【仮】マルチルートエンディング
当時浮かんだ時、連載しようか悩んで決まらなかったので、脳内整理にとりあえずプロット代わりです。
――パタン。
やっと出ていったか。
「ほんとうにねちまうところだった」
やたら広いベッドの上を這いずり、眠気を誘うその暖かさと、高級感満載で地面まで地味にある高さに肉体の不便さを感じながら音を立てずにゆっくりと降りる。
そして慎重に、静かに本棚へ向かい、本棚の一番下にある黒い背表紙の本まで辿り着けたのはいいんだが……羽ペンはどこにいった?
「うわ、うえにおいてある」
まだ少し足りない舌が回り、思わず愚痴が漏れてしまう。
でも仕方がないだろ。いつもはおもちゃ箱に突っ込んであるはずの羽ペンは、本棚の上段にポツンと置かれている。このちっこい体じゃ普通に届かない高さだ。
俺が出しっぱなしにしていたのが悪いんだけど、なんで高い所に置くかな。
一つため息を漏らしつつ、柔らかい両手をムニムニと合わせて広げれば、両手の間に現れた黒い靄が上段に置かれていた羽ペンを手元まで持ってくる。
「さすがに、バレてないよな?」
この屋敷は使用人ですら当たり前の様に戦闘の心得がある。びっくりするほど武闘派な連中ばかり。
まぁ、家系が家系だから仕方ない事ではあるんだが、今のタイミングで部屋に来られると言い訳が面倒だからやめて欲しい。
見られても困る物ではないし、どうせ俺にしか分からないんだけど、変な目で見られるのは確かだ。流石にそれは申し訳ない。
「えーっと……」
ペラペラと黒い背表紙の本を昨日力尽きたページまで捲る。そこまでに書かれているのは、この世界の文字ではなく俺だけに親しみ深い日本語で書かれた文字。
その内容は、この世界の基本設定と初期のベースルート。
「きょうは、ばーじょんあっぷごだな」
キーボードが恋しくなりながらも、羽ペンを握りしめて……いざ! と思ったが、間違えたりしてないか見直すか。
この三年、色々と考えて過ごしてきたが、この世界は十中八九'マルチルートエンディング'がベースの世界だ。仮にそのものじゃなくても、限りなく近い可能性が高い。
最初は所謂恋愛ゲームだったマルチルートエンディング。しかしこのゲームの特徴は、プレイヤーが制作側に回れる事。
定期的に一ヶ月の投稿期間が設けられ、制作陣が二ヶ月程度かけて目を通し、採用されれば投稿者に通知されて、細かなすり合わせと値段の打ち合わせなどを経て'追加シナリオ'という形で販売される。
購入されれば売上の何割かが投稿者にも支払われるためか、発売から三年半経った時もシナリオは追加され続けていた。
メインの時間軸を侵害しなければ、基本的に何でも起こりうる追加シナリオ。本作メインキャラと関わる事すら無い追加シナリオも多々ある。もはや'マルチルートエンディング'の世界観を使った別ゲーなのも少なくなかったな。
購入したシナリオは始める前に追加して始めるかどうか、チェックで選択できて基本的には一つずつ入れ替えながらプレイしていくのだが……一応出てくる警告を無視してあまりにも多くの追加シナリオを同時にぶっこむと大変な事になる。
なにせこのゲーム、シナリオどころかシステムも平気で追加してくるんだ。
バニラ――所謂追加シナリオ無しのプレーンな状態だと普通の恋愛ゲームなのだが、追加するシナリオ次第ではアクション要素もぶちこんでくるし、RPGは当然、シュミレーションやシューティング要素もぶちこんでくる。一部のファンからは追加シナリオや要素はサプリなんて呼ばれ、果には別称'闇鍋'とまで言われるゲーム。
懐かしい……。
大型アップデート前に、購入した追加シナリオを全部ぶちこんでやったらカオスになったなぁ。時間軸に合わせて追加シナリオのイベントが起こるせいで、文化祭の日を終えるのに五時間ぐらい費やした。'一方その頃'の文字を何度見たか……。
追加シナリオ分のエンディングが合間合間で流れるせいで、なんか余計に疲れたし……。
「あたまにシナリオ、はいってこなかったなぁ」
まぁ、そんな事をしている俺でも、メインシナリオは鮮明に覚えている。
それだけ楽しかった。まさか自分が恋愛ゲームにドハマリするなんて思わなかった。追加シナリオシステムがあったから、飽きが来なかったといえばそうなのかもしれない。だけどそれでも一番好きなのはメインシナリオと言える。
舞台は剣と魔法の世界で、十六になった主人公は学園へと入学し、そこで恋愛をして、時には青春を、時には政治関連問題を解決してと、ありきたりながらも濃密なメインシナリオ。
初期メインシナリオで選択できるキャラは二人。
男――クラリアン国の第二王子。名前は自由だが、追加シナリオや女主人公側では'アースハルト・クラウス・クラリアン'と公式が命名している。
女――こちらは伯爵令嬢。もちろん名前も同じく自由。公式は'マリー・レイラント'と命名していた。
どちらのルートもエンディングは、三つ用意されていた。
ハーレムエンド、ハッピートゥルーエンド、バッドトゥルーエンド。
どれだけ追加要素を入れたとしても、メインシナリオ主人公の二人には、このエンディング以外用意されていない。
うん、思い出を振り返りながらだったが、選択や特殊派生ルートに関してもメインシナリオ分は問題ないな。見返しても特に引っかかる所はなかった。
そうとなれば今日の本題。
「あぷでしたシナリオ」
俺が知る中で、公式が一度だけしたメインシナリオの追加。
アップデート前と後では適用できる追加シナリオも一新され、どちらのメインの追加シナリオか……旧追加と新追加という区分までされたほどの大幅な変更。
メインシナリオもいつでもどちらでも選べる様になっていたが、俺は圧倒的にアップデート後のほうが好きだ。理由も実に単純なもの。
「いるとうれしいんだけどな……」
パソコンの壁紙にもした。携帯の待受にもした。見れなくなった今でも鮮明に思い出せる。
悪役という位置付けで追加されたキャラの一人――クラリディ・トレース・ロクフォール。
彼女が処刑されるシーンを描いた一枚のスチル。
その一枚絵が俺は忘れられない。
アップデートでは、シナリオ追加に伴い変更と追加を合わせ、大きく三つあった。
女主人公であるマリーは、伯爵令嬢から平民への変更。
加えて女主人公がもう一人追加された。このキャラも名前は自由だが、伯爵令嬢であり、旧シナリオでマリーにやたらちょっかいを出してきていた公式名では'アリスリア・ラスカルディアン'というキャラの追加。
そして最後に、アリスリアの助力を得てマリーが立ち向かうのが、クラリアン国公爵家の現当主であり、男主人公である第二王子の婚約者――'クラリディ・トレース・ロクフォール'の追加。
追加シナリオの大筋は、アリスリアとして生まれ変わった転生者が没落回避の為に奮闘するストーリー。
男主人公ならば、アリスリアを手伝い、そのまま攻略ルートに入る事もできるし旧シナリオ通りにハーレムやマリーも可能。最終的にはハッピートゥルーかバッドトゥルーに落ち着いていく。
女主人公の場合は、平民から始まりアリスリア出会い、その潜在能力を知っているアリスリアが学園へ入学させてから、自分の力と家系の過去を知っていく。
追加キャラを選んだ場合は、旧シナリオを把握しているという設定で、ラスカルディアン家の没落を回避しながらルートによっては男主人公と結ばれるエンドもある。
そしてこの全てのキャラの前に立ち塞がるのが悪役令嬢クラリディ・トレース・ロクフォール。
全員が使えるわけではないが、魔法の概念があるこの世界。
そんな世界で物語の中心となるクラリアン国。その王族と、王族に次いで象徴として仕えてきた三大公爵家。彼らは血筋故なのか、他とは一線を画す程の魔力と魔法の才に恵まれている。
王族であり、男主人公であるアースハルト・クラウス・クラリアンは当然だが、奇しくもアースハルト第二王子と同じ年に生まれた三大公爵家の子等も例に漏れることはなく……。
その三大公爵家の一つがロクフォール家。
とある事件により、クラリディが十歳の時に当主を継ぐ事になるのだが、誕生の時からロクフォール家歴代最強と噂されていたクラリディは、その噂に違わぬ成長をし続け、事件が起きた時には既にクラリアン国最強とも噂をされ始めていた。
「それだけならよかったんだけどな……」
更にクラリディの才覚は魔力や魔法のセンスだけには留まらず、多岐にわたる才能を見せ、その容姿も相まって「完成品」という陰口まで叩かれる程。
そんな陰口など気にする様子もなく、毅然としていたクラリディ・トレース・ロクフォール。
しかしシナリオが始まると、主人公達の前に立ち塞がり続け……過程で証拠なんかは主人公達が見つける事になる。そして、クラリディ自身も一切の反論をせず事実と認め、最終的にクラリディは、反逆を行い国家転覆を目論んだ主犯として情状酌量の余地なく死刑となった。
そしてあのシーンへと繋がるんだが……クラリディが火炙りを希望した事や、執行場所の要望をした事がずっと気にはなっているんだけど、今はまぁいいか。
今重要なのは、この世界がアップデート前なのか後なのか、それともどれも当てにならないか。
どう転んでも俺の知識は何かの役に立ってくれるだろう。どうせ今はまともに行動もできないし、時間だけはやたらある。
そうこう考えている内に、アップデート後の大まかな展開はまとめられた。
「ふぅ……つかれた」
こうやってまとめて思うの事は、結局俺が詳しく分かるのは十五歳辺りからの流れ。今から十二年後の事ばかり。
そこに至るまでに設定と違う事があれば、たとえゲーム基準だったとしても変化は大なり小なりあるだろう。
既に俺というイレギュラーな存在がいる以上、当てにしすぎるのは間違いだな。
「ぼうがす?」
ふと口から漏れた言葉は俺のモノではない。
どうやら体の持ち主が起きたらしい。
「また、らくがき?」
《あぁそうだ。起こして悪かったな。もう落書きは終わったし、俺も寝ようと思っていたところだ》
「んー」
《ほらベッドに戻ろう。明日も勉強しなきゃいけないだろ?》
「うぅ……」
嫌そうな顔をするものの、素直にベッドに戻る様子は可愛らしいもんだ。
将来の姿を知っているからこそ、よりそう思うのかもしれない。
三大公爵家の一つ――ファンゴルディアン家。
クラリアン国軍の統括も担う現当主'ヘルヴェンス・デルラジス・ファンゴルディアン'の息子がこの子供――'ベルニア・デルラジス・ファンゴルディアン'。
今はこんなちっこくても、ゆくゆくは男主人公の親友ポジションであり、不死身と噂される'鮮血の黒騎士'なんて二つ名で呼ばれるんだから分からないもんだな。
だけどそれは先の話で、本当にそうなるかも分からない。今の段階でも使えるモノがあるのは確かだけど、結局俺の知識はゲーム産で確実とは言えない。
もしかしたら、この可愛らしさのまま成長する可能性もある。
「おやすみ、ぼうがす」
まぁ、寝るか。
色々と確認やら検証やらしたいところだが、今は何も足りていない。どうせ時間が掛かりそうなもんだし、下準備をしつつ現状を楽しんでいこうかね。
《あぁ、おやすみ》
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五年後
