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幾何学模様の転移人  作者: 妬舞禾翠
第一章 トリオン
6/50

護りに長けた試練の間

リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。プロットは出来てるけど書く気力がぬい。

「せいッ!」

「グギャア!?」


 剣で斬りつけられ、ゴブリン達は抵抗も虚しくどんどんと斬り殺されていく。

 謎の空間に放り出されて数時間、道の通りに進んでいる。


「何処なんだ此処……いきなり過ぎて訳分からん、剣も離れんし」


 投げようが魔物に飲み込まれようが、新品同様の状態で手に戻ってくる、まるで某王国心の鍵剣の様だ。

 使い勝手は良いのでそのまま使っているが、素手が使えないのは如何せん面倒だ。


「出口探すしか無いか…………」


 今のところ現れる魔物はゴブリンだけ、強い奴が出なければいいんだが。

 それにしても此処は洞窟みたいにジメジメしてるな、鍾乳洞?


「よッ!」

「ギャアァ!」


 腹は減らず喉も乾かない、異常な空間だな。

 と、歩いていると広い空間に出た。

 さっきまでとは雰囲気が変わり、空気も心地良いものだ。


「まずは第一関門突破、おめでとうございます!」

「ッ!?」


 瞬きをした瞬間、目の前に少女が立っていた。

 身長は中学生程度、小豆色の髪に毛先がレモン色、瞳は右目がオリーブ色で左目が黒色のオッドアイ、淡く虹色に光を反射している白銀の鎧を身に纏っている。

 いつの間に?気配は全く感じなかったぞ?


