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幾何学模様の転移人  作者: 妬舞禾翠
第一章 トリオン
7/50

反神聖協会

リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。普通に誤字脱字あって抉れた。

「気持ちの良い空気ですなぁ」


 試練が終わり数時間経った昼下がり、朧は施設外で伸びをしていた。

 そこに鎧を身に纏った少女が一人、王国である。


「あ!勝手に部屋から出ないでください!絶対安静ってアンジェラ様も言っていたでしょう!」

「何じゃい、口煩い小娘めが」

「ボロボロだった龍が何を……回復速度が速いとしても、たった数時間で外に出ないでください!」


 王国は朧に注意を促すが朧は頭の後ろで手を組み話を聞き流しながら周囲を見渡す。


「む?そう言えば主殿とアンジェラ殿の姿が見えんが」


 禾翠(主殿)は名を与えて貰ってから、アンジェラは質問をされてから一度も姿を見ていない。

 王国はその問いに対し「あぁ」と口に出す。


「カスイ様とアンジェラ様なら王都へ向かいましたよ、会議があるとかなんとか」

「王都というと……ランドルフか?」

「いえ、ウィルセントと言う名だったかと」

「ふむ?」


 長い年月を経て、王都までもが名を変えてしまったらしい、世も変わり往くもので…………


「……ウィルセント?」


 その名には聞き覚えがあった、ごく最近にも口にしたような…………




「カスイさん、前へ」

「は、はい」


 アンジェラさんに促されて壇上に立つ。

 そして隣に立った青髪の女性が声を出す。


「本日より我々の一員となったカスイだ、仲良くしてやってくれ」


 声が向けられた観客席からは「オオォォォォォォオ!!!」と言った歓声が返ってくる。


「えっと…………?」


 数分前にこの『(反)神聖協会』の施設にやってきたかと思えば、いつの間にか壇上に立たされていた、何を言っているのか分からな以下略)一員って何?瑠蜻菁璃団のメンバーになったの?


「説明求ム」


 様々な色の服を着た男女が椅子に座って料理や酒を飲み食いしているのを尻目に、レイリーさんに声をかける。


「ん?あぁ悪かったね、取り敢えず開始の合図が欲しかったから利用させて貰ったよ」

「それは構いませんけど、一員って?後彼らは誰ですか?」

「そこらへんは後から説明してあげるからさ、私達も飲もうぜ!」

「俺未成年なんですけど?」


 そんな俺の声をスルーして施設の隅の方へ行ってしまう。

 普通ちゃんと説明するだろ……え?するよね?俺がおかしい訳じゃないよね?


「彼女達の居る場所へ向かいましょう、会議はそこでします」

「あ、はい」


 アンジェラさんは眉一つ動かさずレイリーさんの向かった方へ歩いていく、平常運転ですね、だが嫌いじゃない。

 後ろをついていき隅の方へ行くと、明らかに周りとは雰囲気の違う空間を発見した。

 そこには個性で溢れていそうな見知らぬ人が四人が座っていた。


「数日振り~、元気だった?」

「今気分が削がれた、一秒でも早く無様に死ね、このクソ蜻蛉」


 赤髪に赤眼、左目に眼帯を付けた女性がレイリーさんに罵声を浴びせる。隻眼だ、初めて見た。


「まーまー、今日は祝いの席でもあるんだし仲良くしよ?」


 そう言って宥めているのは緑髪に色白で耳が長く尖った小柄の女性。ファンタジー名物のエルフ耳だ、実際エルフって耳長くないらしいけどね。


「君達は本当に……すみません、カスイ殿」

「あ、いえ、お構いなく」


 睨み合う二人に呆れながら俺に謝罪してきたのは茶髪の男性。客人を蔑ろにしないその精神、好感持てるぜ!