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「さぁ、ボウガス。もう俺も八歳になった。そろそろお前の説明をしてほしい」
あの可愛げはどこへやら……昔よりも背は伸び、口調も俺の知識通りになり始め、雰囲気や風貌も最初から知っている面影が垣間見え始めたベルニアは、自室で椅子に背中を預けながら虚空に語りかけている。
いや、まぁ、俺に向けて問いかけてるのは分かっているんだけどね。なんていうか、不釣り合いな幼さがあるくせに、どことなく様になってるのが物寂しいんだよ。
「別にお前がどういう存在でも構わない。ただずっと友達でいてくれてるボウガスの事、俺は何も知らない……まだ、教えてくれないのか?」
前に聞いてきたのは五歳の誕生日だったっけか。なんかフワッフワした返答をして濁した覚えがある。
「それに、そろそろ魔法の授業が始まるんだ。ボウガスはいつもみたいに力とか知恵を貸してくれるだろうけど、それだけじゃダメな気がするんだ」
そういえばそんな事を親父さんが言ってたな。既に剣やら作法やら狩りの日程やらでいっぱいだってのに、そこに今度は魔法か……俺が八歳の頃とか何やってたよ。靴飛ばしの王者なんて呼ばれて天狗になってたぞ。
「ボウガ「そんな悲しい顔をするな。教えないなんて言ってないだろ?」
親父が偉大だと子も大変だと聞いたことがあるが、こうして魔力を具現化させて人の形を取る俺を見ただけで、そんな安心したような表情をするなんて……ベルニアの感情や思考は分かるはずなのに、その重圧は俺じゃあ理解はできそうにないな。
「……ボウガス、顔が無いけど」
「話しやすい様に形を取っただけだからな。まぁ、俺の顔なんてなんでもいいだろ?」
「そう……なのかな?」
「そうだよ」
さて――と一人意気込んで、まだ困惑気味なベルニアにある程度の事を話した。本当の事を多少の嘘で塗り固めて。
自分の記憶はあるにはあるけど、正直に言えば俺は自分の事をよく分かっておらず'ボウガス'という名前も本当の名前ではない事。
その中で一つの未来を知っていて、それが本当になるかを観察しに来たという嘘の中に曖昧な本当を混ぜ。
肉体を持たない為にベルニアの魔力という形で存在しているだけであり、俺が勝手に使ったりしているが、肉体と同様にこの魔力自体もベルニアのモノである事。
いつか、何かの拍子で俺が消えてしまう可能性も普通にあるという事。
それに加えて未来の事を率先して話す事もしなければ、知っている未来へ仕向ける気も無いという事。
他にもわざと小難しい言葉を混ぜたりして話を続け、それでも不安そうなベルニアには、この言葉を送るとしよう。
「俺には俺の目的があるが、それでベルニアの敵になるような事は無い。俺は俺の最後までベルニアの味方だ」
「うん、わかった」
ベルニアの感じていた不安が消えていくのが分かる。
こう素直に言葉を受け取ってくれるのは信頼してくれているからなのか……なんにせよ年相応の表情が見れて良かったよ。
「ベルニア様、お耳に入れたい事がございます。お時間よろしいでしょうか」
「ハイラントか。入れ」
さっきまでの表情はどこへやら。ノックの音が聞こえると同時にスッと表情を変えたベルニアは、扉の向こうで待つハイラントに返事をした。
そんなやり取り中に俺がそそくさと実体化を解いてベルニアの元へ戻ると、同時に部屋に入ってきたのは燕尾服を着たダンディズムの塊。
見慣れても惚れ惚れする歩くダンディズムこと'ハイラント'。
この屋敷の使用人を取りまとめる存在であり、親父さんの右腕も担うオジサマ。
ゲームでは設定資料だけでメインシナリオには出てくる事はなく、追加コンテンツで誰かがシナリオを用意していた程度だったけど、実物を見るとこういう歳の取り方をしたいもんだと思わせてくれる。
「何かあったか?」
「先程連絡がありまして、明日、第二王子アースハルト殿下のご来訪がお決まりになりました」
明日ねぇ、急遽決まった感じか?
「アースハルト王子が?」
「昨夜はロクフォール家にご宿泊されていたようで、本日は当家領内の宿でお休みになり、明日の昼頃にはこちらにお着きになるとの事です」
「両陛下もご一緒にか?」
「両陛下はロクフォール家での用事を済ませた後に、アースハルト殿下と別れ王宮へお戻りになられたそうです」
つまり明日来るのはアースハルトだけってことね。
まぁ、王様が来るような理由は無いはずだし、ロクフォール家での用事ってのも大方の予想はできる。わざわざ王様自ら足を運んだ理由なんて一つだろう。
ロクフォール家の存在は、ベルニアの座学の時間で俺も知ることができていた。そして、同じ歳の娘が存在する事も。
つまりは居るわけだ……クラリディ・トレース・ロクフォールが。
「詳細につきましては、夕食時に旦那様よりお話があるとは思いますのでご心配なく」
「話は分かった。他に用事がなければ下がっていい」
「では、失礼致します」
スッとサッとお辞儀をして出ていく姿すらダンディズム。きっと若い頃は大層イケメンだったんだろうな。
「どう思う? ボウガス」
《ん? あぁ、第二王子ね。おそらくは視察の経験積みって所じゃないか? あと、口に出さなくても、俺に語りかける様に思うだけで会話はできるぞ》
《え、こ、こんな感じ?》
《いい感じだ》
今まで口に出してたことが恥ずかしかったのか、何度か軽い咳払いをするベルニア君。実に面白い反応だな。
別にわざと教えなかったわけじゃないぞ? 人前では俺に声を掛けないようには教えていたし、別にそれで支障が今まではなかっただけ。あとはただ俺が教えてあげるのを忘れていただけだ。
ただこれからは必要だろう。聞き耳が増えているようだしな。
《それで話の続きだけど、大方アースハルトは三大公爵家の領地視察と挨拶に回ってるんだろう》
《王位継承の争いの時の為に?》
《勉強の成果が出てきてるな。歴史を見ればそういう認識を持って正解だが、多分今回は少し事情が違う》
《どう違うかは教えてくれるのか?》
《ダメな時はダメだって言うから、今まで通り遠慮はいらないぞ。まだ正式な発表はされていないが、第一王子は王位継承権を放棄しているはずだ。だから今回の視察は今後の為の練習と、三大公爵家への顔合わせの意味合いが強いだろう》
第一王子は今だと、十五歳か。うん、俺の知っている通りなら既に王位継承権放棄の意思を王様達に伝えているはずだ。
もしアースハルトが亡くなれば継ぐ覚悟はあるが、アースハルトに王位継承権がある限り継ぐ気はない。なんて言ったんだっけか。
当代の王様が側室を持たずに第一王子も第二王子も王妃の子だという事もあり、本人が考えていた以上にアッサリと認められて驚いた。とか後々聞く機会があったっけか。ただ第一王子の言葉を過激に捉えた連中のせいで面倒な事が起こりもするんだが……それは起こるとしてもすぐにはないだろう。
《それがさっき言ってた、知ってる未来ってやつか。でも本当にそうかは分からないんだろ?》
《そういう事だ。ただタイミングと、ロクフォール家にだけ王様達が出向いたのも合わせて考えれば、ほぼほぼ確実だと思ってもいい》
《そういえば、なんでロクフォール家にだけ二人とも出向いたんだ? それもボウガスは知っているのか?》
《一応知ってるけど、明日になれば分かると思うから内緒だ》
《そっか。なら明日を楽しみにしとく》
その後もベルニアの質問に答えていたりすると、気がつけば飯の時間になり、ハイラントが言っていた通り親父さんから明日についての話題が上げられた。
どうやら親父さんは王宮の方に用事があるらしく、ハイラントと共に朝イチで出発するそうで、ちゃんとアースハルトを出迎える様にとのことだ。まぁ、母親さんは残るらしいし、ハイラント以外の使用人達も優秀だから特別心配する事もないだろう。
「それからこれは先程連絡があったのだが、どうやら明日はアースハルト殿下と共に――ロクフォール家の娘も来るらしい」
おぉぅ……まさかのエンカウント。
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翌朝。
天気は鬱蒼とした曇天という状況の中、先に馬を走らせてきた騎士の連絡を元に玄関でアースハルト達を待つ。
《緊張してるのか? ベルニア》
表情や態度を表に出すことはしていないが、俺にはハッキリとソワソワしているベルニアの心境が伝わってきている。
《ボウガスはそんな事も分かるんだな。初めて会うからか、第二王子だからなのか分からないけど緊張してる。ボウガスは?》
《まぁ、俺はこうして覗き見してるみたいな状況だからな。緊張よりは、ワクワクが勝ってる》
《それはロクフォール家の娘が来るから?》
《あぁ。まさかこのタイミングで見る機会が来るとは思わなかったからな》
どういう意味のある習わしかは知らないが、この世界で貴族の娘と言えば十歳になるまでは基本的にお目にかかる機会は無い。
それこそ家族ぐるみの付き合いがある場合や、許嫁関連だったりしなければ、十歳から出席できる王宮主催のパーティーが令嬢達のデビューであり、こっちも初見はそのパーティーがほとんどのはず。
三大公爵家だとしても例外ではないと思っていたけど……一体何があったのやら。
「臆せず安心して胸を張りなさいベルニア。貴方はどこに出しても恥ずかしくない母の自慢です」
一人で考えていると、スルリと入ってきた凛とした声。
同時にベルニアの緊張も嘘だったように消えていく。
流石はベルニアの母親さん。その声に不思議と俺も落ち着かせられる。
普段は寡黙で凛々しい人だなとは思っていたけど、聞けば元は騎士で親父さんの隣を駆けていたとかなんとか。それを知った時は、俺もベルニアも驚いたもんだ。
なんてことを思い出していれば、お客様のご到着のようだな。
「本日は当主不在につき、私、ミラ・デルラジス・ファンゴルディアンが代理としてアースハルト殿下にご挨拶を申し上げます。遠路遥々ようこそおいでなさいました。クラリディ嬢もお初にお目にかかるわね」
母親さんが下げた頭を上げてクラリディに視線を送り、軽い会釈を受け取った後にその視線はベルニアへと移る。
どれどれ次はベルニアの番。
「ベルニア・デルラジス・ファンゴルディアンがアースハルト殿下とロクフォール公爵令嬢にご挨拶申し上げます」
ピシッと正した姿勢からのお辞儀。そして挨拶。いいぞ! バッチリだぞベルニア!
「ファンゴルディアン公爵夫人はお久しぶりですね。ご壮健そうで何より。そして君がベルニア卿か……ファンゴルディアン公から時たまに話を聞くよ。才覚に溢れ、将来有望だとね」
「父上がですか?」
「うん。表情こそ変わらないけど、とても大切にしているのが伝わるぐらいにはね。まぁ、その話は後でしようか。僕の紹介はこの際省くとして、彼女の紹介をしよう。一昨日に僕の許嫁になったクラリディだ」
爽やかスマイルでクラリディの手を取り、一歩踏み出す様にエスコートをするアースハルトは……なんていうか、イメージ通りで逆に焦るわ。
俺の知るアースハルトがそのままちっちゃくなった感じ。主人公君は昔からこうだったのか。いや、子供の時の方が距離感があってちゃんと遠慮があるのか?
