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幾何学模様の転移人  作者: 妬舞禾翠
第一章 トリオン
9/50

峻厳の訓練

リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。

「ッ…………」


 息を殺せ、気配を消せ、奴に悟られるな。


「ッ!」


 俺のすぐ隣に剛速球(石ころ)が飛んでくる、不味いバレてる。

 何故こんな事になった、俺は普通に戦っていたのに、何故この様に逃げ回る真似など―――


「―――よぉ、息は整ったか?」

「ッ!?」


 刻は一時間前に遡る。


「カスイ、私と試合をしてくれ」

「なっ!?」「なぬ!?」「あっ」「…………」

「…………はい?」


 鐵櫻緋撃団団長、《峻厳(しゅんげん)》は俺との試合を望み、裏手にある訓練場で試合をする事となった。


「アンジェラさん、大丈夫なんですか?主に俺が」

「死ぬ事は無いので安心してください、寧ろ彼女から格闘術を学べるいい機会でしょう」

「そっすか…………」


 図らずとも指南を受ける事になってしまった、何故なんだ、異世界に来て人としかマトモに戦ってないぞ、後は猪殲滅したぐらい。


「さぁ始めよう、武器は何を使う?」

「え、あ、無しで」

「ほう?私など拳で十分というわけか」

「え!?そうじゃないですよ!?」


 ヤバいよこの人、俺を見る目が猛獣のそれと変わらないよ、確実に狩りにきてるよ。


「それなら私も拳でやってやろうじゃないか」

「え゛っ」


 背後でグレンさんが喉が潰れたような声を上げた。

 え、何?何かヤバいの?怖いからそういう反応やめてほしいんだけど。


「それでは、両者準備は宜しいですか?」


 訓練場の傍でアンジェラが確認をする、いつの間に審判に回ってたんですかね。


「問題ない」

「大丈夫です」

「では、このコインが落ちたと同時に開始してください」


 そう言ってアンジェラはコインを空に飛ばし、グレンさん達はラクサムと朧を連れて訓練場を離れる。


「グ、グレン殿?離れてしまっては見えないのだが?」

「いや、命は大事にした方がいい」

「私もそう思います」

「後は二人に任せて解散しましょう」


 四人が訓練場から出ていき、俺と団長さんの二人になる。


「「…………」」


 残り数秒でコインが地面に落ちる。


「スゥ…………」


 三。


「ハァ…………」


 ニ。


 双方同時に右手を握り締め後方に引く。


 一。


流星(りゅうせい)ッ!」「飛燕(ひえん)ッ!」


 ゴシャァッ!


「―――がふっ!?」


 気が付くと壁に身体を埋めていた。

 目の先には平然と団長さんが立っている。


「この程度か、まだまだだな」


 何が起きた?俺は確かに拳を出した筈だが、結果俺は壁に埋まっている。


「威力は申し分ない、だが貴様には速さが足りない、どれだけ強かろうと当たらなければ意味が無い」


 煙草を口から放し、息を吹きながらゆっくり歩いてくる。

 今のは俺より速く団長さんの拳が当たったって事か、馬鹿になんねぇな。


「さっさと立て、これで終わらせるつもりはないぞ」

「……お手柔らかにお願いします」



 そして試合を始めて一時間後の現在。


「〰〰〰〰〰ッ!!」

「走れッ!逃げろッ!早くしないと殺されるぞッ!寧ろ死ねッ!」


 街中を逃げ回り団長さんからの攻撃を避ける。

 尚、街への被害は尋常じゃない、後で絶対怒られる。


「何、っで!街中でやるんですかァァァァ!!!」

「障害物が多いからだッ!」

「のぁっ!?」


 先程まで俺の脚が付いていた地面が抉れ、クレーター状になる。

 ヤバい、何がヤバいってその辺の石ころでこうなんだぞ!あの人最早人間兵器だよ!


