024 パニア
「ねえクオン」
「なんだ?」
システィアはシマヅ達が向かった方向を見ながら、問いかけた。
「この依頼、信用できるの?」
「ん? 別に大丈夫じゃないか? まあパニアが持ってきた依頼だけどさ」
彼女は顎に手を当てて、思考を巡らせる。
この曇り空と同じく彼女の心もやや曇りがちだった。
何か心の引っかかりが、そうさせている。
「やっぱりあの子が持ってきたのね。南区のギルドの冒険者とは接点が少ないのに貴方がそこから依頼を持ってくるとは思わなかったもの」
「何か問題があるか? 折角彼女が持ってきてくれた依頼だぜ、それも結構美味しい報酬だ。人数も必要だったけどシマヅからは共同依頼の話はしておいたし、親睦を深めるためにも絶好の機会だろう?」
「うむ、わしもそう思う。今後とも長い付き合いをしていきたいものだしのう。なんといっても八角形ボードじゃ」
「そう、だけれど……」
彼女の表情も曇りがちになってしまった。
いつもと違う様子に、クオンは困惑するばかりだ。
単純に不機嫌なのか。
この中で一番に長い付き合いであるクオンは彼女の心をその仕草や雰囲気から読み取ろうと試みる。
「……何か不安でも? それともまたあれか? 三角形ボードがいるから? それだったら、悪いけど君のそういう考えは――」
「違うわよ、あのハイラアなんて別に何も考えてもいないわ」
「それはそれで……少しは考えてやってもよくない?」
前から思っていた三角形ボード達への差別。
クオンはそれを直してほしかった。
昔から、物心ついた頃から彼女は美しかった。
歳を重ねる毎にその容姿は磨きをかけ、その双眸は宝石のようにつぶらで吸い込まれそうになる。
けれども彼女にこれといった恋人は一度も出来ていない。
やはり、自分よりも下のボードにはどこか差別的な態度をとってしまっているのが原因だ。
言いたい事もすぱっと言ってしまうタイプだし、性格を一言で表すなら、キツい。
キツい――というのは、当たりがキツいってだけで優しい子であるのは、クオンはもちろんロッゾも分かっている。
彼女の面舵は俺が取ってやらねば、と思うクオンであった。
だからこそ今巡っている彼女の思考を整えてやり、この依頼は全員が満足のいく終わり方になるよう彼は努力しようと内心で決意していた。
実に殊勝な心掛けである。
「ただ、気になるのよ」
「気になるって、何が?」
「だってあの子と組んだのは……ほんの一週間ちょっとよね」
「……ああ、それが? いい子じゃないか。依頼だってバリバリこなすし助かってる。今は一応仮パーティだけどもう正式パーティとしてお願いしてもいいと思ってるんだけど」
人獣族特有の匂いで魔物を追跡するその能力、それに持前の俊敏さもあり、四角形ボードの中でも有能なのは間違いなかった。
「あの子、シマヅと話をしてみようだとか、ここ最近で何かとシマヅと近づきたがってたわよね」
「そりゃあ誰だって八角形ボードの持主にはお近づきになりたいじゃろうに」
「今回の班分けも率先してシマヅのほうに行ったし……。早速依頼書とは内容が違う事が起きてるとなると、何だか妙な気がして」
「考えすぎじゃないかなあ流石に」
「そうかしら……」
クオンはそんな彼女の横顔を見つめながら、思い返してみる。
確かに、言われてみればパニアが自分達のパーティへの参加をいきなり懇願してきたと思いきやそこからとんとん拍子でシマヅとの接触も彼女の提案によって動いてきた。
けれどもパニア自体が人との交流を得意とする面もあるので、そういう性格だからこそ自分も便乗してシマヅとこうして共同依頼ができただけ――裏がある、といった考えは持てそうになかった。
(そういえば俺、パニアについて名前以外全然知らないんだよな……)
彼女については、謎が多い。
普段どこに住んでいるのかすらも、彼らは知らなかった。