番外・事の顛末
リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。
「全員止めッ!休息を十分取るように!」
ハイッ!という全員の声が聞こえる。
「ふぅ…………」
俺は剣の素振りを止め、その場に座り込み手で自分の顔を扇ぐ。
俺は織田信託、高校二年生のオタクだ。
何故そんな俺が剣の素振りをしていたのか、それは数日前に遡る―――
―――2010年8月31日、夏休み明けの始業式の日。
俺は教室で一人の友人と会話していた。
「学校始まった……怠、帰って良いよね…………」
この機嫌悪そうに帰宅発言をしているのは俺のオタク仲間であり親友の大神禾翠、白髪に琥珀眼、なんとも厨二心を擽る奴だ。
「ふっ、だらしないな我が同士よ、そのような体たらくでは神聖なる学術施設を乗り越えることなど不可能だぞ」
そう眼鏡を押し上げながら言っているのは俺、織田信託だ、オタク文化に染まり一人称や口調が独特になってしまったが、禾翠は気にせず会話している。
「わーってるよ、ただ面倒なだけだ」
「ならば闘気を燃やせ、さすれば我らが頂点に立つことも容易いであろう」
「へいへい……一応俺は学年主席なんだがな」
禾翠は頭が良い、それだけでなく運動神経も良い、所謂文武両道タイプというやつだ。
しかし禾翠は人気者というわけではない、寧ろ嫌う者が多いだろう。
学年主席で嫌われ者というのは不可解なものだが、頭が良く調子に乗っている輩はラノベなどで読んだことがあるためそういう類だと初めは思っていた。
だが禾翠は調子に乗ることは無く、分からない箇所は教えてくれる。
そのような人が何故嫌われているのかは分からないが、他人に対して関心をあまり持っていない様で、本人も然程気にしていないらしいので俺も気にしないことにした。
「いや〜学年でもトップ3のイケメンと友達とか幸運だわ、お前目当ての女が寄ってくる寄ってくる」
嫌味混じりに溜息を吐き、本当に面倒そうに目を濁らせていた。
トップ3のイケメンとは恐らく俺の事だろう、だがオタクである自分としてはそう思わない。
「女子に目を合わせれば顔を背けられ、落とし物を届ければ奪う様に取り去っていく……そんな我がイケメンなどと、そのような訳あるまい?」
「いやそれ女子が恥ずかしがってるだけだからね?」
バんなそカな、なら会話くらいしてくれても良いじゃないか。
「我は貴公の方が女受けが良いと思うが」
「馬鹿かお前、俺が何時んな事したよ」
禾翠は印象より面倒見が良い、手先も器用で料理や裁縫なんかも出来るハイスペックボーイだ、これだけでも十分女受けが良いと思うが。
朝から思っていたが、今日は一段と不機嫌だな。
「俺の事よりお前のことよ、誰か仲良くなったか?」
「我に話し掛けてくれるのは極僅かよ」
「じゃあ碇か、今んとこ普通に接してる一般人は」
碇優香、誰とも分け隔てなく接してくれる聖女の様な女性、俺達と同じクラスだ。
因みにノブというのは俺の事だ。
「やっぱ貴方の運命の人は違いますねぇ、デュフフ」
「なっ!ち、違わい!だ、誰が碇さんなんか!」
「口調が戻っていますわよ、オホホホ」
禾翠は要らない節介をちょくちょく挟んでくる、本人曰く「直ぐ側で見る青春ってめっちゃ幸せになれるんだよね☆」と、それが友達というものなのだろうか。
正直に言えば碇さんは好きだが、俺みたいな人間が寄って良い相手では無いと思う。
「自分の気持ちに正直になったほうがいいぜ?」
「う……だ、だがな」
「競争率高いから三年上がる頃には告白の一つや二つしてもいいんでねぇの」
禾翠は感情の読めない顔で俺に促す、それが出来れば苦労はしない。
俺は息を整え話を変える。
「ンンッ、そういえば同士よ、その腕はどうしたのだ?」
禾翠の腕を見ると、ブレザーに赤黒いシミが付いていた。
「あ?ちょっと鼻血が出てさ、ブレザーでそのまま拭いたら汚れが取れなくなってよ」
「阿呆か貴公は」
「失敬だな、俺は馬鹿と書いて天才と読む人間だ」
会話中に右目だけを閉じていた、これは禾翠が話を誤魔化すときにする癖の様なものだ。
話に触れてほしくないならそれを尊重するまで、俺はそこで話を切った。
「やっほー、織田君、禾翠君、今日もカップリング捗ってる?」
