7月、突然の雨と君の傘
今日はついていない。天気予報をチェックするのを忘れていた。こんなに土砂降りになるなんて。だから夏なんて嫌いなんだ。
雨が止むまで教室に戻って課題でもやろうか。溜息をつきながら玄関から踵を返そうとすると、聞き覚えのある低い声が耳に入ってきた。
「あの、俺の傘で良いなら、どうぞ。」
「え、でも「明日、返してくれれば全然良いんで、じゃあ」
私が遠慮をする時間も与えられず、隣の席の彼は走って体育館の方へ向かって行ってしまった。
その彼とは特別仲が良い訳ではない。隣の席だから、授業でペアを組まされることは多いけれど。それ以上に説明できる言葉は見つからないくらいの浅い関係性だった。
大粒の雨が、校門の前に咲いたピンク色の百日紅を揺らす。
本当に、傘を忘れるなんて不用意だった。
彼はきっと、大切な人も物も、ずっとずっと大事にする人だなんて。そんなこと分からないのに。そんな風に思ってしまうなんて。
私は彼に借りた傘を両手で持って、いつもよりはやく歩いた。ざわつく胸を誤魔化すように。