「コホン、では会議を始める前に、カスイさんに各々自己紹介をお願いします」


 アンジェラさんが咳払いをして話を進行させる、その声に乗って緑髪の女性が「はーい」と手を挙げ席を立つ。


「私から言うね、私は精霊族のラン・ベルデ、諜報班『翠山柳団(すいさんやなぎだん)』団長だよ、宜しくね」

「宜しくお願いします」


 ほんわかした空気を醸し出しているというのに諜報員(スパイ)なのか、絶対気付かれないだろ。


「遊び人の間違いじゃないのか?」


 自己紹介を聞いた赤髪の女性が鼻で笑いながらランさんを睨む。

 それに対しランさんは変わらぬ表情で席に着く。


「否定はしないけど、カスイくんの前で言わなくてもいいと思うな」

「ふんっ」


 赤髪の女性は腕を組みそっぽを向いた、ていうか遊び人否定しないんすね。


「私は昨日ざっくり言われたから大丈夫だろうけど、遊撃班『瑠蜻菁璃団』団長の人間、レイリー・ラグダットだよ、末永く宜しく」

「人間…………?」

「おいコラ」


 本当に人間なのか疑問を抱いていると睨まれてしまった、だって一人で軍一つ分とか言うんだもん。


「では次は私が、医療班『地射層療団(ちいそうりょうだん)』副団長イラス・ルーキス、人間です、以後宜しく」

「宜しくお願いします……何かと大変そうですね」

「天使殿程ではありませんよ」


 そう言って笑うイラスさんだが、目が笑っていない、苦労してるんだな…………


「…………」

「…………?」


 後は赤髪の彼女だけなのだが、俺を睨むだけで口を開かない。


「グレン、紹介ぐらいはしてください、時間の無駄です」

 アンジェラさんが真顔で赤髪の女性に言う。

 それに「チッ」と舌打ちして淡泊な紹介をした。


「『鐵櫻緋撃団(てつおうひげきだん)』副団長グレン・ダルク、鬼人族だ」

「よ、宜しくお願いします」

「勝手にしろ」

「は、はあ」


 勝手にしろと言われましても、仲良く出来そうにないのですが。

 というかそれぞれ機関の名前適当では?色だったり班の内容だったりと、グレンさんの担当は知らんけど。

 と、そこでふと気が付いた。


「あれ?この国って人間しか居ないんじゃ…………」


 ランさんとグレンさんを見ながら疑問を口に出す。

 王都には人間しか居ないとか言ってた気がするけど。


「ああ、私とグレンちゃんは「グレンちゃん言うな」王都に住んでるわけじゃないからね」

「というと?」

「密入国者ってことだね」

「えぇ…………」


 堂々と言ってしまっていいのだろうか、というか見つかったらただじゃおかんだろうよ。


「では何処から来たんですか?」

「帝都リスキーだよ」


 帝都……聞いたことないな、まあ異世界の地理とか全く知らんのだが。


「ウィルセントと敵対している軍事国家です、兵力は魔族領を除いて一番の国ですね」


 と、アンジェラさんから補足が入る。

 軍事国家か、地球でいうドイツとかロシアとかみたいな感じか。


「その辺りはまた後で聞くとして、さっき言ってた一員って何ですか?」


 施設に来てから図と思っていたことを聞く。

 その問いに返したのはアンジェラさんだった。


「ステラの街の冒険者ギルドでの話を覚えていますか?」

