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魔法使いの苦悩-ADVENT-~闇の聖女と光の魔王~  作者: 黒緋クロア
第二章 Wizards daily[魔法使いの日常]
16/32

パニエ!

 新学期が始まって早々に、梨紅たちは土日の2連休を迎えていた。




 一真は未だ帰らず、九尾の黒猫は一真の家で気ままに飼い猫生活だ。




(間違いなく、一真の魔法だな)




(あの子の魔力で創られてるものね、ちょっと構成が雑だけど)




 梨紅の頭の中で、一真と梨紅の前世……ナイトとエリーが言った。




「それはわかるんだけど……2人は何で、一真がこの猫ちゃんをこっちに送って来たと思う?」




 一真のベッドに腰掛け、黒猫を撫でながら、梨紅が問う。




(テストがあったんだろ? それの為だろう)




(それもあるだろうけど、それよりもっとそれらしい理由があるわよ?)




 ナイトの言葉に、エリーは微笑みながら言った。




(なんだ?)




(多分、この子の為よ)




「私?」




 首を傾げる梨紅は、黒猫の顔に視線を向ける。




(あの子が居ない時に、この子に何かあるといけないから……とか)




(過保護な奴だな)




(ナイトそっくりね)




(え……)




(昔、魔界から天界に帰ろうとした私に、護衛だって言って自分……)




(急用が出来た、閻魔界に行って来る)




 ナイトはそう言って、梨紅の中から居なくなった。




(あ、逃げた)




「ねぇ、ナイトは何をしたの?」




(ん……あの人、自分が魔法で黒猫に化けて、天界の入口まで送ってくれたの)




「へぇ……でもそれって、ただの見送りでしょ?」




(まぁ、そうとも言うけどね、あの頃は治安も悪かったし……現に帰り道、魔族に襲われたしね)




 エリーはさらっと言うが、梨紅は驚愕する。




「なんで襲われたの?」




(私とナイトのことを良く思わない魔族なんて、星の数ほど居たもの)




 そう言うエリーの顔は、何処か悲しげに見えた。




「それで、魔族に襲われた後は?」




(黒猫が魔王に変身、魔族をボコボコにして守ってくれたわ)




「わぁ……なんか良いなぁ、そういうの」




 羨ましがる梨紅に、エリーは優しく微笑む。




(あなただって、何度もあの子に助けられてるじゃない? 私もあなたも、頑張れば1人で切り抜けられるピンチには必ず、ナイトやあの子が助けに来る)




「そうだね……一真はいつも守ってくれる」




(けど、私たちも2人を守ってる)




「良い関係……なのかな」




(私とナイトを見て、あなたはどう思う?)