本当に八歳かよ……と、アースハルトに疑念の目を向けたい所だが、それ以上が居ると言葉もなくなってくる。
「ご紹介に与りましたクラリディ・トレース・ロクフォールと申します。どうぞ以後お見知りおきを……又、我儘な願いではありますが、まだ未熟な分も多くファンゴルディアン公爵夫人からは是非多くの事を学びたいと思っております。お二人ともどうぞ私の事は、クラリディとお呼びください」
ベルニアも様になっているとは思うが、これはなんとも……。
一つ一つの動きが洗練されている。ベルニアの隣で母親さんも驚きに少し目を見開く程に、素人目の俺でも分かる程に完成している。挨拶一つでここまで引き込めるもんなのか。
それでいて俺の知る描写通り、その艷やかな白銀の髪は、毛先に行くにつれて透明になっていて、風に靡く毛先の境界を目視するのは難しいく、こちらを見る瞳も、薄紫の朝露なんて表現を使っていたけど納得だ。これはイラストじゃ分からない。
んでこの容姿とくれば……そりゃ陰口の一つ二つ出てきてもおかしくない。そもそも陰口だったのかすら怪しくなるな。
「ルーニャから聞いてはいましたが、確かにできた娘ですね。それでは続きは、落ち着ける場所でしましょう。いつまでもアースハルト殿下をお待たせしたとあっては夫に叱られてしまいますので」
「アッハッハッ! 僕は気にしませんが、そういう事でしたらお言葉に甘えて」
へぇ、クラリディの母親さんってルーニャって名前だったのか。
クラリディの存在が特別すぎたのか、ゲームだとロクフォール家の情報ってかなり少ないんだよな。
《ボウガス、さっきからクラリディが物凄く見てくるんだけど》
《ん? あぁ、無視しとけ。実害は無い》
先導して歩く母親さんの後ろを付いていくベルニアは、振り返らずとも分かるクラリディの視線に困惑しているご様子だ。
まぁ魔力として存在している俺は、後ろをバッチリ見ているから凝視してくる様子も見えているわけだが……さっきから何してんだコレ。
クラリディからかなり細い魔力の糸が伸び、ベルニアに触れようとしている。なんとなく俺も真似て指先タッチ感覚で魔力同士を触れさせてみると、クラリディの柔らかい笑みが、口元こそそのままで目は一瞬だけ俺の知る無表情のソレが垣間見えた。
しかし、別にこの魔力自体に攻撃性はないみたいで、俺の知る限り、こっちに来て学んだ分を含めても何をしているかが分からない。
「ベルニアって呼んでもいいかな? もちろん僕の事もアースハルトと呼んでくれて構わないから」
「は、はい……殿下がそれでいいのでしたら」
「奇しくも同じ歳なんだから、もっと砕けて、さぁ! アースハルトと! なんなら、愛称を付けてくれても構わないよ」
「しかし、あ、いや、それは、流石に勘弁してくれ……アースハルト」
「うん。嬉しいね。三大公爵家、皆々同じ歳の子がいるんだ。公の場以外ぐらい僕等は堅苦しくなくいこう。よろしくねベルニア」
俺がクラリディの魔力と戯れている間に、隣に来たアースハルトがベルニアと親睦を深めようとしていたらしく、トントン拍子で名前呼びを承諾させられている。
しかし距離の詰め方エグいな。妙に子供らしくない部分があるせいか、その素振りに裏表が一切見えないのも怖いわ。
いや、まぁでも、ベルニアは嬉しそうだし、とりあえずはこれでいいのかもな。
それから時間は流れ、夕食まで済まし、外はすっかり暗くなった。
《つ、疲れた……》
《お疲れさん》
風呂を終えたベルニアが疲労を訴える遠い目をしながらベッドへ。
楽しいは楽しかったらしいが、やっぱり疲れたらしい。
アースハルト……めちゃくちゃ絡んできてたもんな。でもベルニアよ、アイツ、明日はその足でもう一つの三大公爵である'レスアノーラ家'に向かうらしいぞ。八歳とは思えんバイタリティ。
《もう寝る》
《おやすみ……と言ってやりたいが、どうやらもうひと頑張り必要みたいだぞ》
ベルニアが何か言う前に扉がノックされ、少し乱れた寝間着を整えながらこれでもかって程に眉間にシワを寄せたベルニアが返事をすれば、相手に付けていた使用人が扉を開けてお客さんが部屋へと入ってくる。
「ご就寝前に申し訳ありません」
「そう思うのなら朝方にでもお願いしたかった所ですね。それに、婚約者の居る身で、湯上がりに夜間に男の部屋を尋ねるのはどうかと思いますよ。クラリディ嬢」
「これは失礼致しました。まだ子供という事で、大目に見ていただけると嬉しく思います」
「男女七歳にして席を同じゅうせず。互いに紳士淑女の手本となる身、お互い程度を守り、相応の距離感はしっかりするべき年頃だと思いますが」
「……なるほど、とても身になる教訓をありがとうございます。以後気をつけると致しましょう」
ベルニア……俺が七歳の誕生日の時に教えた言葉を覚えてたのか。
なんか、ごめんな、クラリディ。少しニュアンス変えてはいるけど、メイドさんにチヤホヤされてるベルニアの姿を妬んだだけなんだ。こんなタイミングで使われるとは思っていなかったんだ。
「でしたら「ですが、今宵ばかりはご容赦を。アースハルト殿下にはお伝えしておりますので」……なるべく早くお引取りください」
あ、ベルニアが折れた。
アースハルトが知ってるなんて言われたらな。次はアースハルト同伴で来るかもしれないからな。今日はもう疲れたんだもんな。わかるわかる。
「では、少し人払いをお願いしてもよろしいですか?」
「先程、とても身になる言っていませんでしたか?」
「以後気をつけるとも。ですので今は無邪気な子のままで……それに、人払いはベルニア卿の為でもあるかと」
無邪気な子のやり取りに見えねぇって。ほら、使用人さんも苦笑い浮かべてるよ。
《ボウガス、どうしたらいい》
《アースハルトの名前を出される前に、大人しく聞いとけ。女の子の我儘を聞いてやるのも男の器量よ》
《将来器量の小さな男を目指したら、ボウガスのせいにする》
《使用人さんも困ってるから。最悪寝ちまっても俺が代わるから》
《はぁ……》
呆れ果てているベルニアが使用人に目配せをすれば、一礼をして部屋から出ていった。扉の前には控えてるみたいだし、あまり遅くなるようならノックして切り上げさせてくれるだろう。それぐらいできてる使用人の皆様だもの。
「我儘を聞きになってくださってありがとうございます」
「聞かなければ何をす――ッ」
文句を言おうとしたベルニアは言葉に詰まった。当然俺も驚いた。
軽く下げられた頭が上がると、今日一日見ていた微笑みではなく、一切友好など持たない無の表情がベルニアを捉えている。
無いはずなのにタマヒュンした気分だわ。あんな事言ったけど、できれば代わりたくないから頑張れベルニア。
「まず、どうか私にも親しく接していただけると嬉しく思います。それこそ、殿下の時と同じ様に言葉を崩してくださって結構です」
「……それが人払いまでして言いたかったことか?」
「いいえ。これは今後を考えての提案です。本題は別に」
「早くしてくれ」
お、おぉ。ベルニア君強い。俺ならキョドって目が泳いでるだろうに、しっかりクラリディを向かい合っている。
「三大公爵家という家柄に生まれ、両親も優しく環境には恵まれて居ると思います。それこそ知識を得る術も多く、同年代で比べれば私やベルニア卿、後日お会いになるハーレント卿や、引き合いに出すことすら不躾にも値するでしょうがアースハルト殿下は、一足早く成熟へ向かえてる事でしょう」
いや、一足どころではない気がするよ? まだ成長段階ってんだから末恐ろしいぐらいだって。おじさんは思います。
「それはそう思う。俺だって勉強はしてるから、自分が恵まれているぐらいは分かる。俺が想像もできない環境があるのも知ってる。だけど同じぐらいだとしても俺とクラリディ嬢の環境は違う。今俺は、クラリディ嬢が何を言いたいのかさっぱり分からない」
「自己分析もでき、ご自分の立場や状況は理解できているものとさせていただき、遠回りは不要と判断させていただきます。――アースハルト殿下の許嫁となりました。殿下の為、果ては国の為に捧げるこの身、不穏分子を見て見ぬ振りはできません」
突然ベルニアの肌を撫でた冷たい魔力の風を消滅させて、前にしたように魔力を人型に固定してベルニアの後ろに立てば、クラリディの瞳はベルニアを越えて驚くこと無く俺を捉えた。
どうやら目的は俺だったらしい。
扉の向こうで動きが無い所を見ると、バレない様に工作済みか。使用人達を欺く程となると、ハイラントなら気付いてくれたかもしれないが、既に使用人達よりは技量含めて諸々上なのかもなぁ。
「説明が必要ですか?」
「いいや、俺の客じゃないという事は分かったから十分だ」
あ、ベルニアめ……寝る気だな。
《ボウガス》
《できればこのままでやり取りしない?》
《俺はアースハルトの相手をした。バレる様な事をしたんでしょ? クラリディ嬢は譲ってあげるよ》
《この野郎。明日起きたときにどうなってても知らねぇからな》
《そんな子供みたいなこと言わないで。後は任せたよ、おやすみ。ボウガス》
うぐっ……お前、俺だってこっちの世界では意識持って八年だぞ! あ、マジ寝しやがった。クラリディは……ベルニアの様子を察して観察してるって感じだな。
このまま放置したら帰ったりしないだろうか。いや、無理か。しびれ切らして攻撃してくるのが想像に難くない。
俺が動くと俺の知るシナリオに持っていきそうになっちまうから、できることならあんまり干渉はしたくないんだけどなぁ。今回は仕方ないか。俺の不注意に加えて、危険を顧みず行動を起こしたクラリディに折れるべきか。
「まず初めに、俺に敵意は無い。余計なことをする気も、今の所は無い。それでも尚、向かってくるなら勝手だが……ベルニアを傷付ける様な行為は控えてくれると嬉しい」
ベルニアの体を借り、目を見開けば少し下がった視界には、明らかに敵意を見せて揺らぐ魔力を纏うクラリディが映る。
「会話が成立しますか。多重人格……ではないようですね。魔法の類の気配もありませんし、やはり不可解な存在。名をお持ちでしたらお伺いしてもよろしいですか? それとも私から紹介が必要でしょうか」
「紹介はいいよ。はじめまして、クラリディ・トレース・ロクフォール。俺は'ボウガス'。自分が何かも分かりゃしない、ベルニアの魔力のボウガスだ」
「尋問だと思っていただいて構いません。少しお話をしましょう、ボウガス卿」
まさか齢八歳に尋問される日が来ようとは……。
変な扉を開く前にさっさと切り上げよう。そうしよう。
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「ファンゴルディアン家はどうだったかな? 君の要望通り視察に連れては来たけど、何か得られるモノはあったかい?」
「まだ引っかかりはありますが、プライベートでも友好を築いて問題ないかと……むしろそちらの方が殿下にとって良い方向へ運べる事も多くなると考えます」
「ハハハ、ベルニアは真っ直ぐで素直だしね。僕も損得無しで仲良くしたいと思うよ」
馬車の窓の外では風景が流れ、向かい合う様に座り、言葉を交わす二人。
「移動にまだ少し時間が掛かる。昨日は遅くまでベルニアと語り合っていたようだし、少し寝てもいいよ。着いたら起こそう」
「しばらくは大丈夫です。ですが、もし寝てしまっていた時はお願いしますね」
「その時は任せたまえ。それにしても明後日にはロイバフラン家か……楽しみだね」
「良きご友人ができることを願っております」
微笑みながらそんな会話をする二人が乗る馬車は、次の街を目指して進んでいく。
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くっそあのマセガキめぇ。ぜってぇ年齢詐称、時間詐欺だあんなの。八年で二十年ぐらいは軽く生きてるだろ。
《ずいぶんとお疲れだな》
《正直なめてた。結局は背伸びしたおこちゃまだろうとか思ってた昨夜の俺をぶっ飛ばしたい》
《どんな話をしてたんだ?》
《根掘り葉掘り俺の事を聞かれたよ。それだけならまだ良かったんだが、あの小娘、俺の嘘をドンピシャで拾って嘘認定かますだけかまして追撃はあえてしないスタイルでな。口を開く度に変な汗しか出てこなかったぞ》
《あぁ、だからあんなに寝汗酷かったんだ》
俺の冷や汗を寝汗って言うな。ベルニアもあの天然嘘発見器を相手にしてみればいい。
いやまぁ、それにしても、本当にクラリディという人物を甘く見てた。ボロが出そうになるどころか、引きずり出されそうになるとは思っても見なかったわ。
ドハマリしているキャラなのは確かだけど、よくアースハルト達はクラリディを相手にしてたもんだ。できることなら敵には回したくないな。胃が先に悲鳴を上げるのが分かる。
《そういえば、結局クラリディ嬢が満足するまで相手したのか?》
《そりゃもう。ご満悦でお帰りになられましたよ。見惚れましたよ》
《使用人達は》
《ベルニアがアースハルトと仲良くしてる間に、俺やベルニアが思ってる以上に母親さんとクラリディは仲良くなってたみたいだぞ》
《母様公認だったわけか》
話が長引き始めてチラチラとしていたら、クラリディから「既に夫人には話を通してありますので」と釘を刺された時は、流れてる冷や汗で滝ができそうになった。
それにちょくちょく言い回しが独特というか、口から出てくる一言一言に裏があるんじゃないかと思わせてくるせいで知恵熱も出そうだった。いや、むしろ今出てる。出て無くても昨日今日の俺なら出せるね。うん。
《これからどうする気? っていうか、どうなるんだ?》
《教えない。つーか分からん。俺が知ってるのはもっと先の出来事ばっかだからな……もしかしたら俺が大幅に変えるかもしれないし》
《干渉はしない! みたいな事を言ってなかった?》
《できるだけな。いっそのこと好きに動いてみるのもありかなって》
《そっか。まぁ、好きなだけ迷惑かけてくれ》
《やだッ! ベルニア君、男前!》
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二年後
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一年も終わりに近づき、ベルニアの部屋で一人。
俺は精巧な人形と向かい合っている。
早いもんで今日は十回目のベルニアの誕生日。
この二年、ベルニアの成長は目まぐるしく、武術も勉学も魔力の扱いも随分と上達した。その御蔭で、こうしてある程度はベルニアから離れて行動する事ができるようになった。
そして今、ベルニアの成長に感謝をしながら誕生日パーティーを抜け出してきたのはいいんだが……ベルニアの部屋には先客が。
いやまぁただの人形なんだけどな。
お祝いにと送られてきたベルニアへの誕生日プレゼント。箱の大きさも大小様々で、メイドさん達はこれまた上手に積み上げて山を作っていたのは知っていた。知ってはいたけど、その頂上に人形を座らせておくのはどうなんだ?