話題を考えていると、金髪ハーフアップの女生徒が俺達の元に来た。
「俺は今ノブと碇の王道純愛を建設するべく奮闘しているよ」
「止めんかっ!」
彼女はユーリシス・サンクリオット、自称『ユリさん』、何処の国かは忘れたがいいとこのお嬢様、貴族の家系である。
しかし、貴族の娘というのが気に食わないのか、お家柄の話をすると気分を悪くする。
「おはようユーリ、今日も腐ってるな」
「ふふん、ユリさんは何時でも何処でもオタク文化を忘れないんだよ!」
「サンクリオット女史はもう少し女ということを自覚して貰いたいものだ」
ユリさんは俺達と同じくオタクであり、ゲームやアニメは勿論、18禁方面にも詳しい。禾翠に対してだけマゾの素質がある。
「何よ〜私が女じゃないみたいな言い方して〜」
「いやお前は変態だろ、悪い意味で」
「不敬過ぎない!?仮に変態だとしても変態と言う名の淑女よ!」
しかし変態は否定しない、自覚があるのか。
「そういうところが女らしくないと我は言っておるのだ」
「は~い」
全く、この三人の中に常識人が一人も居ないのが悲しい現実だな。
「俺は寝る、移動になったら起こしてくれ」
そう言って禾翠は机に突っ伏してしまった、機嫌が悪かったのは寝不足だったからだろうか?
「私が来てすぐに寝るなんて……ハッ!これはまさか放置プ「言わせねぇよ?」ヤダ辛辣」
流石にそこまで言わせる程俺は寛大じゃない。
禾翠の髪を突くユリさんを見守りながら時間を潰していると、二人の生徒がこちらに向かってきた。
「大神……む、寝ていたのか」
「禾翠君も自由だね」
「あ、巴慧ちゃんおはよー」
「堀宮氏か、同士ならつい先程眠りに就いてしまった、言伝なら我が伝えるが」
「いいや大丈夫だよ、急ぎの用というわけではないからね」
彼女達は橘巴慧と堀宮優一、禾翠に並び立つ実力者だ。
橘さんは学校では珍しい第二の主席であり、禾翠と同じく運動神経も良い。
大手企業である『タチバナグループ』の社長令嬢であり、道場の次期師範代候補と噂されている。道場というのは橘家実家である。
艶やかな黒髪に女性的ボディ、男子からも女子からも慕われている。禾翠は「これに惚れなかったら人間じゃない、俺が人間だったら告白して振られてる」と言っていた。禾翠は人間じゃないのか?
堀宮は禾翠の言っていたイケメントップ3の中のトップ2だ、二人ほどでは無いにしろ彼も文武両道である。
最近では珍しくなっている天然の茶髪で、明るい容姿とは裏腹にクールな性格が女子人気を上げている。妬ましいが友達なので普通に尊敬している。
また、自衛隊員の父の遺伝か、自衛隊や軍人に対して少し詳しい。
「休み明けだというのに、友人達と話そうという気は無いのか?」
「禾翠君友達少ないからね〜」
「それでも話すことくらいはあるんじゃない?」
「同士は自分のことは話そうとしない故、話題があまり無いのだ」
話す話題といったらオタク話くらいだ、橘さん達にはよく分からないだろうが。
「そろそろ朝礼が始まるから席に戻るよ」
「じゃあ私も〜」
「また後でね」
「うむ、了解した」
あれから暫く四人で話していると時間が経っていたので各々席に戻る。
―――その時だった。
教室が光り輝いたのである。
「なっ何ぞや!?」
「ッ!皆早く教室から出るんだ!」
クラスメイト達がザワザワとなる間に橘さんは冷静に判断を下したが、実行されることはなかった。
気が付くと見知らぬ空間に全員居た。
「……ってぇ」
振り向くと禾翠がうつ伏せに倒れていた。
「大丈夫か同士!」
「大丈夫だ……誰だよ俺を突き落としたやつ、殺す」
ご立腹である、だが少々混乱している頭で正しい判断が付きそうにない。
「皆無事か!」
橘さんがクラスメイト達の安否確認をしていた、流石の状況判断だ、少し羨ましい。
その光景を見ていると、何処からか男の声が聞こえてきた。
「召喚に応じて頂きありがとうございます、勇者様方」
声のする方を見てみると、大きな杖を持った老人が俺達を見ていた。
「……貴方は誰だ?」
「これは失礼しました、私はルール、神聖協会の責任者をしている者です。立ち話も何です、謁見の間に案内致します」
そう言うと老人は背後にあった扉を開き、俺達はそれに付いていった。
「…………」
「同士?」
禾翠の顔色が良くない、急な事に気を悪くしたのか?
