人間を辞める人間
リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。あれ、何か微妙…………?
「かかってきな!ボウズ!」
「…………え?」
皆さんこんにちは、俺は大神禾翠、人間です。
何か話が進んでいると思ったら、屈強な男と模擬戦をしろと言われました、意味が分からないね。
アンジェラさんの方を見ると、俺を見ているだけで何も言わない。黙ってやれということだろうか。
でも、アンジェラさんの言う事なら仕方無いよなぁ…………
「武器は自由、魔法は使用不可、このルールで戦ってもらうが、何か聞きたいことは?」
ギルマスのカインが監督をするらしい、男は「問題無い」と大剣片手に準備運動をしていた。
「技は使っていいんですか?」
「技というと……スキルのことか?それは構わんが」
スキルというのは分からんが、技が使っていいなら大丈夫か。
見ただけで男が強いというのは分かる、さっきのスキンヘッドよりも遥かに強いな。
でもマジで俺がやるメリット無いんだよな、ワザと負けてしまおうか。
「勝ったら何か褒美を与えましょうか」
「やったるぞゴルァァァァ!!!」
一気に士気が上がった、恐るべしご褒美パワー。
「やる気満々だな、それじゃあ始めるぞ」
俺は男を観察する、大剣で戦うというのは分かるが、それをどう使うのかが見物だな。
「始め!」
開始の合図と共に男がこちらに向かってくる。
「喰らえ!」
「おっと」
鋭い一撃が降り掛かってくるが、俺はそれをスルリと躱していく。
動きは良い、魔物がどれ程なのかは知らないがこれ程の実力ならそこそこ戦えるのでは無いだろうか。
だが、力任せに剣を振り回していては駄目だな、動きも単調でパターンが組みやすい。これだとすぐに対処される。
剣撃をすり抜け男の目の前に向かい、腕を突き出す。
「―――牙一角!」
「なっ!?」
男の額に指を突き出し、土台から突き落とす。
勢い余って地面に尻餅をつき、男は何が起きたのか分からないように困惑していた。
……そこまで力は出してない筈だが。
「あれ?これって何したら勝ちなんだっけ?」
「……相手を土台から出す、もしくは降参させるのが勝利条件だ」
「じゃあ俺の勝ちだな」
男に手を差し出し立ち上がらせる。
「凄いな!俺の攻撃を全て避けて一撃で俺を土台から出すとは!」
「いや、アンタも十分強かったさ、俺は上手く対処できただけだよ」
「謙虚な奴だな、ハハハハ!」
男は笑いながらギルトの方へ帰っていった。
謙虚というわけではないのだが、実際戦略を編めれば十分強いと思う。
すると、ギルマスとアンジェラさんが俺の元に来た。
「お疲れ様です」
「アンジェラさん!ご褒美は何ですか!」
目を輝かせて言う俺にギルマスは引いて居たが、アンジェラさんは普通に答えた。
「そうですね、膝枕で良いですか?」
「マジすか!?」
まさかの膝枕、しかも相手は美女、これはもしかして夢?ところがどっこい!夢じゃありません!
楽しみだな〜、膝枕。
「あ〜、話しているところ悪いが、私の話を聞いてもらっていいか?」
「申し訳ありません、どうぞ」
俺の行動に引きながらも話をするギルマス、おい、何故俺を見ようとしない、見ろよ。
「実力はあるな……まさかルドの攻撃を受けず、フードすらずらさず土台から出すとは」
あの人ルドっていうのか、もし今度会うことがあれば酒でも奢ってやろう。今一文無しだけど。
「さっきのスキルは何だ?君の天職は『管理者』と聞いていたが」
ギルマスが驚いた様に問いかけてくる。
スキルって何ですか?という視線をアンジェラさんに向けると。
「彼はスキルを使っていませんよ」
とギルマスに説明してくれた、そのまま言っていいんすね。
するとギルマスは更に驚愕した。
「今のがスキルじゃないのか!?」
「はい、『管理者』に攻撃スキルはありませんから」
「俺がとある知人から教わった技でござる」
「何だそれ……君は本当に人間か?」
「失敬な!生まれも育ちも人間ですよ!多分!」
「多分って何だよ!?」
化け物を見る目様なで俺を見てきた、いや、俺以上の化け物とか普通に居るからね?