入った瞬間、目があってちょっとビビったわ……ちょっとだけな。ちょっとだけ。
それにしてもこの人形すごいな。球体関節人形? カスタムドールだっけか? なんかそんな感じの人形。リアルで初めてみた。ってか、こっちの世界にもあったんだな。
フリフリしてて刺繍すげぇ。着てる服まで手が込んでる……プレゼントされるって事は、ベルニア、こういうのが好きなのか? そんな素振りは無かった様な気がするけど、確かに惹かれるものはあ――ん?
【この度はお誕生日おめでとうございます。
既に多くの物をお持ちのベルニア卿には不要かもしれませんが、末永いご健康とご活躍を祈り、シークレットリング を贈らせていただきます。
追伸
人形は当家の傀儡師に作らせたモノです。良い出来でしたので贈らせていただきました。
お気に召していただけたら幸いです。
クラリディ・トレース・ロクフォール より】
これ、クラリディからだったのか。ロクフォール家に傀儡師なんていたんだな。
確かに出来はいいけど、それを贈るってどうなの。時たまクラリディやアースハルトから手紙は来ていたが、出来が良かったからでプレゼントする仲でも無いだろうに。
貴族ってこんなもんなのか? 十年こっちで生きてきても分からん。
まぁいいか。とりあえず、この人形が抱えてる箱が'シークレットリング'か。
――へ?
何が起こった。ここどこだ。
人形に触れた瞬間、真っ黒な空間に飛ばされた? いや、ベルニアとの距離が変わってる感覚はない。となれば、どういう事だ?
【改めてお誕生日おめでとうございます。
この文字を見ているという事は、人形はボウガス卿のモノとなり、人形にボウガス卿の魔力が記憶されたという事でしょう。
実体が無いままでは何かと不便な事もあると考え、自作の品で申し訳ないと思いますが、私からのささやかなプレゼントです。
どうぞこれからも、仲良くしていただけると嬉しく思います】
真っ暗な視界の中で、突然目の前に浮かんでは消えていく文を読み、頭の中で整理して、やっと色々と理解した。
当家の傀儡師って、クラリディ自身の事だったのかぁ。そしてベルニアじゃなくて俺への贈り物。
あ、視界が戻ってきたな。
たっぱは四十センチぐらいか? 視野は動く。首も、腕、指、足……おぉ、すげぇ。想像以上に滑らかに動く。まだ少し違和感はあるけど、すぐに慣れそうだ。本当に人形か疑わしいぐらいだ。
強いて思う所があるとすれば、なんで女の子。こういうのって男もあるんじゃないのか。
《ボウガス、今日の夜だが……あぁ》
《待て、待つんだベルニア。頭の中を駆け巡った疑問は最もだが、その答えは正しくない》
パーティーが一段落したのだろう。
疲れた様子で扉を開けたベルニアは、なんだかんだで人形ボディを手に入れてテンションが上がりクルクルしていた俺を見て、小さく声を漏らして扉を閉めようとした。
だけどな、違うぞベルニア君。それは誤解だ。断じて俺の趣味ではない!
《――というわけだ》
こうなっている経緯を懇切丁寧に無駄に描写を壮大に説明すると、ベルニアはサラッと流して納得した様子で頷き、小さな箱を手に取り開ける。
《俺にはシークレットリングか……聞いたことはあるが使い方が分からない》
《勝手にサイズ調整してくれるから、とりあえず親指にでも付けとけ。んで、魔力を込めながら回してみ》
《あぁ、なるほど。これで収納空間から出し入れができるんだな》
《容量は、そうだな、この人形が二体分ぐらいだろう。最悪の場合の短剣一本と、残りは後々貴重だなって思った物を入れればいいと思うぞ》
《……やけに詳しいな》
《知ってるんだよ》
得意気にトントンと頭をつつけば、ベルニアはなるほどと頷いて、メイドさん達がまとめていたプレゼントリストに目を通し始めた。
そう、俺はシークレットリングについて知っている。そもそも今の説明を見たのは、ゲームの中のベルニアからだ。ついでに、後になってベルニアも知るだろうが、シークレットリングという物はかなり貴重な物なんだぞ。
この世界にあるシークレットリングは、全てロクフォール家が作ってるんだからな。そして今ベルニアが持っているのは、クラリディが生涯で四つだけ作った内の一つだ。
《今日から来月のクラリディの誕生日まで、夜は少し出かける》
《婚約者持ちをストーカーするのはどうかと思うぞ》
《その言い方はやめてくれよ。ただ随分と可愛らしい体をくれたお礼に、俺の知る未来の歴史を変えられるか試してみるだけだ》
クラリディがロクフォール家を継ぐと正式に発表されたのは、年明けにある十歳の子達のお披露目パーティーの場。その時には既にクラリディは引き継ぎを終えて、当主としてパーティーに参加していた。
だが今の所、そんな騒ぎの噂は聞こえてこない。少なくともロクフォール家の事件の話ぐらいは聞こえてくるはずだ。
次のクラリディの誕生日まで後ひと月。そこから新年パーティーまでは半月もない。
ゲームでシーンは無かったが、葬式や当主の引き継ぎはそれなりに時間は掛かるはずだから、俺の予想では誕生日までに何かしらの動きはあるだろう……たぶん。
《なんとかできそうな策はあるのか?》
《正直に言ってしまうと無い。いきあたりばったりになるとは思う。これから起こる事の結果は知ってるが、詳細な過程は知らないからな》
《……今の俺で手伝える事は》
《俺が離れる事を許してくれるだけで十分だ》
実際の所、ロクフォール家が対処できなかったのに俺が行って何か出来ることがあるのか、変わる事があるのか分からん。
事前にクラリディに教えておくのも考えた事はあるが、'近々お前の家族は死ぬ'なんて事を子供相手に上手く伝えられる気はしなかったし、十年この世界で暮らしていて分かる……ロクフォール家なら何かしら情報を得ているはずだ。
なにせ、ロクフォール家から親父さん宛に手紙が何通か来ていて、盗み見した時に明らかに不穏な事が幾つか書かれて協力を頼まれていたぐらいだし。
はたして俺に出来る事があるんだろうか。
そんな事を考えて俺なりに色々と準備をした二週間。すっかり人形ボディも板につき、闇夜に紛れて移動するのも得意になり、気晴らしにホラー映画への出演も考えていた時。
突然だった。
いつもの様に夕方にはベルニアの元を離れ、爆速で空を飛んで深夜間近。ロクフォール家の付近に着いた時――屋敷を中心に全てが凍りついた。
最近実を付け始めたであろう周囲の木々も、いつもなら淡い明かりに照らされている庭も、多くの人が働き眠っていたであろう別館も、そしてクラリディが育ったであろう屋敷そのものも。
例外はなかった。一瞬で染まった白銀色に言葉が出ない。というより、理解が追いつかない。
無意識に近付こうとした一歩。その小さな一歩は透明な壁に遮られて、そこでやっと踏み出そうとした先まで白銀に染まっている事に気付いた。
俺は漂う魔力の雰囲気を知っている。
この魔力の持ち主が、どんな魔法を得意とするか知識として持っている。
だからだろうか、背後に現れた冷たい空気と存在に驚く事がなかったのは。
「こんな所で奇遇ですね。そのお姿、気に入っていただけたようで何よりです。ボウガス卿」
声が出るわけでもなく。
聞こえた声に応える様に振り向けば、そこには額から血を流しながらも、二年前より超然とした佇まいで俺を見るクラリディが立っていた。
今も情報はしっかり整理できてないし、準備も何もかんも無駄になった事だけは分かっている。
事件は起きたんだろう。そしてクラリディは、最後のロクフォール家になってしまったんだろう。
「'男女七歳にして席を同じゅうせず。'でしたか……毎晩淑女の家先に足を運ぶのは、紳士の振る舞いとしては些か問題があると思いますが、どうでしょう?」
それを言ったのはベルニアだろ。俺じゃない。
「ベルニア卿のお言葉ですが、お教えになったのはボウガス卿でしょう? 男女の営みも分からない様な今のベルニア卿が知る機会は限られているでしょうから」
言われてるなベルニア。でも、お前は悪くないんだよ? 俺だって恋愛とかしたことないから大丈夫だ。誰がなんと言おうと大丈夫だ。というか、今、思考を読まれたのか?