「……何でもねぇよ」
右目を閉じている。
「我慢できそうに無かったら言ってくれよ?」
口調も変えずに素のままで言うと、「あぁ」と答えて先に行ってしまった。
「大丈夫か、彼奴…………」
案内されたのは柱が並び、ステンドグラスが張られた広い空間、奥には王座らしき物があった。
「連れてまいりました、陛下」
「うむ」
王座には髭の生えた大男が座っており、傍らには幼い少女と俺達と同い年くらいの男女が立っていた。王座に座っているのは恐らく国王だろう、陛下と呼ばれていたし。
「急な事で困惑しているだろうが、どうか話を聞いていただきたい」
国王らしき男は神妙な面持ちで俺達に話し始めた。
この世界は『テトラルキア』というらしく、四つの大陸で成り立っているらしい。
その内この国は『トリオン』という島の『ウィルセント』という王都なんだとか。
トリオンでは魔族から人間に対しての侵攻が激しいらしく、それの対抗手段として俺達が勇者として召喚されたと、要約するとそういう訳らしい。
「その話を馬鹿正直に飲めと仰るんですか?」
そう発したのはクラス担任の萩嵩三法先生だった。
「私達がその魔族とやらの侵攻を防いだとして、私達に何のメリットがあるんですか?寧ろデメリットを生みそうな事に首を突っ込むわけですが」
「それは……我々人間の希望に」
「ただそれだけですよね?ハッキリ言わせてもらいますが、私達がこの世界の人間を守る義理は無いんですよ、違う世界だからといって迷惑をかけていい理由にはなりませんからね?その辺りちゃんと理解してますか?意味分かりますか?」
担当科目英語兼国語教師、怒涛の正論ラッシュを国王に向けて言い放つ。
何処かであのペース見たことあるな……あ、あれだ、不機嫌度MAXの禾翠だ、現実的なのが良く似てる。
「貴様!陛下に向かって何という口の聞き方だ!」
警備兵らしき男が先生に対して槍を向ける、それに驚いているのは先生ではなく周りの生徒達だった。
が、先生の前に一人の男が立ちはだかった。
「おい、誰に向けて槍構えてんだ?」
不機嫌な禾翠だ。
「そこを退け!陛下に対する不敬罪だぞ!」
「んなもん知るか、こちとら魔族だの侵攻だのと腸煮え繰り返ってんだよ」
禾翠は槍を払い除け兵士の首を掴んだ。
「ぐっ!な、何を!」
「生か死か」
「ッ!?」
その一言で兵士は戦意を無くし、槍を地面に落とした。
その光景を見ていた俺達は唖然とする他無かった。
「大神君、この状況をどう思いますか?」
「馬鹿馬鹿しい、さっさと帰せって思いますね」
「そうですか、私も同意見です」
国王を一瞥すると、先生と禾翠は二人揃って謁見の間から出ていってしまった。
「禾翠…………」
俺は二人が行ってしまった扉を見つめて立ち尽くしていた。
「…………」
「あっ、サリィ!」
国王の傍らに居た幼い少女が先生達を追うように扉の向こうへ走っていってしまった。
そしてそれを追うように青年達が扉の奥へ消えていった。
どうしたんだろうか。
「……国王陛下、俺達は何をすればいいのでしょうか」
バッと振り返り声の正体を見る。
天駆誠也、クラス一の人気者でありトップカーストのリーダーその人だった。
「……そなたは話を聞くというのか?」
「先生達には僕から言い含めておきますから、僕達は先に話を聞いた方が良いと思います、なあ?」
「そうだな、先生も気が動転してたからあんなことを言ってたんだろうよ」
「アンタらならそう言うと思ったわよ」
「良いのかなぁ?」
天駆の声に返答したのは同じくトップカーストの一員、荒城海人、矢野彩花、西園寺奏だった。
いや、何を言っているんだコイツらは、普通に考えて話に乗るなんて得策じゃないだろ。
冷静になったから分かるが、先生や禾翠の言う通り俺達が戦う理由も義理もない、早々に元の世界に帰して貰うのが吉だ。
「国が助けを求めているんだ、少しでも役に立つというならそれに答えるのが勇者なんじゃないか?」
それに同調して周りの生徒達も「そうだな!」「俺達でも役に立つなら!」という声が上がっていく。
待て待て待て!お前らは先生の話を聞いていなかったのか!?何故天駆の言うことに従っているんだ!?
