色々な思惑
「それであのお方とやらは、グリウスを連れて行ったのか?」
「はい、連れて森の中に入って行きました
それは騎士団により確認済みで御座います」
「ふむ、これは帝国にとって良い兆しかも知れんな
上手く行けば、肉が獲れるようになるかも知れんな
それ以上にあのお方とやらが帝国によしみを通じてくれれば
他国を引き離し、優位に立てるチャンスになるでは無いか」
「仰せの通りかと
ただ、グリウスがうまく纏めればの条件が付きますが」
「確かにな、あれは箸にも棒にもかからん男だから
果たして如何なるやら
せめて悪感情を帝国に持ってもらいたくは無いのだがな」
「以前に召喚については出来るだけ控えるようにと
お申し付けが御座いましたが
現在では召喚よりも魔法やスキルに重点を置いておりますで
その辺りはグリウスも承知の筈
曲がりなりにも賢者でございますからには大きな失敗は無いかと?」
「うむ、取り敢えずグリウスの戻りを確認出来る様にしておく事じゃ
決して手向かったり、逆らったりするでないぞ
これ以上の罰はゴメン被る
森に入れ無くなって1000年以上だが
今だに我が国の失策と他国からネチネチ言われるのでな」
「しかし、あのお方
見た目は12、3歳程度の少年であったとの事ですが
なんとか此方に引き込むかせめて味方になって頂ければ
帝国も安泰なんでしょうが
此処は歳が近い第二皇女様をお迎えに向かわせて
さりげなく会わせて見てはいかがでしょうか?」
「うむ、それはわしも考えたのじゃ
あの子は、神国に遣ろうと思っておったのじゃが
考えものよのう
うまく行けば神が我が国の縁戚になる
子供が出来れば、まさに神の子じゃ
帝国は安泰じゃのう」
「まさにその通りで御座います
早々と準備など進めて見ては如何でしょうか?」
「その方に任せるでな
万事、うまく計らうようにな」
「は、仰せのままに」
帝国内では何やら危なげな計画が進行し始めたらしい
グリウスは森の中をあのお方と歩いていた
伝説では、遥か昔に癇癪を起こして今後森には人は立ち入らせぬと
怒ってそれ以来人は森に入れず、動物を狩ることが出来なくなったらしい
そんな事がと思うのだが、実際森には入れない
近づいても森の周りを回るだけで中に入ることは出来ないのだ
森からたまに出てくる動物を狩ったときだけ肉が手に入る
だがその肉も献上されて我等の口には入った事は無いのだが
そんな事を考えながら歩いていると
「グリウスとか言ったな?
最近の帝国は如何なんだ?」
いきなり聞かれて返事に困るが
「は、以前申されましたように召喚は行っておりませぬ
お申し付けは守っておりますのでどうぞ滅ぼしたりしないで下さい」
「馬鹿野郎、誰がいきなり滅ぼしたりするんだ
それより生活は如何なんだ?」
「私は、まあ宮仕えですので十分ですが
民はなかなか苦しいとこもある様です
冒険者がダンジョンで魔物を狩ってきますので
肉などはそこそこ出回ったりしますが森の動物の肉は手に入りませぬ」
「まあ、そうだろうな
魔物の肉は美味しいのか?」
「これは魔物の種類と言いますかランクによって変わりまする
低級な魔物の肉は美味いとは云えませぬが
難易度が高い魔物の場合、非常に美味いと申します」
そんな話や政治経済の話などをしながら進んで行くと
大きな湖の辺りに出た
その辺りには、小さな家が集まっている
見れば如何やら此処は獣人の村らしい
あの方を見つけた獣人が村に向かって声を掛けると
あちこちから獣人が出てきてそれぞれが跪いている
「ああ、堅苦しいのは止めだ
テレサは居るか?」
その声に、
「主様、テレサは此処におります」
そう言いながら走って出てきたのは狼獣人の女だった
側に居る私に警戒しながら
「主様、その人間は?」
「ああ、コイツか。コイツはグリウスと言ってな
さっき森の外まで散歩に行って見つけて来た」
「その様な拾って来た様な言い方は如何かと存じますが?」
「まあ、いいじゃないか
それより子猫を返しとくわ」
そう言って懐から仔猫を取り出し狼獣人に返した
「はい、確かにこの仔は返して戴きました
お散歩は楽しかったでしょうか?」
「おう、人も拾ったしな」
私は拾われたのか…
山口、みちしお食堂にて