「そういう表情をしていただけです。今も、考えを読まれているのでは? と懸念していらっしゃるのでしょう?」
人形に表情? まさか、何か小細工でもしてたか? 魔力そのものの俺を欺くって、どういう原理だよ。落ち込むぞ俺。
「小細工はしていません。純粋に友好をと……ただここまでボウガス卿と意思疎通ができるのであれば、我ながらここまで精巧に作れたのだと嬉しくなってしまいますね」
両脇を抱えて抱き上げないでください。流石に恥ずかしい。
「では、ボウガス卿。単刀直入にお聞きします。貴方は敵ですか? ここ数日の行動を意味をお聞かせ願えますよね?」
ははっ。下ろしてくれないのね。
さて、どう答えるべきか悩む所なんだけど……先に治療しようぜソレ。額から滴る血がやたら怖えぇのよ。
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《それで? また尋問されて帰ってきたと》
《またとか言うなよ。一応誤解を生まず、こうして人形ボディと一緒に戻ってきたんだから、褒めるべきだと思わんかねぇ》
《だって、ボウガス褒めるとすぐに調子乗るから面倒なんだよ》
《い、言うようになったじゃねぇか……》
クラリディに確保された翌日、俺が帰り着いたのは夜だった。
俺はクラリディが人形の中に魔力を残して伝えてきたように、魔力で文字を書く事を思い出し、敵ではない――と簡潔に伝えた。その言葉を疑う様子も無く受け入れたかと思ったら、そのままロクフォール家へ……。
初めてのロクフォール家は、血生臭さそのままに惨憺たる光景が広がっていて、氷漬けになったその中を悠然と歩くクラリディは異質だったと思った。
そんな気持ちのままクラリディに抱かれて歩いていると、唯一氷漬けになっていない扉を開けて中へと連れられていかれた。
寝室と思われるその部屋の中は外と変わらず氷漬けだったが、ベッドに眠る様に横たわる二人は、人の手で整えられた様に寝かされていて、床では頭を垂れた姿勢のまま首が落とされた人達が並び凍っていた。
――愚かにもロクフォール家に襲撃を仕掛けた罪人達です。どうやら巧妙に使用人達を取り込んだようですが、ロクフォール家を討つには一歩足りずこの有様。
俺を椅子の上に置き、優しい手付きでベッドの上の二人を撫でながら喋り始めたクラリディの声は、変わらず淡々としたトーンのままどこか震えていたようにも思う。
――どこの手の者か……大まかな予想はできています。ですが今は私にはやらねばならない事が多く、この件は後回しになってしまいそうですね。
クラリアン国を揺るがした大事件である'ロクフォール家襲撃事件'の真相。そういえば、それはゲームの中で語られることはなかったな。
ゲーム開始の時は、既にクラリディは悪役だったし、変わった原因の一つとなった悲しい過去設定程度にしか触れられず、ハッキリとした解決をしたのかすら知らない。
――こんな話を聞いてボウガス卿はお困りでしょう。深くはお考えにならず聞き流していただければ……ただ、誰かに聞いてほしかっただけなのです。お父様とお母様の娘としての私の言葉を。
小さな声で言いながら、クラリディは横たわる男が握っていた鉄扇を手にとる。
その鉄扇の事は、俺も知っている。クラリディ愛用の武器であり、肌身離さず持ち歩いていたロクフォール家当主が持つ物。
ゆっくりと開かれ、凛とした音を響かせて閉じた鉄扇からは、雪が降っているかの様に光がこぼれ落ちる様子は綺麗だった。
――お父様、お母様、私はクラリアン国のロクフォール家として、必ずアースハルト殿下を王に導くと誓いましょう。もちろん狙った獲物も逃しません。ですから、どうぞゆっくりとお休みください。
《いきなり黙ってどうした。まさか、そんなに傷ついたか? ごめんなボウガス》
《心配するな、少し思い出して考えてただけだ》
しゅんと子供っぽさを見せるベルニアを安心させつつ、我が家に戻ってきたという事で俺も落ち着いたのか、状況の整理が少しずつできてきた。
流石に十年も経つと、ゲーム内容の細かい所がボヤッとしてるな。本にまとめてて正解だった。
《それは、昔ボウガスがしてた落書きか?》
《よく覚えてたな》
《そりゃまぁ、ボウガスが夜ふかしすると、翌朝がだるかったから》
《あー……うん、ごめん》
《何か問題がある事はなかったし、気にしなくていい。それより落書きなんか取り出してどうしたんだ?》
《少しな》
今から五年後にクラリディはゲームの舞台に上がり、その先で様々な罪状を背負って大悪人として処刑される……はずなんだが、どうにも腑に落ちなくなってきた。
ゲームに酷似した世界だとしても、設定通りの過去は現実になっている。この先も似たような事があるとして、知れば知るほどクラリディがヒロインをいじめるとか、そんなくだらない事をするようには思えない。
一体、クラリディは何を考えて、どういう目的で……。
《なんか教える気はなさそうだな。とりあえず、クラリディ嬢の事情は分かった》
《ん? あぁ、多分明日の朝にでも親父さんから話は聞くと思う》
《それなら今はもう寝るよ。ボウガスはどうする?》
《俺はもう少し起きとく》
《寝なくても平気なボウガスが羨ましい。おやすみ》
《あぁ、おやすみ。そのうち寝たくても寝れない時が来るから楽しみにしてろ》
戦闘訓練や勉強に追われているベルニアは、今日も沢山頑張ったんだろうな。ものの数秒で寝息を立てちまって。俺にも付き合って起きようとしてくれて、ありがとうな。
液晶越しじゃあ知らないままの一面だっただろう。攻略対象とは言っても、ベルニアは気難しい面があるだけで面倒見は良い方で、考えてみれば優しい奴ではあった。
ベルニア相手ですらこうなのに、クラリディの事が分かるわけがない。考察はいくらでもしたが……結局の所、俺は液晶越しの彼女の物語すら知らない。何があって、何を思ったのかすら。
さて、どうするべきかな。
クラリディの事は気になる。俺が持っている情報と今回の様子を合わせて色々と出てきた予想が当たっているのかどうか。画面越しでは分からなかったクラリディの心境や行動を知りたい欲求がある。
ただ知ろうとするには、やっぱり俺の知るシナリオの出来事や過去の設定は起こる可能性が高い事と、それを回避するのは難しそうだという事が難点だな。
そもそもベルニアとクラリディの絡みは多くない。言ってしまえばベルニアは、男主人公を選べばサポートしてくれる親友ポジ。サブキャラ。
女主人公を選んでも、サポートキャラ的扱いが強くて、一応攻略も出来るキャラってだけ……ぶっちゃけ、作中のベルニアって学生期間の半分ぐらいは戦場に居るせいで選択肢次第ではほぼ出さずにエンディングまでいけちゃったりするんだよなぁ。
だけど俺の知ってるシナリオや設定とは違う事があるのも確かだ。
最たる例は俺という存在自体だろ? それにクラリディから貰った人形も俺は初めて知った。
メインシナリオの流れはあるが、そこはやっぱりゲームと違って自由というか、決まったテキスト通りには進まないって事なんだろう。
ふぅ……。さて、改めてどうするかな。
最初の頃より、あのシーンを見たいとは思ってないな。少し自由に動ける様になったせいか、色々と、アレコレとしてみたくなっちゃったなぁ。
はぁ、フィクションはフィクションとして楽しむべきだ。リアルとフィクションを混同して扱うべきじゃないのは分かってる。
だけどフィクションがリアルになった時、どこまで好き勝手にやっていいものなのか悩むわ。
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時は流れて
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《ボウガスの予想通りならば、今夜のパーティーで公式にロクフォール公爵が断罪されるんだったか?》
《十中八九間違いない。ってか、ベルニアもアースハルトから連絡が来てただろ》
《手紙に目は通した。ロクフォール公爵の罪状やら証拠や証言が揃ったからとの事だったが、随分とくだらない嘘を並べてくれたもんだ》
《あながち嘘でもないし、アースハルト達の中では、ベルニアは断片的にしか知らないと思ってるからな。クラリディが締めに入ろうとしてる以上、アースハルトも急いでるんだろう》
《戦線から戻ってきたら戻ってきたで面倒だな。替わるか? ボウガス》
《ハハハ、替わりたくなったら言うよ》
アースハルトからの手紙を燃やして捨て、ドサッと椅子に腰掛けたベルニアは、俺の返事を聞いてこれまた大きなため息を吐いている。ついでに空中を漂う俺に向けて恨めしそうな視線も添えて。
でもなベルニア……しょうがないんだよ。
礼儀作法の授業は付き合ってたけど、俺は見てただけじゃん? 生徒間とか学園生活はちょっとぐらい良いかもしれないが、公式パーティーで長時間とかボロが出るに決まってる。
最近、アースハルトも俺の存在に薄々感づいてる節があるしな。
そう考えると、俺がやらかした感があるとは言え、やっぱり八歳初見で見抜いたクラリディは異常だな。ハッキリと他にバレたのは親父さんと、親父さん曰く母親さんぐらいだってのに。
《そういえばボウガスに知恵を借りたいんだった》
《ん?》
《今回の戦、小競り合いではあったんだが、敵軍にエドリラト本国の聖騎士が紛れていた。エドリラト国の最近の動きはどうにも怪しい。陛下や親父にも進言はしてみたが、有益な情報が掴めないらしいんだ》
《エドリラト国ねぇ……》
海を隔ててもその名を聞くクラリアン国。そんな大国の隣国がエドリラト国。
ゲームでもチラチラと名前は出てきて、ベルニアを攻略しようとするとエドリラト国の名前はよく聞くようになる。ラスト付近ではエドリラト国との戦争開戦が決まっていたっけか。
んー……この時期ということは、おそらく国境としてる大きな山脈のくだりだな。確か山脈の一角に鉱山が見つかって、どちらに所有権があるかで揉めてるとかだったかな。
最終的にはエドリラト国に所有権を渡す代わりに、小競り合いで出た損害を請求して終わり。調査した結果、その鉱山は小規模なもので、大きな鉱山を幾つも所有しているクラリアン国にとっては、これ以上時間を掛ける方が不利益になると結論がでたとかなんとか。
《今回は一緒に行かなかったから場所が分からん。どの辺でかち合ったんだ?》
《国境山脈の南部だ。数は約二千で、おそらく傭兵や民間からの志願者も居た。勝ちに来ているわけではなく、待ち構えるだけ待ち構えて、ただ時間ばかりを浪費する様な戦いだった。何をしたいのか全く分からない……消耗戦でクラリアン国に勝てるとでも思っているのか?》
《国境山脈で見つかった新しい鉱山の話は聞いてるか?》
《あぁ……まさか、こんなやり方で所有権を得られるとでも?》
《詳しいやり取りは俺も知らないし、分からない。だが俺の知るままに進めば、クラリアン国は所有権の主張を取り下げる結果になる》
馬鹿な……みたいな顔されてもな。俺も詳しいことは本当に知らないんだ。もしかしたら今、この時にでも調査をしているのかもしれないし、もう終えていて計算しているのかもしれない。
《陛下がそう判断するのか》
《さぁな。本人がどう考えたのかは分からんけど、俺の知る流れではクラリアン国はそうした》
《そうか……》
何か言いたげなベルニアだったが、水を飲む事で言葉を飲み込んだようで口にすることはなかった。
ここから俺の知らない展開になるかもしれないし、そのまま進むかもしれない。事前に知り、変えようとして準備をしても無駄になる場合もある。その事をベルニアもこれまでで知っている。
《あの鉱山は規模が小さい。おそらく今の段階でも、元を取るにはかなりの年月と出費が必要になる。事前に教えるのはこの程度までだ》
《なるほど……》
《そういやリリィはどうだった。今回、初めて戦場に同行したんだろ?》
《他の連中が過保護で困る》
