元神皇の陰謀
まだテディネスが元気に活動していた時代。
「マザーファッカー!!!!!」
テディネスは吼えていた。
聖女の大陸で流行病が発生した。
聖女の『祝福』をもってしても間に合っていない。
その事を帝国や神教は 『ざまーみろ』という形で消化していた。
だがテディネスは怒り狂っていた。
「病に信仰の差などない!!! 『祝福』のない帝国に病が上陸したら止めようがないぞ!!! 我が国は海上封鎖したとしても! 陸伝いで病が来れば止めようはない!!!」
テディネスはいつものようにセックスをしながら叫んでいた。
「おおおおぉぉっっっ!!!♡♡♡ ぼっきぢんぽぎもぢぃぃぃぃ!!!!♡♡♡」
元貴族の女が絶叫している。
テディネスは人妻の女貴族を堕とすのを好んでいたのだが
「ジェイロウ! ドクドレ! いくぞ!!!」
「……王、行くとは……帝国本国ですか?」
他に行くところも思い付かないが、恐る恐る聞くジェイロウ。
「うむ! 帝国本国に直接言わねば意味はない!!! いくぞ!!!」
行くぞ。そう言いながらテディネスはフルチンだった。
フルチンのまま転移石を握っている。
ジェイロウは「まじかよ?」という顔のままだが、着いていかないわけもいかない。
「ジェイロウ、俺達しか止められん。行くぞ」
ドクドレの声に、ジェイロウは従った。
帝国本国に乗り込んだ3人だが、当たり前の話として、下半身すっぽんぽん、上半身は半裸のテディネスを宮殿に通すわけもない。
衛兵が取り囲んで止めようとしたが
「くそ雑魚の弱兵が!!! 最強を誇るアラニアの強兵、その王を止められるとでも思っているのか!!!」
軽く振り払うだけで吹き飛ぶ衛兵。
これでもテディネスは相当手加減をしていた。
「王に害意はありません! 流行病の件で伺っただけです!」
ジェイロウとドクドレが叫びながら、前に進む。
宮殿は騒然となるが、テディネスはそのまま皇帝のいる広間にたどり着いた。
「……テディネス、騒がしいな」
帝国の頂点となる皇帝。
テディネスの立場は皇帝に仕える一公国の王にすぎない。
テディネスはすぐに跪いた。
「帝に急ぎ進言すべきことがあり、馳せ参じました!!! 聖女の大陸の流行病は深刻です!!! 大至急海上封鎖をすべきです!!!」
テディネスはしっかりと臣下の儀礼に基づいた姿勢をしているが、まだフルチンのまま。
周囲の大臣達はどこ見ていいのかわからず、目を泳がせていた。
「……まだ病は聖女の大陸にとどまっている。海上封鎖は影響が大きすぎる」
皇帝の声は弱々しい。
最近は病が多くなっていたのだ。この日も体調不良でフラフラしていた。
「帝国に来てからでは遅すぎます! 幸い聖女の大陸には『祝福』がある! 海上封鎖で耐えていれば、いずれ癒えます! しかし帝国に入り込めばそれを癒やす者はいないのですぞ!!!」
「無礼な!!! 神教に力が無いと申すのか!?」
皇宮には神教の人間もいた。
テディネスの物言いに噛みつくが
「やかましい!!! 病が治せると大言するならば!!! 真っ先に陛下の病を治さんか!!!!!」
テディネスの大声に黙る神教の幹部。
陛下の病。
皇帝には子供がいない。
生まれつき身体が弱く、よく大熱を出してしまうのだが、この大熱で生殖機能に問題があるのでは? と言われていた。
今の皇族でもっともマシなのが今の皇帝。
他の皇族は人の上にたてるような人間がいない。今の皇帝が亡くなったら後継者は誰になるのか? それがまだ決まっていない、という帝国史上始まって以来の危機になっていた。
未だに皇位後継者の順位が発表されていないのだ。
子が出来れば問題な無くなるが、その子が出来る見込みがない。
「……テディネス。お主の言っていることに理はある。確かに聖女の大陸で流行っているうちにはいずれ癒えよう。だが、帝国に来ればどうしようも無くなる。よかろう。海上封鎖を帝国全土に命じる」
「陛下!? そんな……」
「陛下ありがとうございます! 無礼な登場失礼しました! よし! 帰るぞ!!!」
テディネスはフルチン状態でそのまま帰る。
