札つきのワルの額におふだが貼ってあったので剥がしてみた
「あっ。あのひと……」
「えっ?」
ヒロキが控えめに指さした方向をタツミは振り向く。賑やかなゲームセンターの片隅に、影を背負ったような雰囲気の男子高校生が一人でメダルゲームをやっていた。その後ろ姿を指さしながら、ヒロキは怖い顔をしている。
「あのお兄ちゃんが何か?」
そう聞いたタツミにヒロキが答えた。
「あのひと、札つきのワルだよ。ウチの近所に住んでるんだけど、評判なんだ」
「ふーん」
「ふーん……ってタツミ。おまえ危機感ぐらいもてよ」
「何をしたの?」
「何って……。知らねーけど札つきなんだよ。札つきのワル」
「何かしてるとこ見たの、ヒロキ?」
「見てねーけど札がつくにはそれなりの理由があるんだよ」
「ちょっと話しかけてみようよ」
「バッ……! おまえ、やめろって。タツミ!」
「だいじょーぶ、だいじょーぶ。小学生相手に何もするわけないって」
「かっ……、カツアゲとかされるぞ!?」
「カツ揚げって何それ美味しそうじゃん。なんか寂しそうだよ、あのひと。一緒に遊んであげようよ」
「タツミ! ばか! 知らねーぞ、俺、知らねーぞ」
そう言いながらもヒロキはどんどん札つきのワルに近づいて行くタツミを追いかけた。
学生服をだらしなく着た札つきのワルの背中が近づいてくる。襟足の長いリーゼントの、今どき珍しいヤンキーなスタイルの後ろ姿だ。オーラに殺気がまじっている。タツミは無邪気に声をかけた。
「こんにちは、お兄さん。一緒に遊びませんか?」
振り向いたワルの顔を見て、二人は絶句した。
立派なリーゼントの下の額からおふだが垂れ下がっていたのだ。黄色いおふだに赤い文字で何やら書かれていた。
二人と札つきのワルはしばらく何も言わず見つめ合っていた。やがてヒロキが言った。
「ほんとうに札つきだ!」
タツミが呟く。
「可哀想。取ってあげようよ」
「バッ……! おまえ、キョンシーのおふだを取ったらどうなるかわかってんのか!? 襲いかかってくるんだぞ! 食べられちまうぞ!?」
「キョンシーじゃないから大丈夫だよ。おふだが貼ってあるだけだから」
「知らねーぞ! 俺、どうなっても知らねーぞ!」
「離してよ。ひっぱらないでよ。ほら、取るよ? ぺりっ」
おふだを剥がされた札つきのワルが笑った。
とても綺麗な目をしていて、子供のようなにっこり笑顔だった。
「君たち、かまってくれて、ありがとう」
そう言うとポケットからコンビニのフライドチキンを二つ、取り出してくれた。
ちょっと酸化してた。