


 そしてビザルディを指差し

「ビザルディ! 今日から二人お付きを追加します! 5人で無理なく世話をしなさい! リーダーはあなたよ! 粗相があればあなたも責任をとる!わかったわね!!!」


「は! はい!」


 部屋を出たあと

「どーすっかね、実際。戦争どころじゃないじゃん。こんなんじゃ」



 タチアナは翌日宰相を呼び出す。

「昨日口頭で注意したが、我が国における王に対する敬意の無さは異常だ。あなたが原因では無いのは理解している。だがこのあと私は外交と戦争で内政にかまけてられない」


「せ!? 戦争!!! 南郡諸島を占拠したばかりですぞ!?」

「だから、反射的に王に異議を申し立てるな」

「……も、申し訳ありません!!!」


「このように、意識的に王に敬意の無い風潮が王宮ですら蔓延している。他の国でも民が王への敬意が見られないのは理解する。だが、王宮内は上辺程度は敬意を取り繕う。なにしろ不敬は死だからだ。この王宮の雰囲気は深刻だ。これでは王の指令もまともに聞かない。だから早急に改革しようと思う」


「……改革……ですか」宰相は慎重に答える。


「私も王らしく振る舞いは考えるが、所詮は小娘。12の小娘の威厳など取り繕うだけ時間の無駄だ。それよりも他だ。そう思って見た時に我が国には問題人物がいる」


「……? ……ぁあっ!? ま、まさか。レグランド大将軍の事ですか!?」

「頭の回転が早くて助かるわ。こんな小国でなにが大将軍。なんの功績があいつにあるの? 王の無策のドサクサに紛れて賄賂で地位を勝ち取った男。あんなのがトップでは軍の士気もあがらない。軍にはすぐ活躍してもらう。あの無能は理由をつけて処断する。問題は後継。宰相のあなたには先に言っておこう。次はディルアルハだ」


「ディルアルハ!? まだ若い……い、いえ。失礼しました……」


「そうそう。そうやって堪えてね。あなたを更迭しない理由はその物分かりの良さだから。若いなんて知ってるわ。でも仕方ないでしょ? 見た感じあいつしかいないじゃない」


 タチアナは苛立っていた。もう、なにから手をつければ、という状態。

 この国は色々変えないといけないという焦りはあるが、全ては変えられない。


(こいつもなぁ……)

 タチアナとしては本来は宰相も変えたい。

 おっさんと毎日会話とか止めたいと思っていた。


 だが宰相以上の人材はいないし、実際問題この宰相がいたから国が保っていたのは理解している。


 タチアナは部下から、兄達が民に飛び込もうとした時に宰相は涙を流して止めた、と聞いていた。

 あなた方が倒れればこの国は終わりだと。


 それでも止まらないとなれば宰相とその家族も民に飛び込んだ。

 その結果、宰相の息子が死んでいる。


「あなたがいたからオーディルビスが保ったのだ。それは十分理解しているわ。これからもよろしくね」

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