「ギルドで?」


 うーん……あ、そういえばギルマスが何か伝えておくとかなんとか言ってた気がする。


「それが彼女達の事です」

「成程」


 レイリーさん達に俺の事が伝わっていたと。


「一員というのは『神聖協会』に反する機関である『反神聖協会』に属するということです」

「え、何で?」


 思わず素が出てしまった、だって脈略が無さ過ぎるんだもん。


「私が魔物の研究をしているのは知っていますね」

「試練に行かされる前に聞きました」

「その私が『生命の樹(セフィロト)』という機関に属しており、その機関は『反神聖協会』と協力関係にあります」

「はいはい」

「『生命の樹』に属する私にカスイさんは互いに協力し合うと約束しましたね」

「そうで……あ、成程」


 アンジェラさんを手伝う=『生命の樹』に属する=『反神聖協会』に属するという訳だな、理解した。


「他のと違って何某団じゃないんですね」

「私は彼女達とは違いますから」


 納得。


「で、そこで騒いでるのは私達の団員達ってわけ」

「成程」

「それじゃカスイ君も納得したところで、会議と行こうじゃないの」


 レイリーさんが手を合わせて本題に入る。


「はーい」

「はいミドリ」


 ミドリと呼ばれたランさんが席を立つ、ミドリって貴女の事だったんですね、アンジェラさん怒ってましたよ。


「この間王都で勇者召喚をした件だけど、どうも一人行方不明になったらしいんだよね」

「行方不明ですか?」


 ランさんの言葉にイラスさんが反応する。


「うん、国王の考えに反対して城から姿を消したって」

「その行方不明者はどうやって城を出たのですか?幾ら勇者といえど抜け出せるような警備体制だった訳でもないでしょう?」

「倉庫に魔法陣があったって、たぶん転移の魔法陣、倉庫から色々持ち出されてたし魔導書でも読んで描いたんじゃないかな」


 城で暴れ倉庫を荒らし逃げ出した勇者か……性格悪そうだな。

 しかし何処かで聞いた様な……気の所為だな、うん。


「その勇者について何か情報は?」

「城の兵士を一人戦意喪失させて倉庫番の二人を重傷まで追いやったみたい」


 マジかよ、勇者酷いな。


「倉庫番の話では右目が琥珀眼で左目が緋眼の白髪の男だったって」

「琥珀眼に白髪っていうと…………」


 その言葉で四人が一斉に俺に注目する。


「え、俺じゃないですよ?」


 多分。


「……確かに左目は緋眼じゃないしね」

「というより、緋眼とは存在するのですか?」


 あっさり信じてくれた、俺がそんなことする訳ないジャマイカ。


「その、琥珀眼とか緋眼ってなんですか?」


 さっきから言っているのは目の話みたいだが、いまいち理解できていない。


「前提としてだが、全種族に共通して目の色によって得意な属性や技術が変わる、その中でも琥珀眼はどの属性でもなく優れた技術の持たない()()であると知られているんだ」

「そうなんですか?」


 だから昨日落ちこぼれって言われたのか。


「逆に緋眼は武に長け多様多種の武具を扱うことの出来る()()と呼ばれている、だが過去に一度見られたという伝説のようなものだから存在は確かではないとされているんだ」