「ひぃぃぃぃ!!」


 人混みは避けるようにして広い道を走る、流石に死人を出す訳にはいかない。

 そうして走っていると、トラブル発生。


「……げっ!」


 人を避けて走っていたつもりが、いつの間にか人通りの多い道に出てしまった。

 不味……いや?寧ろ好都合かもしれない。

 木を隠すなら森の中と言うし、隠れてフードを被れば団長さんの目を欺くことが出来るかもしれない。

 近くの布屋でフードを被り大通りを歩き始める。


「……居た」


 後ろを振り返ると黒いコートを着た赤髪の女性が見える、流石に此処で実力行使には出ないようだ、良かった。このまま人混みの少ない場所へ移動するとしよう。


「っとと」

「うわっ」


 後ろを向いていたからか、前から来た人にぶつかってしまった。


「す、すみません」

「いえ、大丈夫で…………ん?」

「では、急いでいるのでこれで」

「あ、ちょっと!」


 何やら引き留めようとしていたが、人命を優先して急いでその場を離れた。


 ―――…


「今のは…………」

「む?どうかしたか、堀宮氏」


 後ろから同行していた眼鏡を掛けた少年に声をかけられる。


「いや、気のせいかもしれない」

「そうか?ならば急ごうぞ、サンクリオット女史にどやされては敵わん」

「うん、分かった」


 ……聞いたことのある声だと思ったが見慣れぬ格好をしていた、フードで顔も見れなかったし他人の空似かもしれない。

 だが、今の僕には、


「禾翠君は無事だろうか…………」


 彼の無事を祈ることしかできない。


 ―――…


「むぅ…………」


 朧は肉串を手に唸っていた。

 それにラクサムは声をかける。


「どうしたんですか?」

「主殿は今頃楽しんでおられると思うと羨ましくてな」

「何でそんなに血気盛んなんですか…………」

「戯言を、儂は元々龍じゃて、戦は好くに決まっておろう」


 そう言い肉串に齧り付く朧を見てラクサムは「はぁ」と息を吐く。


「呑気な物だな、まあ龍なら余裕があるのも頷けるが……団長と殺り合って五体満足で勝つ奴なんて私の知る限り存在しないぞ」

「それは……ううむ…………」

「え、今の悩むところですか?」


 朧にジト目を向けるラクサムにグレンは疑問をぶつける。


「おいチビっ子」

「ラクサムです」

「んじゃラクサム、お前は団長の事驚かないんだな」

「別に驚く所もありませんし」


 肉串を食べ切り、串を懐に仕舞い込んで言う。


「いやそうじゃなくてだな……天使といい、団長の知り合いかなんかなのか?」

「あれ?聞いてないんですか?ゲブ……団長さんは元々生命の樹(セフィロト)の一員ですよ」

「は?……っとと」


 その言葉にグレンは串を落としかける。


「それ本当か?」

「そうですよ?昔は生命の樹のリーダーに忠実に従ってましたし、私もそうですが」


 グレンは「そうだったのか……」と腕を組みブツブツと考え事を始める。

 そこで朧が口を開く。


「……ところで、アンジェラ殿は何処へ?」

「そういえば何処行ったんでしょうか……まあ大丈夫でしょう、アンジェラ様ですし」

「そうじゃな」


 二人で話している間にまたグレンが口を挟む。


「さっきも言ってたが、アンジェラって誰だ?」

「「あ」」


 ―――…


 あれから喫茶店に入り団長さんに見つからないか冷や汗を掻きながら珈琲(コーヒー)を啜っていた。


「お、この珈琲は旨いな」


 地球ではインスタントしか飲んでいなかったから豆からの手作りは新鮮だ、思っていた以上に美味しい。

 お、そうだ、この珈琲も解析出来るかな。


『対象 飲料水 名称 ウラ豆の珈琲 ウラ豆を焙煎して作られた珈琲、使用者の心を静め、覚醒作用がある』


 ウラ豆……この世界の珈琲豆かな、リラックス効果と眠気覚ましがあるのはこの世界でも変わりないみたいだな。


「このままゆっくり過ごしたブフォッ!」

「大丈夫ですか?」


 いつの間にか隣の席にアンジェラさんが座っていた。


「ゲホッ……い、何時から…………?」

「つい先程貴方を見かけまして、峻厳(ゲブラー)はどうなさったのですか?」

「ゲブラー?団長さんなら俺を探してると思いますけど」


 ゲブラーって団長さんの事か?ラクサムの王国(マルクト)みたいな奴か?

 何にせよ名無しってのは面倒だな、もし仲良くなるとしたら名前は必要だ、一応考えておこう。


「成程、だから噴水広場に居たのですね」

「そうなんですか?」


 俺を見つけるために動き回ってるかと思ったが、何故噴水広場に?


