そしてまた始まる
「天総神契記! 広域解析!」
大神禾翠は腕を上げ、握り締めると同時にそう唱える。
歯車の様な音と共に、大神禾翠は額から血を流し腕を下げる。
「模倣体・峻厳! 殲滅の豹!」
「!」
髪は真紅に染まり、黒いコートを身に着け、腕には紅玉の腕甲を顕現させる。
そして目にも留まらぬ速さでカイの傍まで移動し、
「!?」
「行動模倣! 羅刹ッ!」
ドゴォォォォン!!
とてつもない強打音と共に、辺りに砂埃が舞う。
しかし大神禾翠の攻撃がカイに効くことはなかった。
「ッ!」
「……行動模倣、不動要塞」
カイの胸に拳が触れ、ズレる事も無く硬直する。
カイはそのまま大神禾翠の腕を引き、余った腕を顔面に叩き込む。
「月季!」
「ぐっ!?」
勢い良く後方に吹き飛び、地面に付くと同時に飛び上がる。
もろに喰らった筈だが、元から流れていた血は増えることなく、目立った外傷は出来ていない。
むしろ、カイの拳から血が流れていた。
「この石頭めッ…………」
「餓鬼が……覚悟は出来ているんだろうなァ!」
大神禾翠は地面を殴り、浮き上がった破片を掴むとかい目掛けて投擲した。
投擲した、と言っても速度は銃弾の様で、カイは仰け反って破片を回避する。
「模倣体・王国!」
「模倣体・物質主義!」
互いに能力を使い姿を変える。
大神禾翠は鈍色の鎧に淡色のマント、小豆色と檸檬色に髪色を変える。
一方でカイは漆黒の鎧、黒色とオリーブ色に髪色を変えた。
そして片腕を突き出して握り締める。
「最後の剣!」
「原初の剣!」
剣を顕現させると同時に斬り掛かる二人。
同等の力がぶつかり合い、双方一歩も引かない。
そこへ、一つの刃が加わる。
「ッ!?」
「…………」
力が加わり、回避せざるを得ないカイは剣を突き上げて背後へ飛び退く。
大神禾翠に加担していた者―――朧は刀を中段の構えで立っていた。
朧の目は閉じ、静かな呼吸のみで口を開く気配はない。
「……これが龍王か」
刃こぼれした剣を捨て額の汗を拭う。
油断と隙を出したカイの影が揺らめいたが、城から現れた人物によってそれは止められる。
「カイ」
「ニューか、何だ」
「ラムダが準備終わったって」
「潮時か……今行く…………?」
大神禾翠に向き直すと、カイ同様に剣を捨て拳を天へと向けていた。
空を見上げると、雲の流れが異常であることが分かる。
大神禾翠を中心に広範囲の雲が避け、風が吹き下ろしている。
「…………なっ!?」
空間から覗いた尾にカイは驚愕する。
そして大神禾翠がしようとしていることに気付き、ニューと共に逃げるように城内へと駆け出す。
「覇龍帝王!!!!」
ギャオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!
大神禾翠が叫ぶと、咆哮と共に巨大な龍が姿を現した。
昇る月光を白い鱗に反射させ、緋色の瞳が大地を見つめている。
「この城ごと消し飛ばしてやるよッ!」
ガシッ。
大神禾翠が腕を振り下ろそうとして、その腕を止められる。
「…………あ?」
「駄目ですカスイさん、止めてください」
身体を抱く様に腕を掴み、大神禾翠の動きを止めるアンジェラ。
それを見て顔を顰めアンジェラを睨む大神禾翠が、普段とは全く違う口調で口を開く。
「誰だ貴様は? この我の邪魔をして只で済むとは思っていないだろうな」
「私が誰であろうと関係ありません、ですがその身体でそれを行使することは何としてでも止めさせて貰います」
「放せ女、死にたいのか?」
「放しません、私の命だけで済むなら早く殺しなさい」
「…………」
ガシッ、ガシッ。
足元でラクサムとザクテンが同じく大神禾翠の足を掴む。
「アンジェラ様の……言う通りですっ…………!」
「へへっ……私等にだって守るべきものってのがあるんだよ…………」
ガキィンッ! バスッ!
