ファレンスの戦い
「えーーーー!!! やだよーーー!!!」
遠距離会話装置に向かって怒鳴る少女。
『嫌だと言われてもな。相手は少女趣味の変態。リミが一番いいんだ』
「わたし以外にもいるじゃんかよー! 例えば……」
少女は少し悩み
「……ミーとか?」
『ミーはもはや諜報としては使い物にならん』
その言葉に悲しそうな顔をする少女。
『クーに遠慮しているのか? あいつも仕事で他の女とやりまくりだが責められた話じゃないぞ? 諜報なら当たり前だ』
「いや! クーとか関係ねーし!!! あのバカ帰ってこねーほーがいいし!!!」
一通り遠距離会話装置に怒鳴った少女だが
『諜報やめるか? それならそれで構わんぞ。自分の子供を子育てしたいと言うならば止めはせん』
遠距離会話装置越しの男の冷静な声に、少女は口を噛み締める。
「……わ、わかりましたよ!!! やればいいんでしょ! やれば!!! その王族と孕ませセッ〇ス!!!」
少女はキレていた。
なにしろ依頼内容が
「オーディルビス王国の王子の子を孕んでこい」
なのだ。
そんなの諜報の仕事じゃねーだろ、と怒っていたのだが。
『他の国は知らんが、諜報の仕事はありとあらゆる情報を盗んでくること。その情報には人も含まれる。アラニアの諜報は人殺しも人攫いも躊躇わん。それにリミは最近セックスで情報を取ってくることが巧くなってきた。これもその延長線上だ』
「はいはい! わかりましたよ! それで? ジェイロウ、私はどこに行けばいいの?」
『ああ。既に準備は終わっている。転移石でグラドニア公国のラプドシアに向かえ』
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(タチアナ視点)
ディルアルハからの報告を微妙な顔で聞く。
「……その。妊娠している高級娼婦ですから、問題ないかと……」
まあそらそうなんでしょうけど。
「性交してたの?」
「……娼婦が気絶してもやってました……」
どれだけ元気なの?
お兄様は今はグーグー寝ている。
なんか満足そう。
「……名乗ってはいないのね?」
「立ち会った訳ではありませんか、もし名乗ったとしてもハッタリと思われるかと」
「……そう。起きたらお兄様は戦いに挑むわ。とりあえずこの事は他言無用で」
「かしこまりました!」
明日死ぬ。
それなのにお兄様はなんの憂いも無さそうだった。
「……お兄様。直接の仇はとれませんが、必ずやお兄様が喜ぶような国に致します」
翌朝、お兄様は元気いっぱいだった。なんか顔もテカテカしてる。
「タチアナ、世話になったな」
お兄様はニコニコ。
単騎。帝国本国で暴れまわり、そして死ぬ。
これから死地に行くのにその恐れも無い。
「聖女様にくれぐれも御礼を伝えてくれ。このファレンス、なんの悔いもなく死ねたと」
「分かりましたわ。お兄様。どうか御武運を」
「ああ」
既に転移石を握っている。
帝国本国への転移など認められていない。これは聖女様から預かったもの。
既に聖女様からエウロバに話が伝わっているのだろう。
「それではさらばだ。ああ、そうだ」
お兄様は当たり前のように
「リミという女に王家の指輪を渡したんだ。もしいたらよろしくしてやってくれ」
そう言って、お兄様は転移石で消えた……
「はあああああああっっっ!!!!???????」
私は思わず絶叫した。
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(リミ視点)
「もらってきたよー」
あの王子、結局私が気絶してもやっていたのだ。
ヒリヒリする。
んで、ちゃんと言われたものは貰ってきた。
「ああいう幼子好きの変態は独占欲が強い。他人の子が中にいれば、それを下ろさせてでも自分の子を孕ませる、と張り切る。その時に身の証をねだれ。セッ〇スの時にねだれば、男は馬鹿だから気前よくくれるぞ」
ジェイロウの言葉は嘘臭かったが無事もらえた。
ミーが出来ないという理由は、この身の証しの奪取が出来ないだろう、という判断。
「ああ、これでいい。まあ本当に孕んでくれれば良いんだが、そうでなくともこの指輪自体が身の証しだ。王子に似た赤子を探すが」
「始めからそうしろよー」
諜報の仕事じゃねーよ。孕んでこいとか。
「オーディルビスはマズいとドクドレが判断している。聖女の勢力はエウロバ様の敵となる。今のうちに手は打っておかないといけない」
「ドクドレにやらせりゃーいいじゃーーーん」
あのツルッパゲのおっさん、色々頭いいから出来るだろ。
「……ドクドレは男が好き。あいつらの部下も男が好き。そら喜んで王子とはやりそうだが、どうやって子を産むんだ???」
頭おかしい連中しかいねーな。アラニア。
一応神教徒じゃねーの? アラニアの貴族の人達。
「さて、そろそろ王子が来るぞ。お前はもう行け」
帝国本国への転移が一時的に解除されている。
それで来れたのだが、それは王子がこっちに来るから、らしい。
「はいはい。逃げるよー」
「死ぬために戦う。素晴らしいな。俺もアラニアの四将軍。民が死ぬ戦は嫌いだが、こういう死ぬために戦うやつとの戦いは歓迎だ」
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ファレンスは転移した。
そこには既に兵士が並んでいる。
待ち構えていた。だが皆は敬礼の姿をしている。
「オーディルビス王子、ファレンス殿と見受けられる。私はアラニア四将軍の一人ジェイロウ。現在帝国本国の警備をしている。既に目的は分かっているが、誠に申し訳ないが神教の教会に殴り込みとはいかん。だが武人として惨めな死をさせるつもりもない。一騎打ちがお望みか?」
「そうか。それは有り難いな。なにぶん元気になったものでな。一騎打ちの繰り返しでも良いが、望みがないのも辛い。5人突破したら教会まで通してもらえないか?」
「ああ、それならいい」
ジェイロウはあっさりと答える。
5人負けるなど有り得ないという態度。
「それは有り難い! いくぞ!!!」
ファレンスは斧を構え、思いっきり突撃した。
ファレンスの戦いを窓ガラスから眺めるエウロバと、聖女ミルティア。
「他人事の戦は最大の娯楽と聞きますが、なんか分かりますね」
果実を齧りながら、ミルティアは楽しそうに喋る。
「私から見たら当事者だ。ジェイロウは私の大事な部下」
既にアラニアの兵士が3人吹き飛ばされている。
あと二人。
最後の一人はジェイロウなのだが
「ジェイロウって一騎打ちで強いんですか? ツーバックとか、ディムドックとかは単騎で強いって聞きますけど」
ミルティアの問いかけに
「ジェイロウとドクドレは指揮官として有能だから出世した。別に将軍が一騎打ちに強い必要はない」
エウロバは戦いから目を離さず言う。
大きな斧を振り回すファレンスに、四人目の剣が持っていかれ吹き飛ぶ。
あとは
ジェイロウだけ。
だがジェイロウの顔色は変わらない。
「いくぞ!!!」
ファレンスはそのままジェイロウに迫る。
エウロバは拳をギュッと握るが
「……それでも、ジェイロウとドクドレは」
少し言葉を区切る。
その間にジェイロウはスライディングするように、ファレンスの足下に潜り込んだ。
驚愕するファレンスに
「単騎で百人殺せる化け物だ」
ジェイロウは瞬間的に起き上がり、左手に仕込んでいたナイフで、一気にファレンスの喉元を切り裂いた。