「噴水広場は広範囲を見渡せるのでカスイさんを見つけ次第人気の無い場所に連行しようとでも考えているのでしょう」

「マジすか……喫茶店から出たくない…………」


 紅茶を啜りながら答えるアンジェラさんに俺は頭を抱えてテーブルに蹲る。(   うずくま   )

 しかし此処に留まって居ても見つかるのは時間の問題だろう。


「飲んだら行くかぁ…………」

「では逃げないように見張ってますね」

「えぇ…………」


 進まぬ足を無理やり動かして噴水広場まで向かうと、団長さんが仁王立ちで立っていた。


「自ら来るとは殊勝な心がけじゃないか、まあ来なかったら連行してたところだが」

「マジかよ……団長としてどうなんすかそれは」

「言ってろ、だが少しの間とは言え私から逃げ遂せたのは評価しよう」

「それは有難い限りで」


 団長さんの前に出たのは良いが正直俺からどうこうすることはない、というか何もしないでほしい、被害出るし、ね?


「……一つ試しても良いか?」

「何ですか?」

「貴様の耐久力を試したい」

「は?」


 そう言うが早いか、団長さんは俺の胸に向かって小石を投げつけてくる。

 それをギリギリで掴み取るが、勢いで数米程( メートル )後退る、近くに人が居なくて良かった。


「ッつつ……危ないでしょうが!!いきなり何すんすか!」

「ほう、平気で掴み取るか、見せかけの部屋の装甲は伊達じゃないという事だな」

「聞いてんのかコラ!」


 何やら考え事をしている団長さんに小石を投げつけながら怒りを露わにする、急に剛速球投げてくるとか頭おかしいだろ。


「…………」

「? 急に黙ってどうしたんですか?」


 団長さんは黙って俺、主に俺の首元に視線を集めていた。

 視線を追って見てみると、レイリーさんから貰った蒼い十字架のネックレスを身に着けていた。


「……カスイ、その十字架は何処で手に入れた」

「え?レイリーさんから貰った奴ですけど……え、何か効果あるんですか?呪いとか?」

「いや、寧ろ貴様を護ってくれる様な物だ……だが」


 団長さんは近付くや否や俺の首元からネックレスを剥ぎ取った。


「イテッ……取るなら言ってくださいよ、自分で取ったのに」


 団長さんは俺の方には目もくれず、ネックレスをマジマジと見ると次第に顔色を変えていった。


「……天使様、これ作ったのは()()か?」

「はい、痕跡が彼女の物と一致しますから」

「チッ……要らねぇ御節介掻きやがって…………」


 団長はそう吐き捨てるとネックレスを俺に投げつけて話を続けた、投げるなよ危ないだろ。


「話が逸れて悪いな、試合はもういい」

「え?」

「何だ、まだやりたかったか?」

「いえいえ!終わりならそれでいいです!」


 随分とあっさり終わったな、逆に怖いんだけど。


「これからは単純な訓練をさせてもらおう」

「訓練?俺の?」

「ああ、貴様の動きは型の通りにしか動けていない、人間に対してはそれでも構わんがこの世界は人間以外にも存在する、型を我が物にするまでは止めんぞ」

「うへぇ…………」


 そう言うと団長さんは「戻るぞ」と訓練場の方へ歩いて行く。


「…………」


 我が物にする、ねぇ…………


「カスイさん」

「はぃ?なんすか?」

「いえ、上の空でしたから」

「あぁ、大丈夫です、ボーッとしてただけなんで」


 右目を閉じたままアンジェラさんに答えて団長さんを追う。



 数十分後、王都支部に戻ってくる頃には日が傾いていた。


「訓練しようって時に視界が悪くなるってどういうことですかね」

「知らん、神に聞け」


 ねぇどういうこと?

 心の中でそう言いながら空を仰いでいると、不意に声をかけられた。


 《ケテル》


「…………あ、何?」


 自分の呟いた言葉に頭を傾げる。


「??」


 何で反応したんだ?ケテルって何だ?というか今言ったの誰?声質が聞き取れなかったんだけど。


「どうしました?」

「え、あ、いえ…………」


 急に立ち止まった俺にアンジェラが声をかけてくるが、誤魔化して歩き始める。

 確かに聞こえた気がするけど、気の所為かな?まあいいや。


「……そういえば、グレンさん達は何処に居るんですか?」

「何?まだ戻ってないのか?」

「私は途中で別れたので分かりかねますね」


 もう夜になるってのに、何処行ったんだろ。

 三人で行方を考えている内に団員の一人が慌てた様に向かってきた。


「だ、団長!緊急です!」

「簡単に纏めろ」

「王都の噴水広場に謎の生命体が発生!副団長と御客人二名の計三名が付近に居ます!」

「何ッ!」「ファッ!?」


 謎の生命体!?やだ怖い!ホラー耐性ないんだよ俺!


