巷で噂のEランク
リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。頭が痛い。
「カスイさん」
「はい…………」
俺は地面に正座で座り、アンジェラさんに見下されていた。
「私が何を言ったか覚えていますよね」
「なるべく本気は出すな、と言っていました」
「ではこの光景はどういうことでしょうか」
アンジェラさんは辺りに手を向け、俺はそれに釣られて周りを見る。
複数の倒れた木々と猪の様な魔物達が視界全体に見える。
アンジェラさんに向き直ると、アンジェラさんは腕を組んで睨むように俺を見ていた。
「私、これでも怒っているつもりです」
「それは重々承知しております…………」
―――話は数十分前に遡る。
「街ってどんな所なんですか?」
森を歩いている最中、今から向かっている街についてを聞いてみる。
「何、と言われると紹介する程のものはありませんが、賑やかですよ、煩わしい程に」
「あ、はい」
眉を顰ませて溜息を吐きながらアンジェラさんは言った。
アンジェラさんに煩わしいと思われる街、騒がしいのかな。
いやまあアンジェラさんでも煩わしいと思う事ぐらい一つや二つ普通にあるか。
「アンジェラさんは街に住んでるんですか?」
「いえ、世界中を回ってます、その間貴方の様な人は一切見つかりませんでしたが」
「さいですか」
世界中か、この世界って何かがあるんだろ。
アンジェラさんって実力主義というか、何で実力者が必要なんだろ。そもそも俺が選ばれた理由すらも曖昧だし。
「アンジェラさんは冒険者なんですか?」
「一応は、ランクはSです」
「ゑ?」
Sランク?え?結構地位高い方?
「説明されるとは思いますが私からも説明しておきましょう」
そう言うとアンジェラさんは冒険者についての説明をしてくれた。
まず冒険者は自由をモットーにしている職業らしく、犯罪歴が無い限り比較的誰でもなれる職業だと。
冒険者になると『冒険証』なる身分証明書が渡されるとか、その際に特殊な魔道具を使用してランクを測り、冒険証に記載されるらしい。
ランクはS、A、B、C、D、Eの六つに分かれているらしく、ランクによって強さが分かるらしい。
中でもSランクは世界でも二桁程しか居らず、相当の実力者がSに相当されるらしい。アンジェラさんもSランクで数少ない実力者だと、確かに実力者に見合うのは実力者だよね。
そして最下位がEランクらしいが……記録が殆ど残されておらず、どれ程の実力なのか分かっていないらしい。記録も残らない程弱いという噂が広がり最下位になったらしいが。
ランクによる依頼制限は特に無いらしい。
因みに補足として、冒険者は職業だが『天職』では無いと説明された。
「天職?」
「はい、人が持つ才能です、職業は何になろうが自由ですが、天職はその者の能力を引き出す変えようのないモノです」
要約すると、天職が騎士の人は剣術が得意で魔術師の人は魔術が得意といったような能力の変化が見られるらしい。俺は知らん、冒険者になるついでに教えてもらう。
「アンジェラさんの天職は何なんですか?魔術使ってたし魔術師とか?」
「…………」
「アンジェラさん?」
何故かアンジェラさんの天職を聞くと反応してくれなかった、何か不味いことでも聞いてしまったのだろうか。
教えてくれないのなら仕方無いとそのまま森を歩いていると。
「フゴォッ!」
「のあっ!?」
突然目の前に猪が横切った。
猪は俺を一瞥してそのまま走り去って行った。
「何だ今の…………」
「リトルボアですね、お肉が美味しいと評判の魔物です」
「魔物……あれがか」
アニメやゲームで見たようなものと違ったが、まあ猪ぐらい居るだろ、魔物だし。
そんなことを考えていると、森の奥から地鳴りの様な地面を駆ける音が聞こえてきた。
「丁度良いですね、此処で貴方の実力を知って頂くとします」
「え?」
アンジェラさんは振り返りながら言ってきた。
そして俺の背後を指差して言った。
「あの大群を減らしてください」
とびきり綺麗な笑顔を添えて。
何という無茶振り、俺に何を期待しているというのか。
だがアンジェラさんの笑顔が見れた!歓喜!もう死んでもいい!
