僕の吐露
僕の名前は皐月鷹人。どこにでもいる平凡な大学生だ。
父はサラリーマン。母は専業主婦。高校生の妹は部活のテニスに夢中。特筆するようなことはあんまりない。
そんな僕の話を、少しだけ聞いてほしい。いや、聞くというかこうしてただ文字にしたためるだけで、誰に見せる意図はないんだけど。誰にも話せないけど誰かに話したいという僕の欲求を叶えるために、こうして話しかけるような手法を取らせて欲しい。以上言い訳おわり。
では本題だ。
どうやら僕には、前世というものがあったらしい。
あっ、待って。ごめん。この時点で引くのはやめてほしい。気持ちはわかるけど。僕も前世とか言い出す奴が現れたらなんの詐欺かあるいは妄想かと疑う。それがわかっているからこそ、こうして誰にも話さず文字にしてるわけなんだよ。わかるか?
話を戻そう。
僕には、前世があったようだ。と、僕はそれを一週間前に思い出した。
夕飯を食べたあと、頭痛と寒気がして熱を測ったら三十九度の高熱で、翌日病院に行って検査をしたらインフルエンザだった。
僕は仕方なしに学校を休んで、自室のベッドの中で熱と戦っていた。そうしているうちに、何か強いデジャヴュを感じたんだ。
あっ、僕は前にも、熱で倒れたことがある──と。
もちろん、生まれて二十年経つのだから、熱くらい出したことはある。けれど、今回の思い出し方は少し違ったのだ。
僕は、街が火に飲まれ、焼け落ちる感覚を知っている。
僕は、喉が乾き、身体が寒くて暑くて、息苦しくて、眠りに落ちる感覚に安らぎを覚えたのを知っている。
それは、僕の──皐月鷹人の記憶でないことを、僕は知っている。
知って、いたんだ。
つまり、早い話が高熱を出している時に街が火事になったという話が僕の前世の終わりだった。
起きたら暖房が三十度になっていて、リモコンが枕の下に埋まってた。そりゃ暑くもなるよな。
かくして、僕はその日から自分の前世を少しずつ思い出していく。
これが、僕の悲劇──あるいは喜劇の──始まりだ。