「まあEランクの記録が取れたから十分だ、最弱どころかSランク以上の力を持っているな、君は」
「俺がアンジェラさんより強い訳ないじゃないですか」
真顔で断言する。アンジェラさんの実力知らないけど。
「あ、俺のこと公表したりしないでくださいね、目立ちたくないんで」
「私からもお願いします、行動が制限されると面倒なので」
念の為言っておくとアンジェラさんからも釘を刺された、やっぱり都合悪くなるんだな。というかアンジェラさんって面倒な事は省く主義の人なのかな。
「分かった、カスイ、君も頑張れよ」
「はい」
何故か元気付けられてしまった、返事はしたが何を頑張ればいいのかね?
「ではリトルボアの買取をお願いしたいのですが」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
数時間かけて大量の猪を買い取って貰った、全部で金貨50枚だって、日本円で幾らくらいなんだろ。
「これから何処に行くんですか?」
ギルドを出てすぐの広場で俺はアンジェラさんに声をかけた。
「この街を出て次の目的地へ向かいますが、もうすぐ日が暮れるので今日は宿で泊まりましょう」
「分かりました、因みに次の目的地とは?」
「王都です、勇者を召喚した国ですね」
あぁ、そういえば俺もそこで召喚されたんだったか、興味なかったから忘れてたわ。
俺の知り合いが居るかもしれないので淡い期待を持って行くとしよう。
「その近くに私の所属する機関の本拠地があるのでそこにも寄りましょう」
「機関って?」
「いずれ分かります、早く宿を探しましょう」
はぐらかされた、別に今教えてくれてもいいと思うのだが。
まあアンジェラさんが言わないということは今言う必要が無いということだろう。
「…………あれ?」
俺は何故こんなにもアンジェラさんに忠実なんだろう、いやアンジェラさん綺麗だし従う気も分からんでもないけど、それにしては忠実過ぎるというかなんというか。
「どうしました?」
「あ、いえ、何でもないです」
別段問題じゃないし良いか、問題が起きたらその時はその時、ケセラ・セラだ。
その後宿を一部屋借りて、一足早い夕餉を食べることになったので食堂へ向かう。
「賑やかですね」
「これが普通ですよ」
平民や冒険者も皆楽しそうに料理を食べている。
『何独りで食ってんだ、生意気だぞ』
『こっちにおいで、一緒に食べましょ?』
「…………」
「カスイさん?」
「ぁ?はい?」
ふと気が付くと、アンジェラさんが怪訝そうに俺の顔を伺っていた。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ?さ、何か頼みましょう」
「……そうですね」
アンジェラさんは怪訝そうなままに頷いた。
どうしたんだろう、俺の顔に何か付いてるのか?違和感は無いけど。
料理は正直何が良いのか分からなかったから全てアンジェラさんにお任せした。
「では『管理者』について詳しく説明しましょう」
「はい」
料理を待っている間に先延ばしにしていた『管理者』の説明をしてもらうことになった。
「『管理者』とは先程も言った通り『魔物使い』の最上級職です、魔物と契約することで従えることの出来る《同意契約》と呼ばれるスキルを所持しています」
某ポケットとか某デジタルの異世界バージョンみたいな感じか。
「契約は使用する魔力量によって種類が別れ、五種類存在します」
「多いですね」
「九対一で交わされる『養死契約』、こちらは契約者に能力を譲渡し死滅するものです、その名の通り養分にされます」
なにそれ可哀想、糧になるだけとか絶対嫌なんだが。
「八対二で交わされるのが『主従契約』、従者として従えることが出来ます」
ほう、これが一般的な契約なのかな?
