帝国の思惑 1
対岸から梟が飛んで来る
主様の肩に留まると耳元で囁く
「そうか、帝国から迎えが来たか
グリウス、お前の迎えが来た様だぞ」
「お待ち下さいませ、主様
まずは我等がお相手致します」
「え、お前らが来るとめんどくさい事になるから
俺とグリウスだけで行こうかと思うんだけど」
「またその様な事を
帝国が何を考えておるやら分かりませぬ
主様に何かあれば大変で御座います」
「んー俺になんか出来るの?」
「いえ、主様に傷一つ付ける事は出来ませぬが
何かあれば大変ですので我等が露払いをば」
「だってお前らが来ると五月蝿いだろう
グリウスを返すだけなんだから簡単じゃねえか」
「まあ、この10日程でグリウスもすっかり大賢者らしくなりましたが
まだ不安が残ります
せめて誰かをお供にお連れ下さいませ」
辺りを見渡すと3人の女神ーズと神龍母…
ちょっと待て、なんでテレビが下に降りてんの?
神龍達が住処に持って行ったんじゃないの?
「あ、いえ、これはですね
丁度面白い所ですので仕方なくですね」
神龍母と女神ーズは俺と話しながらも
画面を見て居る
「ホウ、俺の話よりテレビの方が面白いか
お前ら皆国へ帰っても良いんだぞ
俺は困らないからな」
「いえ、主様のお世話をするのは我らの勤めで御座います
ただちょっと時間が悪いというか
このドラマというのが大変面白くてですね」
「分かった、終わるまで待ってやる
てか、何を見てんだ」
「はいこれは「欲情するは我にあり」と申すドラマに御座います」
「何!変な題名だな
俺が知ってるのとは違う様だが」
ダメだコイツら聞いちゃいねえ
なんだその変な題名のドラマは
見る気はしねえが何でコイツら泣いてんの?
題名からして泣く場面はありそうに無いんだけどなぁ
グリウスは不思議そうにテレビを見ている
「主様、これは何で御座いますか?
テレビとか申されておられましたが
この様な四角い板の中に人を閉じ込めて劇をさせるとは
このグリウス、まさに恐れ入りました」
コイツもダメだな
あれ、猫耳と黒髪が居ねえぞ
「おい、あつらどこ行ったんだ?」
「あ、あれらはあの、買い物に行っておりますので」
「ん、買い物なんてする必要があるか?
不自由してない筈だが」
「主様、我等には必要な物があるので御座います
主様のお世話を完璧にする為に必要な物で御座います」
そう言われれば引き下がるしか無いが
コイツら碌な事考えて無いんだろうなぁ
「主様、大変お待たせ致しました
申し訳御座いません
それでお供ですが誰に致しましょうか?」
「いあ、それこそ誰でも良いんだけどなぁ」
「それでは龍母をお供にお連れ下さい」
「ん、お前ら来るの?」
「はい、我等久しく森から出ておりませぬので
主様のお供がてら散策などしたいと存じます」
「散策ねぇ、どこでもかしこでもブレスかますんじゃねぇぞ
危なくって仕方ねえからな」
「何を申されますか
我等全員集まってブレスをしてもそのお身体に傷一つ
負わすことも出来ぬ事をご存知でしょうに」
「俺じゃねえよ
森の動物達が難儀するって事だ
前に仔龍の訓練って言って山一つ消しちまったじゃねえか」
「あ、あれは申し訳ありませんでした
主様が安全な訓練場を造って下さったので
もはやあの様な事は御座いません」
「そうか、なら良いが両方来るのか?」
「はい我等お供させて頂きます」
では参ろうか
森の端まで歩いて来てみると
帝国が建てたのか新しい屋敷の様な物が出来ている
「主様、私達が送って参りましょう」
神龍母達が送って行くと言う
心配する事も無い
3人で森から出て屋敷に向かっていると
屋敷から騎士達がゾロゾロと飛び出して来たみたいだ
グリウス達の前に立ち塞がる様に整列すると
最後に貴族みたいなのが出て来た
「お止まり下さい
グリウスと森の方とお見受けするが
お間違い無いかな」
グリウスは跪き
「これは公爵様
何故にこの様な場所へ?」
「陛下より申し付けられて
其方を迎えに参ったのじゃ」
「これはありがたき幸せに存じます
紹介させてください
こちらに居られるお方は
皇帝陛下の弟に当たるロバート公爵様と申されます
是非、お見知り置き下さいます様」
「ほう、人の王の身内であるか
ロバートと言えばそんな名の臆病者がおった気がするが」
「ああ、剣を持ったまま腰を抜かしておりましたな
私も覚えがありまする」
「あの男は竜の谷で鱗拾いをしていたらしいが
運悪く我等が通りかかってしもうてな
可哀想な事をしたのじゃ」
「あ、あのお二人の事を紹介させて戴いて宜しいでしょうか?」
「おお、そうであった構わぬぞえ」
「では、公爵様こちらのお二人をご紹介させて頂きます
人の世界の名前でアエル様とカナン様と仰られます」
「妾がアエルである、よろしゅうにの」
「妾はカナンと申す、同じくよろしゅうに」
「おお、アエル殿にカナン殿じゃな
グリウスを送って頂き誠に世話になった
森の中の暮らしはご不便では無いかな
何か必要な物があれば遠慮無く言ってもらいたい」
「何、森の中の暮らしは不自由な事など何も無い
あのお方のお側に仕えさせて頂けるだけでこれ以上の
喜びは無いわ」
「誠にのう、あのお方のお側にて仕えさせて頂ける事こそ
我が一族の最大の使命じゃ
グリウスよ、其方もあのお方よりお力を賜ったのじゃ
くれぐれもその力間違った事には使わぬ事よ」
「は、その事に関しては間違いなくこの身に刻んでおりまする
皆様方の教え、この世の為に使いまする」
「グリウスよ、何やら良く分からぬが何か森の方より頂いたのか?」
「はい、公爵様 私グリウスは大賢者となりまして御座います」
「なんと!大賢者とな!
大賢者などとは帝国の歴史始まって以来誰も到達出来ぬジョブ
それを森の方から授かったと申すか」
「仰せの通りに御座います
大賢者となった我が身、森羅万象の全てを見通す力を授かりました」
「大賢者ともなれば陛下の元で帝国の行く末に進言をする立場になろう
なんと素晴らしき事、これで帝国も安泰であろう
我すら言葉を改めねばならぬ事じゃ
これよりはグリウス殿と呼ばせて頂こう」
「公爵様、勿体ないお言葉で御座います
このグリウス、帝国の為にこの身を捧げましょう」




