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030 再戦

 食卓に案内されるが王女の姿はない、フラニフさんに聞いてみるが、彼女は軽く食べてすぐに抗体のほうに取り掛かったらしい。

 俺達は呑気にしてていいのかと思うもの今はただ彼女を待つ事しかできないのが歯がゆい。

 ここ数日はまともに寝ておらず、聖火祭では王家から出席するよう言われているため多忙に多忙を極めているようだ。

 王女曰く、自分は王家より研究者のほうが向いているのだとか。


「で、できました~……」


 それから数時間後の事だった。

 ちょっと突けば倒れそうなほどに疲弊した王女は、しかし嬉しそうに小瓶を掲げる。


「おおっ!」

「なんとか間に合いました……。あとはこれを巨大魔力石に浸透させれば聖火祭で国民に抗体が注がれます」

「それでは移動いたしましょう。お嬢様は少々お休みになられたほうが」

「事が済むまでは休んでいられません。公務もこなさねばなりませんので、このまま聖都へ赴きます。フラニフは彼らの手助けをお願いします」

「しかし……」

「私は大丈夫です、ご心配なく」


 白衣とマスクを取り、研究者から王女へと切り替わった。

 水路に出て、ここで一旦お別れとなる。

 俺達は図面を頼りにもう一艘の船を用いて移動だ。


「後はお願いいたします。シマヅ様に頼りきりなのも王女としていかがなものかとは思いますが……」

「まあ任せてくださいよここは」

「奥に進めばここよりも広く左右に通路のある水路に到達します、聖都の付近である目印でもあります。お気をつけて」

「ええ、そちらも」


 船を漕ぐのは初めてだが、やや遠回りになろうとも水の流れに沿って道を選べば楽に聖都付近まで近づける。

 漕ぐというより櫂をうまく使って横向きにならないよう調整するだけでいい。

 水の流れが逆であってもそれほど大した事はない上に船の後ろには魔力石がつけられており、魔力を注ぐと風を発生させてまるでエンジンボートのように移動できるため特に苦ではない。

