琥珀眼の二人
リアルの友人……友人?に読み難いと言われたので行間空けました。辛い。
「…………あ?」
目が覚めると、見知らぬ場所に居た。
殆どがボロボロで今にも崩れそうだが、絶妙なバランスで状態を保っている廃墟だ。
俺は起き上がり辺りを見回しす。
「やっぱり知らない場所だな……おわっ!?」
自分の身体を見てみると、衣服から肉体まで血で汚れていた。怪我が無いことから自分のものではないのであろう。
「な、何だこれ、何でこんなに汚れてんだ!?」
初めてこんなに大量の血液を目撃したのもあって若干のパニックを起こしてしまった。しかしすぐに我に返り、着ている衣服を脱ぐ。
そこで気付いた。
「この服……俺のじゃないな」
血で汚れてはいるが、元は綺麗だったであろう白いローブ、ズボンは革製の頑丈なものだった。
俺の物ではない、寧ろ日本では見たことのない素材で出来ている。
「いつ着替えたんだ…………?」
いや、そもそも俺は何でこんな場所に?確実に日本では無いと思われるが。
記憶が曖昧……どころか全く覚えてないな。
取り敢えず臭いを落としたい、流石に血肉の臭いに塗れた状態で歩きたく無い。
「近くに川でもあるだろうか」
廃墟を出て近場の森を探して回った。
「お、やっぱりあった」
川を覗き込むと、そこには中性的な人の顔が映った。
毛先が淡い空色の白髪に琥珀色の光の灯っていない瞳。
「顔に変化は無いな…………」
そうなのである、毎日幾年も俺はこの容姿で過ごしていた。亜種とおちょくられることもしばしば。
親の顔と名前を俺は覚えておらず、気が付くとその地に居た。
偶然か必然か、通りかかった女性に拾われ約三年を世界各地で過ごし、十五になる頃に日本人に預けられそこから一年と半年を日本で過ごした。
「俺もよく頑張ったもんだ…………」
独り言を呟きながらローブを洗う、今過去を見返したところで得は無い、さっさと終わらせてしまおう。
しかし臭いもそこそこに、血は少し取れたぐらいで綺麗にはならなかった。
「やっぱり洗濯機で洗わにゃあかんかね」
仕方ないので絞って干す事にする。近場には日当たりのいい場所がないので廃墟に戻ろうと足を進めた時。
「…………ん?」
違和感を感じた、何だ?今まで感じたことが無いぞ?これは……視線?
違和感のする方向に目を向けると。
「……おや、気付きましたか」
俺と同じく、白いローブの女性が立っていた。
フードを被っており顔は確認できないが、声的に女性だろう、女性の象徴とも言えるモノが付いてるし。
「あ〜……誰ですか、ね?」
「これは失礼、私は《天使》と呼ばれる者です」
「天使?」
名前じゃなさそうだが、厨二病?なわけないか。
「天使さんは何故こんな所に?」
「偶然ですね、たまたまそちらにある廃墟に寄っただけですよ」
「はあ、そうですか」
偶然で廃墟に来たのか、まあ俺が知らないだけで結構有名な廃墟なのかもしれない。
「……あ、もしかしてこのローブって有名なものだったりするんですかね」
彼女が着ているということは有名なものである可能性が高い、だとすれば俺が持っていても何らおかしくは無い筈だ。絡まれたりもしないだろう。
「……確かに、稀少な素材で作られたと有名なローブですね」
「え゛っ゛」
何ですと?
「えと、お値段は…………?」
「相場価格で百万程度でしょうか」
「ひゃっ!?」
叫びそうになって思わず口に手を当てる。
ヤバい、そんな高級品持ってる奴が平然と歩いてたら絶対絡まれる。というか高級品を血で汚したとこを見られて尚怒られる可能性大。
冷や汗をダラダラと流していると、天使さんが声をかけてきた。
「宜しければ、その汚れ落としましょうか?」
「え、いいんですか?」
「ええ、これも何かの縁でしょうし、私も何度か経験していますから」
優しい、というかやっぱり絡まれたんですね。
お願いしますとローブを渡すと、天使さんはパチッと指を鳴らした。
すると、染み込んでいた血がどんどんと消えていく。
「おぉ……え、何これ、凄い」
ものの数秒で綺麗になった、ついでに天日干ししたかのように乾いている。
「ど、どうやってるんですか?」
「簡単な生活魔術です、練習すれば貴方も使えるようになると思いますよ」
「魔術…………」
……………………
「魔術!?」
「はい」
魔術が使えんの!?此処地球じゃねぇぞ!?まさか異世界転移でもしたっていうのか?
