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魔法使いの苦悩-ADVENT-~闇の聖女と光の魔王~  作者: 黒緋クロア
第二章 Wizards daily[魔法使いの日常]
21/32

貴ノ葉高校文化祭

 残暑も落ち着いた、9月下旬……体育祭で大暴れし、生徒からの信頼を勝ち得、教師からの信頼をぶち壊したMBSF研究会の面々も、夏の暑さと同様、落ち着いて来ているように思えた。




「バンドやろうぜ!」




 前言撤回、彼らがそう簡単に、落ち着くはずが無かった。




「よし、暖は軽音部に転部だな」




「しねぇよ! オレたちでバンドやろうって言ってんだよ!」




 緋色の前髪を持つ黒髪の魔法使い、久城一真の言葉に、黒髪短髪の一般人(謎)、川島暖が叫ぶ。




「……一応聞いてやる、何でバンドなんだ?」




「流行ってるからだ!」




「他に意見のあるやつ、いないか? 言ったらそれを即採用するぞ」




「おぉぉぉぉい! 待てって! バンドバンドバンド!」




 珍しく食い下がる暖に、一真は渋々、暖の方を見る。




「あのな、文化祭まで1ヶ月だぞ? そう簡単に、楽器が演奏出来るわけねぇだろ」




「いいや! オレたちは皆、何かしら楽器を演奏出来るはずだ!」




 根拠も無く胸を張る暖を冷めた目で見つめ、一真は他のメンバーに視線を向ける。




「……みんな、何か演奏出来る楽器あるか?」




「私、フルート!」




 一真の言葉に真っ先に答えたのは、黒髪のショートカットの退魔士、今城梨紅だ。




「一真はピアノだよね?」




「まぁ、弾けるとしたらな……他は?」




「オレは、ヴァイオリンなら少し弾けるが……」




 眼鏡を左手中指で押し上げながら、黒髪短髪の警察官兼、風使い……桜田正義は言った。




「オレはギターだ」




「私は三味線かな」




 金、茶髪の神様候補、進藤勇気と、肩より少し長い薄い栗色の髪の半魔、山中沙織が言う。




「かろうじてギターが居たか……凉音と重野は?」




『ボーカル!』




 一真の言葉に、黒髪ツインテールの怪盗兼、重力使い、重野恋華と、足下まで伸びる茶髪の判子使い、凉音愛が、声を揃えて言った。




「……豊は?」




「ドラム」




「ドラム!?」




 黒髪短髪の、物静かな住職見習い、寺尾豊の言葉に、一真は思わず聞き返す。




 豊が頷くのを確認した後、暖は満足気に胸を張る。




「そしてオレがベース……」




「ダウト」




「嘘じゃねぇよ! 信じてくれよ!」




 暖は叫ぶが、一真は明らかな不信の目を持ってして、暖のことを見つめていた。





「未だかつて無い程に、不信の眼差しを向けられてる!」




「信じられるわけねぇだろ、タンバリン」




「タンバリン!?」




「カスタネットでも可!」




「可! じゃねぇよ! ちょっと待ってろお前!」




 暖はそう言うと、部室から飛び出して行く。




「……何だ?」




 一真は首を傾げつつ、呟く。他のメンバーも、同様に首を傾げるばかりだ。








「待たせたな!」




 20分程して戻って来た暖は、2つの台車で大量の楽器を運んで来た。




「おいコラ、何処から盗んで来た」




「拝借したと言ってくれ」




「重野みたいなこと言ってんじゃねぇよ!」




「はぅあ! 引き合いに出さないでよ!」




 2人のやり取りに巻き込まれ、恋華が憤慨する。




「いや、マジでどうしたんだよそれ」




「フルートとヴァイオリンは音楽室、ギターとベース、ドラムとキーボード、アンプは軽音部、三味線は茶道部からパクって来た」