そう答えるベルニアは、大きなため息を漏らした。
リリィ――その少女は四年前にベルニアが保護した娘であり、俺も一切情報を持たなかった娘。
当時は罪人。脱走中の所をベルニアがファンゴルディアン家の人間だけが使える特例法を使い、現在は訳ありの者で構成されるベルニア直下の部隊'猟犬'の一人。
今ではすっかり部隊の皆に可愛がられるポストに収まった様子で、リリィの事を聞くとベルニアはいつも似たような反応を見せる。
まぁ、それもこれも、本人は隠しているようだけども、ベルニアがリリィに惚れている事が部隊の全員にバレてしまっているのが原因なんだろうけどな。気付いていないのは当人達ぐらいだ。
しかしアレだな……生死が関わる以上、戦いにおいてベルニアは贔屓目を使わない。そこから考えると過保護だというものの、これと言ってリリィ自身に問題があるとは言わない辺り、意外とリリィには戦闘センスがあったのか。
《思い出したら腹が立ってきたな。今度の訓練は少しキツくするか》
《ベルニアは、いつもその倍以上をやるんだから程々にな》
《日頃から物足りないと思っていたから丁度いい》
《ベルニア君の心配をするのはベルニア君じゃないんだからって事よ~》
《その口調、ボウガスが言うだけで驚くほどに神経を逆撫でするな》
《俺もビックリしてる》
そんなこんなと話していると、部屋の扉がノックされハイラントがベルニアを呼んだ。
どうやら、もう時間らしい。
《さてボウガス、本当に替わってなくていいんだな?》
《どうしてもの時は頼むから、気にせずパーティーを楽しめ》
《事前情報を聞いていると楽しめる気分にもならんが……そもそも、俺はパーティーは苦手だ》
《知ってる》
最後の確認をすませて俺は数日前から泊まっていた別荘から馬車に乗り、揺られ揺られて大体二時間くらい。ベルニアと雑談を交わしていたら、随分と豪華な建物の前で馬車が止まる。
学生達や貴族を労い、国王主催の恒例行事であるこのパーティー。開催場所は様々だが、今回は大きな舞台などがよく行われている会場を貸し切ったらしい。
馬車から降りれば、それぞれ忠誠を誓っている主君の家紋が刻まれた物を持つ騎士達がズラッと並んで壁となり道を作り、その壁の向こうでは野次馬がわらわらとガヤガヤと。
レッドカーペットを歩くってこんな感じなんかね。
《金の無駄だな。この行事もやめればいいのに……毎年毎年面倒くさい》
《そう言うなベルニア。見栄を張りたい貴族としても、日頃生きる民からしても、政の意味合いでも大事な行事なんだろうよ》
《王宮を空けるほどの事だとは思えん》
《我が国はこんな事する余裕もあるんですよー! って知らしめる意味合いもあるんだろう。今はこの会場が一番安全なのは間違いないだろうし、このスキを狙って王宮で悪さしようとしても手は打ってあるんだろう》
《どうだかな。そうやって高をくくっているから、ロクフォール公爵の動きも抑制できない始末だろう》
《ハハハ、その言葉は俺にも刺さるな》
クラリディの事に関しては、俺も色々と動いてはみた。それでも回避できなかったのが事実。
もう完全にクラリディの目論見通りなんだろうとすら思っている。見つけた証拠も、わざと見つけさせて自分を追い詰めている様な粗さ。いや、様なではなくそうなんだろう。
そのくせ、俺の予想を確定付ける証拠は一切見付からないってんだからなぁ……。
「両陛下にご挨拶申し上げます。ベルニア・デルラジス・ファンゴルディアン、ただいま参上しました」
「ヘルヴェンスの息子か……アースハルトから話は聞いているが、随分と見ぬ間に大きくなったな。その功績も聞き及んでいる。此度の遠征もご苦労であった」
「もったいなきお言葉」
「アースハルトとも仲良くしてくれているようで嬉しいわ。我儘な所もあるでしょうけど、これからもよろしくお願いね。ベルニア」
「殿下には私も良くしてもらっています。これからも尽力したく思います。では、私ばかりが時間を取ってしまってはご迷惑が掛かるのでこの辺で失礼いたします」
俺があれこれと物思いに耽っている間に、ベルニアは王と王妃に挨拶を済ませてサッサとアースハルトの方へを向かっている。
チラッと周りを見渡せば、王の所には別の者が挨拶をしに行っているし、先に到着していた親父さんの周りにも人が集まっている。壁際には表と同じ様に兵士でいっぱいで、見覚えのある学生陣も居るには居るが、親と一緒に行動していたり、仲良しグループで固まっていたりと様々だな。
「やぁ、ベルニア。遠征ご苦労様。来ないかと心配したよ」
「陛下の呼び出しには応える」
「兄さんもそれぐらい殊勝なら良いんだけど、今回も欠席すると手紙が来たよ」
「ユリウス殿下は……まぁ、後ろ盾得る為の媚び売りが面倒で王位継承権を放棄した人だ。出席されたほうが驚く。以前話す機会があった時、行事に出席するのが面倒だとも仰っていたからな」
なんだ、ユリウスは今回も欠席か。
公式シナリオではシルエットのみで、まともにキャラ立ては無かったユリウス。なんか熱狂的なファンが居て追加シナリオはあったが、性格もイラストも様々だった。
しかしユリウスと話をする機会に恵まれ、何度か喋ったこともあるが、個人的に結構好きな人間になっていた。
だから久々に会えるかもと少し期待してたんだけど……まぁ、ベルニアの言う通り、好き好んでこういう場に出てくる様な人物でもないか。
「ご無沙汰しております。ベルニア卿」
「マリー嬢もアースハルト殿下と変わらず息災の様で何よりだ」
「お心遣いありがとうございます」
毎度変わらない社交辞令を終えると、ベルニアは軽く周囲を見渡していつものメンツが足りない事に気付いた様子。
俺も魔力で探してみれば、どうやら会場にはおらずバルコニーの方で風に当たっているっぽいな。
「ハーレントが人酔いしたみたいでね。アリスリアが付き添ってバルコニーに出てるよ」
様子に気付いたアースハルトが、ベルニアが質問するより先に二人の場所を教えている。
「ハーレントも相変わらずなようで安心した」
「ここに来るのにもアリスリアに引きずられていたからね」
「仲がいいこって」
ベルニアの言う通り、追加主人公であるアリスリア・ラスカルディアンと三大公爵家三男のハーレント・ケヴィラウ・ロイバフランは仲がいい。それは俺が驚くほどに。
俺の知る公式での二人の関係は、普通に学友程度。なにかと一緒に行動はしているけどそんなに関わりが深いわけでもなく、言ってしまえばRPGで特定のイベント以外ではメインパーティーメンバーに入らない馬車控えキャラ。
それがどうだ。二人が公言しているわけではないが、噂では今や恋仲だとかなんだとか……おじさんビックリだよ。
いや、別におかしい話じゃないんんだ。メインイベントはしっかり起こるとは言っても、シナリオ内容にない日常が当然あって、この世界はちゃんと生きている。だから当たり前のように起きたメインイベントの内容が変わっていったりも当然のようにあった。だからきっとそういう事が俺の知らない所であったんだろう。
「……にしても、やたら人が多いな。去年はここまでなかっただろ」
「今日は特別だからね。人の目や耳は多ければ多いほどいいのさ」
「ロクフォール公爵のことか……アースハルト殿下はそれでいいのか?」
「ベルニア、君なら分かるんじゃないか? クラリディは誰よりも国を憂い、想い、そうあるべき公爵家を体現してきた。それは私の思考では及ばない様な方法を使ってもね」
「だから今回もロクフォール公爵に踊らされてやると?」
「お互いに恋心があるわけじゃない。どちらかと言えば、良き理解者で協力者で親友であると表現したほうが正しいだろう。だからこそクラリディの覚悟を私は止める事ができない。その方法が浮かばない。彼女は私の婚約者である前に、気高き公爵家の人間で、私は国を想う王族なんだ」
「葛藤しているフリをするな。虫酸が走る」
「本当の事なんだけど、ひどい言われようだ。ベルニアじゃなかったら不敬罪で捕らえているところだよ」
二人の会話を聞き流しながら、俺は俺でハーレント達を覗き見してやろうか悩んでいると、圧倒的な気配が会場へと近付いてくる。
《ベルニア》
《分かってる》
《正直、何が起こるか分からん。気を抜くなよ》
《安心しろ。どう見ても気を抜ける空気じゃない》
扉が開くと同時に静まり返る会場。
黒を基調としたドレスを靡かせるその姿に、息を呑む者やポツリポツリと彼女を褒め称える言葉が聞こえ、当人は気に留める様子もなく堂々と王様の前まで歩いていく。
圧巻だな。
「偉大なる両陛下へご挨拶を申し上げます。ロクフォール家当主 クラリディ・トレース・ロクフォール ただいま到着いたしました」
毎度名前を忘れるけど、なんだっけ……カーテンシー? いや、カーテシーか。動作一つするだけで周りから感嘆の音が聞こえるのが、少し笑えてくるな。
「ロクフォール、答えよ」
「なんなりと」
「申し開きはあるか?」
「ございません」
少ない言葉で交わされたやり取り。
一体なんの会話なのか……それは、事情を知っている者にしか予想はできないだろう。だけどその会話は、確かに静かな会場によく響いた。
「そうか」
王様は小さな呟きとため息を吐くと会場の空気は重くなり、それはクラリディすら飲み込むほどだ。
「皆、此度は祝いの場。しかし裁かねばいかぬ者がおる……クラリディ・トレース・ロクフォールを捕らえよ」
その言葉で控えていた王国の騎士達が囲み、無抵抗のクラリディを取り押さえ、頭を押さえつけた。
突然のことに会場は騒然とし始めてはいるが、両陛下を始めアースハルト、マリーやハーレントを引きずって戻ってきたアリスリア達には驚いた様子はなさそうだ。
イラストと文面だけでしか知らないシーンだけど、知ってたとは言え展開の速さに流石に俺は驚いた。ベルニアは……微動だにしてないな。
「ことの発端は、罪人の学び舎での素行に問題が出てきているという事であった。報告によれば女生徒マリー及びラスカルディアン伯爵令嬢への教育と称した過度ないじめ、時には拷問にも似た行為があったとの事だが……両者申し開きがあるかね?」
「一切ございません。陛下のお言葉は全て事実です」
「そ――いえ、全て事実です」
「事実です……」
王様の言葉に答えたクラリディに続いてマリーが何か言おうとしたが、クラリディの目がマリーとアリスリアを捉えると言葉を詰まらせて小さく頷きながら答えた。
マリーは何を言おうとしたんだろうか。明らかにクラリディが余計な事を言わないようにした感じに見えたが。
「結構。その素行、公爵家の者として目に余る。罪人が幼くして家督と継ぎ、その背に負うには大きすぎる荷を抱えながらも今日ここに至るまでクラリアン国に貢献し、尽力してくれていた事はたしかであろう……これだけならば公の場ではなく、当事者を内々に呼び出すに留めた」
確かにそれだけなら、今のタイミングで処断はしないわな。
実際問題、ここ十数年を見てきても、境遇もあってか多方面に渡ってクラリディの信頼は厚い。それに応えるようにちゃんと実績も残している。
マリーの事だって、所詮は噂だと信じない者か、ストレスが爆破した結果みたいな擁護派が湧いて消えていくだけだろう。それに、実は俺もクラリディがマリーにちょっかいを出している所を見たことがない。アリスリアとマリーがそう言っているだけで、そこから噂が広まっているだけだ。
「しかし、素行の真偽を確かめる過程でクラリディ・トレース・ロクフォールに国家転覆の疑いが出てきた」
その一言で会場のざわつきが大きくなるが、王妃がわざと大きな音を立てて扇を閉じると静けさが戻り、一呼吸置いて王様は続ける。
「ロクフォールよ、儂はお主の事は高く買っておる。故に今宵、最も安全を約束されたこの場でクラリディ・トレース・ロクフォールを捕らえる事とした。抵抗しようなどとは考えるな……ありのまま答えよ」
――エドリラト国の密偵であり、クラリアン国の情報を流していたのはお主だな?