「退け、夜刀神ッ!」
「タヅナさん、どういうつもりですか!」
「「…………」」
大神禾翠を狙ったヴェルガとオセディの攻撃を、朧と䪊に止められる。
二人の言葉に反応せず、ただ目を閉じたまま立ちはだかるだけ。
「おいカスイッ! それ以上動くんじゃないぞ! 動いたら殺す!」
「目を覚ましてくださいカスイさん!」
ヴェルガとオセディは叫ぶが、大神禾翠は聞く耳を持たずアンジェラを睨んだまま動かない。
眉間に皺を寄せた大神禾翠が口を開く。
「気が変わった、貴様等から先に殺してくれよう」
「くっ…………!?」「ぐっ…………」「うぅ…………」
アンジェラ達を振り払いヴェルガ達に向き直す。
「完全―――――」
グシャァッ!
「ガフッ…………!?」
腕を振り下ろそうとした大神禾翠の腹部に一本のナイフが刺さり、大神禾翠は口から大量の血を吹き出す。
そのナイフを手にしているのは、胸部を押さえたビナーだった。
「な……にを……した、貴……様ァ…………!」
「……No.B9『自傷刃』……使用者の傷が深ければ深いほど鋭さと影響力を上げる…………ニューに胸を貫かれ、満足に治療出来ていない私が使えばどれほどの威力だろうね?」
「何……だ……と…………」
そのまま大神禾翠は倒れ、空は何事も無かったかのように雲が流れていた。
それと同時に、朧と䪊が目を開く。
「―――――む? 儂は何を……って団長殿!? 何故儂に拳を向けておる!?」
「いいから刀納めろっ、私ももう疲れた…………」
「だ、大丈夫か!?」
「タヅナさん、大丈夫ですか?」
「うむ……暫くの記憶が無いが、何かしでかしてしまったようじゃな、すまぬ」
「いえ、大した被害は無いので……それよりも」
倒れた大神禾翠を抱え状態確認をしているアンジェラとビナー。
ビナーは大神禾翠の口からピースを取り出し、確認していた。
「これは……やはり持っていたか…………だがしかし…………」
「ビナー、調べるのは後にしてこの場を離れましょう、彼方の目的は分かりませんが今の隙を突かれないとも限らないので」
「そうだね、取り敢えず王都から出ればいいだろう」
ビナーが言い終えると同時に、地面に巨大な穴が空き、その場にいた全員が穴へと落ちる。
「「!?」」
―――――
「…………」
大神禾翠との戦闘を終え、城へと戻ったカイは自分の拳を見つめていた。
互いに本調子ではなかったとはいえあの有様、もし本気を出されていればどうなっていたのか想像も出来ない。
彼女は相変わらずだ、自己犠牲を繰り返す、無意味な事だと分かっていながら。
思考を止め、頭を振って頬杖をつく。
「ラムダ」
「ああ」
ラムダは剣を顕現し、部屋の中央で刃を地に向ける。
「神域!」
地面に突き刺すと同時に、王都全体に結界が張り巡らされる。
これで此方の計画は終わった、後は奴が試練を終えるだけだ。
「自分の面倒を見るのも大変だな…………」
―――――
「ん…………んぅ?」
知らない天井だ。
一度の人生で二度もこの台詞を言ったやつはそんなに居ないと思う、言う機会が来るとは思ってなかったけど。
首を曲げて隣を確認する、自分が寝ているベッドと同じようなベッドが並び、部屋には俺しか居ない。
体を起こすと同時に部屋の扉が開かれ、刀を腰に携えた眼鏡面が部屋に入ってくる。
「ノブ」
「え?」
ノブ―――織田信託が驚いたように俺を見やると、すぐさま近寄り俺の頭をペタペタと触る。
前にも似たようなことあった気が…………
「生きてるよな…………?」
「生きてますよ…………?」
「…………はぁぁぁ」
ノブの問いに返答すると、その場に崩れるように座り息を吐き出した。
「だ、大丈夫か?」
「あぁ……いや、まあ、大丈夫だと思う」
ベッドに座り直しながらノブに手を差し出す、らしくないな。
ノブが立ち上がると同時に持っていた籠を差し出してきた、中には果物と瓶が幾つか入っている。
「これは?」
「キンの実とトウの実、リンゴとブドウだな、後は魔法水だ」
「魔法水?」
「体内にある魔力を回復させて意識向上にも効くんだと、所謂マジックポーションとかエーテルみたいなやつだ」
そんなのあるんだ、流石は異世界。