「織田君織田君」
「ッ!……ユリさんか」
背後からユリさんに肩を突かれていた。
「おっ、素の織田君はレアだね……じゃなくて、トップカースト達と大半の男子は国のために戦うみたいだけど」
「女子達はどうなんだ?」
「先生と禾翠君の様子でどうすればいいか決めかねてるみたい、でも多分戦う人が多いんじゃないかな」
「そうか…………」
多数派で戦うことになるのは目に見えている、なら少しでも帰る方法を探すべきか…………?
今考えても埒が明かない、先生と禾翠を探して話し合うか?
「ならばそなたらの力を知っておいた方が良いだろう、ルール、案内しろ」
「畏まりました」
そのまま話は流れ、老人に連れていかれる事になった。
部屋から出る直前に見えた兵士がガタガタと震えていたのが気になった。
連れてこられたのは教会のような施設、部屋の奥には大きな石板が建っていた。
「こちらは『ステータスプレート』という魔道具です、これに触れ魔力を送ると自身の天職を知ることが出来ます」
天職について説明され、各々順番に石板に触れていく。
『将軍』
「将軍、か」
文字が光り浮かび上がる、天職の下には細かいステータスやスキルが書かれていた。
いつもの俺なら喜んで禾翠に報告しているんだろう、だが今は状況が違う。
どうせなら使える天職を……いや、これを使いこなしてみせないと帰るなんて無理だな。
石板から離れ終わるまで待っていると感嘆の声が聞こえた。
「誠也が勇者か!」
「流石天駆だぜ!」
天駆の天職は『勇者』だったようだ、生徒達がワーワーと騒いでいる。
だが今の俺には関係ない。全員確認を終えると、各人の部屋へ案内されそれから一日は自由時間となった。
俺は城の探索をしようと一人で歩いていた。
―――ピュ~ィュィュ~
「…………ん?」
中庭近くの廊下を歩いていると、中庭から口笛の様な音が聞こえてきた。
陰に隠れて様子を伺うと、先程の少女と禾翠が居た。二人の回りには動物が寄っている。
気付かれない様に近付き、話を盗み聞く。
「サリィは毎日が楽しいか?」
「……わかんない」
「そうか、俺も楽しいのか分からない時があるよ」
「おにいちゃん、たのしくないの?」
「今は、そうだな、サリィが可愛くて仕方無いな」
「サリィ、かわいいの?」
「勿論」
「えへへ…………」
禾翠は芝生の上に胡座をかき、少女を膝の上に乗せて頭を撫でていた。
会話の内容は普通に聞こえるが、二人とも目が生きていないように見える。
「盗み聞きは感心しませんね」
「いっ!?」
ビクッと肩を震わせ大声を出さないように口を押さえた、すぐ隣に萩嵩先生が居たのである。
「脅かさないでくださいよ…………」
「それは失礼……いつもの武将言語じゃないんですね」
「そこはどうでもいいでしょう…………」
「そうですが」
なら聞かないでくれよ。
「まあそう言わず」
心を読まれた!?
「そこで何喋ってんだ?」
騒いでいたからか、禾翠に見つかってしまった。
観念して禾翠の元へ行くと、少女は俺に怯えるように禾翠の服を掴み、動物達は中庭から外へ出ていった。
あの動物達は何処から…………?