いや、だとしたら俺が此処にいる理由も転移したってことで相違無いのか?
あ〜……頭がパンクしそうだ、カンガエルノメンドクサイネ。
「どうしました?」
「あぁ……いえ、ありがとうございます」
ローブを受け取って羽織る、臭いもしないしベタベタしない、素晴らしい。俺も生活魔術覚えようかな。
俺が綺麗になったローブの着心地を堪能していると、天使さんが声をかけてきた。
「聞いても宜しいでしょうか」
「え、あ、どうぞ」
「何故貴方はこのような場所へ?」
その瞬間、ピシッと空気が変わったのを感じられた。
自然音が聞こえない、聞こえてくるのは俺と彼女の呼吸音だけだ。
そして、彼女から気迫のようなものが現れている。
「……俺は起きたら此処に居ました、経緯は覚えていません」
「そうですか」
「分かってくれないかもしれませんが実際何処だか分かってませんし魔法とか知らな……今何と?」
「そうですかと、別に貴方が何者かはどうでもいいので」
根掘り葉掘り聞かれる前に捲し立てようとすると、アッサリと信じてもらえた。いや信じられた訳ではないのか?
「気にならないんですか?」
「はい、今から私がする事に支障はないので」
「する事?」
廃墟に何かあるのかな?たまたま寄ったって言ってたしね。
すると天使さんは手をこちらに差し伸べてきた。
「私と共に来ていただけませんか?」
「…………はい?」
「ちょっと待ってください」
「はい」
数秒の沈黙の後、考えを纏めるためにステイを頼む。
天使さんは何か用があってこの廃墟に来た、その用が俺に付いてきてほしいと頼むこと?だったってこと?そういう事?ソウダヨー(錯乱)
「……何故俺なんですか?」
「個人的な理由も含まれますが……貴方、この世界の人間ではありませんよね」
「!?」
何故バレたし!?言っちゃなんだが俺の見た目はこの世界でも罷り通る見た目やぞ!
というかやっぱここ異世界なんですね。
「その反応は肯定ということで宜しいでしょうか」
「……そうですけど、何で分かったんですか?」
気になったから聞いた、俺ってそんなに地球人っぽい?
そんなことを考えていると、天使さんは当然といった表情で言った。
「この世界、貴方の様な『流れ人』が良く来るんです」
「ナガレビト?」
この世界で言う転移者や転生者の総称だろうか、あるやつでは勇者と呼ばれたりしていたが。
「此処ではない別の世界から来た者を『流れ人』と呼んでいるんです」
「はあ」
「『流れ人』はこの世界の人間よりも高い能力を保持している事から、王国内では『勇者』と呼ぶ方もいます」
あ、やっぱり勇者なんだ。
「ん?でも俺がその流れ人だっていう証拠は無いですよね?」
最もな疑問を口に出すと、口早に説明してくれた。
「状況証拠ですね、国王が召喚した『勇者』の内一人が行方不明、そして昨晩廃墟を出るまでは貴方は居なかった、つまりはそういうことです」
「ははぁ……って昨日も廃墟に居たんですね」
成程、俺はこの世界に召喚された内の一人で彼女はその俺を探しに来たと。
「って、俺の他にも日本人が居るんですか!?」
クワッと目を見開いて問い詰めると、天使さんにどうどうと宥められた。
「居ます、関係性は知りませんが」
「そうなのか…………」
ならその人達に会いに行ったほうがいいのかな。
「それで、貴方が選ばれた理由ですが」
待ってましたと言わんばかりに俺は息を飲んだ。
「『流れ人』で且つ実力を持った人が私には必要だったので」
「実力を持った人……俺が?そんなバハマ」
「私の見立てでは城に居る人達よりは慣れていると思いますが」
「…………」
この人は俺の何を知っているというのだろうか、気味が悪い訳ではないが。寧ろ女性に個人情報知られてるとか光栄の極みでは?まあストーカーとかは御免被るけど。
「もう一度聞きます、私と共に来ていただけませんか?」
正直俺にメリットがない気がする、実力って言うなら城に居るらしい人が強くなるのを待ったほうが強くなると思うが…………
うん、何でもいいや。
「俺は何をすればいいんですか?」
分かったと返答する様に内容を聞くと、天使さんは驚いた様に口を噤んだ。
「……何ですか」
「いえ、ここまで簡単に乗ってくれるとは思っていなかったので」