断言ではなく問いかけ。
ただただ静かに告げられたそれは、王様は否定してほしいんじゃないか? と俺は思った。思いはしたが、それが本当だったとして叶いはしない。
「流石は陛下。よもやこんなに早く突き止めるとは思ってもみませんでした」
だってクラリディは取り押さえられた状態で尚、笑みを浮かべ俺の知るルートをなぞる様に口を開いたからだ。いや、俺の知っているルートとは違って取り押さえられているし……なにより、完全に煽ってるな。
まぁ、何にせよ静まり返っていた会場もざわつきを取り戻し、今のやり取りもすぐに外まで広まりそうだ。
「お主が内乱を起こさねばと思うほど、この国は腐敗しておったか?」
「どうでしょう。御存知の通り腐りきった実を処断はしてまいりましたが、陛下の問いにお答えするとなると、私はまだ若く未熟者ですので」
「最後までお主の目的は見えないままであったな」
「小さな復讐心ですわ」
交わされた言葉以上にお互いを見る目は対極的で、口にしていないやりとりがありそうだ。
この沈黙の間にも、互いに何かを主張しあっているのかもしれない。まぁ、それでも、このまま王は刑を口にするんだろう。
「この様な結果になり非常に残念だ。罪人クラリディよ、この時より爵位を剥奪し全ての財産を没収。禁固刑一年の後に、利き腕を切り落とし国外追放と「甘い、それでは甘すぎます。私のような重罪人に、私情を挟んだ刑を言い渡すなんて……甘すぎますわ。デルトラント・クラウス・クラリアン陛下」――ッ!?」
一瞬のうちに会場はクラリディの魔力に満たされ、いつの間にか自由になったクラリディは王様達から距離を取り、鉄扇で口元を覆っている。
取り押さえていた騎士達は……凄まじい勢いで周りを巻き込みながら吹き飛ばされたようだけど、とりあえずは生きてるみたいだ。
「まだ罪状が足りないのであれば、こういうのは如何でしょうか」
音を立てて鉄扇が閉じられると同時に、クラリディを中心をして会場は凍りつき始め、煌めく氷柱の先端が王様と王妃に向けられて飛んでいく。
王様達の後ろに控えていた騎士は即座に反応して、二人の壁になるようにちゃんと守りの姿勢を取って立ち塞がる辺りすげぇ。反応いいわ。
「とんだ茶番だ」
ぼーっと流れを見ていると、ベルニアの声が聞こえ、次の瞬間には王様達を守る騎士と迫る氷柱の間に移動している。
そしてそのまま、何かをする事は一切せずにベルニアは氷柱を身に受け、会場からは悲鳴が上がる。
《何してんの》
《さっさと帰って休みたい……っていうのもあるが、ボウガスへの恩返しだ》
《恩返し?》
《リリィの件のな。ボウガスは随分とクラリディに執着があるみたいだし、丁度いいだろ?》
氷柱が刺さっているにも関わらず含み笑いをするベルニアは、傍から見ればドン引きだろうな。
まぁ、でも、戦場でのベルニアを知っている人物はこの程度で慌てたりはしない。氷柱が幾ら体を貫こうともベルニアは死にはしない。
如何なる攻撃を受けても、血の一滴すら垂らさない'不死の黒騎士'。
それに加えて、戦場で纏う黒い鎧が敵の返り血で染まる姿から'鮮血の黒騎士'と呼ばれているベルニア。その異名は伊達じゃない。
この不死性の正体は、ベルニアのみが使える固有魔法。
負傷を魔力で肩代わりするっていう、一種の治療系に分類されるとんでも魔法のおかげなんだが、もちろん弱点も存在している。
魔力の消費量とかもあるにはあるが、何よりこの魔法は頭部を破壊されたり気絶したりすると無力化する。魔法を維持できないんだから当然といえば当然なんだけど……実は原作と違って、今のベルニアにその弱点はない。
意思を持った魔力――俺というオプションパーツが居るから。
それ故に、おそらくベルニアの固有魔法の存在と弱点に気付いているクラリディであっても、ベルニアを圧倒する事はできない。
もちろん俺の存在を知っているんだから、その事をクラリディも理解はしているだろうな。
「やはり、最後に私の前に立ち塞がるのは貴方ですか」
「御託はいい。お前の境遇には興味ないが、こんな茶番劇にはもっと興味がない」
心底疲れ切った顔のベルニアは、凍りつき始めていた会場を自分の魔力で呑み込み、数十秒もしない内に氷は闇に消えていく。
かく言うと俺もせっせこと、壁、床、天井と張り付いている氷を引っ剥がしたわけだけど。
「陛下、今のお言葉が確かなら、既にロクフォール家は取り潰しとなり、彼女はただの罪人であるという事と認識しておりますが間違いはございませんか?」
自分を貫いている氷柱も消滅させて、せっかく着飾った服にできた大穴から、穴も塞がり傷一つ無い素肌をチラチラさせているベルニアは、クラリディに背を向けて王様に聞いている。
その問いかけに王様が肯定の返答をするとベルニアはクラリディへと向き直った。
あぁ、なるほど。戦場以外で思考を読み取る事をしなくなったから、何をするつもりなのか気にはなっていたけど、ベルニアは先に俺に思考を流して教えてくれた。
まさか俺のためにベルニアがそんな行動的になってくれるとは。
「聞いたか? クラリディ。今のお前はただの罪人だ。何を考えてこうして国に剣を向けているかは知らないが、くだらない茶番は終わりだ。丁度、先の戦いで犬がもう少し欲しいと思っていた所でな……お前なら十二分に使えるだろう」
ベルニアの言葉で察したんだろうな。珍しく目を見開いたクラリディが口を開こうとしたが、先に俺とベルニアによって魔力で拘束されて口を塞いだ。
抵抗されると思っていた俺とは裏腹に、クラリディはすぐに諦めた様で次のベルニアの言葉を待っている。
「次期当主ベルニア・デルラジス・ファンゴルディアンが、この場でデルトラント陛下に申請します。ファンゴルディアン家の特権を行使し、特例法を適用させ、罪人クラリディの全所有権を保持する旨の許可を頂きたく思います」
「ベルニアよ、その特権、正しく理解はしておるな? もし此度と同じ様な事が起これば、お主もただでは済まぬぞ?」
「首輪を付けるまでもなく、問題はないと考えます」
堂々と答えるベルニアを越えて、王様の視線はクラリディへと移り、次に会場の端で微動だにせず状況を見ていた親父さん――ヘルヴェンス・デルラジス・ファンゴルディアンへ。そして最後にアースハルトを一瞥すると、王様の視線はベルニアへと戻った。
「よろしい。許可しよう」
「ありがとうございます。では、私はこれで」
深く礼をしたベルニアは、拘束しているクラリディを小脇に抱えてそのまま会場から出ていく。
《空気を散々にして帰っていくのな。皆、唖然としてたぞ》
《俺はボウガスに恩を返せたし、何より早く帰りたい。陛下は収集を付けたい。結果的に死者も無く済んだんだし問題ないだろ》
《アースハルトや親父さんが何言うか楽しみだな》
《……父上は分からないが、アースハルトに文句を言われる筋合いはない。十中八九あいつの望みもクラリディを生かす事だ。むしろ乗ってやったんだから、今後学食でも奢らせる》
呆れたように息を漏らし、そそくさと馬車に乗り込んだベルニアは、'あとは好きにしろ'と俺に言い残して眠り始めてしまった。
「見事に邪魔をされてしまいましたね。ここに至るまで、それなりに大変だったのですよ?」
ベルニアが寝たのを確認してから話し始めた辺り、明らかに俺に向けて言っているんだろう。好きにしろと言われたし、少しベルニアの体を借りるか。
「……あの日、復讐を決心したように見えたんだがな。道半ばで諦めるなんてらしくない」
「諦めたりしていませんわ。今日の騎士達の動きやベルニア卿を見て、私の考えは間違っていなかったと確信できたほど。もっとも、私の目論見は破綻してしまいましたし、これからはどうなるか分かりませんが」
「処刑される事が復讐になると?」
「何時頃からかはお聞きしませんが、ボウガス卿には私の思惑お見通しだったようですね」
まぁ、その予想に反して結果が変わったからこうして話ができているわけだが。それに今回行動を起こしたのはベルニアであって、俺じゃない。
よくベルニアはクラリディの考えに気付いたもんだ。
「それでも今回の行動はベルニア卿の独断のようですが……」
やだぁ。そっちもお見通しな感じじゃないですかぁ。
もう俺の思考を読んでるんじゃないかってぐらい見透かされてる気がするわ。そんなに顔に出やすいか? 俺も、ベルニアも。
「もう暫く移動の時間もありますし、この際ですからお話しましすわ。おそらくは、ボウガス卿が気になっているであろう事まで」
そうしてクラリディは語り始めた。
幼少の時、俺が見た惨劇のあの日からコツコツと積み重ねてきた計画を。その真相を――。
「――なるほど」
語られた内容こそ簡潔にまとまって分かりやすかったが、それを実行するとなれば俺には無理そうだ。
あの日、屋敷を襲撃した者達がエドリラト国王の差し金だという事は分かった。
クラリディが裏で手を回して処断してきた貴族の中に、エドリラト国に加担している連中が混ざっていたのも分かった。
予定していたより紆余曲折あり、正式にアースハルトとの婚約破棄こそできなかったが、物事は進み今日という日を迎えられたことも分かった。
ただ、結局俺の知りたい所は知れていない。
「本命を聞く前に聞いておきたい事がある」
「なんでしょう」
「アリスリア・ラスカルディアン。そしてマリー・レイラントを虐めていたって話は本当に事実か? それにしてはどうにも被害者側の反応が引っかかる。本人達に一度聞いたこともあるが、まぁ濁されたよ。怯えているというよりは、何かしら覚悟を持って」
アリスリアの動きが俺の知るモノより違うと思っていた時、丁度二人だけが揃った所に突撃してみた事がある。
噂は本当か? と聞いてみた所、マリーもアリスリアも肯定も否定もせず、どっちつかずな反応を見せ続け、その様子はどうにもクラリディを庇っているように俺は感じた。
「ラスカルディアン伯爵令嬢はまだしも、レイラント嬢には悪い事をしたと思っていますわ。どうしても短期間で作法を身に着けてもらわなくてはならなかったので」
「二人を頻繁に呼び出していた理由は、マリーに礼儀作法を教えていたと?」
「それなりに私への悪評も必要だったのですが、何よりレイラント嬢は平民の出……アースハルト殿下の次期婚約者として教えなければならない事が多かったもので、何やらレイラント嬢に熱心だったラスカルディアン伯爵令嬢にも協力をしていただいておりました」
「アリスリアがマリーに入れ込む理由は俺にも検討が付くが、クラリディがそうする理由が分からないな」
「私達の学園は平民が容易く通える所ではございません。そこに平民が通うというのは、中々に異例な事。それも彼女は試験もなく特別推薦入学です。ラスカルディアン伯爵令嬢がどうして彼女に目を付けていたのか、私は知りかねますが……伯爵令嬢一人の推薦でそんな事が起こりうるとお考えですか?」
質問の答えにはなってないけど、つまりクラリディもマリーを推薦していたという事か。
ロックフォール公爵家の現当主からの推薦だ。そりゃ特別待遇の一つや二つあってもおかしくはない。ってことは何か? クラリディは事前にマリーを知っていたと?