「はぁ……俺が死んだら責任取ってくださいよ」
「構いませんよ」
俺は猪の大群に向き合い、全力で拳を突き出した。
―――そして今に至る。
「確かに数を減らせと言いましたが、まさか拳一つで森を破壊されるとは思いませんでした」
猪を思いっきり殴りつけただけでこの威力、何だこれはたまげたな(白目)。
「多分誰も思わないと思います」
「でしょうね、貴方は私の思っていた以上の素質があります」
アンジェラさんの様な美女に褒められているというのにあまり嬉しくないのは何故だろう、あれかな?身内贔屓みたいな感じに見えるのかな?俺ってばどんだけ卑屈なのよ。そもそも褒められてるのか?
「まあある程度自分の実力は分かったでしょう?」
「本気、出す、ダメゼッタイ。手加減、する、ゼッタイ」
「何故片言なのかは分かりませんが、私の許可無しに本気は出さないでくださいね」
するとアンジェラさんは猪を鞄に詰めていった。
「って待てい!」
「はい?」
何平然と詰めてんの?説明も無しに何やってるの?馬鹿なの?死ぬの?
いや、漫画で読んだことあるな、魔法鞄とかいう容量無制限のチートアイテムか?
「便利ですよ、仕分けを勝手にしてくれるので取り出す時に漁る必要が無いので」
「そ、そうですか…………」
結局説明は無かった。
アンジェラさんが歩き始めたので俺も立ち上がり付いていく。
それにしても、まさか俺にこんな力があったとは、神は俺になんてものを与えてしまったんだ。バカジャネーノ?
「そろそろ街が見えてきますよ」
神に幻滅しかけていた時にアンジェラさんに声を掛けられた。
「……おぉ!」
森を抜けた先に見えたのは、豊かな草原だった。
晴天の下、草花が暖暖と生えている。素晴らしい景色だ、カメラがあれば良かったんだが、脳内に保存しておこう。
「あちらに見えるのがステラの街、私達が向かっている街です」
「あれが……思ったより大きいんですね」
大きな門に塀で囲まれている、防護施設としてはそこそこの部類だと思う。
「行きますよ」
「はーい」
やってきましたステラの街、人が多くてすぐにでも帰りたいです。あ、帰り方知らなかったわ。
と言う訳でフードで顔を隠す、コミュ障にこの空間はキツイ、言うほどコミュ障じゃないけど。
アンジェラさんの方を見るとアンジェラさんもフードを被っていた、アンジェラさんもコミュ障(仮)の様だ。
「先に忠告しておきます、あまり素顔を晒さない方が良いですよ」
「大丈夫です、他人とはなるべく関わらないで生きてきたので」
「……それは大丈夫なのですか?」
心配されてしまった、良いんだよ生きてけるんだから、友達は……い、居たし、居たんだからね!
そんなこんなで冒険者ギルド?とかいう建物の前に着いた。剣と盾の看板、分かりやすいね。
扉を開いて中に入ると、冒険者と思われる人達が騒いでいた。
が、一斉にこちらを向いた。
「アンジェラさん、注目されてるんですが」
「無視してください、カウンターへ向かいましょう」
流石アンジェラさん、慣れているな。
恐らくこの高級ローブを着ているのに目が行ったんだな、そういうのは無視安定と、気にしたらそこで試合終了って誰かが言ってた。
そのままカウンターに向かい受付嬢に話し掛ける。
「すいません、冒険者登録したいんですけど」
登録要請をすると、営業スマイルで対応してくれた。
「駆け出しの方ですね、こちらへどうぞ」
「どうも」
すぐ隣のカウンターに移動して先程アンジェラさんに聞いたのと同じ説明をされた後、登録用紙?の様な物を渡された、書けということか。
しかしそこで問題発生。
「……これって日本語でもいいんですかね」
会話が出来ても日本語が伝わらないかもしれないと思いアンジェラさんに聞くと。
「私が書きましょうか?」
と言われたので、アンジェラさんに代筆を任せてギルド内を見回す。
すると、殆どの冒険者が俺達……主に俺を見ていた。
何だ何だ、俺は見世物じゃねぇぞこの野郎。
「終わりました」
「はい……内容に間違いはございませんか?」
書き終わったらしいので受付嬢が再確認を行っている、横から覗き見ると。
「…………ん?」
字が読める。文字が日本語というわけではないが、理解できている。
名前はカスイ・オオガミ、年齢は17歳、男性、天職不明と、俺の事が書かれている。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
アンジェラさんの問いに俺が答えると、受付嬢が聞いてきた。
「天職不明というのは?」
「あ、えと、自分の天職を聞いてなくて……此処で確認出来たりしませんかね」
「天職を聞いていない?……あ、いえ、詮索は御法度でしたね、確認でしたらこちらへどうぞ」
個室へ誘導されたのでアンジェラさんと別れて部屋に入る。
「こちらの石版に触れて魔力を送ってください」
「あ、はい」
待っていると受付嬢が石版を持ってきたのでそれに触る、これも魔道具ってやつなのかな?