 エリーの言葉に、梨紅は答えず、満面の笑みで応えた。





「……にぃ」




 一真のベッドの上で丸くなっていた黒猫が、耳を微かに動かし、窓の外に視線を向ける。




「猫ちゃん、どうしたの?」




 梨紅も視線を追うように、窓の外を見る。すると、梨紅の携帯電話が鳴り始めた。




「メール……勇気君?」




 2つ折の携帯を開き、梨紅はメールの内容を確認する。そして……




「……猫ちゃん、もしかしてわかってた?」




「にぃ」




 当然だと言わんばかりに黒猫は鳴き、梨紅は携帯を閉じる。




 勇気からのメールは、魔物の襲来を告げる物だった。













「襲来の規模は?」




「出現場所はここから半径100m以内、数は100前後」




 梨紅に聞かれ、勇気は直ぐ様答える。




 昔は、梨紅の父、幸太郎に指示されて行なっていた魔物討伐……退魔も、今では豊や梨紅の察知、勇気の天界情報を受けての討伐が日常的になっていた。




「小規模と言えるか」




「まぁ、あれに比べたらな」




 正義と勇気の会話の中、メンバーの脳内には2ヶ月前、1万の魔物が襲来した様子が映し出されていた。




「……あれより前は、退魔は基本的に夜だったのにね」




 呟いたのは沙織だ。最近では、魔物の出現は昼夜を問わずになって来ている。




 現に今、梨紅たちが居るのは昼下がりの公園だ。子供たちが遊んでいたり、主婦の井戸端会議が目立つ。




「それじゃ、いつも通りに」




「豊、頼む」




「うん」




 梨紅と正義に促され、豊はポケットから御札を取り出し、右手の人差し指と中指で挟む。




「守護・霊層陣」




 豊が言うと、御札が透明な膜に包まれ、その膜は急激に拡大し、半径100m以内に満たされる。




 すると、あんなに居た子供や主婦たちが消えてしまった。




 それどころか、100m以内の一般人が消えてしまったのだ。




 豊の張った結界は、一般人の居る空間と梨紅たちの居る空間を分ける物だ。ちょっとした心霊現象……人工的な神隠しとでも言おうか。




「さて、そろそろだ」




 勇気が言うと、空中に黒い穴が現れた。




 現れた黒い穴は、6つ。梨紅たちの目の前に1つ、少し離れた地点に4つ、空中に1つだ。




「空は私が行くよ、"天使化"!」




 梨紅が言うと、梨紅の髪が伸びて蒼く染まる。更に背中から純白の羽が生える。同時に、梨紅は退魔刀の華颶夜を取り出し、軽く振るう。




「じゃあ、残り7人で5ヶ所をやるぞ」




「行くわよ、豊!」




「うん」




 正義の言葉と同時に、愛と豊が駆け出す。




「暖君、私たちも行きましょ」




「やっぱりオレもか……」




 続いて沙織と暖も駆け出すが、暖はあからさまに嫌そうだ。




「残り3人は、1つずつ当たるぞ」




「えぇー、私もまー君と一緒が良いよぉ」




「恋華、わがままを言うんじゃない」




「だって……」




 恋華が顔を膨らませる中、目の前の黒穴から魔物が飛び出して来た。




「来たぞ!」




 勇気が言うと同時に、正義たちが構える。しかし……




「"ファム=ブルーラ"」




 恋華の足下から、蒼い火球が放たれ、正義たちが魔物を認識する前に、魔物を焼き払った。




「……猫ちゃん?」




「に」




「……首を傾げる恋華を振り向きながら、黒猫はさも『ここは良いから、正義と一緒に行け』と言わんばかりに……」




「勝手な解釈をするんじゃない」




 恋華に言いつつ、正義は黒猫に視線を向ける。すると、黒猫は正義の目を見つめながら、片目を瞑ったではないか。




「……まるで一真だな」




 正義はそう言ってため息を吐き、勇気に振り向く。




「オレは恋華と行く」




「はぁ!? その猫も頭数に入れんのかよ!」




「問題ないだろう、こいつは一真の魔法なんだからな」




「……くそ、説得力有りすぎなんだよ……勝手にしろ」




 頭を抱える勇気を他所に、正義は駆け出した。




「まー君、待ってよ!」




 恋華も正義を追って駆け出す。それを見送り、勇気は黒猫に視線を落とす。




「お前、本当に頭数に入れて良いんだろうな?」




「問題ない」




「そうかい……あ?」




 勇気は眉間に皺を寄せ、猫を改めて見据える。




「問題ないと言ったのだ、我は主……久城一真の半分程度の実力しか無いが、それで十分だろう」




「喋った!? 喋れたのかお前!」




「隠していてすまない……いや、特に隠していた意味は無いのだがな」




 黒猫の突然のカミングアウトに、勇気は唖然としたまま、しばらく動けなかった。




 沙織たちが退魔に参加するようになってから、3ヶ月が経過しようとしていた。段々と戦いに慣れ始めたメンバーは、手際よく魔物を倒して行く。