「あれからどうなったんだ?」
禾翠が先程の事を聞いてきたので息を整えて答えた。
「オホン……天駆氏を筆頭にトップカースト、クラス大半の男子が戦う事を決めた模様、女子達は決めかねている様だが戦う事を選ぶ可能性が高いらしい」
「ならもう戦うのは確定か……面倒だな」
禾翠は不敵な笑みを浮かべ、少女を膝から下ろした。
「……やるんですか」
先生は何か知っているようだ、それに禾翠は頷いて返答する。
禾翠は少女に目線を合わせて手を握った。
「サリィ、実はお兄ちゃんはとっても悪い人なんだ」
「……おにいちゃん、わるいことするの?」
「ああ、サリィがパパやママに怒られる以上に悪い事をするんだ」
「……駄目だよ?」
「それでもやらなきゃいけない、サリィは俺の事を嫌わないでくれないか?お兄ちゃんは友達が居ないと死んじゃうんだ」
「うん……しんじゃやだ」
「ありがとう、お兄ちゃんもう行くな、何か困ったらパパやママだけじゃなくてこの二人にも頼って良いからな」
そう言うと禾翠は立ち上がり俺達に向き直った。
「じゃ、次会うのは当分先だと思う、ユーリや橘を頼んだぞ」
「同士?貴公一体何を…………」
「分かりました……死んだら承知しませんよ」
「了解、じゃあなノブ、みのりん」
禾翠は中庭から去っていってしまった。
「萩嵩女史」
「私には止められませんでした、気持ちが分からない訳ではなかったので」
「…………」
禾翠は一体何をしようというんだ…………?
それを知るのに十分も掛からなかった。
―――ピュイィィィィィィィィィ!!!!!
突如として高音の笛の音が聞こえてきた。
「始まりましたね」
「なっ!同士は何をしようとしているというのだ!?」
俺は急いで音のする方へ走り出した。
廊下には音に釣られた生徒達に、何匹かの動物が居た。
音の聞こえてくるのは厳重な倉庫の様な部屋だった。
「何故開かない!」
「何やら物が置かれているようです!」
「警備は何をして居た!?中には国宝もあるんだぞ!」
兵士達は開かない扉に奮闘していた。
それを見ているギャラリーの中に見知った人物を発見したので声をかける。
「橘女史!」
「む、織田か」
「これはどういう状況なのだ?」
橘さんは困った様な顔で答えた。
「……大神が倉庫の中に立て籠ったらしい、私は現場を見ていないから知らないがな」
禾翠がそんなことを?
「同士は何故その様なことを…………」
「分からない、だが彼のやることは何かしら意味があることは違いないと思う」
そこでドゴォンという音を立てて倉庫の扉が開いた。
兵士達が急いで中を調べると。
「ッ!大丈夫か!?」
「どうした!」
「警備が二人!重傷です!」
「何!?」
兵士の横からそっと中を見ると、部屋の中心に一部欠けているが魔法陣らしき物が描かれていた。
魔法陣の真ん中には紙が一枚。
『俺の友人達へ ・・ー・ ーー ・ーー・ ・・ー・・ ・ー・・ ー・ーーー ーー・ ・ー・・ ー・ ー・ー・ー ・ー・・・・ ーー・ー・ ・ー・ーー ・・・ー ー・ーー・ 大神』
「これは…………」
「少年!その部屋から出るんだ!」
声の厳ついおじさんに部屋から出され、俺達は何事もなく過ごすことにされた。
―――それが数日前に起きた出来事だ。
今日は生徒全員が国の騎士に指導され、訓練する様になった。
「あれから変化は無し、数日で何かが変わるとは思っていなかったが」
心当たりのある人を集めるか。
集まったのは萩嵩先生、ユリさん、橘さん、堀宮の四人。
先生以外は訓練していたのもあって汗だくだった。
「我の呼び出しに答えてくれてありがとう、まずはこれを見てもらいたい」
「これは一体?」
「手紙?」
数日前に拾った禾翠からの手紙を開いて見せる。
「……モールス信号ですか?」
口にしたのは萩嵩先生だった。
棒と点の文章と言われれば思い当たるのはそれだろう。
