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魔法使いの苦悩-ADVENT-~闇の聖女と光の魔王~  作者: 黒緋クロア
第二章 Wizards daily[魔法使いの日常]
20/32

エンシェント・スペル。

 真夏と比べると、徐々に日も短くなり始めたようで、既に日は暮れようとしていた。




 恋華の家からの帰り道、十字路で愛と暖と別れた一真は、終始腕組みをしていた。




 恋華の先祖、地の民からのメッセージを読んだことで手にいれた、"2つの"魔法について考えていたのだ。




 1つは、温度自在の熱風を放つ魔法、"エフェメルガ"。そして……




「"エールオール"」




 一真が呟く。同時に、微かに風が吹き、辺りの木々を揺らす。




 "エールオール"がどんな魔法かは、一真にはわかっている。全知の眼-ヴィアン・ト・エニス-が一真の頭に情報を与えるからだ。




 一真は様々な世界へ赴いては、エニスによって知識を得る。食べられるキノコ、食べても罰せられない獣、調理法。




 魔法も例外では無い。属性、発動原理、威力や能力、必要な魔力量などの情報が入って来るのだ。




 そして今回の"エフェメルガ"と"エールオール"……2つの魔法は属性も能力も異なるのだが、1つだけ……共通点があった。




 "古代魔法-エンシェント・スペル-"……それはかつて、一真が異世界ヴェルミンティアのとある洞窟で見た物に近く、しかし、果てしなく遠い物だった。




 ヴェルミンティアの古代魔法は、発動原理は不確定、魔法陣は穴だらけで無駄が多い、言ってしまえば"ずぼら"な物だった。




 しかし、今回の2つの古代魔法のクオリティは、ヴェルミンティアの物とは天と地程の違いがあった。むしろ、完璧に限り無く近い。




 発動原理は論理的、属性は明確、威力は自在、能力も扱いやすく、必要な魔力は少ない。唯一の欠点は、"詠唱限定"。無言、魔法陣による発動が出来ない以外は、非の打ち所が無い。