どう知ったのかの経緯も知りたいけど、今知りたいのはマリーを推薦した理由。初めて顔合わせした時、マリーとクラリディは初対面の反応だったはず。
そんな相手を推薦理由は……そういう事なのか? アリスリアはそういう設定で、俺はゲームの知識があるから知っているが……いや、クラリディは気付いたのか。
「ロックフォール家もマリーの入学を後押しして、その目的がマリーをアースハルトの婚約者にする事だというのなら……目的は光の魔力。光の魔法への適正才能か」
「やはりボウガス卿は御存知だったのですね。レイラント嬢の潜在的才能を」
多種多様に魔力に属性やら派生やらが存在するこの世界。
簡単な魔法なら、使える者は学べばそれなりに使えはする。だがゲームでは後付でも増えていくし、その結果から魔法の種類も完全に把握している者は居ないと言ってもいい。
ただそれでも個人個人で得手不得手はある。
ベルニアを例にあげるなら、ベルニアは闇の魔法に対してずば抜けた適正があり、固有魔法とかいう特別な魔法も開花させている。そのせいなのかは不明だけど、それ以外は実は苦手なのがベルニアだ。
そして戻るがマリー・レイラント。
彼女は流石主人公というだけあって、どの属性の魔法にもある程度の適応がある。中でも光の魔法への適正が高くて、それこそ彼女は光の固有魔法を開花させるほど。
まぁ、その話は今は置いておくとして……クラリディはマリーの存在を知った瞬間からアースハルトの婚約者にするつもりだったんだろう。
クラリディの才能はずば抜けているし、開花させた固有魔法は複数ある。それでもクラリディがマリーを後押しするのは、おそらくアップデート前の設定が生きているからだ。
光の魔法は神の祝福なんて呼ばれ方をして、その昔、高位の光魔法を扱える人物は神の使徒なんて崇拝されていた。
アップデート前のシナリオでは、光の固有魔法を持つに至るほどのマリーを王家の血筋に加えて威光を強めたかったなんていう事を王様が暴露するシーンがある。
それだけ光の適正が高いという事は絶対数的な意味合いも含め貴重で、何より初代のクラリアン国王が高位な光の適正者なだけあって特別視されているのは知っていたけど、それはアプデ前の話でアプデ後にはえげつない信仰心を持ってる教団とか無くなってたんだけどな。
「私と殿下の間には恋心というものは芽生えませんでしたし、レイラント嬢には申し訳ないですが、私の目的のためには丁度いい方でしたので利用させていただきました。婚約者として彼女の素質は申し分ないものでもありましたから」
「アースハルトは納得したのか」
「えぇ、納得していただきました」
していただきました……ね。流石にすんなりと頷かないよな。ベルニアの言い方的に、今でも本当は納得してなかったみたいだし。
笑顔のまま眉間にシワを寄せた顔が簡単に浮かぶわ。
「アースハルトの後にでもベルニアにも謝ってくれよ? ちゃんと納得させていなかった後始末として」
「その機会に恵まれたのならば、ご助言を参考にさせていただきますわ」
「そんじゃこの話はここまでにして本命だ。クラリディ――何故、死を望んだ」
結局ここに至るまで確信する事はできなかった俺の知りたい事。それはクラリディにも分かっているだろう。
クラリディ・トレース・ロクフォールがその瞬間まで何を考えて、何を望んでいたのか……やっと知ることができそうだ。
「……先程もお話いたしましたが、ロクフォール家の襲撃はクラリアン国の戦力を削りたいと願うエドリラト国王が仕組んだ事件でしたわ。ただ当時の私では決定的な証拠を揃える事も難しく、今となっては証拠を揃えた所でエドリラト国王も逃げ道を作り上げてしまっています」
「まぁ、クラリディのご両親を欺いたぐらいだ。エドリラト国王も事後処理を怠るほど馬鹿じゃないだろうな」
「はい。現に真実を知らず、両親を助けてくれなかったクラリアン国に恨みを持つという私の存在も最初は警戒をされ、今の利用価値があると思わせるにも相応の苦労をしましたわ」
「エドリラト国には設定で入り込んだのか」
「今のエドリラト国王の中の私は、復讐に駆られる盲目な愚者程度の認識でしょう。クラリアン国での私の評価を踏まえれば利用価値も高かっただろうと自負しております。故に今の立場となってからは情報操作も容易でしたわ」
つらつらと喋るクラリディの表情は、かなり柔らかい。
ただこうして喋ってる間にも、今の自分の状況と今後の立場から方針を決めるために思考してるのかと考えると、俺の表情はさぞ硬くなっているかもしれないな。
「協力者を無能に仕立て上げ、クラリアン国から排除しながら事件の証拠を集め、揃えた証拠を携えて陛下に事件の真相をお伝えし、当主としての信頼を得ました」
「まぁ、王様だけに留まらず、クラリディに対する国の連中からの信頼は凄まじかっただろうな。高嶺の花も高嶺の花だ」
「浅ましくも復讐心に駆られているなど、きっと誰も考えては居なかったでしょう。そういう面では、エドリラト国の私の方が本当の私なのかもしれませんね。だから真相をご存知の陛下ですら、私が火種となり二カ国の戦争を起こそうとしていた私に気付かず止められなかった……もっとも、傍観すると思われていたお二人に止められてしまったのですが」
クラリディが死ぬ事でクラリアン国とエドリラト国で戦争?
いや、確かにゲームの最後で戦争は起きている。エドリラト国が侵略してくる形で起こり、その戦争を終わらせた立役者が主人公達であり、エンディングでは少し数年後が描かれてメインシナリオは終了だ。
だとしても、クラリディが死ぬ意味が分からん。
「私の死の意味が分からないという顔ですね」
「どんな顔だよ」
「ふふっ……別に私はエドリラト国を滅ぼしたいわけではありませんわ。もちろんクラリアン国も同じように。ですが私が生きていると、政治的に解決できてしまうのです。しかし盲目な私は納得できません……が、私個人の武力でエドリラト国を落とすなど、そこまでエドリラト国は甘くありません。それに国王を殺せたとしても、クラリアン国の公爵がそんな事をしたとなれば、他の国にもクラリアン国の悪評が広がる可能性がありますわ。ここまではよろしいですか?」
「続けてくれ」
「どうしても事件に関与した者達に復讐したい、しかし個人で手を出すにはこちらも向こうも立場がある……私が出した結論は、戦争でしたわ。国の守りを取り上げ、そうなる事に問題のない状況としては一番でしょう。ただ一言に戦争と言っても開戦は簡単に起こせるものではありません。クラリアン国の事だけを考えるのならば、するべきでもありませんわ」
「だがそれは、クラリディ・トレース・ロクフォールの処刑という条件で起こる寸前まで行った」
「私がそう仕組みましたから。あらましはこうですかね。
幼い頃にエドリラト国に両親を殺されてしまった娘がいました。ですが、生き残った娘は真相を知らず母国を恨みエドリラト国の密偵として国を売った大罪者。その行いが露呈し、処刑されてしまう。
しかし娘の死後、その住まいを調べると、母国を裏切る事への葛藤が綴られた日記を見つけ、最後の最後で自分の両親はエドリラト国に殺されたと知った事実が綴られていて、その噂として広まりました。
元より娘は母国を愛し、母国の者達も娘の死後、裏切りという事実に疑いを持つほど。そこに広まった噂は、彼らに闘志の火種を点けるには十分でした。
一方エドリラト国では、盲目な愚か者が無能にも失敗をして処理されてしまっただけ。ですが愚か者が最後に残した情報に笑みを止める事ができません。なにせ愚か者が最後に残したのは、勝利が見える十分な情報。
母国の詳細な戦力に加えて、国力が弱まっている状況と弱点の数々。そして、愚か者が持つ領地にある身を隠すにはこれ以上のない地下通路や空洞。何よりも国を支えるはずであった娘の死という混乱と、空いた穴を埋めるには時間の掛かる状況。
最後に娘は未来を見据えて微笑むだけです。野心家が軍靴を鳴らせば、火種は勢いを増すことでしょう……と」
んー、なんとなく分かった。
簡単に説明こそされたものの、クラリディはエドリラト国が攻め込んでくる確信を持っている。それだけの情報を残しているんだろうな。その情報が嘘であれ、本当であれ。
んでもって、クラリアン国の勝利も確信している。ただなぁ……。
「そんな方法で復讐として満足なのか?」
「満足ですわ。きっとエドリラトの者達は最期に全ては私の仕組んだ事であると知り、ロクフォール家に手を出した事を悔やみながら死後の世界で私と会う。一体、どんな表情をするのでしょうね」
その瞬間を思い浮かべているのか、目の前のクラリディは確かに笑みを浮かべている。
俺の好きなあのイラストのクラリディも、同じ事を考えいたのかもしれないと思うと……少しだけ納得できた俺が居た。
「死を選ぼうとした理由はなんとなく分かった。それがクラリディの考える確実な復讐だったんだろう。だけど気になる事がある」
「なんでしょうか」
「一つは戦争を起こすという事に罪悪感は無かったのか? それと、話を聞く限りでは王様はそこそこ前から事件の真相を知っていたはずだが、どうやって処刑を納得させたんだ? いや、納得してなかったから追放しようとしたのかもしれないけど、それ以上に国としてクラリディの利用価値はあったはずだ」
「エドリラト国とは遅かれ早かれ戦争にはなっていましたわ。避ければ避けるほど無駄な死人を増やしながら、結局は戦争へ行き着く。今の国王はそういう人間です」
「王様の方は?」
「二重で密偵をしている事がエドリラト国に露呈してしまい、粛清対象となっている。これ以上は取り返しのつかない事態になってしまうと告げ、死するのであれば国のために汚名を背負っても、クラリアンの地で死にたいと願いましたわ」
「なんというか、随分と頑張ったな」
「計算違いがあったとすれば、やはりベルニア卿とボウガス卿が私の前に立ったことですね」
「……もしかして結構根に持ってる?」
その言葉に返事はなく、クラリディはふふふと笑うばかり。
そんなこんなで数分もすれば馬車は止まり、別荘へ着いたわけだがベルニアが起きない。
「おかえりなさいませ――おや、ロクフォール公爵閣下もご一緒でしたか。応接間の方をご用意致しますので、申し訳ありませんが暫しお待ちいただきますが、お急ぎのお御用がございましたか?」
ベルニアが起きないからと言って、いつまでも馬車から降りないわけにもいかず出てみれば、まさかハイラントの出迎えがあるとは……。
いきなり帰ってきたわけだし、出迎えはないと思ってたんだけどな。
「応接間じゃなくて今日は客室を用意してやってくれ。それと、もうロクフォールではなくファンゴルディアンの猟犬だ」
「そういう事でしたら使用人の部屋に案内いたしましょう」
使用人の部屋ね。別荘に連れてきた人数分の準備しかしてなかったはずだけど、すぐに案内しようとしてる所を見ると……ハイラントは予めクラリディの一件を知っていたか。
事が事なだけにハイラントも困惑して探りを入れたくなったって所かな。
「部屋は任せる。特別待遇は必要ない……あぁ、それとクラリディ」
「はい、なんでしょうか」
今まで黙っていたクラリディと目が合う。
この状況になっても力強くも儚げで濁る事のない薄紫の朝露の瞳。
白銀の靡く髪の毛先は、透明で背景との境目すら曖昧で幻想的。
俺の知るクラリディ・トレース・ロクフォール……だが、もう俺の知らないルートのクラリディ。
「クラリアン国の剣たるファンゴルディアン家は、最前線に立つ事が多い。だが猟犬では無駄死には許されない。生きる意味を見つけろなんては言わないが、死ぬ理由を作るな。戦場において猟犬は、敵にとっての死んだ理由だ」
「これから大変そうですね」
「一人でやるよりかは楽さ」
「……」
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《なんだ、これで終わりか》
《何を期待してたんだか》
ベルニアが起きるのを自室で待ち、起きたら起きたでどんな話をしたのか知りたいと言ってきたから記憶を見せた。そして見終わった反応は不満げ。
マジで何を期待してたんだか。
《ボウガスが俺にしたアドバイスをしてやろうか?》
《アドバイス? そんな事したか?》
《バッといってガッとやってチュッってかますのが良いらしいぞ》
何いってんだコイツ。
やれやれだ。前提を間違えてる。
《ベルニア君や……そんなつもりも無いが、仮にそうだとしてだ。その体でそんな事をしてみろ。色んな問題が発生するわ》
《……そういやそうだったな》
たまにベルニアって抜けてる所があるんだよなぁ。
ベルニアの体でそんな事をした日にゃ、リリィちゃんが泣いて猟犬に吊るされるぞ。いや、その前に両親からの尋問が先か? とりあえずろくな事にはならん。
《なら今は、ボウガスの言うルート変更ができたという事で満足をしておくか》
《ありがとうな。俺もまだまだ楽しめそうだよ》
《そうか》
俺の知るメインシナリオも、もう終盤だ。これから先、イベント通りなのか違うのか。どうなるかは俺にも分からない。
結局、どうして俺がベルニアの魔力なんて存在になったかも分からないまま。
ただまぁ、俺の知らないエンディングになる事は確かだろうな。
もっと短くまとめようと思っていましたが、長くなってしまいました。




