プロローグ
剣と剣が交わり奏でる音は観衆に冷めやらぬ興奮を与えるが、闘技場の舞台で戦っている剣闘士にそれを聞き入る余裕など無く、互いに命と自由を賭け、ただ一心に剣を振るい目の前の敵を切り殺そうとするのみ。
ログロンド闘技場トーナメント 春季大会決勝戦。この一戦に勝てば、奴隷という枷が外れ、人間になれる。
「トーナメントで優勝した剣闘士は自由の身になれる。」
そんな甘いささやきに乗せられ五年。ようやく最後の一歩までたどり着いた。このチャンスを逃すわけにはいかない。
相手の猛攻をいなし、いなし、いなす。鍛え上げられたその巨体からはおよそ考えもつかないような速さが剣に乗り、防戦一方の俺は徐々に体力が削られる。体内に宿る魔力を操作し、様々な固有の能力を発現させる技能の影響はすさまじい。
相手の技能は肉体の操作だとかその辺だろう。肉体に負担をかけ、無理をするから筋肉の塊のような身体が出来上がる。
一方こちらの技能は「一撃必殺」。言葉だけ見れば強そうではあるものの、そう上手くもできていないわけで。残念なことにこの技能には欠点がある。
1.体内すべての魔力を注ぐ一撃のため、使用できるのは一時間に一回のみ。
2.その一撃にすべてを注ぐため、ほかの用途で魔力を使用できない。
3.効果時間は発動から5秒間のみ
そのデメリットをもってして得られる効果は「どんな装甲も切断し、一撃で仕留める必殺の剣閃になる」でしかないのだから、使い勝手が悪すぎることこの上ない。
だが、戦い方を工夫すれば、うまく立ち回れる。
例えば、この試合のようにスピードで劣る相手にフェイントをかけられてしまえば、剣も回避行動も間に合わない時がある。そんな時は、左腕を多少削って無理やりにいなす。こんな戦いをしているといずれ…。
”その時”が来る。
「しまっっ!」
巨体の口から声が漏れる。
なぜなら俺の血が刀身を伝い、グリップを濡らし、その手を滑らせてしまったから。
猛攻が途切れ、こちらが先手を取れる。
攻撃の動きをわざと大きく見せ、一撃を振るわんと踏み込む。
こんな時剣闘士はどうするだろうか?回避行動?いや違う。魔力を用いて障壁を生み出し、受け身の態勢を反射的にとる。
勝利の条件は整った。
放て、鎖を断ち切る一撃を。
技能「一撃必殺」発動。
「たった一瞬の天下無双は竜の一撃よりも重たいぞ!」
すべての罪を清算する横薙ぎは巨体を一刀両断する。
静寂の後の歓声が轟音となり闘技場を震わす。新しい人間の誕生を祝う歓声だろうか?いや違う。人が殺される様を楽しんでいるだけだ。
ふと鮮血に映る自分を見る。
この青年は死体の山を築き上げ、それを踏み台にし自由を得ようとしている。
自分は、この観衆を嘲笑することができる人間なのだろうか?自らの益のために殺し、それを償いとする自分に、その権利はあるのだろうか?
罪は清算などできないと知る。罪を幾重にも重ねる自分はもはや人とは言えないだろう。
であれば次に与えられる人生は、せめてもの償いとして殺した分以上の人を救おう。
囚人 ヘヴィ・ジェイラスはこの自由に誓う。
どうも、箱屋ちゃいろと申します。ゲーム制作の休憩に小説を書き始めた感じです。地雷タイトルでヘビィな作品が書いてみたいなと思い行動に移してみました。文章自体は軽く読めるようにしていき、なるべくキャラクターを愛していただけるような作品に仕上げたいと思います。
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