「他には何があるんですか?」

「属性でいえば火属性の赤眼、水属性の青眼、風属性の翠眼、雷属性の紫眼、技術でいえば剣術の灰眼、弓術の白眼がある」


 目の色で才能が決まるのか、酷い世の中だな。


「緋眼みたいに伝説の目とかあるんですか?」

「あるらしいという噂は聞いたことがある、けどどんなものかは知らない」


 それは残念だな。

 すると、今まで黙っていたグレンさんが口を開いた。


「緋眼は存在する」

「え?」

「……今何と?」


 イラスさんが恐る恐る聞く。


「《峻厳(しゅんげん)》の団長が緋眼だ、何度か見たことがある」

彼奴(あいつ)か…………」


 レイリーさんが苦虫を嚙み潰したような顔をして言った。


「彼女ですか」

「誰ですか?」

「《峻厳(ゲブラー)》、《王国》や私と同様に個体名を持たない者で、『鐵櫻緋撃団』の団長であり常勝無敗の軍人です」


 また名無しか、王国にも名前考えてやらないとな。


「その人が緋眼?」

「団長をその人呼ばわりするな、団長は素晴らしい御方なんだ、天使のお気に入りであれど容赦はしないぞ」

「ご、ごめんなさい…………」

「お気に入り…………」


 アンジェラさんが疑問を抱いていた、俺は気に入られてはいないようです、知ってたけど。

 そこでランさんがグレンさんに団長さんについて聞き出す。


「鐵櫻の団長さんは厳しいイメージしかないけど、どんな人なの?」

「団長は厳しい、だが部下を蔑ろにするような方ではない、だからこそ私は団長に付いていく」


 グレンさんはそれ程に団長さんを慕っているんだな、良い忠誠心だ。

 そこでアンジェラさんから補足が入る。


「彼女は基本格闘術を使った戦闘方法ですが剣、弓、槍、戦斧、鞭、円匙(スコップ)、銃器等、魔道具以外の多様な武具を用いる事が出来ます、緋眼の力かもしれませんが」


 マジかよ、控えめに言ってヤバい。


「彼奴はな……いやでも……うーん…………」


 さっきからレイリーさんが頭を抱えて唸っている。


「おい蜻蛉、団長の事を彼奴彼奴と、捩じ切られたいか?」

「別にアンタの団長を悪く言ってる訳じゃないでしょうが、ただ苦手意識持ってるだけだっての」


 そう言って二人は睨み合う、犬猿之仲って奴かな?


「まーまー、緋眼の件はまた今度話すとして、今は会議でしょ?」

「そうですとも、先程からカスイ殿が困惑していますし」


 その間にランさんとイラスさんが割って入る。


「……前言撤回はしないけど、悪かったね」

「いや、こちらも頭に血が上っていた」


 二人は顔を反らし料理と酒に手を出す、ランさんはほんわか笑顔を、イラスさんは微笑を俺に浮かべていた。


「勇者の行動は現在どのようなものなのですか?」


 アンジェラさんが話を戻す。

 というか話反らしてるの殆ど俺では?申し訳ない。


「騎士団長の指導の元、一人を除いて訓練させてるみたい」

「その一人とは?」

「名前は分からなかったけど、見たことない素材の服を着た子供だったよ、他の勇者よりも立場が上みたいで皆先生って呼んでた」


 子供の先生?地球に飛び級制度なんてまだあったのか、もう平成だというのに。


「あとその先生を含めた男女五人が行方不明になった人の事を相談してた、多分友達か何かじゃないかな?分かったのは大体これくらいかな」

「了解、じゃあ計画は変わらずって事で良い?」

「ああ」

「大丈夫でしょう」


 アンジェラさんを除いた三人が頷く。


「計画って?」

「神聖協会をぶっ壊す」

「へっ?」


 レイリーさんは真顔でそう言った、急に何を言い出しているんだこの人は。


「そういえばそこら辺の説明してなかったね、天使宜しく〜」


 話を振られたアンジェラさんが溜息混じりに話し始める。


「はぁ……カスイさん、この組織名は何ですか?」

「反神聖協会ですよね、確かに神聖協会に反するみたいな名前ですけど」

「神聖協会の説明をしますが、端的に言うと塵芥で( ちりあくた )す」

「はい?」


 説明が長かったので俺の方で簡単に説明していく。

『神聖協会』は表では優秀な修道士の集まった神に仕える組織であると伝えられているが、裏では無実の人を裁き、時には拷問をしていたり、悪魔を召喚していたりと神聖らしからぬ行動をしているらしい。