「……所謂、1つの芸術か」




 有名な画家や音楽家の作った、何億という価値のある美術品……作品と同様の価値を、一真はこの魔法たちに見出だしていた。





 一真は初めて、魔法に美しさを覚えた。それと同時に、創作意欲に駆られた。




「完璧な魔法か……」




 完璧とは、何だろう? その定義は……




 そんなことを考えているうちに、一真は自宅に到着していた。




「ただいま」




「おかえりなさい、一真」




 一真が玄関を開くと、エプロン姿の梨紅が出迎えていた。




「ご飯にする? お風呂にする? それとも……」




「夕飯は?」




 顔を赤らめる梨紅に背を向け、靴を脱ぎながら、一真は言った。




「え? ……あっ、えっと……ハンバーグよ」




「すぐ食える?」




「ううん、卵が無くて、お義母さんが今、買いに……」




「……なら、1時間は帰らないな」




 商店街で深鈴と遭遇し、井戸端会議を始める母、美由希の姿を想像し、一真は苦笑する。




「じゃあ、風呂は?」




「……ごめん、沸いてない」




「選択肢の意味は!?」




「だって、最初のエプロンでツッコミが入ると思って……」




 口を尖らせる梨紅に、一真は不敵に笑う。




「まだまだだな」




「……それで? 恋華ちゃんの家で何したの?」




 梨紅の質問に答えず、一真は洗面所に向かう。手洗いうがいをした後に、リビングに入り、冷蔵庫がら麦茶を出し、2つのコップに注ぐ。




「重野のお母さんと、昔話をした」




 一真はテーブルにコップを2つ置き、椅子に座りながら言った。




「昔話?」




「オレらの両親が、学生の頃の話」




 それから、一真は深鈴に聞いた話を、梨紅に話し始めた。















「……確かに、ずっと昔に今よりも魔法が発達した時期はあったわ」




 一面、真っ白な空間……一真と梨紅の心の中で、エリーは言った。




 眠りについた一真は、心の中に入り、エリーと古代魔法について話していた。




「昔は、今よりも魔法使いの数が多くてね、今の100倍は居たかな……退魔士の数も、同じぐらい居たのよ?」




「じゃあ、なんで今はこんなに少ないんだよ?」




 一真の質問にしばらく考え、エリーは一真に言った。




「国民の半数が魔法使いや退魔士だとして、君が国を治めていたならどうする?」




「……どういう意味? よくわかんないんだけど」




「かつての国の長たちは、彼らを戦争の道具に使った」




 エリーの言葉に、一真は言葉を失った。






 かつて、各地で戦争が相次いだ時期があった。




 その頃の主な戦力は、魔法使い……そして、退魔士。




 魔法使いの多かった時代、一般人は無力だった。弱く、脆い存在……だからこそ、一般人は戦争に参加しなかった。




 戦争……即ち、魔法を使った殺し合いは、年々激しさを増して行く。そんな中で新しい魔法を作ったら、どんな魔法が生まれるだろう……




「君はどう思う?」




 話を中断し、エリーは一真に問う。一真はそれに、然程の感覚を空けず、淡々と答える。




「……殺傷能力が高く、退魔士に対しても有効な魔法」




「正解よ……魔法が"ある意味で"発達した要因が、それ」




 エリーはそう言って、話を再開する。




 発動スピード、高い効果、燃費……退魔士に有効な魔法にする為に、例えば……一定空間に効果を与える魔法などが作られるようになった。




 人を、魔法使いを、退魔士を、殺す為だけに作られた……1つの魔法の完成形。




「それが、"エンシェント・スペル"よ」




 エリーの解説を聞き終えた一真は、落胆の色を隠せずにいた。




 殺傷能力を追求した魔法……それに、一瞬でも自分が心を奪われたと思うと、一真は自分が情けなかったのだ。




「深く考える必要は無いわ……戦争を知らない君が、そう簡単に嫌悪感を抱けるわけが無いもの」




「けど……」




「かつて大戦で使われた銃器類……それを素晴らしいと感じる人間を、君は……否定出来る?」




 エリーの言葉に、一真は再び、口を閉ざす。




「それと同じよ……エンシェント・スペルなんて、武器の1つでしか無いわ」




「けど、危険な物……使ってはいけない物だろ」




 一真は言った。銃刀法のある日本では、銃器の使用は違法……では、エンシェント・スペルも使用すべきでは無いという考えだ。




「君がそう思うなら、使わなくて良いと思うわ」




 エリーは真っ直ぐに一真の目を見て、続ける。




「エンシェント・スペルには、私とナイトが使ったような威力の物もあるわ、けど……」




「……え? 待った」




 エリーの言葉に、一真は首を傾げる。




「……今、とっても良いこと言おうとしたんだけど」




「ごめん、でもちょっと待って……2人が使ったエンシェント・スペルって?」




「勿論、"天魔の聖痕"で使った……」




 不機嫌に言うエリーの言葉に、一真は眉をひそめた。





「あの魔法ならオレも見たけど、エンシェント・スペルには見えなかったぞ?」




「あぁ……だって本来、エンシェント・スペルには"フィルター"が掛かってるもの」




 一真の疑問に、エリーは事も無げに答えた。




 過去の記憶や映像が、夢を通じて現代に伝わることがある。今回の恋華や、一真と梨紅が天魔の聖痕について知ったような状況だ。




 しかし、夢で使われたエンシェント・スペルの詳しい情報が、現代に伝わることはほとんど無い。




 エンシェント・スペルの危険性を考え、古代の魔法使いの生き残りは、エンシェント・スペルの情報を封印したのだ。その封印には"認識不可"のフィルターがあり、情報漏洩を防いでいた。




「けど唯一、フィルターを通して見ても、エンシェント・スペルの情報が伝わる人間がいるでしょ?」




「"エニス"保持者……オレだろ?」




 一真の言葉に、エリーは頷く。全知の眼-ヴィアン・ト・エニス-が、一真に情報を与えるのだ。




「じゃあ、エニス覚醒前に見た、天魔の聖痕で使われたエンシェント・スペルの情報だけ、間違ってるわけだ」




「そういうことね」




 一真は納得した。確かに、あの時使われた魔法に関する、一真と梨紅の認識には違いがあった。




「現代の魔法であの威力の魔法を再現するのは、ちょっと難しいと思うわ」




「フィルター越しだから、発動原理とかも間違って伝わったんだろうな」




 一真はため息を吐く。だが、あの時……あの映像のお陰で救われたのは、紛れもない事実だ。




「……何にしても、エンシェント・スペルの使用は要注意だってことか」




「……まぁ、どう使うかは君次第よ、よく考えてみなさい」




 エリーの言葉を聞くと同時に、一真の意識はゆっくりと、現実に向かって行った。





「……オレ次第、ねぇ?」




 目が覚めた一真は、エリーに言われたことを考えつつ、呟いた。




 危険な程の威力を持つ魔法……それに対して、考える余地などあるだろうか。




 普通の魔法使いなら、所持した段階で恐怖心を抱き、それに耐え、慣れた者は、興味本意で使い始めるだろう。




 だが、一真はどちらでも無かった。考える"余地"を、発見出来たのだ。




 余地……それは、エフェメルガの"温度調整機能"だ。




 魔法使いや退魔士を殺すのが目的なら、温度を変える必要は無い。高温で骨も残さず消し去れば良い。何より、そちらの方が戦争向きだ。




 しかし、古代の魔法使いたちはそれをしなかった。どんな意図があって、温度調整機能を付加したのだろうか。




 それは、今の一真にはわからなかった。全知の眼を持ってしても、彼らの心を知ることは出来なかった。




 だから一真は、信じることにした。エンシェント・スペルは、ただの人殺しの道具では無く、別の意図があると。




「まぁ……長い目で見ようじゃねぇの」




 一真はそう呟き、欠伸をしつつ、上体を起こした。






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