皇帝はその姿を見ながら
「……本来ならば、こういうのは大臣が言い出すものだがな……」
溜め息をついた。
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「確かにあれはテディネスが無理矢理やらせたような政策でした。滅多に内政に口出ししないテディネスの直言に陛下の心が動いたというよりも、その言っている内容に理があったからでしょう」
アルネシア公国を治める主、龍姫。
厳しい顔をして、龍族の現リーダー、マディアクリアの言葉を聞く。
「……下手すると、帝国本国に病は行っていた、と」
「テディネスが乗り込み、陛下が頷かなければ……我らも既に情報は流していたのです。聖女の大陸の病はマズいと。それに対してなんの対策も打たれませんでした。テディネスが動かなかったとして、我らが言ったところで動いたかどうか……」
龍族のこの調査は、タチアナの兄の件とは全く別のところから起こっていた。
神教のトップを交代させた。
前神皇は幽閉した。
ここの動きで疑惑が起こってきたのだ。
「エールミケアには、わざと神皇の動きは見張らせませんでしたが……」
龍族元リーダーのフェルラインが苦々しく言う。
エールミケアは、元神皇が幽閉された以上、元神皇の動きを探るのは解禁だろうと、勝手に探ったのだ。
元々かなり神皇には疑いを持っており、フェルラインにはこまめに連絡はしていた。
その結果。
「……陛下の殺害と……神皇の帝国乗っ取り……」
怒りに、口が震える龍姫。
「これだけではありません。何度もこのようなことを行った形跡が……」
そして、吐き気をこらえるような顔で、フェルラインは慎重に言う。
「……陛下のお子様は5度授かり、5度流れました……。初めの3度は純粋な流産と思われますが、最近の二度は……神皇の手の者が、毒物を妾に混入させた疑いが……」
その瞬間、龍姫は目の前のソファーを蹴り飛ばした。
『ガスッッッツ!!!!』
凄まじい音と共に、壁にめり込むソファー。
「……あ、……あの、……く、くそばか……」
怒りすぎて言葉にならない。
「龍姫様。エールミケアの情報を合わせれば、『神皇が陛下のお子様を妨害し、暗殺の末乗っ取ろうとした』ことに疑いはありません。証拠も集まっています」
マディアクリアは冷静に言う。
「エールミケアからは、何度も何度も『今の神皇の動きがおかしい。探らせてくれ』と連絡はありました。これに関して積極的に動かせなかった私の責任です」
フェルラインは頭を下げる。
「……それを止めていたのは私よ……」
龍姫は髪をかきむしる。
「そして、今回タチアナが問題にしている流行病の件ですが、あれは毒物です。そして入手先がマズい。テディネスは本能的に察したのかもしれません。あの流行病を起こした毒物は、元々はソレイユ様が開発したものです。元々ソレイユ様がいたハリネス公国。そこの倉庫に管理されていたものが、神教により持ち出された、と。宰相ピクリーに確認したところ、誰かは分かりませんが、持ち出された事は事実だそうです。ピクリーに内密で持ち出せるなど、神教幹部ぐらいでしょう」
「……元神皇に、ハリネスとソレイユが仇? 最悪じゃない……」
「ハリネスとソレイユ様に害意はありません。あくまで封印していたものを解かれただけです。おそらくそこはどうにかなります。ただ、元神皇のフェイラルノルジェは……その、あいつのクビで済むかどうか。神教自体滅ぼすになりかねません」
マディアクリアの言葉を引き継ぎ、フェルラインが話す。
「今回の件も、オーディルビスは狙っていません。雑だからたまたまこうなっただけです。陛下暗殺、帝国乗っ取りの企みは多かった。ですが、どれも雑で失敗した。正直、害意があった方がマシですね」
一連の報告が終わり、フェルラインは改めて姿勢を正し
「元神皇、フェイラルノルジェはチャズビリスの拷問で殺し、それを持ってタチアナに詫びにしてはいかがですか? それで済まないとも思いますが、こちらの誠意として」
龍姫は憂鬱な顔のまま
「……タチアナと連絡を繋ぎなさい」