早速蓋を開けて瓶の中を飲み干す、無味無臭、名の通り水って感じだ。
だが体の内側がほんのり暖かくなった気がする、本当に気がする程度だから効果あるか知らんけど。
「これどうやって飲ましてたの?」
「ユリさんは頑なに俺に口移しさせようとしてきたが口に流したら普通に飲んでくれたぞ」
「相変わらず腐ってんなぁ…………」
暫く会ってないだけだったけど、いつも通りで安心した。
「そういえば此処何処? 俺って王都に居なかったっけ?」
「俺達が穴に吸い込まれたのは覚えてるか? その時は王都の外に放り出されたんだが、その後数十分くらいしたらお前等が落ちてきた。此処は王都から幾らか離れた町だな」
「あ〜……つまりは王都が乗っ取られて住民達も一緒に別の町に避難したってこと?」
「大体合ってる、流石に全員は無理だから数十人に別れて別の町に居るが」
寝ている間に色々あったらしい、そもそも俺は何で寝ていたんだったか。
腕を組んで思考を巡らせていると、再び扉が開き人が入ってきた。
「織田君、禾翠君の様子は……って起きてるじゃん! 早く言ってよ!」
「いや、俺も今さっき来て知ったから」
「ユーリ、おはよう」
光を弾く金髪をハーフアップにし、赤と黒のチェック柄の服を着たユーリ―――ユーリシス・サンクリオットだ。
ユーリは飛び付くように俺の隣に寝転がりながら俺の身体に抱き着いてくる。
「おっはよー! 元気? ご飯食べた? 此処の料理本当に美味しくてね〜」
「おうおう、寝起きだから食ってねぇし話についてけねぇよ、元気ではあると思うが」
「あぁそう? ごめんね〜」
そう言うが離れようとはしない、前からよくついて回ってきたがここまでくっついてくることは無かったと思うけど。
「どうした?」
「何が?」
「やけにくっついてくるなと、何かあった?」
「ん~、あったっちゃあったかな~」
「?」
いまいち要領を得ない、取り敢えず撫でておこう。
すると、ノブがコホンと咳払いをしていつもの調子で話し始めた。
「同士よ、起きて早々悪いが我についてきてくれ」
「? おう」
ノブに続いて部屋の外へ行こうとしたが、立ち上がった瞬間に足から力が抜けて倒れかける。
ユーリが抱きついてなかったら倒れてたな。
「大丈夫?」
「ん……いやちょっ、肩貸して、フラフラする」
「はーい」
思ったように足が動かない、怪我してるとかそういうわけではないんだが。
プルプルと震える足を動かして部屋の外に出て階段を下りる、宿屋に居たのか。
出入り口から外に出ると、思った以上に眩しい陽の光に目を遮る。
「ん? 此処って…………」
「主殿ー!」
見覚えのある風景に脳を働かせていると、朧の声が聞こえてきた。
「ようやくお目覚めになられましたか!」
「ん、おはよう」
犬の様に駆けてきた朧の頭を余った手で撫でる、龍だけど。
む?よく見たら服装がちょっと変わってる気がする、籠手なんか付けてたか?
そういえばノブの格好もより武人らしくなってるな、誰かに作って貰ったのか?
「む、女よ、そこを退け、儂が主殿を支えてやろう」
「え~? 先に来たのは私だし、別に変わって欲しい訳じゃないもん」
「何おう? 主殿に遣われるのは家臣たる儂の役目じゃ、さっさと退かんか!」
「い~や~だ~!」
ユーリと朧が俺の半身(右)で取り合いを始める、本人の意見も無しに争い始めるのは止めて欲しい。
と、此処が何処か思い出した、ステラの街だ、この世界に来てから初めて寄った街だったな。
前来た時と同じく人で賑わっている、二四時間営業とか言った覚え有るわ。
「それで? 何処行くんだ?」
「冒険者ギルドの方へな、其方等もいい加減争うのを止めろ、片腕が空いておろう」
「「!!」」
「おい」
結局担がれる様に両腕を持たれた、足引きずってるけどいいの?俺足が疲れちゃうよ?
そんな心情は気付かれることなくギルド内部へと運ばれていく、中に居た冒険者さん達吃驚してますよ。
「来たか」
「待ちくたびれました」
「酷い言い草だな……おはよう禾翠君」
連れていかれたそこにはよく知る三人、橘巴慧にみのりんこと萩嵩三法先生、そして堀宮優一である。
みのりんは随分と見てなかったな、学校で会った以来じゃないか?
