帝国の思惑 3
ルナ皇女が口に出した言葉に僅かに眉を挙げて反応する龍母達
「アエルや、カテリーナとはあの小娘のことかや?」
「カナンや、おそらくそうであろう」
「アンゼリカの後ろで小さく震えて負ったあの小娘が今は人族の
守護者となりおったか」
「我が子を付けてやっておったが代々の慣わしであるからのう」
「主様、人族の事などほっておいても宜しいのではありませぬか?」
グリウスは龍母達の言葉に僅かに安心しながら
「恐れながら申し上げます、ルナ皇女様
何が起ころうと絶対に触れてはいけない理が御座います
こちらのお方達や森においでの女神様方で御座います
大賢者となりましたこのグリウスの最初の諫言に御座います」
「何、グリウスとやら帝国第二皇女ルナの対して諫言すると申すか!」
真っ赤な顔をしながら、ルナ皇女はグリウスに対して怒りを発する
たかが大賢者一人切って捨てようかと思いこむが
「まあ、落ち着けって
そもそもの話、帝国側はグリウスの引き取りにのついでにおれの機嫌を取って
森に入れるようになりたいってことだろう?
えーと、ロバートだっけか?
それでいいんだろ?」
急に話を振られたロバート公爵は、慌てて
「さようなことはございませぬ
グリウス殿を迎えに参り、森の主様にご挨拶できれば更に喜ばしい事と
皇帝はお考えで御座いました」
「ほう、公式の訪問理由としては正にその通りだな
だがルナと俺を仲良くさせようの方は失敗したようだが?」
ロバート公爵はいきなりの発言に
「なにをおっしゃられますやら
その様な事は御座いませぬ」
「今の発言、間違いないな
ここに居る全員が聞いたな?」
振り向くと龍母達は頷き、グリウスも青ざめながら頷いている
ルナ皇女は真っ赤な顔のまま頷いている
「ならこれで終わりだな
そちらの要件は終わったはずだ
借りていたグリウスはこの通り返したぞ
それともまだ何か言いたいことがあるのか?」
「私に…私に無礼を詫びなさい」
ルナ皇女が真っ赤な顔で呟いた
小さな声ではあったが確かに全員に聞こえた
それは小さな呟きではあったが
帝国側に取っては青天の霹靂の様な呟きであり
龍母達に取っては無礼極まりない呟きであった
帝国側はルナ皇女から目が離せず
龍母達は俺から目が離せない
「そうか、人の世なれば帝国の皇女に対しての礼儀が足らぬ
無礼を詫びろというのだな?」
「どの様に詫びれば良いか教えてくれないか?
頭を下げればよいのか?言葉で詫びれば良いのか?
ロバートよ俺に教えてくれないか?」
そうロバート公爵に聞くと公爵が答える前にルナ皇女が
「その態度が無礼と申すのです
ロバートはわが父である皇帝陛下の弟であります
即ち私の叔父であり、皇族の一員
その方らのき易い態度は余りに無礼千万ではありますまいか」
それを聞いて龍母達が怒りを露わにしてゆく
「小娘よ、我らが主様の御前にて良くぞそれだけの口上を言えたものじゃ
その気概は褒めて遣わそう
確かに帝国の威信に傷を付ける訳にはいくまいのう
じゃが、我等にもその気概はあるのじゃ
そなたらの行動によって帝国は失われる
その覚悟はあるのじゃな?
答えよ!小娘!」
正直言って何が起こっているのかわからない
私は帝国皇女としての権威を傷つけられた
たかが同年代の男と奇麗なだけの女二人
大賢者グリウスは私に引けと言う
叔父様を見ると真っ青なお顔のまま、真っすぐに私を見ている
奇麗なだけの女は帝国が失われると言う
ならばここで無礼者を成敗してやろう
「無礼者め、この帝国第二皇女ルナが直々に成敗してくれるわ!」
腰に下げた剣を引き抜くと三人に向かって剣を突き付ける
男は目をつぶったままで立っているし
女達はその男が何も言わぬことに気にしながらも
「そうか、その覚悟間違いないようじゃな
ならばせめてもの情け、一撃にて始末してやろうぞ
生きているうちに帝国が滅ぶのを見ずに済むであろう」
「我らの姿を見ながら死ねる事を光栄に思うがよい
我らとて真の姿を人族に見せるのは2000年ぶりじゃな
ほっほっほっほ」
そう言った途端に女二人は金色の光に包まれて金色の光が裂けたと思った
瞬間に現れたのは二匹の龍であった
カテリーナ様が従える竜は二匹
稀に帝国に顕現される
私もお姿を拝見させて頂きなんと神々しいお姿と思っていました
お話をお伺いすると、神龍様方より守護者に付き従う様にと付けられた
二匹の竜であると
あの竜でさえ我が帝国に倒せる者はおらぬでしょう
その竜を遥かに超える龍
あれが伝説の神龍様
まさかその神龍様を従えている
あの伝説は本当のことだった…
そう理解した瞬間に私は力が抜けてしまいました
そう、腰が抜けてしまったようです
しかしながら腰が抜けました、ごめんなさいでは済みません
わたしの一存で戦いを始めてしまったのです
神龍様のお怒りなら正に一撃にて帝国を消し去るでしょう
何という愚かな判断
私は自分なりに決して愚かな皇族ではないと思っておりました
ただ私が馬鹿にされる即ち帝国が馬鹿にされる
それは許せないことです
その為に剣を抜き、戦いを挑んだのです
たかが三人の平民と侮って…