「……誰だ?」

「私は《王国》、個体名はありません」


 《王国》?アンジェラさんの《天使》みたいな奴か。


「そうですね……《王冠》を護る剣とでも言いましょうか」

「急に現れて何だ、王冠?訳が分からんぞ」


 少女は微笑みながら俺に手を向ける。

 その瞬間、俺の持っていた剣が少女の手に渡る。


「おぉっ、やっと取れた」

「む、その言い方は素直に喜べませんね」

「うるへー、こちとら剣は苦手なんだよ」

「その割には型がちゃんとしてましたけど」


 見られてたのか、だが()()を型として見えるとは、中々に見る目があるな。


()()()()では見たことのない型でしたけど、流派はどのようなものなんですか?」

「素性も分からんお嬢さんに言うほど俺は安くないぜ」

「私は子供じゃありません!これでも立派なレディなんですから!」


 腰に手を当てて頬を膨らませる、その反応が子供なんだがな…………


「…………」

「……何処見てるんですか」


 身長とは裏腹に、発育が宜しいようで。


「いや、子供ってのは撤回しよう」

「嬉しくないんですが?」


 でしょうね。


「で?俺はさっさと戻りたいんだが、何をすればいいんだ?」

「そうですね、第二関門に移りましょうか」

「ッ!?」


 瞬間にして俺の目の前に現れ、剣を振り下ろす。


「風巻ィ!」

「ッ!」


 すぐさま大量の魔力を変換して足元に放ち距離を取る、上手くいって良かった。

 この王国とやら、本気じゃないな。


「アンタを倒せばいいってのか?」

「厳密には違いますが……私を倒しても突破は出来ますね」

「なら遠慮なくッ!」


 拳を握り直し、王国に向かって駆ける。


『―――《加速》を行使します』


 最初より多めの魔力を変換して《加速》を発動し速度を高める、不意を突くことも王国の攻撃を避けることも確率が上がるだろう。

 中学生程度の身体であの剣を振り回すような奴だ、身体能力も馬鹿にならないだろう。


「流星ッ( りゅうせい )!」

最後の剣(サンダルフォン)ッ!」


 弓を引く様に拳を引き、勢いに任せて拳を突き出す。

 王国はそれに反応し剣で身を守り、拳と刃が凄まじい音を立ててぶつかり合う。

 剣で守られた隙に背後に回り、反撃を繰り出す。


双葉葵(ふたばあおい)!」

「くっ!」


 地面に手を付き両足で蹴り出すがそれも守られる、反応速度がヤバイな。


「貴方の脚どうなってるんですかッ!」

「企業秘密だッ!」


 拳と脚で剣に立ち向かう、正直勝てる気がしない。

 王国から攻撃は貰うが避けられない程ではない、寧ろこちらの攻撃が一撃も通らない。

 言い表すなら『()()』だ。

 勝ち筋が読めない、現実的じゃない、諦めよ。


「散ッ!」

「……って逃げるんですか!?」

「逃げではない! 戦略的撤退である!」


 王国の隣を通り過ぎ奥へ向かう。

 《加速》を使っているからか、すぐに王国の姿が見えないほどの距離まで逃げ切る事が出来た。


「倒さなくても帰れるみたいなこと言ってたからな……別の方法を探したほうが良いか」


 だがどうやつて探す?こんな洞窟にヒントがあるようには思えないが。

 と、俺の思考を止める場所に来た。


「……綺麗だな」


 王国と闘っていた場所より広く、天井に穴が空き空が見える空間。

 空には星空に神秘的で美しい月が浮かんでいた。


『そこに居るのは誰だ?』

「ッ!」


 何処からともなくくぐもった声が聞こえてきた。

 声の主を探すがそれらしき人物は見当たらない。


『ふははは……何処に居るか分からない様だな』

「くっ…………」


 マジで分からない、こうなったら…………


「敵か味方かだけでいいので教えて下さいッ!」


 日本式土下座(ジャパニーズドゲザ)をするしかないッ!


『……阿呆か貴様は』

「阿呆ではない、莫迦と書いて天才と読む男だ」


 あれ?何か既視感を感じるぞ?デジャヴュ?


『此処は儂の棲家だ、許可無くして入り込むとは何事か』

「あ、いえ、此処が家だったとはつゆ知らず、申し訳ありません、すぐに立ち去りますね…………」


 早口に言葉を並べ、その場を去ろうと腰を上げると。


『貴様……『流れ人』か』

「なっ…………!」


 そこには、碧色紅眼の龍が居た。

 蛇の様に長い鱗の付いた身体に鋭い鉤爪の付いた腕、頭には黒色の角が生えていた。

 形的にはワイバーンが当てはまると思われる。


「……まさか龍とは思わなかった」

『儂も貴様が異世界の者とは思わなかったがな』


 龍から距離を取り会話を続ける。


「一応名乗っておくか、俺は大神禾翠、地球の人間だ」

『地球……ならば日の本の人間か?』

「ん、よく分かったな」

『儂の名を知っているやもしれぬ、儂の名は夜刀神(ヤトノカミ)だ』


 夜刀神……って確か風土記(ふどき)だったかに載ってる龍だった気が……あれって実在するの?結構前の時代だからよく分からないんだよな、浪漫(ロマン)あって良い気はするが。現実的では無いのでシャットアウト。


「素通りを許してくれる……事は無いよな、敵対してるし」

『当然だ』


 グシャァッ!