「七対三で交わされるのが『親子契約』、親と子の様に関係を結ぶことになります、所謂養子ですね」
使いどころが分からないな、迷子センサーとか?
「六対四で交わされるのが『師弟契約』、『主従契約』より親しみやすい関係ですね」
弟子か、俺も弟子だった頃があったな~。
「五対五で交わされるのが『仮契約』、一時的に従えることの出来る契約方法です、テイマーの方はこれを良く使っています」
「色々あるんですね」
覚えられる気がしない。
「契約を破棄すると関係は断たれ、再契約する場合は再契約時の魔力差で契約するので気を付けてください」
『主従契約』していたけど破棄したあと強くなってたら『仮契約』しか出来ない、なんてことになるってことか。
「次に、『管理者』は他のテイマー系天職と違い契約に制限がありません」
「ん?どういうことですか?」
「通常魔物と契約出来るのは最低一体、最高でも五体が限度ですが、『管理者』の場合何体であろうと契約することが出来ます」
それ何てチート?無双できるやん。
「それに加え、テイマーには契約した者の力を身に宿すことが出来ます、それが《繋結》と呼ばれる常時能力です」
「身に宿す?」
「例えばカスイさん、貴方は水中で息が出来ますか?」
「無理です、一時間なら大丈夫ですけど」
「それはそれで異常ですね……海産生物と契約すれば貴方は水中で息が出来るということです」
ふむ?契約した魔物の能力が契約者本人も使えるようになるということか?
「鳥と契約すれば空が飛べたり?」
「契約する鳥によりますが、可能です」
マジでチートじゃん、何で俺こんな天職持ってるの?
「『管理者』であるなら契約すればする程契約者が強くなるということです、『仮契約』では能力は付与されないのでご注意を」
「じゃあ普通のテイマーも使いようによっては優秀な天職って事ですよね」
「ええ、仮令一体しか契約出来ずとも契約する者によってはどの天職よりも強いでしょう」
やはり、さぞ人気でレアな天職なんだろう、『管理者』も珍しいって言ってたし。
しかし、アンジェラさんは「ですが」と付け加えて説明してくれた。
「テイマー系天職というのは不遇職と呼ばれ、誰も必要としていないのが現状です」
「え?何でですか?」
「テイマーとしての能力を理解していない者が多いからでしょう、天職がテイマーと分かると農民や商人として生涯を終える者が多いです」
そうか、天職を与えられても能力が分からなければ使いようが無いからな。
ということは俺は物凄く幸運なのでは?アンジェラさんに会えたし、アンジェラさん色々と詳しいし。『管理者』についてもアンジェラさんに教えてもらえなかったら能無しだったな。
「改めてアンジェラさんに会えて良かったです」
「それはお互い様ですよ」
そこで給仕が料理を持ってきたので話を切る。
「リトルボアのステーキにポックリの実と野草のサラダです」
「おぉ…………!」
鉄板に焼かれたステーキに色とりどりの健康そうなサラダが運ばれてきた。
鼻孔を擽るいい匂いに食欲をそそる。
「まるで高級料理…………」
俺は喉を鳴らしてステーキを一口。
な、何だこれは!
歯ごたえがある厚切りの肉!言わずもがなの濃厚さが鼻に残る!
そしてこのサラダ!肉とは真反対のサッパリ感に甘めの木の実がマッチしている!