「おはよう、っても何の集まりか知らんが」
「? 言っていないのか?」
「何が?」
「禾翠君、一週間寝たきりだったんだよ」
「マジで!?」
一週間、そら足元がフラつく訳だ、日光も浴びてなきゃ眩しいに決まってら。
その間何があったんだ? アンジェラさん達もまだ見てないしな。
「貴方が寝ている間、私達は貴女の様子を見ながら各々で情報収集、そして鍛錬に励んでいました。まあサボってる人も居ましたが」
「誰だろうね?」
「お前しか思い浮かばんのだが?」
どうせ賭け事でもしてたんだろ、そう言うの好きだし。
「その通り、酒場で盛大に稼いでましたよ」
「えへへ~」
「お前…………ん?」
今俺口に出して無いよな?
みのりんは変わらぬ表情で俺を見ている。
いや、俺の顔に重点を置いてるな……もしかして思考盗聴?アルミホイル巻かなきゃ!
「残念ながらアルミホイル如きで防げるような代物ではないですよ」
「さいですか…………」
心読まれてらぁ、んじゃ嘘とかも分かったりするのかね、失礼ながら解析させて貰いますよ。
「どうぞ」
「二人だけで会話しないでよ~」
『種族名 人族:人間 個体名 萩嵩三法 天職 話術士状態 通常 Lv293 MP 6780/6780 STR 89 VIT 87 INT 360 AGI 148 LUK 30 スキル『読唇術』『地獄耳』『詐術』『腹話術』『言語翻訳』『過去推理』所持』
ほーん…………
「それで? 何で集まってるんだ?」
「丁度集まって話し合おうと思っていただけだ、大神が来るとは思っていなかったが」
「その割には驚いて無いのな」
「『地獄耳』の効果は既知の指定した場所の音声を拾えます」
「把握」
俺が起きていたところも聞こえてたわけだ、便利そうだな。
俺が納得したところで橘が話を始める。
「昨日だが、やっと五百の壁を超えた」
「おぉ! おめでとう!」
「格だっけ? 凄いね」
「ふむん、我も同じ土俵に立つべく奮闘せねばな」
橘の言葉に三人が称賛の言葉を並べる、レベルが五百に行ったってことか?
朧たちは平然と一千超えてたからな、インフレーション起こしてるわ。
続いてノブがガタンと立ち上がり顔に手をやり高らかに宣言した。
「我は新たな力を手にした……フッ、我が真の力に慄くがいい」
「む? 味方なのだから震えることは無いだろう?」
「巴慧ちゃん、そう言うこと言っちゃ駄目だよ」
「そうなのか?」
「フハハ! その程度で揺らぐような我ではない! 機会があれば見せてやろうぞ!」
織田信託は挫けない。おお、一冊作れそうだ、内容はきっと敵の将を討ち取る話だな。
新たな力ってことは多分スキルのことか、レベルが上がればスキルを覚えるのか。
ノブをスルーしたユーリが手を挙げて報告する。
「私は一昨日大勝ちしたよ!」
「鍛錬は?」
「まだ三百!」
「ユーリシス、今日は私と一緒に来い、手伝おう」
「うぇ!? いやっ、巴慧ちゃんはちょっと…………」
「む? 何故だ?」
橘から逃げるユーリを横目に、優一とノブがこそこそと話し合う。
「橘さんは……ねぇ?」
「何事にも本気だからな、他人に対しても同じ匙で測ろうとするのは悪い癖だ」
分かる。
俺なんて本気じゃないとは言わないけどズボラなとこもあって首席取ってんのに向こうは何処をとっても完璧だからな、ヤベェわ、マジでヤベェ。
二人が落ち着いたのを見計らって優一が口を開く。
「僕の方は特にないかな、強いて言うとすれば視線が良く刺さってくるぐらいで…………」
「よっ! イケメン!」
「流石文武両道(実質三位)!」
「ご丁寧に括弧の中まで読まなくていいよ」
ユーリに続いて合いの手を入れる、やはり顔面格差か。
とはいえ容姿だけではないだろう、橘が「やっと五百」というぐらいだからレベルの上がり具合は大体理解できる。
初めて勇者達と会った時、天駆達のレベルは百幾らだった、そして五百でやっとということは相当高いと見られる筈だ。ならそれに近い優一も実力者として見られているという事だろう。
…………多分!