「恐らく、堀宮氏、助言を頂けるか」
「これは和文モールスだね、ちょっと待って、今解読するから」
流石自衛隊員の息子、頼りになる。
「……『チヨツトカエリカタサカ゛シテクル』……『ちょっと帰り方探してくる』って書いてあるね」
「探してくるって……まさか一人で城を出たのか!?」
橘さんがありえないと言うようにテーブルを叩きつけた。
「禾翠君ならやりかねない……寧ろ禾翠君だからやったのかもね」
「どういう事だ?」
ユリさんの言っている意味が分からず橘さんは首を傾げる、かく言う俺も堀宮も分かっていない。
「去年の冬に聞いたことがあるんだけどね」
『俺、他人なんてどうでも良いんだわ、そいつらが俺に何かしてくれる訳でもなしに俺が手を貸す義理は無いからな』
『もし貸しが出来たら?』
『そりゃ借りは返すだろ、馬鹿なの?』
『死なないよ、じゃあ自分が困ってたらどうするの?』
『諦める、もしくは道連れだな』
『助けは求めないんだ』
『誰にだよ、俺を助けてくれるヤツなんざ居ねぇよ……頼りになる人すら居ねぇんだから』
『う~ん……じゃあ織田君とか巴慧ちゃんが困ってたらどうするの?』
『時と場合によるが、俺にとって損になるなら切り捨てる』
『うわっ、酷っ…………』
『そんときゃお前も切り捨てるから覚悟しとけよ腐れマゾ』
『我々の業界ではご褒美です!』
『お前みたいなのが他にもいるとか嫌なんだが……寒っ、今日は鍋でも突こうかね…………』
『あ、私も食べる〜』
「あの鋭い目付きは今でも忘れられないね〜……へへへへ」
「おい顔」
ユリさんが危ない顔をしかけていたので叩いて話を戻す。
「私達は頼りにされていないのか…………」
「……まあ、事実かもしれないね」
橘さんと堀宮が頭を悩ませている隣で、萩嵩先生が口を開いた。
「彼をたまに、違う誰かだと思う時があります」
「萩嵩女史?」
「私がいつも見ている彼は文武両道で他人との関わりをあまり持とうとしない人ですが、時に残忍で人とは思えない一面を見る気がします」
「成程…………」
それを貴女が言うのか、というツッコミはしないでおこう、怒られそうだし。
「織田君、言いたいことがあるならハッキリどうぞ?」
「い、いや、何でもない、ぞ?」
だから何で心が読まれてるんだよ!怖いよ!
「はぁ……一先ずは大神が無事であることを祈るばかりだな」
「彼ならきっと無事さ、彼にとって常識は無いものだしね」
「逆にそれが危なくなってたりして〜」
アハハハ、と堀宮とユリさんが笑いながら立ち上がった。
「彼に会うまでには頼れる『騎士』になっていないとな」
「でも私の天職『賭博人』だよ?遊び人の上位互換過ぎて草生える、www」
それに続いて橘さんと萩嵩先生が立ち上がる。
「私も『戦乙女』としての力をつけねばな」
「私は良いです、手を汚すのは趣味ではないので」
四人は覚悟した様な表情をしていた。
俺も、禾翠にダサい格好見せられないからな。
「ふっ、我が真の実力を見せる時が来ようとはな…………」
「あ、そういうのいいんで」
「少しぐらい良いであろう!?」
決まらなかったが、これはこれで俺らしい。
せっかく来た異世界だ、禾翠に頼られる様にならないとな。
―――…
「倉庫に入った奴は誰だったんだ?」
倉庫で倒れていた兵士に話を聞き出す。
「分かりません……一つ分かっているとすれば」
俺は次に聞いた言葉に耳を疑った。
「右目が琥珀眼で左目が緋眼の、白髪の男でした」
「何…………!?」
記憶が混乱しているようには見えない、恐らく事実だろう。
とすればするべき事は一つ。
「……その男を見つけ出し始末しろ、と全隊に伝達しろ」
「分かりました!」
兵士は敬礼をして部屋から出ていった。
「……奴を生かしておく訳にはいかん」
この作品が「面白い」と思っていただけたら是非広告下の五つ星やブックマーク等で応援していただけますと幸いです。