 ―――…


「今頃最終関門でしょうか」


 カスイさんが王国の試練へ向かって数時間、私は施設内の見回りをしていた。

 説明をすると言っておきながら説明せず、勝手に試練に向かわせてしまったが、彼は怒っていないだろうか。


「昔の彼は怒りっぽい子でしたが……いえ、彼とは違いますね」


 ()()を見回り終え、()()に移動する。

 担当が居ないと全て自分が管理しなければいけない、正直効率が悪い。

 早々に他の()()を探し出さなければ。


エゴ(EGO)は皆寝ていますか……昔から彼の言う事は聞いていましたね」


 硝子防壁の奥に居る『モノ』を見て呟く。

 彼に嫌われてしまえば、この子達に問答無用で殺されるに違いない。

 存在しているだけで惹き付け、憎まれ、妬まれる彼、支える事が出来る人が存在するのだろうか。


カイ(Χ)…………」


 ……この施設に居ると独り言が多くなる、それだけ影響が強いということだろうか。

 早く見回りを終わらせて出迎えの準備をしよう、間違いを起こすわけにはいかない。


「今度は放さない……放すものですか」


 ―――…


「……あっぶね」


 背後に碧色の靄が出現し、そこから龍の尻尾と思われる鱗が俺の背中を突き刺そうとしていた。

 既の所で締め掴み貫通は免れた、手からの出血が酷いが。


『ふむ、偶然でこの地に居る訳ではない様だ』

「俺としちゃ急に転移して困ってるとこなんだが」


 尻尾を放し全方位に警戒をしたまま構えを取る。


『今宵は久々に楽しめそうだ』

「迷惑極まりない」


 地面を蹴り、夜刀神に向けて拳を放つ。


「流星ッ!」

『墳ッ!』


 夜刀神は鉤爪を拳に当て俺の拳を弾き、尻尾で身体を叩き付けようと動く。

 それをしゃがんで避け、蹴りと手刀で鱗を削ぐ。


『ちょこまかと、鬱陶しい奴だ』

「死にたくないんでね!」


 攻撃を避けるのは良いが、王国と同じく防御力に長けている、硬い、痛い、面倒くさい。

 というか何で敵対してるんだろ、人間に何か恨みでもあるのかな?


「オラァッ!」

『…………ッ』


 攻撃を躱し反撃を繰り返し、相手の隙を伺う。


『グッ…………』


 夜刀神が頭を押さえ、身体を縮める。

 これを好機と側に駆け寄り手を突き出す。


「業火!」

『ッ!』


 地面に魔力を通し、その魔力を変換させ火柱を立て鱗を燃やす。

 しかし少し焦げ目が付いたくらいで殆ど効果無……おや?


『…………』

「よっ…………?」


 夜刀神の動きが緩くなった、尻尾も鉤爪も余裕で避けられるほどに。

 何故かは分からないが好機、焦げ目とはいえ鱗が脆くなっているなら攻撃は通りやすいだろう。


「牙一角ッ!」

『ガッ…………!?』


 突き出した人差し指が鱗を貫通し肉を抉る、血肉の感触が指に伝わり血が滴る。

 指を放し夜刀神から距離を取るが、夜刀神は動こうとしない。


『グッ……ガハァ…………』

「…………?」


 息を切らしている様に見える、傷口を手で押さえ、身体は俺から距離を取っている。


『フゥ―――ッ…………』

「……大丈夫か?刺した俺が言える事では無いが」

『ハハハ……儂がこの程度で倒れるとでも思っているのか?』

「悪いが今にも倒れそうだぞ」


 現に夜刀神は動こうとせず俺の動きを追っている、そこまで強く刺したつもりは無いんだが。いや刺してる時点で酷いかもしれないけどね?


『む……過去の傷が癒えて無いのかもしれぬ、儂も衰えたものだ』

「過去?……って万全じゃないのに俺と戦ってたのかよ、お前の方が阿呆なんじゃねぇの?」

『阿呆ではない、戦を愛し武を得意とする者だ』

「圧倒的既視感……じっとしてろ」


 俺は警戒を解き、懐から一本の瓶とハンカチを取り出し夜刀神に近付く。


『……? 何をするつもりだ?』

「その傷治すの、俺も知性のある奴殺すのって結構抵抗あるんだよね」


 瓶の中に入っている液体をハンカチに染み込ませ、撫でる様に傷口に当てる。

 すると傷口は段々と閉じていき、終いには完全に修復された。


『それは…………』

「ああこれ?今朝準備してたらズボンのポケットに入ってたんだよね、ラベルにポーションって書いてたから回復薬かなんかだと思ってたんだけど、結構効果あるのね」

『ポーション!?国にも四桁に満たない高級品だぞ!?』

「え、マジ?」


 ポーションって消耗品じゃないの?後十本くらいあるんだけど。

 ゲームとかだと薬草の次辺りのランクの回復アイテムなんだけど、この世界じゃ高級品なのか。


「まあいいや、人……龍助けに使ってるだけだし許されるよね、他怪我してるところは?」

『無い……貴様は何者なんだ?』

「ただの人間だけど?地球に住んでた高校二年生っと、一応包帯巻いとくぞ」


 これもポケットに入ってた、何これ四次元ポケット?万能すぎるんだが。と思い他にも何かないか探したが、これといってめぼしい物は無かった。


『…………』

「聞いてもいいか?」

『……何だ』

「過去の傷って言ってたけど、昔何か遭ったのか?」


 俺が慢心していたのもあるかもしれないが、《業火》を使っていなかったら隙も突けずに逃げ回っているだけだったと思う。

 だが《業火》を使ったと同時に夜刀神の様子が変わっていた、火に何か悪い思い出でもあるのだろうか。


『……まあ、儂の負けの様なものか、話してやろう』


 夜刀神は身体を地面に寝そべらせ、語り始めた。



 あれはこの島に争いが絶えなかった頃、幾つもの派閥が国中に戦火を灯らせていた。


 特筆して優勢だった『レグライト』と呼ばれる四種族が集まった派閥は、戦争を終わらせようと和平交渉を行っていた。

『レグライト』の主力達は、それぞれ別の派閥の元へ向かい交渉をしていた、しかし色良い返事が帰ってくることはなく、単独である事をいい事に、殺してしまおうと軍を連れてくるので已む無しに軍を壊滅させ、それぞれ収穫も無く元の場所へ帰っていった。