 その中でもまともな人間は居るらしいが、二桁と満たないそうだ。その内一名はアンジェラさんの知り合いだとか。

『反神聖協会』はその『神聖協会』の悪事を裁き、人々を救う為に活動しているらしい。


「そこで面倒なのが王都なんだよな…………」

「? 何で王都なんですか?」

「神聖協会のバックに国王が居るんだよ」

「え」


 国王公認の悪質組織なの?物凄くミステリー小説。

 国王ってやっぱり悪人なの?良い国王ってラノベでも少数なんだけど。

 レイリーさんの()()という単語にランさんが顔を顰める。


「どうしたんですか?」

「……国王に良い思い出が無いんだよね」

「そうなんですか?」


 国王黒確認定、良い国王は居ないのか、帝都なら居そうだけど。

 そこでアンジェラさんが口を開く。


「国王トルスキア・ウィルセント、過去に龍を撃退し魔王を滅ぼさんとした英雄……それが表の顔です」

「それだけなら良い印象ですけど…………」


 そこで何かに引っかかった、何だ?何か忘れてるような…………

 俺が腕を組み唸っている間にアンジェラさんは国王の話を続ける。


「彼は元々王侯貴族であり、周りからの支持も多かった優秀な人でしたが、その裏の顔は人々を駒のように扱う外道な人物である事です」

「その上仲間を犠牲にして自分だけ助かろうとするクズっぷりだからね」

「私は奴が嫌いだ」

「私もです」


 ランさんの補足に続いてグレンさんとイラスさんが嫌悪を露わにする。

 そこでアンジェラさんが俺に声をかけてくる。


「何か思い出しましたか?」

「え、あ、えっと」


 まだ思い出してないですごめんなさい。

 何だったか、最近聞いた気がするけど。


『『レグライト』の総司令である《トルスキア・ウィルセント》は夜刀神(ヤトノカミ)、つまり儂の元へ来た』

『儂は人間共に嵌められたのだと気付いたのだが、時既に遅し、身体を炎で焼かれ、矢の雨が降り注ぐ戦場を逃げ去ったという訳だ』

『儂を和平交渉の贄として差し出したらしい』


「あ」


 つい昨日、夜刀神こと朧からそんな話を聞いた。

 その首謀者の名はトルスキア・ウィルセント、国王の名と同じだ。


「朧を騙したのも国王って事か…………」

「……それは本当ですか?」


 ポツリと吐いた言葉にアンジェラさんが反応する。


「え、お、朧がそんな事を言ってました、『レグライト』って派閥のリーダーに裏切られたって」

「「ッ!?」」


 その言葉に他の四人も反応を示す。


「レグライトかぁ…………」

「……また奴か」

「あぁ〜……鬱になりそう…………」

「…………」


 それぞれが苦しそうな反応をしていた、イラスさんに至っては無言で頭を抱えていた。


「有名なんですか?」

「過去にあった戦争で武力支持率共に優勢だった派閥です……そこも詳しく彼女から聞いておくべきでしたか」

「お手柔らかにしてあげてください…………」


 にしてもそうか、レグライトって全種族が集まった派閥だったし支持率も高かったのか。

 じゃあ何でトルスキアは朧を裏切ったんだ?人間だけの国も作ったし。

 レイリーさんが俺に質問をぶつける。


「その情報は何処から?」

「夜刀神っていう龍です」

「夜刀神!?生きていたのか…………」


 グレンさんが目を見開いて声を荒げる、語尾は安心した様に聞こえた。


「夜刀神って最強の龍の一角だよね、カスイくん会ったんだ」

「あ、はい、試練に向かった先に居たので戦いました」

「え」


 その言葉でランさんがアンジェラさんを見る。


「? 何でしょうか」

「天使ちゃん……スパルタだったんだね」


 ランさんのアンジェラさんに対する印象が変わった瞬間だった。


「その夜刀神殿はどちらに居られるのですか?」


 イラスさんが食い気味に聞いてきた、龍って珍しいのかな。


「生命の樹に居ますよ」

「本当ですか!?良く従いましたね…………」

「ええ、主従契約交わしましたから」

「は?」「あ?」「え?」「はい?」


 アンジェラさん以外の四人が驚愕の色を浮かべる。


「主従契約!?君はテイマーじゃないのか!?」

「いや、それ以前に龍が契約するとはどういうことですか!?」


 レイリーさんとイラスさんが興奮気味にテーブルから身体を乗り出した。


「え、ちょ、待って、待って」


 それを制しようと両手を前に出すが、収まりそうにない。

 その後ろでアンジェラさん達三人が話を続ける。


「龍を従えるって……本当なの?」

「はい、私としては契約までしてくるとは思いませんでしたが、本人からも“契約した”と聞いていますし、カスイさんの事を“主殿”と呼んでいます、証人も居るので間違いないかと」