 そうして暫く進んでいくと左右には通路のある水路へと到達した。


「図面からすればこの先すぐですね」

「よし、早いとこ終わらせ――」


 刹那――左側の通路から、何かが飛んできた。

 俺は櫂から手を放し、ハスを引き寄せた。

 ハスのいた場所にはいつだか見たワイヤー銃の先端が突き刺さっていた。

 ……あいつに違いない。


「惜しい~」

「……パニアか」


 ワイヤーが戻った先に彼女の姿があった。

 腰に下げているのは魔力石を用いたランプであろう。付近を照らしているが彼女以外の人影はない。


「くくっ、生きていたとは……驚いたよ」

「天国はどうやら満席だったようでね。予約だけして戻ってきたよ」

「どうやって生き延びたのかは知らないが……考えられるに、王女か? 奴なら抗体を作れるかもしれないと危惧していたが、その様子からすれば……」

「まあ、そういう事だ。いやあすごいねこの国の王女は」


 そっと船を寄せて通路へと出る。

 ハスを後ろへと避難させ、剣を抜いた。


「スカル様が天国病を巨大魔力石に打ち込んで聖火祭が始まれば、この国はおしまいだ。無駄な努力だよシマジュちゃん」

「その前に抗体を打ち込むさ」


 聖火祭が始まれば――か、その言い方から察するに打ち込んだらすぐに天国病が拡散されるわけではないのだな。


「ふぅん、やってみるがいいさ」

「しっかしお前、クオン達といた時と全然雰囲気違うよな。あいつらが見たらどう思うか」

「あんなカス共の事なんかどうでもいいわ」

「そんな冷たい事言うなよ」


 少しずつ歩み寄る。

 ある程度距離が縮めば、仕掛けてくるだろう。

 その一瞬を、見誤らずにこちらも仕掛けたい。


「あらごめんなさい、冷たかった分貴方のフレイムで暖めてあげたら?」

「俺のは暖かいというより熱いからなあ」

「そう、じゃあ焦がさないように注意して……ね!」


 ワイヤー銃が放たれた。

 ――通路の幅からして横へ避ける余裕はない。真正面から俺は受けると共に、後方のハスも気遣わなければならない。

 剣で一度受け、壁側へと弾いた。

 パニアはすぐにワイヤーを引いて回収すると同時に、俺も更なる前進をする。

 軽い舌打ちと共に、パニアは腰から小剣を取り出す。

 天国病で何度か死んで魔力の器が広がったおかげか、以前よりも相手の動きが確実に見えるようになっている。

 死ねば死ぬほど強化されるっていうのも、まったく……嬉しくない力だよ本当に。


「フレイム!」

「くっ!」


 彼女には直接は当てない、すぐ右手の水路へと放ち、水しぶきを上げる。

 目くらましだ、小剣も正確には捉えられないだろう。

 それでも頬のあたりには小剣が振られ、辛うじて避けると同時に俺は剣を振るった。

 刃の腹の部分を向けているために斬るのではなく打撃――パニアの腹部を捕らえ、彼女は口から唾液を吐くも、すぐにその口端は吊り上がった。

 ……何故、笑ってる?

 その時、パシュン――と、発射音が聞こえた。

 脳裏を過ぎるは、ワイヤー銃の向けられた先にいる者――狙いはハスだ!

 左手を伸ばしてワイヤーを掴んだ。


「ぐぅぅ!」


 摩擦で手の中が燃えるように熱くなるも構わず俺は、そのままワイヤーを引き込む。


「ハスを、狙うな!」

「ちっ、甘ちゃんがぁあ!」


 小剣を、刃の部分を指で挟んで持ち替えていた。まだハスを狙うつもりだ――


「フレイム!」


 彼女の真下へと放つ。


「があっ!」


 軽く体が浮いたところで、俺は渾身の一撃をお見舞いした。

 もう一度腹部に、刃の腹の部分を当てる。


「おごぉっ……!」

「斬り殺してもよかったんだけど、ハスの前だから勘弁してやるよ。まあ、死ぬほど痛い思いはしてもらうけど」


 そのまま、壁に叩きつけた。

 我ながらハエ叩きみたいな戦い方だな、なんて思いながら。

 パニアは顔面を蒼白させて嘔吐し、腰が砕けてずるずると地面へへたり込んだ。

 いいところに入った、相当苦しそうだ。ざまあみろってんだ。


「ハス、大丈夫だったか?」

「は、はい! この方はどうしましょう……?」

「ワイヤーで縛り付けておくか」


 自分の武器で縛られるのはどんな気分だパニア。


「シマヅ様、お手のほうは大丈夫ですか?」

「これくらいは大丈夫さ、つばつけとけば治る。それより早く行こう」


 パニアは後で引き取ってもらうとして、目的地に一秒でも早く向かわねば。


「次の左側への通路ですっ」

「おう!」


 ランプの光だけでは視界がやや不良、慎重に進まねば。

 角で一度止まり、足元の確認と進行方向の状態を見る。

 地上への通路があるようだが、人影があるな……。

 俺達の戦闘を聞いて警戒態勢に入っている。

 敵は少人数なのだろう、王女の襲撃でもそうだったがそれほど数で動く組織体制ではないようだ。


「二人か……持ってる銃は、小型のものだな。突っ込むから、しっかりついてきてくれ」

「は、はいっ」

「――フレイム!」


 通路に出ると同時に、フレイムを水路へと放つ。


「もういっちょ、フレイム!」


 敵が銃を向けると同時に、フレイムを拡散するように薙いで発動する。

 熱風を前にしては真正面では構えられないだろう。

 水しぶきも相まって視界は最悪のはず――例によって人間相手には刃の腹をお見舞いする。


「よしっ!」

「お見事ですっ!」


 敵を縛って動けないようにし、とうとう地上への通路までたどり着いた。

 懐に入れている抗体も無事だ。あとはこいつを巨大魔力石へと打ち込むだけだ。

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