「……なぁ、ただ戦争してる話を聞いてるだけなんだが」

『これから儂の話だ、黙って聞いて居れ』


 主力達が交渉をしている中、『レグライト』の総司令である《トルスキア・ウィルセント》は夜刀神、つまり儂の元へ来た。

 そして彼はこう言った。

『戦争を終わらせる為、戦場に赴き人々を止めてくれないか、やってくれるならそれ相応の報酬は払う』と。

 何を言っているのかと、儂は話を振りトルスキアを棲家から追い出した。


「なんか胡散臭くないか?」

『その時の儂は早く終わらせたいが為に気に留めておらんかったのだ』


 しかし諦め悪く、トルスキアは一月に渡って儂を説得しようと何度もやってきた。

 遂に折れた儂は一手だけ手助けしてやろうと交渉に乗ってやった、報酬は儂の邪魔をしないという事で手を打った。

 その数日後、トルスキアからの使者を名乗る男が複数の兵を連れて戦場へ案内しにやってきた。

 そして戦場に来たのだが。


『そこには争いもせず、武装した人間が儂を待ち構えておったのだ』

「は?」

『そこで儂は人間共に嵌められたのだと気付いたのだが、時既に遅し、身体を炎で焼かれ、矢の雨が降り注ぐ戦場を逃げ去ったという訳だ』

「いや待て待て待て、は?争ってたんじゃないのかよ?」

『争っておったのは確かだ、だが儂を和平交渉の贄として差し出したらしい』

「なんだそれ……そのトルスキアって奴が嵌めたのか?」

『恐らくな、他の主力の者達はあの場には居らんかった、儂の事は知らされていなかったのであろう』


 全部トルスキアの独断で……それで怪我したってことか、《業火》で反応が鈍くなったのもその時のフラッシュバックってところか?


「お前龍だろ?傷の治りとか早くないのか?」

『人間共の使った矢に『魔毒』が仕込まれておった、魔力の循環を遅らせる毒故に、回復するのにも相当の月日が必要だったのだ』


 そんな事があれば人間くらい恨むよな……何か苛ついてきたぞ。


『まあ儂が棲家に逃げてからは追手なぞも来ず、悠々自適な暮らしをしておったがな』


 夜刀神はふんすっと鼻息を吹き身体を丸める。

 ……裏切りか。



『何でお前だけ生きてんだよ!』

『救うって言った癖に!嘘吐き!』

『この裏切り者が!』



「……お前はさ、此処に居て幸せなのか?」

『…………』


 無意識に言葉が漏れていた。

 何故そんな事を聞いたのか、何を思ってこんな事を考えたのかは分からない。


「悪い、やっぱ何でも『幸せではないな』


 質問を撤回しようとした声に被せて夜刀神は言う。


『儂は昔から独りだった、静かに暮らせればそれで良いと思っていた……だが、いざ独りになってみれば寂しいものだな』

「それは……そう、だろうな」


 独りで生きていける生物など存在するのだろうか、少なくとも俺は生きていけない。

 コイツ()、孤独を知っているということだ。


『これで儂の話は終わりだ、煮るなり焼くなり好きにしろ』


 夜刀神は仰向けになり目を閉じる。

 俺はその隣で月を見上げてその場に座った。


「どうこうしようとは思ってないよ、別にお前を殺しに来たわけじゃないし」

『何?ならばどうするというのだ?』

「自由にしてくれ、俺はさっさとこの洞窟から出る、まあ出方が分からないんだけどね」


 そのまま仰向けに寝そべり、息を吐く。


『……欲が無いのだな、儂という龍を前に自由にしろとは』

「別にこれといって困ってないからな、いや洞窟から出たいから困ってはいるかもしれんが」

『…………』


 夜刀神は考えるように空を仰ぎ、身体を起こして俺と面を向かわせた。


『時にオオガミよ』

「なんぞや」

『自由、というのは何をしても文句は言わぬと言うことか?』

「まあ、そやな」


 ならばと頭を俺の目の前に持ってきて言った。


『儂と契約してくれ』

「はぇ?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 契約?何の?連帯保証人?