「そういやお前らの目的って何なの? やっぱり魔王討伐?」
肝心な事を聞いていなかったと、話を持ち出す。
四人は真剣な面持ちになり、みのりんが最初に口を開いた。
「いずれはそうなるかもしれませんが、今のところはそのつもりはありませんね」
「何でです?」
「貴方が居るからです」
「? 理解出来ないんですがそれは」
魔王に会ったことは無いが人間達が恐れるような相手だと聞いた、それを無視するほどの理由が俺にあると?
俺に何かあるのか……まさか俺の中に眠りし黒翼の深淵獄が!?
「勘違いしているようなので言っておきますが、魔王討伐は天駆君達正規勇者が行うことになっています」
「あっはい、って正規勇者? 何それ?」
「勇者の天職を持った真の勇者に連なる一行とでも思っておいてください、そう説明されたので」
「ほーん」
天駆達も頑張っているんだな、もっと頑張れ(他人事)。
聞くことが無くなり暇を持て余していると、ちょいと肩をつつかれ振り返る。
「主殿…………」
「あっ、ごめん…………」
朧が寂しそうに此方を見ている。
同郷の友人達との話に集中し過ぎて自分の家族とも言える部下に暇をさせてしまうとは……よし、決めた。
「訓練だ朧! 俺と戦うぞ!」
「誠ですかっ!!??」
目を輝かせて食いついて来た、好きだね君。
思えば人型の朧と戦ったことは無い、戦い方は見たことあるから大丈夫だとは思うけど。
何処か広い空き地は無いものか、と考えていると。
「やあ、久し振りだな」
「ん? おぉ、ギルマス」
随分と懐かしい顔が現れた、確かカインって言ってた気がする。
ギルマスは俺の肩を叩きながら話を続ける。
「何だ、君達知り合いだったのか」
「ええまあ、貴方こそ大神君と知り合いだったんですね」
「まあね、といっても二、三ヵ月前に登録して以来だが、登録してから一度も依頼受けてないだろう?」
「いや、色々あったんスよ…………」
王都と帝都に入る為の通行証代わりにしか使ってないですごめんなさい。
「今日中に依頼を一つでもやらなかったらライセンス剥奪するからそのつもりで」
「うぇぁっ!?」
「これでも譲歩した方だ」
「行くぞ朧! 俺の安寧の為に!」
「承知しました!」
朧を連れてさっさと依頼を取りに行く、アンジェラさんに怒られたくない。
いっそのことそれを朧との訓練にするのもいいかもしれない、ごっそり持って行ってやろう。
「行ってきます!」
―――――
「行っちゃった、話聞きたかったんだけどな~」
「ふむ、我はここで失礼しよう、やらねばならぬことがあるのでな」
「また䪊のところか?」
「我は武将! 武に長ける者として最高水準の装備を求めるまでだ!」
「そんな事言って、䪊さんに惚れてたりして」
「まっさか~、織田君は優香ちゃん一筋だもんね~」
「ななな何を言うんですかねぇ!?」
「動揺し過ぎだぞ…………」
四人がわいわいとしている横で、三法はカインに問う。
「聞いてもいいですか?」
「何かな?」
「貴方は生命の樹とどういう関係ですか?」
「…………」
刺す様な鋭い目でカインを見る三法。
ギルド内の賑やかな声が響き渡る、四人も話に夢中で聞いている者は居ない。
静かに、平然とした声でカインは答えた。
「関わってはいないよ、見届けはしたが」
「…………はぁ」
カインの答えに溜息を吐き、興味を失くしたように無表情で口を開いた。
「私も過去を探る気は無いのでその答えで結構です」
「ありがとう、お詫びと言っては何だが、依頼を勧めようか?」
「結構、私はおこぼれだけで十分なので」
会話が終わると同時に四人は立ち上がり、ユーリシスが三法に声をかける。
「私達も言ってくる、みのりんはどうするの?」
「今日は情報収集に専念させて貰います」
「分かった! じゃあね~」
「それじゃあ私も失礼するよ」
五人がその場を去り、三法だけがその場に残される。
数日前に聞いた話を思い出し、口に出す。
「魔王サタンねぇ…………」
そして、誰にも聞こえない程度の声で本音を漏らす。
「…………面倒くさい」
一応今回で第一章終了となります、次回からは第二章という事で投稿を続けていくので宜しくお願いします。
この作品が「面白い」と思っていただけたら是非広告下の五つ星やブックマーク等で応援していただけますと幸いです。