……魔力ってどうやって送るんだ?
しまった、どうすればいいのか分からないぞ、アンジェラさんはロビーの方に居るしどうしたものか。
「どうしました?」
「いえ、何でも…………」
流石に受付嬢に聞くのはちょっと……イメージしてみたら意外といけるかも。俺の身体から石版に力を送るように…………
すると石版に文字の様なものが光り浮かび上がった。
『管理者』
「管理者?」
これが天職か、どんな能力なんだろ。
「あぁ…………」
受付嬢の方を見ると、残念そうな顔をしていた。
「どうしました?」
「あっいえ、珍しい天職だなぁと思いまして」
「そうなんですか?」
管理者って珍しい天職なんだな、俺って運良いのかもな。
「それでは次にこちらの器に自分の血液を少量入れて頂いて宜しいですか?」
「はい、何に使うんですか?」
「これによってランクを測ります、それでは冒険証の発行をして参りますのでロビーにてお待ちください」
「ありがとうございました」
個室を出てアンジェラさんの下へ向かうと、厳ついスキンヘッドの……お兄さん?と何やら会話していた。
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
「何とか」
「舐めてんのかテメェ!」
何だあのレベルの低い会話(一方的)は、というかアンジェラさんも冗談言うんだな、性格が俺みたいにねじ曲がってるけど。
「どうしたんですか?」
「カスイさん、どうでしたか?」
「普通でした、何が起きるかちょっと期待してたんですけどね」
「それは何より」
アンジェラに報告していると、スキンヘッドのお兄さんが威圧的に話し掛けてきた。
「おい、この女の連れか何かか?」
「そうですが何か?」
「……チッ、見るからに弱そうな奴だな」
「は?」
は?
心の声と発する声が重なった瞬間だった。
おうおうおう、喧嘩なら買ったるぞこの野郎。
睨みつけるとアンジェラさんに肩を叩かれたので殴るのは止めておいた、ケッ、命拾いしたな!
(アンジェラさん、この人何なんすか?突っかかってきて無礼なんですけど)
(記憶にありません、私がSランクだという嫉妬では?)
(なるほど、ただの馬鹿と)
コソコソと会話していると首根っこを掴まれ宙に浮く。
「何話してんだオイ?」
「離せお、俺が何をした」
マジで何もやってないだろ、展開早すぎんべ。
色々と鬱憤が溜まっていたのでスキンヘッドの手首を掴みそのまま地に叩き落とす。
「ほれ」
「ッ!?」
スキンヘッドが驚いている隙にすかさず水月を突く。
「がっ…………!?」
「はぁ、面倒掛けんなよな」
倒れたスキンヘッドにそう吐きつけるとギルドの隅にあった椅子に座らせておいた。
一仕事終えて戻ると、アンジェラさんがジト目で俺を見ていた。
「え、何ですか」
「……やり方が極端ですよ」
「だって「言い訳しない」
反論しようとした瞬間に声を被せられた。解せぬ。
「これからは私の許可無く行動しないでください」
「え〜」
「約束してください」
「は〜い…………」
何を言っても聞いてくれそうにない、それに加え約束を取り付けられたので反論出来なくなった俺は頷くしかなかった。これが尻に敷かれるというやつか。
「カスイさん」
暫くすると背後から名前を呼ばれた。
「冒険証の発行が完了しました、貴方はこれで冒険者です」
「おぉ、これが冒険証…………」
先程登録用紙に書いていたものと殆ど同じ内容に、ランクの文字が載っていた。
『E』
「…………」
真顔で冒険証に目を通した。
うん、薄々勘付いてはいたよ、完全にフラグだよねって。
でもまさか本当になるとは思わないじゃんアゼルバイジャン、神は俺を裏切った。
「ほう、Eランクですか」
「みたいっすね」
アンジェラさんがSなのに対して俺はE、最上位と最下位の組み合わせとか前代未聞では。
しかしアンジェラさんは気にする事なく俺の冒険証に目を通す。
「管理者…………」
「あ、はい、どういう天職なのかよく分かりませんけど、珍しいっていうのは聞きました」
管理者というくらいだから何かしら管理するのだろうか、戦闘職ではなさそうだが。
「魔物使いの最上級職です、人だろうが魔族だろうが同意の上で従える事ができます」
「はぇ〜」
そうなのか、やっぱり戦闘職ではないみたいだな。
「色々と違う部分もありますが……また今度ということで、リトルボアの換金でもしてもらいましょう」
そう言うとアンジェラさんは換金のカウンターに向かうのでそれに付いていく。
今日一日色々あったな、目が覚めたらチミドロフィーバーだし、猪殴ったら森が消えるし、スキンヘッドに苛つかれるし、あれ?良い事あったか?