「契約って、『魔物使い(テイマー)』がするような?」

『なんだ、知っていたのか、ならば話は早い』


 そう言うと夜刀神は頭を近付けてきて「待て待て待てい」


『なんだ?』

「お前俺の天職何か分かってるのか?」


 確かに契約出来るが契約出来るのはテイマー系天職だけで『天職など関係あるまい?』

「え?」


 関係無い?


『契約というのは誰にでも覚えることの出来るスキルだ、奴隷商が奴隷を連れているのも、スキルの付いた魔道具によって強制的に契約されているからだ』

「えっと…………?」

『テイマー系統の天職が持っている《繋結》はテイマー系統の天職のみに付与される固有能力(ユニークスキル)だが、《同意契約》は指南書を読めば誰でも使えるということだ』

「成程」


 つまりテイマー系天職ってのは契約に特化した天職って事なのか。


『だから貴様が『格闘家』だろうと『魔闘家』だろうと契約は出来る』

「へー……あ、一応言っておくけど俺『管理者』(アドミニストレータ)ね」

『ほう、最上級職か、ならば先程の戦闘にも納得出来る』


 さっきのっつったら尻尾掴んだり殴ったり業火出したりの事か?大体俺の努力なんだが、まあいいか。


「まあ、じゃあ契約するか」

『うむ』


 こちらとしては能力が加算されるので嬉しいが、夜刀神は俺と契約してどうするというのだろうか。


『どれ、魔力を送ってやろう、儂に触れるがいい』

「おう」


 夜刀神に催促され頭に手を触れると、指先から魔力が流れ込んでくるのを感じる。

 それに返すように自分の魔力を送っていく。


『この魔力量は…………』

「どうした?」

『……いや』


 魔力が送れなくなってきた、そろそろ契約が完了する頃合いだ。

 と、思っていたら目の前が白く光り輝き、反射的に目を閉じた。


「うおっ!」


 鱗の感触と光が消え、ゆっくりと目を開けると。


「―――え?」


 碧色の月があしらわれた着物に紺碧の袴を着た女性が跪いていた。

 髪は同じく碧色のハーフアップに毛先が黒く、瞳は紅色に染まっていた。

 女性は面を下げ、敬語で喋り出した。


「この度は無礼な所業に誠に申し訳なく存じます」

「……いや、気にしてない、よ?」

「寛大な御心遣い、痛み入ります」


 夜刀神……だよな?あれ?女だったのか?一人称儂だったからてっきり男かと。いや、これ言ったら失礼だよな、胸の内に留めておこう。


「取り敢えず立て、早いとこ帰りたいからな」


 しかし夜刀神から返事は無い。


「? どうしたんだ?」


 肩を軽く叩くと、夜刀神はその場で倒れてしまった。


「え!?おい!大丈夫か!?」


 身体を揺らすが起きる気配は無い、意識を失っている様だ。


「あ!やっと見つけ……え?」

「ッ!」


 背後から声が聞こえ、振り返るとそこには王国が居た。

 王国は倒れた夜刀神とそれを抱える俺を見て暫く呆然としていたが、すぐに我に返り近寄ってきた。


「ど、どうしたんですか!?というより彼女は…………?」

「後で説明する!取り敢えず此処から出してくれ!」

「わ、分かりました」


 夜刀神を背負い、王国に案内されるままに洞窟内を走る。

 その時足に触れると、分かり易い程傷跡が残っていた。


「何が『無い』だよッ…………!」


 暫く走り続け、遠くに炎の光が見えた。


「出口です!」

「おう!」


 俺は全速力で出口まで駆け抜けた。






「―――ん…………」


 目を開けると、白い天井が見えた。

 見たことのない素材で出来ている、石材だろうか。

 手を前に突き出すと、ちゃんと()()の腕が見える。


「……そうか、契約したんだった」


 異世界の地球からやってきた人間、この世界の人間などとは比べ物にならない魔力を持っていた。

 全盛期では無かったにしろ、自分だけの力で勝つことは無理だっただろう。


「……ッ!」


 被さっていた布を勢いよく剥ぎ取り辺りを見回す。

 窓の無い全面白の個室に寝床と思しき台の上に乗っていた。