「"ディバイン・バスター"!」




 一真の目の前に魔法陣が現れ、そこから光が放たれる。光は暖に直撃し、廊下側の壁をぶち抜いた。




「……ってわけで、オレの演奏を聴かせてやる!」




「何でピンピンしてんだよ!」




 バスターの直撃を受けたはずの暖は、制服と髪に多少のダメージが見受けられる以外、健在だった。




「……ねぇ、誰が使ったかもわからないフルートを私が使うの?」




 若干不機嫌そうに、梨紅が呟く。




「いや、自前が無ければの話だけど……」




 頭を掻きながら言う暖に、梨紅はため息を吐きながら続ける。




「……一真、"位相跳躍-フェイズ・ジャンプ-"を私の部屋につなげてくれない?」




「取って来んのかよ! 自分でやれば良いだろ!?」




「えぇ……じゃあ、教えてよ位相跳躍」




「魔法陣出してやるから、勝手に覚えてくれ……それより今は暖だ」




 一真が暖に向き直ると、暖は既にベースを構えていた。




「お、ようやくオレの演奏を聴く気に……」




「正義、そこの窃盗犯を捕まえろ!」




「川島暖、窃盗の現行犯で逮捕だ」




「ちょっ待っ……正義! 隣を見てみろ、そこにも逮捕対象が!」




「暖君が私を売った!」




 驚愕する恋華を横目に、正義は手錠を取り出し、暖に向かって歩き出す。




「残念ながら、恋華には証拠が無い」




「なにぃぃぃぃ!」




 驚愕する暖に、恋華は舌を出して見せた。





「観念するんだな」




 暖の眼前に、正義が迫る。




「くっ……ん?」




 後退りしつつ、暖は微かな違和感を感じた。暖が持って来たはずの楽器が、いくつか無くなっていたのだ。




「……おい豊、勇気、山中、何してんだ」




 部室の奥で、ドラムセットを組み立てる豊、アンプとギターを準備する勇気、三味線をチューニングする沙織の3人に、一真が言った。




『……ちょっとだけ』




「ちょっとだけじゃねぇよ! ノリノリか!? お前らノリノリなのか!」




 一真の言葉に、3人は視線を反らし、黙々と作業を再開する。更に……




「暖、マイクとスタンドが無いわよ、盗って来なさい」




「あいさ!」




「あっ、2つだからね!」




 愛に言われ、ベースを置いて駆け出す暖に、恋華が言った。




 この状況に、一真は頭を抱えるしか無かった。挙げ句の果てには、正義までヴァイオリンに手を出す始末だ。




「……生徒会への謝罪は、お前が全部やれよ?」




 一真の暗い呟きに、正義はビクッと動きを止める。その反応を見た後、一真は梨紅に向き直り、魔法陣を出現させる。




「ほら、梨紅の部屋に繋いだから、早く取って来い」




「良いの?」




 首を傾げる梨紅に、一真はため息を吐きながら続ける。




「責任は全部、正義と暖が取る」




「一真、ちょっと待ってく……」




「さて、廊下側の壁を直して、部室に使う防音魔法考えなきゃな」




 正義を無視し、一真は作業に取り掛かった。












「……てか、やっぱり異質だろ」




 配置に着いた一真は、改めて呟く。




 ギター、ベース、ドラム、キーボード、ボーカルまでは問題無い。ヴァイオリンにフルート、そして三味線はどうしろと言うのだ。




「ピアノ、フルート、ヴァイオリンで管弦楽は?」




「あぁ、演奏に応じて変えるのか……」




 梨紅の提案に、一真は納得する。しかし……




「問題は三味線か」




「リコーダー、ピアニカ、ハーモニカなら吹けるわ」




「吹けるわったって……」




 胸を張って答える沙織に、一真は苦笑して見せる。そんな中、暖が何かを思いつき、言った。




「ロー○だ!」




