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015 天国病

「おりゃあ!」


 片手剣で龍の腕に斬りかかってみる。

 しかし鱗が剣を通さず、弾かれてしまった。


「駄目か……」


 そして、龍はそのまま右手を振るうや――俺は壁に叩きつけられた。

 ……一瞬、意識が途絶えるが、ああ、大丈夫だ。

 多分、一回は死んだのかな? 流石龍だな。俺の体右半分が壁にめり込んでやがる。


「だ、大丈夫ですかっ!?」

「大丈夫だよー。よいしょっと」


 買ったばかりの鎧が既にぼっこぼこだ。

 折角買ったのに……別にそんな愛着なんてもんもないからいいけどさ。


「もっとこう、俺を確実に殺せるようなものはないのか?」


 目を細めて妙なものを見る視線になっている。

 別に大したもんじゃない、ただ死ねないってだけで。


「やる気がないなら引き出してやるぞ、おりゃー!」


 片手剣を回収して、龍の側面へと回って斬ったり突いたりしてみる。

 当然、刃は通らないが、こっちとしては片手剣を振る練習だ。


「どうだっ、そりゃそりゃ! そんなもんかよっ、さあもっとかかってこい! あ、鱗落ちてるじゃん。もらうね? ハス―! 鱗鱗ー!」


 鱗をハスに投げてやった。

 二枚、三枚、意外と落ちてるな。でも龍のすぐ傍にあったから普通の冒険者が回収するには難しいのだろう。


「ん?」


 するとゆっくりと振り向いてきた龍は、口をかぱっと開ける。

 何やらその奥が赤く光っている。


「シマヅ様! 龍は炎を出すつもりです!」

「炎か! よし、死ねるかも!」

「し、死ぬのは駄目ですがぁ!」


 片手剣を捨てて両手を広げて、炎を受ける準備は万端。

 ハスの悲鳴が聞こえたが、もしこれで死んだら……申し訳ない。

 でもお金も渡しておいたし依頼にあった素材回収もできている。俺がいなくてもきっと、生活できるだろう。

 さあ、一丁死んでみますか。

 炎が放たれ、一瞬にして熱が上半身を包み込んだ。

 その熱量は凄まじいもので、熱い感覚が伝わった刹那に、その感覚すらも無くなり意識が途絶えた――

 けれど、気が付いたら、特に何事もなく。


「……」


 上着と買ったばかりの鎧が消し炭にされた事実だけが残った。

 龍は上体を仰け反らせており、明らかに引いている様子。なんだよそれは、化け物でも見るかのような感じ出すなよ、傷つくだろ。


「お前でも駄目か……」

「ハ、ハスはそれでよかったととても安心しておりますが~」

「くそぉ……殺してくれぇ!」


 抱きついてみるが、龍はまるで害虫が引っ付いてきたかのように嫌がっては振り払い、終いには尻尾で的確に吹き飛ばしてきた。

 ハスの頭上を通り過ぎて、天井へとぶつかり、視界は暗転した。

 気がつくとハスが心配そうに顔を覗かせていた。


「う、ん……どれくらい気絶してた?」

「数分ほどです。あの、龍が鱗置いて奥に引っ込んでいってしまいましたよ」

「なんだって……?」


 これをやるから構うなって事か?

 おいおい舐められたもんだな。


「こちら予備の着替えでございます」

「ああ、ありがとう。くそっ、上半身しか焼けなかったのか。次は全身丸ごと焼いてもらいたいな……」

「私はシマヅ様のその考えに恐怖すら抱きますよ……」

「一応素材回収は出来たし、今日のところは引き上げるか」

「また挑戦するつもりなのですか?」

「勿論だとも」

「……」


 そんな悲しそうな顔をしないでくれ、心にとても突き刺さる。

 龍の鱗が七枚、それに爪の欠片もいくつか手に入った。中には俺の掌より大きい鱗もある、きっと大きければ大きいほど報酬も弾んでもらえるだろうし、十分な金額が見込めそうだ。


「もしかしたらあの龍とこうして何度か戦って素材回収しているだけでも長らく過ごせるんじゃないかこれ」

「かもしれないですね、シマヅ様にしか真似できないと思いますが」

「まあそうだよね」


 二回くらい死んだかな。

 でも龍でさえ俺を殺せないとなると、死ねる方法はまた別……か。

 まあしかし全身丸ごと焼いてもらって消し炭さえ残らなければ死ねるかもしれない。その方法も今度試してみようじゃないか。

 そうして帰路についたのだが、前方で何やら倒れている人間を見つけた。


「……冒険者か?」

「どうしたのでしょうか……」


 すぐに駆け寄ってみる。

 魔物と交戦したのか、怪我をしているようだ。しかし彼は怪我に表情を歪めるのではなく恍惚としており、どこかおかしかった。


「大丈夫ですか?」

「あぁ……これが、天国、か……」

「あの、聞こえてます?」


 倒れたまま手で輪を作って祈りを捧げている。

 俺達が何度呼び掛けても応じようとはしない。

 近くには空の瓶がいくつか転がっている。口についている青の液体からして魔力補給薬だ。


「戦闘をして、治癒魔法で傷の回復をするために魔力補給薬を飲んだのでしょうか」

「でも怪我をしたままだな……。うぅん、治癒魔法はまだ習得もしていないし、応急処置をしようか」

「はい、ただいま」


 ハスは迅速に動き、的確に応急処置を始める。

 彼はただただされるがままで、自ら動こうともしない。この場に置いたままだとずっと留まりそうであるために彼を背負っていくとした。

 どこかで見覚えがあるなと思ったが、馬車で同席した冒険者の一人だ。


「仲間とはぐれたのかな」

「かもしれませんね、所々に魔物の足跡がございます。この蹄からして、私くらいのサイズの、突進や奇襲を得意とするノシイシでしょう」


 よく見ると地面には拳くらいのサイズの足跡がいくつかあった。

 ハスって意外と観察力も高いな。


「ん……もしやあれか?」

「あっ、ですです。こちらには気づいていないようですね……」


 遠くの茂みに、茶色の魔物が尻を向けて何やら匂いを嗅いでいる様子でいた。

 見た目はイノシシに似ているが赤い目に鋭い二本の牙が実に狂暴そうだ。

 立ち止まって様子見していると奥へと行ってしまった。

 手前には俺達がやってきた道もあるのでノシイシとの遭遇はしないだろう、別のノシイシが出てくる可能性もあるが、どうであれここからは早めに離れたほうがよさそうだ。

 そうして道なりに進んで平原へと出ると彼のパーティである冒険者が俺達を見つけて駆け寄ってきた。

 話を聞くとやはりノシイシによる奇襲ではぐれてしまったらしい。

 背負っている彼を預けるも、一つ……気がかりな話を聞く事となった。


「これ……巷で噂の天国病とかいう奇病じゃないか?」

「ま、まさか……」

「天国病?」

「ああ、なんでも罹った人間は天国に触れられて……その後死んでしまう、らしい。くそっ、早く医者に連れていかないと!」


 天国病とはこれまた妙な病名だな。

 ……むむっ? 天国病、となれば俺も死ねたりするかな?


「シマヅ様、また死について考えてませんか?」

「……いや? てかハス、君も気を付けないと。天国病ってなんかやばそうだし、ほら、消毒消毒!」

「は、はいっ」


 どうやったら天国病に感染できるのかな。

 感染者と直に触れられたし、感染できてない? どうだろう。

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