「カスイ!最初の訓練だ、すぐに準備して広場に来い!」

「へぁっ!?訓練ですと!?」


 そう言うが早いか、団長さんは走って支部から出ていく。


「行きますよカスイさん」

「拒否権なんてねぇよこんにゃろぉ!!」


 運命に文句を言ってやりたい気持ちに駆られながらアンジェラさんと共に団長さんの後を追う。




「夜刀神!ラクサム!大丈夫か!」

「大丈夫です!傷は付いてません!」

「デカブツの方もじゃがな!」


 朧達三人は突如として現れた複数の目を持った巨大生物と相対していた。

 一体何処から湧いて出たのか、何を目的としているのかは分からないが、騒いでいる住民(ガヤ)を逃がすことを優先しなければいけない。主殿ならそうする筈だ。


「龍状態ならすぐに終わるというに…………」

「まだ完治してないんですから駄目ですよ!」

「どちらにせよ出来んわ!」

「言い合ってないで住民を誘導しろ!」


 グレンに言われて逃げ遅れている住民を急がせる。

 その近くには衛兵らしき人間と、武装した人間が居た。


「逃げ遅れているものを救助しろ!」

緊急任務(マスタークエスト)だ!やるぞ野郎共!」

「「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」


 すると武装した人間達はデカブツに向かって武器を向け突撃し、衛兵達は人命救助を開始した。


「冒険者共か、都合が良い、彼奴等に複眼野郎の気を引いてもらってる間に誘導続けるぞ!」

「承知!」「分かりました!」


 そう言い避難を始めると、冒険者達は一斉に巨大生物へ攻撃を始める。


「〰〰〰〰〰!!!!」


 巨大生物は言い表せない高音の奇声を上げ暴れ回る。

 暴れた先にある建築物や地面の出店が破壊され、瓦礫となって飛んでくる。


「きゃっ!」


 そこで小さな悲鳴が聞こえてきた。

 声のする方へ振り返ると、瓦礫に挟まれた女性とそれを助けようとする幼子が居た。


「お母さん!」

「うぅ…………」


 朧は二人の側に駆け寄り瓦礫を持ち上げる。


「小娘!母君を連れてこの場から去れ!」

「う、うん!」

「申し訳ありません…………!」


 親子はラクサムの誘導に沿って避難していく、それを見届けて他に遅れている人は居ないか探す。


「夜刀神!」

「はっ?」


 完治していなかったからかもしれない、人命を優先し過ぎた、デカブツと冒険者達の事に注意を向けていなかった。

 すぐそこに無数の目が自分に向けられている事に気付かない程に。




「―――どっせぇぇぇぇい!!」

「ッ!?」


 朧の目の前に居た謎の物体を両足で蹴り付け吹き飛ばす。


「あ、主殿!?」


「お疲れ朧、お前が人命救助してるなんてな」


 ホント吃驚、龍だったし裏切られたのに人の命を優先するなんて思わなかった。


「それはその、主殿がそうすると思って…………」

「え、何?声小さいんだけど」

「いえ何でも!」

「そ?んじゃあの目だらけモンスター倒しますかね」


 既に冒険者が複数攻撃を仕掛けているが、あまり効果があるようには見えない。

 すると団長さんが俺に向かって声をかける。


「カスイ、お前に奴は倒せるか?」

「不可能では無いです、どれくらい掛かるか分かりませんけど」

「私なら一〇分で倒せる、時間競技(タイムアタック)だ、倒せ」

「無茶振りが過ぎますぜ団長さん」


 ま、やるしかないんですけどね。


「出席番号4番!大神禾翠!行きます!」


 俺はモンスターに向かって地面を蹴り駆けた。

何か短い気がしました。

この作品が「面白い」と思っていただけたら是非広告下の五つ星やブックマーク等で応援していただけますと幸いです。

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