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兄の覚醒と後継問題

 風呂で身体を清める。

 今日は一人。

 今は誰とも話しをしたくない。


(……)

 屈辱に耐え、国を強くしろ。ということだと思う。

 兄の仇よりも、強い動機を私に与えようとした。

 それは理解している。

 してはいるが


(……王様が地面に顔面付けて、ぐりぐり足で踏まれた挙げ句、広げた陰部に足の指突っ込まれるとか……)

 ミルティアの歪んだ愉快そうな顔が瞼に焼き付いている。


 割と歪んでたなー。いや、ミルティアの歪みは分かってはいたけれど。


 ルピアは私が来る前に止めてくれていたらしい。タチアナに酷いことをするな、と。


 んで、その結果「じゃあ私のイライラは後宮の主のルピアが晴らしてね♡」からのレイプだったそうな。


 それもまた楽しそうに言うんだもん。ミルティア。


 ただ、いつまでも引きずるわけにもいかない。屈辱は屈辱として、すぐに前に向かわなければならない。


 まずはお兄様。



 身体を清め、お兄様の間に行く。

 まだ眠ったままの兄。


 そこに声が響く

『いいですか?』

 聖女様。


「はい」

 その瞬間。兄が跳ね起きた。


「タチアナ!!! 武器をもて!!!!」

 張り切り過ぎですお兄様。


「お兄様。まずは戦の準備を。よく食べて、身体をほぐされてください。戦はその後で良いはずです」


「そうか! そうだな! まずは身体の調子をはからねばならない!!!」

 声がデカいな。私もしばらく会ってなかったからここまで声が大きいイメージがなかった。


「すぐに食べ物を用意させます」



『ガツッ! グチュッ!』

 凄い音をたてて、兄は魚をかじっていた。


「旨いな!!! ひさしぶりの食事はうまい!!!」

 嬉しそうに食べまくるお兄様。


「お兄様に付き添う兵士も確認しなければなりません。5日はお待ちください」


「5日か。もちろんだ。俺も身体を鍛え直さねばならぬ」

 でも、もう筋肉隆々。

 全盛期のお兄様の体力に戻っているように見える。


 それでも感覚は鈍っているはずだ。何年も寝たきりだった。

 その感覚が5日程度で戻るのか?


 そこが問題。


 だが問題はそれだけではすまなかった。



 宰相が青い顔をして飛んできた。

 なにかと思ったら

「ファレンス様の復活はまずいです! 王位が揉めます!!!」

 その言葉に最初は誤解かと思った。


 兄はすぐに死ぬ。それを伝えようかと思ったが

「ファレンス様が復活なされれば、当然世継ぎの話になります!」

 ああ、そっち。


「5日しか猶予はないわよ?」

 5日ぐらいしか聖女様は待ってくれないと予想している。


「……5日……その。本来であればファレンス様が継ぐお話でした。先王はそのように指名しておりましたから。それが王の責務を果たせないから、バディレスのクーデター、そこからのタチアナ様の王位継承です。今更ファレンス様が継ぐ話にはなりません。ですがファレンス様にお子様が残されれば、自然と後継争いに……」


 また面倒くさい話。

 宰相も「そんな面倒な話になってほしくない」みたいな顔している。


「そもそも寝たきり状態でも男性機能は生きていたでしょう?」

「……その。する相手もおらず……」

 そう言えばファレンスお兄様の婚約者も流行病で亡くなったと聞いた。


「……それで? どうしろと?」

「女を与えないでください」

 なるほど。


「分かったわ。でも私が子を産むとは限らないけど?」

 私が子を産まなければ王家は断絶するけど


「……それでも。オーディルビスの王位継承の争いは常に血なまぐさいのです……。タチアナ様とファレンス様達のような、実の兄弟仲は良いのですが……。先王も従兄弟と争った末殺しています」

 そうだねー。お父様、従兄弟殺してんだよね。


「特に従兄弟がダメです。今回のバディレスも従兄弟。兄弟の子同士は大抵殺し合うのです。私はそれを恐れています」


「よく恐れず諫言してきたわ。素晴らしい。これからもそのようなことは遠慮せず伝えなさい。そういうのは無礼とは呼ばないわ」



 本当に宰相は有能だと思う。

 その日の夜に


「……タチアナ様。その。ファレンス様から……女を求められまして……」

 お兄様と訓練していた兵士から報告が来る。

 女。


 宰相、あなたの警告聞かなかったら、すぐにビザルディ派遣させていてたと思うよ。


「死に向かうにあたり女を抱きたいのは分かるけど、中々難しい話ね」

「はい。兵士は戦う前に娼婦を抱くのは当たり前です。ですが、ファレンス様は……その。お立場もあるでしょうし……」


「口戯ならオッケーとか言えそう?」

 ブルンブルンとクビを振る兵士。


 でしょうね。

「今日は都合が付かないと伝えて。私が動きます」


 =====================


 エウロバの元にグラドニアの攻防戦の状況が伝えられていた。


「グラドニアの士気が壊滅的です。無理矢理された宣戦布告に、巻き込まれた戦争。兵士達は厭戦気分が充満し、王の指示もロクに聞きません」

「それは兵士と呼んでいいのか」

 呆れた顔のエウロバ。


「ですが、逆を言えば不用意に攻め込む事もなく、軍港を囲み続けていると言えます。進撃を防いでいる状態です。下手にぶつかり、惨敗するより全然マシですね」

 ジェイロウが淡々と報告を続ける。


「そして、アンジ公国のヘレンモールがディマンド公国を出てグラドニアへの援軍に行こうとしています。ヘレンモールから見れば、グラドニアの軍港を占拠されたままの状態は問題だと認識しているのでしょう」


「ジェイロウから見て、ヘレンモールの策はどう思う?」

「はい。私がヘレンモールの立場でも軍港を攻めます。我がアラニアならば海軍を使いますが、海軍のいないアンジ公国ならば陸から行くでしょう。しかし陸から軍港を攻めるのは至難です。相当な被害はあるかと」

 エウロバはニンマリと笑い


「ヘレンモールに大量の食糧を送りつけろ。我等はグラドニアへの援軍を認めると伝えておけ」

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