『○ード?』




 暖の言葉に、全員が首を傾げた。





「ロ○ドって、虎○竜の?」




「そう!」




 沙織の言葉に、暖は大きく頷いた。




「……正義、オレらがバンドやるとして、何分演奏出来る?」




「1組の所要時間が30分……MC抜いて25弱か」




 一真と正義が言う中、暖が更に続ける。




「まずは勇気のギター、沙織ちゃんのハーモニカでオープニング……その後、立て続けにテンポの速い曲で盛り上げて、MC!」




「テンポの速い曲ねぇ……」




 1人で盛り上がっている暖の言葉に、勇気が呟く。すると、暖は勇気を指差し、言った。




「時代はアニソンだ!」




『アニソン?』




 正義と沙織が首を傾げる中、愛と豊が大いに頷いた。




「ハ○ヒ、ら○☆すた!」




「イン○ックス、レー○ガン!」




「学園○示録」




『yeah!』




「お前らちょっと黙ってろ」




 盛り上がる3人に言って、一真は正義に向き直る。




「この際、バンドやるならやるで構わない……けど、申請とか大丈夫なのか?」




「問題ないだろう、オレがやっておく」




「そうか……なら、後は楽器を借りれるかどうかだな」




「ちなみに、足りない楽器は何だ?」




 勇気がメンバーを見回しながら言うと、唯一……豊だけが手を上げた。




「ドラムだけか……OK、オレがなんとかする」




「お前が?」




 勇気の言葉に一真が首を傾げるが、愛はそれを鼻で笑う。




「どうせまた、女の子をたぶらかすのよ」




「いやいや、口説くと言ってもらいてぇな」




「……あぁ、あのろくでもない能力か」




「ろくでもなくねぇよ! 歴とした能力だ!」




 一真の言葉に、勇気が憤慨する。ろくでもない能力とは、勇気の持つ、女の子を惚れさせる能力のことだ。




「……女垂らしの極意」




「豊てめぇ! 言って良いことと悪いことが……」




「否定出来るお前がすげぇよ、ホント」




 憤慨する勇気に、一真が呟いた。




 文化祭に関する話し合いから数日……MBSF研究会の活動は、完全に文化祭の準備になっていた。




 豊は、勇気が何処からか持って来た怪しいドラムを叩き、勇気と暖、沙織は演奏曲を考えている。ちなみに、正義は生徒会に出向中であり、愛と恋華は……




「お前ら、何してんだ?」




 机に頬杖を着きながら、一真は2人に問う。愛と恋華は、ジャージに着替えて踊っているのだ。




「見てわからないの? 踊ってるんだけど」




「何で踊ってんの?」




 眉をひそめる愛に、一真は首を傾げつつ言った。




「文化祭で踊るんだよぉ」




 一真の問いに答えたのは、恋華だった。どうやら、演奏だけでは無く演出もするらしい。




「……そうだ、一真!」




 曲目を考えていた勇気が、不意に一真を呼ぶ。




「ん?」




「演出なんだけどな、ちょっと魔法使ってくれねぇか?」




「えぇ……マジで言ってんの? お前」




 あからさまに嫌そうな顔をする一真を無視し、勇気は説明を続ける。




「演出は任せるから、とにかく派手にやってほしい」




「気が向いたらな」




「OK、任せたぞ」




 一真に言って、勇気は再び、話し合いに戻る。




 一真は今、完全に暇を持て余している。勇気たちは話し合い、豊はドラム、愛と恋華はダンス。




 ……では、梨紅は?




(梨紅、そっちの話し合いは終わったか?)




 一真は梨紅に、テレパシーを飛ばす。それに対して、返答があった。




(え? さぁ……知らない)




(はぁ? お前今、何処に居んだよ)




(んー、屋上?)