アンジェラさんに拾われただけ良かったとしよう。
「ちょっといいかい?」
「はい?」
受付に話をしようとした時に肩を掴まれた。
振り返ると平民の様な服装のイケオジが立っていた。
「えっと、何か?」
「君のランクについて少し話したいことがある、連れも一緒で良いから付いてきてくれないか?」
「は、はあ」
アンジェラに目配せすると許可が出たので付いていく事に。
連れてこられたのは何やら位の高そうな一部屋、執務室みたいな感じがする(主観)。
イケオジは向かい合ったソファの片方に座り、もう片方のソファに座るよう手を向けた。
お言葉に甘えて俺は座ったが、アンジェラさんは俺の側に立っていた。何で?俺と座るの嫌なの?それは無いか(自己完結)。
「私はカイン、このギルドのギルドマスターをしている者だ」
「これは御丁寧に……ギルマスだったんすね」
いや、言われれば確かにと納得出来るけども。
「ランクの話って言ってましたけど、どんな話なんで?」
「そのことだが」
するとギルマスは何やらメモ帳の様なものを取り出して問いに答えた。
「君には試験を受けてもらいたい」
「は?」
は?
心の声と発する声が重なった瞬間だった(二回目)。
試験?ナニソレオイシイノ?学校の試験とか俺の大嫌いなものなんだが?
「Eランクの情報は少なくてね、少しでも情報が欲しいんだよ」
「Eランクって弱いんでしょう?それでいいじゃないですか面倒くさい」
「そういうわけにもいかないんだよ」
本音を零すが、真剣な眼差しで俺を直視してくる、ヤメロォ!俺をそんな目で見るなァ!
ちくせう、このイケオジ引きそうにないな、面倒な事はしない主義なんだが。
「受けると何かあるのですか?」
アンジェラさんが問いかけると、ギルマスは勿論という顔で答えた。
「彼の事を私から伝えておこう、その方が君は都合が良いんじゃないか?」
「成程…………」
え?伝えるって何?何で二人だけ通じ合ってるのん?俺空気なのん?
目で居た堪れなさを伝えていると、ギルマスが質問をしてきた。
「君は何処から来たんだ?」
「あ〜…………」
アンジェラさんを見ると首を横に振った、適当に誤魔化せと。
「此処からは遠い場所から、アンジェラさんに拾われたのでちょっとした手伝いを」
完璧だ、これなら嘘発見器でもなければバレることはないだろう。
「アンジェラというのは、彼女の事か?」
「え、あ」
何という痛恨のミス、アンジェラさんと呼んでいるのは俺だけであって周りからは天使と呼ばれていたんだったか。
「はい、天使だと伝えると名を頂いたので」
どう答えようかと考えていると、アンジェラさん自身が答えてくれた。あれ?それでいいのか。
「……ふははは!面白い事を言うな、君がそんな人とは知らなかったよ」
急に笑い始めた、情緒不安定?というか何か誤解されてないか?
「まあ君が辺鄙な所から来たというのは分かったよ」
「辺鄙じゃないです、俺にとっては過ごしやすかったです」
「それは申し訳ない、それで?受けてくれるのかな?」
ギルマスから最終確認される。
試験か〜、嫌だな〜、何するかも聞いてないし、俺にメリットなくなくなくなくなくなくなくなくなくない?(要約:ない)
「良いですよ」
「ホワッツ!?」
アンジェラはん何言うてるの!?
「本当か?」
「ええ、面倒なので早く終わらせた方が良いかと」
「俺の意見は!?」
「無いです」
俺の人権は何処へ?
「それじゃあ早速始めようか」
「え?」
「かかってきな!」
「…………え?」
話が勝手に進んでいたと思ったら演練場のような場所に連れてこられ、屈強な男が目の前に立っていた。
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