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兄の怒りと、聖女の感情

 グラドニアの陸軍拠点を抑える。

 その為に地図を持ち対策を練っていた。


 なにしろ白兵戦は人数が少なく不利になる。出来るだけ平地の戦いは避けるべき。


 ルートを打ち合わせしている最中に


「た! タチアナ様!!! 大変です! 龍族が!!! いえ、アルネシア公国から使者が来ております!」


「……龍族が……? グラドニアに攻めるなってことかしら? ……まあ会いましょう?」


 龍族。噂には聞いていたけれど初めて会うね。


 その龍族は大人しそうな女性に見えた。


「どうも。龍族エールミケアです」

 その名前に顔が引きつる。顔は知らなくとも名前は知っている。


 龍族で、というよりも、全世界で最高の諜報と呼ばれる存在。


「……はい。どのようなご用件でしょうか?」

「話せば長くなります。そして人払いを。これはあなたのお兄様のお話です」


 その言葉に私は場所を移す。


 狭い部屋。二人しか入れない部屋。

 そこで聞かされた話。


 話が終わったあと、私は


「急ぎ私は国に帰る。ディルアルハ、しばらく指揮は任せるわ。遠距離会話装置で常に連絡するように」


「今からですか?」

 ディルアルハはびっくりしている。

 そらそうでしょうね。でも。


「この戦の決着点が変わるかも知れない。すぐにお兄様にお会いしないといけません」



 私は転移石で即座に国に戻った。

「お兄様にお会いするわ!」

 私の姿を見てびっくりする宰相にもまともに説明はしない。


 今後どうすべきか。エールミケアからの話はあまりにも衝撃だった。

 兄の話によっては聖女様にも相談しないといけない。


「お兄様、失礼します!」

 香水の匂いが立ち込める兄の部屋。

 見た目はとても綺麗にされている。


 しっかり世話はされているようで安心する。


『……タチアナ……? どうした? なにか戦争に問題があったか……?』

 兄の弱々しい口の動きを見ながら、ゆっくりと話す内容を吟味する。


「……流行病の真相が、龍姫よりもたらされました」

 兄の口の動きが止まる。

 目は大きく開かれ、全身が震えている。

 この身体でこの反応だから、もしお元気ならば絶叫していたのだろう。


『……話せ。誰がやった?』


「長い話になります。このまま私の話をお聞きください」


 前神皇が帝国乗っ取りを企て、毒を使おうとした。だが、いきなり毒を使うと言っても効果範囲が分からない。だからまずは聖女様の大陸に実験としてバラまいた。


 それが流行病として大流行してしまった。


 あまりの効果範囲に驚いている間に、流行病はすぐに帝国にも渡ろうとしていた。


 それを寸前で止めたのが、当時のアラニアの公王テディネス。


 そして、ここが実に馬鹿馬鹿しいのだが、神教の連中は自分で毒をバラまいておきながら

『自分達は感染しない』と勝手に思い込んでいたらしい。

 だから特に対策もしていなかった。


 龍姫から何度も「あの流行病はおかしい」と警告があっても神教が動かなかったのは、自分達でバラまいて、そしてその流行病は自分達にはこないと勝手に思っていたから。


 つまりだ。


「……バカが、訳も分からず、とんでもない毒をバラまいた。というのが真相だそうです……」


 本来の目的は帝国本国へ病を流し、皇帝を暗殺すること。

 なのだが、あまりの威力にそれは取りやめになった。


 要は単なるミスである。

 我等に害意もない。バカがやらかした惨事。


『……それで。龍姫は?』

「はい。元神皇を引き渡すことは可能だと。このままでも、拷問で殺すとは言っています」


『……龍姫は神教の信者だ。信用ならん。我等に引き渡すように言え』

「分かりました」


『……その上で、兄の仇を討つ。帝国本国に攻め込め』

 ああ、やっぱり。お兄様はそう言うよね。


『帝国本国の神教の神殿を焼き尽くせ。誰一人、この陰謀に関わった人間を残すな……。そして、こうていを、こ……』

 途端に、兄は苦しそうな顔をする。


「お兄様、お身体が」

『……こうふん、しすぎた……。 また、明日、きてくれ……』

 顔面が蒼白になっている。


「ビザルディ! お兄様のお身体がおかしい! すぐに医者を呼びなさい!!!」


 医者。いや、医者じゃないんだろうな。

 これは明らかに……。



 部屋に戻り、遠距離会話装置を手にかける。


『まあ、タチアナさんならご存知の通り。私の仕業ですよ』

 聖女様の声が頭になだれ込む。


「……兄の話を最後まで……」

『だってもう結論分かりましたよね? 帝国本国乗り込んで、神教の神殿ぶっこわして、皇帝ぶっ殺してこいという内容ですよ? あれ』

 でしょうね。

 兄の次の言葉は『皇帝を殺せ』に繋がっていたと思う。


 なぜ皇帝を殺す必要があるのか? を聞きたかったのだが。


『王は責任を取る存在です。神教に好きなようにされた皇帝は責任を取って死ねってことでしょうね。まあほっといても死にそうなんですけど』


 兄が言いそうな話。


『タチアナさん。それは認めません。帝国本国に攻め込むことを認めません。今帝国本国にはアラニアがいる。アラニアの海軍は質が違う。まともにぶつかれば勝てませんし、私はそんな殺し合いを望んでいません。わかりますね? 帝国を引っ掻き回して溜飲を下げるぐらいはいいですよ? でも聖女が交代した直後、帝国が体制変更しようとしているこの時期には認めません』


 聖女様の話は分かる。

 私も帝国本国に攻めろと言われても、勝ち目が思い付かない。


『正直言いましょうか? 私はタチアナさんの我が儘にはお付き合いしてもいいですが、あなたの兄ファレンスの我が儘に付き合う気はありません。何故かグラドニアに攻め込む、みたいな奇行は認めますけど、帝国本国はダメです』


 聖女様からの話に反論する気もない。

 お兄様は話聞かないからなー。


『そこらへん話し合いますか? こちらにまた来てください。エウロバさん交えて話し合いましょう』


「……分かりました。それで、兄は」

『しばらく興奮治まるまではあんな感じです。私はタチアナさん好きなので配慮しましたが、普通に今すぐ殺したいぐらいですよ? 残酷なようですが、今のファレンスはオーディルビスに取っては害にしかなってません。今は当初のタチアナさんの考え通りに、内政に力を入れないといけない時期だったんですから』


 それも分かる。

 オーディルビスにとって、お兄様はもはや……


『後は直接話し合いましょう。それではまた』

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