簡潔に言おう。
「旨い!」
俺は生まれて初めてこんな料理を食べたよ、涙が出てきそうだ。
「めっちゃ旨いですね!」
「小さな街にしては上等の料理ですね」
淡泊な感想をありがとうございます、アンジェラさんは相変わらず無表情ですな。
「あ、そうだ、魔術について教えてくださいよ、生活魔術とやら」
やっぱり異世界といったら魔法で……ん?魔法と魔術はどう違うんだ?ギルマスは魔法って言ってたけど。
「良いですよ、部屋に戻ったら教えて差し上げましょう」
「ありがとうございます」
まあその辺は後でいいか。
と言うわけで部屋に来ました。いや~美味しかったですね、あのレベルの料理が銀貨五枚ですよ!価値知らんけど。
と、俺は一つの問題を発見してしまった。
「では魔術について説明しますが」
「その前に一つ良いですか?」
「何でしょう」
「借りたのは何部屋でしたっけ」
「一部屋ですね」
「ですよね…………」
アンジェラさんは分かっているのだろうか、ベッドが一つしか無いことを。
まあ俺が椅子で寝れば問題無いよね、うん。
そんな俺の気も知らずアンジェラさんは説明を始める。
「魔術と聞くと難しい物と思いがちですが、基礎が分かれば誰でも出来る簡単な物です、数学は出来ますか?」
「数学ぐらいなら、俺これでも学年主席なんですよ」
「ならすぐに理解出来ると思います、計算と同じような物ですから、これを覚えれば脱・人間ですね」
「あまり嬉しくないですね」
それから基礎的な術式というのを教えて貰い、術式の辞典の様なものを貰った。
が、いまいち理解しがたい。
《業火》?《放電》?《地盤》?何だこれ、漢字の羅列ジャマイカ。
アンジェラさんはこれを脳内変換して魔力を込めるとか言ってたけど、どういうことゾ?
取り敢えず危険の無さそうな《浄水》と《風巻》を変換してみるか。
手を広げ脳内で《浄水》を―――
―――『水の原理を《理解》、《基礎》を展開します』
「―――おわっ!?」
掌から水が出て来たが、驚いて思考を止めてしまった。すると水は掌を濡らし床に落ちた。
アンジェラさんの方を見ると嬉しそうに(無表情)こちらを見ていた。
「飲み込みが早くて嬉しいです」
「今のが魔術なんですか?」
地味だったが、何もない場所から水が出てくるとは。
「やはり彼らの力が……それにしては魔力量が…………」
アンジェラさんは何やらブツブツと呟いていたので俺は術式変換に戻る。次は《風巻》だな、名前からして風が出せるとかそんなところだろう。
―――『風の原理を《理解》、《基礎》を展開します』
「―――おぉ…………」
掌の上で小さな風が舞っている。ちょっと擽ったい。
っと、安定するのが難し「あっ」
「ッ!」
掌からアンジェラさんの頭を掠めて壁に当たり消えた。
風でアンジェラさんが被っていたフードが外れ、あの綺麗な顔が露になる。
「あ、ご、ごめんなさい」
「いえ、顕現出来るだけでも十分ですから、励んでください」
「は、はい」
怒られることはなかったが寧ろ応援された、頑張ろ。
というかアンジェラさんが美人過ぎる!顔見て話せないんだけど!
いかんいかん、変換に集中しなければ。
―――『炎の原理を《理解》しました』『雷の原理を《理解》しました』『地の原理を《理解》しました』『光の原理を《理解》しました』『木の原理を《理解》しました』『空の原理を《理解》しました』『時の原理を《理解》しました』―――
―――ボスッ。
不意に身体から力が抜ける、手足を動かそうにも全く動かず、思考も中断され朧気になっていた。
しかし、俺が身体を床に打ち付けることはなかった。
「お疲れ様です」
「ぁ…………」
見上げると笑顔のアンジェラさんが俺を見下ろしていた、何だこの状況は。
「術式変換は脳を使いますから、人間の貴方は酷使し過ぎるとこのように倒れるので注意してください」
「ぁぃ…………」
返事しようとしたが、声を出すほどの余力も残ってなかった。
「明日は王都まで長旅ですから、ゆっくり休んでください」
その声を聞いて、俺は瞼を閉じた。
しかし、俺はあることに気が付いた。
…………これ膝枕か。
そこで俺の意識はシャットアウトされた。
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