「……私は彼奴を侮り過ぎていたみたいだ」


 助け舟が来そうにないので仕方なく説明をする。


「えっと、夜刀神と戦ってたんですけど、向こうは怪我してたみたいで―――」


 説明が終わった頃には二人は俺以上に疲れ切っていた。


「龍より強いって……私の事化け物とか言えないじゃん」

「魔力量を見積もっても十桁は軽く行きますよ…………」


 十桁は言い過ぎだろ、十億も無いって。


「天使ちゃんのお墨付きな事はあるね」

「流石は天使と言ったところか…………」


 アンジェラさんの株価が上がる上がる。


「私の力は微々たる物です、カスイさんが優秀なだけですよ」

「そ、そうですか?」


 俺は頭を掻いて頬を綻ばせる、アンジェラさんからそんな評価を貰っていたのか。

 そこにジト目でランさんから見られる。


「な、何ですか?」

「……今気付いたけど、天使ちゃんが敬称付きで人の事呼ぶのって珍しいよね」

「あ、確かに、何時も二人称三人称か呼び捨てだし」

「もしや……カスイくんは天使ちゃんにとって特別なのでは?」


 ランさんはニヤニヤと、手を口に添えながらアンジェラさんを見る。

 それに対しアンジェラさんは。


「……気の所為です」


 と、腕を組み左目を閉じたまま言った。


「否定はしないんだ」

「…………」


 それっきりアンジェラさんは口を開かなくなってしまったので、知っていることは俺が説明することになった。



「じゃ、これで会議は終わりってことで」


 開始から数時間経ってから会議は終了した。

 黙っているアンジェラさんに声をかけて外に出ようとした所で、グレンさんに声をかけられた。


「カスイ」

「はい、何ですか?」

「天使と一緒でいい、付いてこい」


 そう言われ連れて行かれたのは人気(ひとけ)のない広場、その中心でグレンさんは立ち止まった。


「明日は暇か?」

「明日?……どうでしたっけ」

「特には何もありません」

「らしいです」


 喋ってくれた、ずっと黙ってたらコミュニケーションが取れなかったから良かった。


「ならウチの団に案内しようと思うんだが、どうだ?」

「私は構いません、団長にも会いたいところでしたし」

「では行くということでお願いします」

「団長が居る訳じゃ無いが……了解した、午後にこの広場に来てくれ」


 そう言うとグレンさんは広場から立ち去って行った。

 色々と嫌われていたりしていたのかと思っていたが、団に連れて行ってくれるということはそこまで嫌われてはいないのだろう、そう思いたい。

 案内してくれるって言ってたけど多分緋眼の事がメインだよね、嫌われないようにしなければ。


「ついでですし、今晩の材料でも買って帰りますか」

「了解です」


 俺とアンジェラさんはフードを被って広場から大通りへ出た。




「ただいま〜」

「只今戻りました」


 材料の入った紙袋を両手に抱えて施設に帰ってきた。


「お帰りなさい、カスイ様、アンジェラ様」


 出迎えに王国が来てくれた、そういえば名前考えてないな。


「ただいま、朧はどんな感じ?」

「数時間寝てすぐに抜け出しました、流石は龍と言ったところですね」

「数時間て……早すぎるだろ、悪化しても知らんぞ俺は」

「注意はしたんですけど……聞いてくれるわけないですよね」


 溜息を吐いて項垂れる王国を物ともせず、アンジェラさんは紙袋を抱えて奥の部屋に入って行った。


「挨拶無し……淡泊だなやっぱり」

「アンジェラ様はあれが普通ですから…………」


 王国は「ハハハ……」と乾いた笑え声で言った。


「……そういえば王国は何時からアンジェラさんと一緒に?」


『生命の樹』はアンジェラさんしか居ないと聞いていたが、王国は平然と作業しているので同じ機関の者だとは思っていたが、経緯が不明である。


「カスイ様が出会うよりもっと昔から一緒でしたよ、その頃は今より機械みたいな方でしたけど」

「昔のアンジェラさんって?」

「命令に従うだけの操り人形の様な行動をしてました、カスイ様と出会ってからは人の心が芽生えた様になりましたけどね」

「俺と?」


 はて、俺が会ったのはつい先日だが、その時は普通に人間らしさがあったと思うぞ。

 つまり先日の話ではない?昔にアンジェラさんと会ったことがあるのだろうか、異世界だからあり得ないと思うが。


「カスイさん、材料を持ってきてください」

「あ、はい、今行きます」


 アンジェラさんに呼ばれたので話を切って部屋に向かう。



 ロビー隣のダイニングに料理を並べていると。


「な、何ですかこれは」

「ん?夕餉(ゆうげ)