 側には鉄製の丸い椅子に座った大神禾翠……我が主殿が( あるじどの )腕を組みながら寝ていた。

 彼の右手には白い布……包帯が巻かれていた。


「…………あ」


 自身をよく見てみると、緩く着せられた着物の中に、治療を施したと思われる跡が幾つか見つかった。

 主殿が治してくれたのだろうか、もしやずっと此処で看病していたのか?


「今は何時だ…………?」

「朝の八時です」

「!」


 いつの間にか、主殿と同じローブを着た女性が部屋の中に居た。


「……貴女は?」

「申し遅れました、私はアンジェラと言うものです」


 淡々とした口調で自己紹介された、いまいち感情が掴めない。


「アンジェラ殿……此処は一体何処なのです?」

「此処は我々の使用している施設です、貴女は複数箇所に傷を負っていたので治療して寝かせておきました」

「そう、ですか」


 倒れたのは恐らく残りの傷が人間の身体に対応しなかったからだろう、嘘は吐くべきじゃないということか。


「驚きましたよ、帰ってきたと思えば怪我人を背負って来るものですから」

「それは申し訳ない、何分取っ組み合っていたもので」

「それについては言及しません、ですが幾つか聞かせてください」


 そう言うとアンジェラは先刻(さっき)までとは違う面持ちで口を開いた。


「貴女が夜刀神というのは本当ですか?」

「……そうですが」

「成程……ではその身体は一体?」


 それから体調や龍だった頃の事を聞かれ、質問攻めが終わるとアンジェラは部屋を出ていってしまった。

 あれが普通の反応なのだろうか、興味深そうではあったが龍に対してでは無いように見えた。

 それに分かり難かったが少々不機嫌にも思えた。


「ん……くぁ…………お?」


 そんな事を考えていると、主殿が目を覚ました。


「起きたのか!良かったー…………」


 心底嬉しそうに胸を撫で下ろしている。


「ったく、傷が残ってるなら早く言えよな!そのせいで倒れたんだろ?」

「……申し訳ありませぬ」

「今回は俺の事信じられなかったとか色々問題あったからだろうけど、次からはちゃんと報告してくれよ?」


 その言葉にピクリと反応する。


「次…………?」

「え?一緒に来てくれるんじゃないの?」


 今度は主殿がキョトンとしてしまった。


「い、いえ、私としましては御用の際に召し出して頂ければと思っていたのですが…………」

「何それ面倒くさい……別に一緒に居ても問題無いんだろ?」

「それはそうですが…………」


 対等以上の力を持っている人間も初めてだったが、こうも好意的な対応をしてくれる人間も初めてだ。

 感じたことのない感情が渦巻いている。


「というか、何で敬語?確かに契約はしたけど、口調とか変えなくてもいいよ?」

「そういう訳には、示しが付きませぬ」

「別に良いんだが……じゃあ一人称とか俺以外に対しては普通って事で」

「良いのですか?」


 そう聞くと、主殿は当然と言った具合に答えた。


「何だ、お前らしく無いというか、アレよアレ、個性は大事だろ?」

「……ふふっ」

「ぐ、何笑ってんだよ」


 語彙力の無い返答に思わず笑みが溢れてしまった。

 会った時の反応もそうだが、やはり彼は面白い。


「いえ……それでは儂はいつも通りすれば宜しいのですね?」

「おう、出来れば敬語もやめてほしいけどな」

「了解致しました」


 そう言って寝床に身体を預ける。

 治療されているとはいえ完全に治っている訳ではないからな、身体を休めようと目を閉じたところで。


「朧」( おぼろ )


 主殿の口からそう聞こえた。


「月の隣に龍と書いて朧、月が如く美しい龍であるお前に相応しい名前とは思わないか?」


 主殿を見ると、濁った目をしているものの、屈託のない笑顔で私を見ていた。


「……ありがとう、ございます」

「ゆっくり休めよ、朧」


 その言葉を聞いて、意識を閉じた。

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