 沙織は大鎌を振り回し、暖は逃げ回る。愛は棒状の判子を突き付け、豊は霊力を放つ。




 正義は風を操り、恋華は重力の鎚で叩き潰す。勇気は雷で焼き払う。




 そして梨紅は……




「ふっ」




 黒穴から出てくる魔物を、瞬時に退魔刀で切り裂く。




 その様子には、無駄な動きが無い。正に模範だ。




 だが、イレギュラーな事態が起こる。それは突然のことだった。




「黒穴が……」




 梨紅が呟く。地上に現れていた5つの黒穴が、空中に集まって来たのだ。




 5つの黒穴は空中のそれに集まり、1つの巨大な黒穴になる。




「でかい!」




「梨紅、下がって!」




 勇気と沙織が言うと、梨紅は黒穴を見据えながら、沙織たちの元へ後退する。




 同時に、黒穴から巨大な漆黒の卵が落ちて来た。




「卵!?」




「何の? 魔物の?」




 恋華と愛が言う。卵は落下の衝撃でひびが入っており、直ぐにでも孵化しそうだった。




「……竜の卵」




「え?」




 暖の呟きに、梨紅が首を傾げる。




「竜なら、前に倒したことあるよね」




「メンバーがまだ6人だった頃だな」




 かつて、魔導書に封印されていた魔物を倒す際に、その先日に倒していた竜が再生し、同時に襲いかかって来たことがあった。




「その時の竜?」




「いや、違うやつ」




「……暖君、なんで竜だってわかるの?」




「なんとなく」




 沙織と梨紅に答えつつ、暖は2人より前に……卵の方に進み出た。




 2人に、仲間に顔を見られないように……




 自分の右目から流れ出る、"虹色の涙"を見られないように……




(ちょっと"無限"、出てきちゃ駄目だよ)




(すまない"笑与"、珍しい物が見れたから、思わずな)




(確かに、"地竜族"は珍しいけど……ヘイムルギアン-転生体-の意識を奪っちゃ駄目だよ)




 暖の中の何かが、会話する。笑与の言うように、暖は意識が無く、白目をむいていた。




(彼らに任せよう、僕たちの出る幕じゃない)




 笑与が言うと、暖の中で声がしなくなり、暖の意識が戻った。




 梨紅は嫌な予感……いや、むしろ悪寒がした。何か、急激に悪いことが起こるような感覚だ。




(……駄目! 早く対呪の空間を出して!)




「たいじゅ?」




(あれは魔界の地竜族の卵……地竜の産声は呪いの叫びよ! 人間なら、聞いただけで精神がおかしくなるわ)




 エリーの言葉を聞いてからの、梨紅の行動は早かった。




「"ホーリー・シールド"!」




 透明な半球体が、梨紅たちを包み込む。同時に、地竜の卵が孵化した。




「ИКЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛЛ!」




 その産声は、地球に存在するどの言語を用いても、形容し難い叫びだった。




 豊の作った結界は粉々に砕け、梨紅のシールドも砕けた。




「"サイレント"」




 黒猫が唱える。すると、産声を始めとした一切の音が消えた。




 しかし、次の瞬間には、一般人の悲鳴や叫びが辺りに響き渡る。豊の結界が壊れ、一般人が戻って来たのだ。




「まずいな、一般人を巻き込むぞ」




「豊がもう1度、結界を……」




「無理だよ、あんな竜が居たんじゃ、結界を安定させられない」




 正義、勇気、豊が言う中、黒猫が駆け出し、暖の頭の上に飛び乗る。




「"スカイ"!」




 黒猫が言うと、黒猫の背中から小さな緋色の翼が生える。同時に、黒猫は地竜に向かって飛んで行った。




「猫ちゃん!」




 それを見た梨紅は、慌てて黒猫の後を追った。









 近づけば近づく程、その地竜は巨大だった。産まれてすぐにも関わらず、体育館の半分は埋め尽くす体積がありそうだ。




 そんな地竜の眼前に飛び出し、黒猫は厳かに言い放った。




「我が名はパニエ・ツァルプリンカ、我、初代魔王に縁ある者の遣いなり、汝に宿りし縁の者に謁見願いたもう」




 黒猫、パニエの言葉を聞いた地竜は、しばらくの間、パニエをじっと見つめていた。そして……




「我は名も無き竜、我、地竜族の祖龍……桃龍、ピティーチ・パルオリアスの縁の者、謁見は認められない」




「何故」




「パルオリアスは天界の九龍、"集導"を司る者……初代女神の縁ある者及び、初代魔王の縁ある者本人が揃わねば話にならぬ」




「居るよ!」




 パニエと地竜の会話の中、梨紅がパニエの隣に並んで止まる。




「えっと……我が名は今城梨紅、我、初代女神の縁ある者なり、汝に宿りし縁の者に謁見願いたもう!」





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