 朧が俺の作った料理を前に声を上げる。


「主殿は料理を作れたのですか?」

「おうとも、俺の料理は師匠直伝プラス我流が埋め込まれた最高食品だぞ」

「美味しそうですね!」


 王国と朧が料理を見て目を輝かせる。


「あれ?アンジェラさんは?」


 周りを見るがアンジェラさんの姿が見えない。


「アンジェラ様なら収容室へ向かいましたよ」

「収容室?」


 そういえば魔物の研究してるって言ってたな、捕まえた魔物に料理でも持っていってるのだろうか。


「先に食べて良いぞ」

「「いただきます!」」


 朧達の気を料理に向けている間にアンジェラさんを探す。


「こっちかな?」


 蛍光灯の弱い光で照らされる廊下を歩く。

 靴で鳴る金属音が反響するだけで他の雑音は聞こえない。


『―――は…………で……わ』

「ん?」


 遠くから反響した声が聞こえてきた、アンジェラさんかな?


「アンジェラさ…………」


 そこで俺は声を止めた。


「見つけたのは良いけれど、記憶を戻す方法が解らなければ意味が無いのですから、私にはどうしようもないです」

『…………』


 アンジェラさんは『No.B4』と書かれた部屋の中、十字架に縛られた石像に語りかけていた。


 今なら分かる、石像から不明瞭なオーラが溢れ出ている、何だあれは?


「やはり……理解(ビナー)の力が必要でしょうね、計画を遂行させなければ」

『…………』


 計画とは反神聖協会のことか?ビナーとは誰だろう、アンジェラさんは何をしようとしているだろうか。

 そういえば未だにアンジェラさんの目的を知らない、その目的の事なのだろうか?


「……辛さとはこの事を言うのでしょうか、人間というのは面倒な感情を持つのですね、カイの気持ちが分かった気がします」

『…………』


 まるで自分が人間じゃないかの様な言い回しをするな、昔は機械みたいだったらしいが。

 カイとは誰だ?アンジェラさんの知り合いか?

 そこで石像からオーラが消えた、そろそろ戻った方が良いか。

 俺はアンジェラさんに気付かれないように部屋を後にした。


―――…


「…………」


 今部屋の前に誰かの気配がした、三人の中の誰かだろう。

 王国(マルクト)は私の事は気にしない、朧は料理に気を惹くだろう、消去法でカスイさんか。

 聞かれて困る事は無いから気にすることはない、何か勘繰られ勘違いされているかもしれないが。


「はぁ…………」


 調子が出ない、気分も優れない、人間の身体は効率が悪い。


「……彼から貰ったモノに不満を持つのはいけませんね」


 皆の元へ向かおう、今後のことは後で考えればいい。



「御馳走様でした、美味しかったです」

「私は何時もは動物を丸呑みしてましたからな、調理された料理というのは新鮮で大変美味でした」

「そりゃ良かった」


 ダイニングに向かうと、朧と王国は食事を終え、カスイさんはまだ料理を食べている最中だった。


「食器はそこ置いといてくれ、後で洗うから」

「承知、では儂は部屋に戻らせて頂きます」

「私も少し用事があるので失礼します」

「ん」


 朧達がダイニングを出て、私とカスイさんの二人きりになってしまった。

 私も席につき料理に手を付ける。


「…………」

「…………」


 その間、互いに会話は無い。

 話す話題が無いというのもあるのかもしれないが、話したところでどうなる訳でもない。


「アンジェラさん」


 その静寂をカスイさんが壊した。


「何でしょう」

「目的、果たしましょうね」

「……そうですね」


 やはり聞いていたのか、やる気を持ってくれた事は良い事だろう。

 しかしあの二言三言で目的の事だと分かるとは思わなかった、核心まで気付いているという訳ではなさそうだが。

 どうであれ目的の要となるのは彼だ。


「頑張って付いてきてください」

「はい」


 そう言って微笑む彼を見て私は決意する。

 何があろうと放さないようにしなければ。

誰も期待してなかったであろう事は伝わりますが謝罪申し上げます、誠に申し訳ありませんでした。


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