026 夢か現か、はたまた天国か。
「――生哉、どうしたんだ? ぼうっとして」
「……あれ?」
見覚えのある、食卓だ。
テーブルには食欲のそそる香りと、ほどよくきつね色になっているパンと目玉焼き、それに日本のウィンナーとサラダが綺麗に皿に盛り付けられていた。
隣の席は空席だが、写真立てが置かれている。
それを見ると、母さんが映っていた。
誰に向けたか分からない微笑みを浮かべている。
「食べないのか?」
父さんは、威厳のある雰囲気ながら、微笑みを見せていた。
そんな父の表情を見たのは、いつ以来なのか覚えていない。
俺は……何をしていたんだっけ。
服は、学生服? 高校時代? 高校生だったのは……何年も前だった、ような。
「あらあら、どうしたの生哉君、食欲ない?」
そこに現れたのは、義母だった。
今にして見れば、綺麗な人だった。父さんとの馴れ初めはどのようなものだったのか、それすら聞いていないが時期的には母さんが亡くなって一年ほど経ったあたりか。
まあ、そんなのはどうでもいい。
「いや、食欲は……ある。いただきます」
パンに目玉焼きを乗せて、齧る。
こういう食べ方なんて、した事あったかな。
そもそも朝の食卓をこうして三人で囲むなんて事自体、なかったような。
「学校のほうはどう?」
義母が、心をほぐしてくれるかのような、優しい笑顔を浮かべて問いかけてくる。
学校。
……学校か。
どうしてだろう、嫌な単語で、嫌な思いでしか浮かばないはずなのに、不思議とそんな感情と記憶が湧いてこない。
「……別に」
「生哉の事だ、心配ない。蓮江も心配性だったが、お前も中々の心配性だな」
蓮江――母さんの名前だ、父さんの口から直接聞いたのは久しぶりな気がする。
「蓮江さんと貴方の息子だから、心配ないのは分かっていますけど……私の息子でもあって、息子に気を掛けるのは母親として当然なのですよ」
「そう、そうだな」
何だろう、夢を見ていた、ような。
……見ていた?
いいや、これが夢だ、そうに違いない。
俺の現実が、こんなに幸せな一日の始まりみたいなものじゃあ……ない。
「いつかは、母さんって呼んでくれると嬉しいわ。すぐにじゃなくていいの。ほら、コーンスープもあるから、温かいうちに」
「あ、ありがとう……」
コーンスープの濃厚でまろやかな味と、温もりが口の中に心地良く広がっている。
場所は移り、学校に。
クラスメイトは誰もが優しくて、居心地の良い学校生活を送れた。
おかしい……こんな学校生活なんて、送れるはずがない。昼休みだって一人で過ごす事が普通だったのに、どうして周りには笑顔でクラスメイトが囲んでいる?
でも……悪くない。
幸せだ。悔いの残る日々だったから。
「……まるで天国だ」