 そこまで聞いた所で、一真はテレパシーを切って、部室を出た。












 時間はもう夕暮れ時で、屋上から眺める夕焼けは、なかなか風情があった。




「サボりかよ、文化祭実行委員様」




 屋上のフェンスに寄りかかっている梨紅に、一真が言う。




「申請は出したよ、仕事は終わってるから、サボりじゃないよ」




「そうかい」




 言いながら、一真は梨紅の隣に腰を下ろす。




 梨紅は、一真のクラスの文化祭実行委員なのだ。クラスを代表して、文化祭を盛り上げる役目だ。




「……でも、今時『メイド&執事喫茶』ってどうなんだ?」




「知らない、無難な選択なんじゃない?」




「メイドが無難……世も末かな」




 一真は呟き、空を見上げた。





「……なぁ、梨紅」




「ん?」




「フルート、聴かせてくれよ」




 一真の言葉に、梨紅は微笑む。




「一真は昔から、フルート好きだもんね」




 梨紅はそう言って、左手から、魔法で収納しておいたフルートを取り出す。




「リクエストは?」




「おまかせで」




 一真の返答を聞くと、梨紅はゆっくりと息を吸い、フルートを構える。




 梨紅が吹き始めたのは、"きらきら星"だった。穏やかな音色が、辺りに響き渡る。




 その後も梨紅は、童謡を吹き続ける。どれもゆったりとした曲調で、聴いていると自然と、微睡む。




 そろそろ夕陽も沈もうという時間になり、梨紅の演奏は終わった。梨紅は感想を求め、一真を振り向く。




 だが、一真は柵にもたれ掛かり、眠っていた。普通なら怒る所だが、梨紅はそれを見て微笑んだ。




 昔から、そうなのだ。梨紅の演奏を聞くと、一真は眠ってしまう。穏やかな表情で、浅い眠りにつく。




 だから梨紅は、知っている。軽く揺するだけ、軽く触れるだけで、一真は起きることを。これまでの経験で得た知識だ。




 梨紅はゆっくりと、一真に触れないように、一真を起こさないように、一真の顔に近づき……




「……んっ」




 一真の頬に、優しくキスをした。












「うわぁ……今城、積極的」




「バカ、暖! 聞こえるだろ!」




 背後で聞こえた会話に驚き、梨紅は振り向く。




 そこには、柵に掴まりながら、暖と勇気が顔を覗かせていた。




「バレた! 逃げるぞ、だ……」




 勇気が言った時には、手遅れだった。




 梨紅は凄まじい勢いで体勢を変え、2人が掴まっていた柵を蹴り飛ばす。




『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!』




 2人は柵ごと、屋上から落下して行った。




「……ん、梨紅? どうした?」




「え!? う、うううん!? 何でもないよ!」




 目を醒ました一真の言葉に、梨紅は動揺を隠しきれない。




 一真は立ち上がり、梨紅に近づき、顔を覗き込む。




「……うっ」




 やましいことがあるからだろう、梨紅は一真の顔を直視出来ない。すると……




「おかえし」




「え……」




「そろそろ部室に戻るぞ」




 一真は……梨紅の額にキスをした一真は、屋上の入り口に向かって歩き出した。




 梨紅はしばらく、呆然としていたが、嬉しそうに照れ笑いし、一真の後を追って走り出した。






 一真たちが部室に戻ると、他のメンバーは全員、揃って居た。




「……勇気、暖、何してんの?」




 部室の中で2人だけ、異質な雰囲気を醸し出す勇気と暖に、一真は呟く。




『別に、なんでも無ぇし……』




 窓際の床に四つん這いになり、息を切らせながら言う2人だが、説得力が無い。




「いやいや、すげぇ違和感だぞ? 例えるなら……"女の子の秘密を覗き見したのがバレて、屋上の柵ごとぶっ飛ばされ、地上に落下する中でギリギリ、何かに掴まることに成功し、オレが部室に入る寸前に、なんとか生還した"かのような雰囲気だ」




『ぶっ飛ばすぞお前!』




「ぶっ飛ばされたのはお前らだけどな」




 一真の鋭い切り返しに、2人は何も言えなくなる。




「まぁ、無事で良かった。屋上の柵は2人で直しとけよ?」




「鬼!」




「悪魔!」




「いいや、オレは魔法使いだ」




『うるせぇよ!』




 2人は同時に叫ぶと、力尽き、その場に突っ伏した。







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