「貴女が頼んできたんでしょうが…………」
「前のカイとは……いえ何でも」
何か気になる事を言ってたように見えたが、聞こえなかったので気にしないことにする。
「貴方……名前は何でしたか」
「あ、俺は大神禾翠です、禾翠とでも呼んでください」
「カスイさん、貴方には私の目的を達成する為のお供として連れ立って頂きたいのです」
ふむ、護衛になってくれということか……この世界で死んだらそのまま死ぬのかな、やっぱ拒否しとけばよかったかも。
「目的ってのは?」
「それはお答えできません、ただ人手が必要であるということは言っておきましょう」
ふざけもせず真顔で答えられた、企業秘密と言うやつだろうか。違うな。
「じゃあ交換条件で、貴女の目的が達成出来た場合は俺の目的達成の手助けをしてください。もし貴女の目的が達成出来なければ手助けしなくてもいいですし、都合の悪い状況になれば切り捨ててもらって構いません」
指を立てて俺は言う。
それに天使さんはふむ、と顎に指を添えて頷いた。
「分かりました、お互い不要な詮索は無しということで」
「了解です」
流れるように契約成立。何という作業、俺じゃなきゃ騒いでたね。
そこでふと天使さんの顔に目が行く。
「顔見せてもらっていいですか?気になったもので」
「これは失礼、自慢出来る様な容姿ではないもので」
気になったので聞くと、天使さんはフードを外してくれた。
「…………!」
俺は目を見開いてその姿を目にした。
洗い立てのように清潔な肌に透き通るような長い空色の髪、それに加え俺と同じ琥珀色の瞳を持っていた。
「どうしました?」
余りに変な顔をしていたのか、天使さんが声をかけてきた。
「あ、いや、えっと、綺麗だな〜と…………」
顔を背けながら本音を口走ってしまった。何言っちゃってんだ俺!
キモかったかな?と思いながら恐る恐る天使さんを見ると。
「…………」
目を少し見開き、口は閉じ眉を顰め……どう反応すればいいか分からないような顔をしていた。笑えばいいと思うよ。
「ありがとう、ございます?」
「何故疑問符……いえ、気にしないでください」
寧ろ忘れてください、完全に黒歴史行きなので。
「えっと、名前は?」
少々気不味くなったが、聞いていなかったと思い聞いてみることにした。
すると天使さんはキョトンとした顔になり、少し考えた仕草をして答えた。
「私に個体名はありません」
「え、そうなんですか」
名無し……いや、天使が名前代わりだったのか。だとしても名前らしい名前が欲しいところだが……
「アンジェラっていうのはどうです?」
「アンジェラ、ですか?」
「はい、名前で呼んだほうが良いと思いまして」
アンジェラとは、ギリシャ語で言うところの神の使者、つまり天使のことである。天使と呼ばれていたらしい彼女にはピッタリだと思う。
パッと浮かび上がる俺マジ主席、まあ偶然調べただけなんだが。
「…………変わりませんか」
「はい?」
「いえ、ありがとうございます」
「え、あ、はい」
ボソボソと口にしていたので聞き取れなかった、まあ感謝されてるなら良いかな。
するとアンジェラさんは手を差し伸べてきたので俺はそれに応じて握手する。
「ではカスイさん、宜しくお願いします」
「こちらこそ、宜しくお願いします」
手を放すと、アンジェラさんに誘導される形で森を歩き始めた。
最初は戸惑ったが適応すればどうということはない、帰ろう、なるべく早くに。
「そういえば、今から何処に?」
「街へ、冒険者登録をしておくと便利なので」
「はあ」
やはり冒険者というものが存在しているのか、ランクとかあったりクエストやったりラジバンダリ。
あ、でも入会試験みたいなのがあるラノベもあるよな、大丈夫だろうか。
「そうそう、先に言っておきます」
「はい?」
忘れていたとアンジェラが顔を向けずに話してきた。
「なるべく本気は出さないでくださいね」
「は?はあ、分かりました」
それだけ言うと、黙りこくって歩き始めた。
本気を出すな?なぜなにナデシコ?まあ本気出さなくていいなら楽で良いんだろうけど、何の話だ?
この数十分後、アンジェラさんの言っていた意味が分かった。
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