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魔法使いの苦悩-ADVENT-~闇の聖女と光の魔王~  作者: 黒緋クロア
第二章 Wizards daily[魔法使いの日常]
15/32

九尾!

「いや、だって梨紅……久城君が"帰って来る"のはわかるじゃない」




「わからないよ! わかるわけないじゃ……」




 沙織に反論する、梨紅の言葉が不意に止まる。沙織に向けていた視線は、今は部室にある本棚の方に向けられていた。




 それから数秒遅れて、本棚の前に蒼い穴が現れた。




『わかってるよね!? 確実に!』




 暖と恋華の言葉に、梨紅は答えられずにいた。違和感が拭えないのだ。穴から出て来るはずの、一真の"気配"がいつもと違う。




「……一真じゃない?」




 梨紅の呟きに、暖を除くメンバーが身構える。夏休み中は無かったが、実際の所、これは異世界に繋がる穴だ。何が出てくるかはわからない。




「……梨紅、本当にカズじゃないのね?」




「わからないの……いつもと違うのは確かだけど」




 梨紅が愛に答えると、蒼い穴から何かが飛び出して来た。




「来た! ……って、あれ?」




 大鎌を構えた沙織が、すっとんきょうな声をあげる。




 穴から出てきたのは、黒猫だった。しなやかな動きで床に着地し、尻尾をふりふりふりふり……




「尻尾、多くね!?」




 黒猫の"9本の"尻尾を見て、暖が言った。




「"九尾"と言ったら"狐"と相場は決まってるんだがな」




 腕組みをしながら、正義が呟く。確かに、"九尾の化け猫"なんて聞いた覚えは誰にも無かった。




「……あっ、見てあそこ、猫の額」




 豊が指差す先を、メンバーが見つめる。黒猫の額には、緋色の三日月が見えた。どうやら、そこだけ毛が緋色らしい。




『……"黒髪"に"緋色の……"前髪?』




「一真じゃね? この猫」




「にー」




 首を傾げるメンバー、呟く暖に答えるように、黒猫は鳴いた。




「一真なんだな!」




 暖が改めて聞くと、黒猫は暖に駆け寄る。




 暖は黒猫を抱きしめる為に腰を落とし、両手を広げる。




 そして、暖の胸に向かって跳躍した黒猫は……




「どぶふぉふぉっ!」




 空中で回転し、9本の尻尾を暖の頬に叩き込んだ。




 油断して居た暖が倒れる中、暖の顔に着地した黒猫は、そこから一気に跳躍し、梨紅の肩に着地した。




「行動を見る限り、十中八九……一真だな」




 勇気の言葉に、全員が頷く。そんな中、黒猫は梨紅の肩から頭に飛び乗り、そのまま張り付く。




 2本の前足で頭にしがみつき、後ろ足で両肩に立っているのだ。




「でも、仮にこの猫ちゃんがカズだったとして、なんで元に戻ろうとしないのよ」




 愛が黒猫を見上げながら呟く。すると、黒猫と目が合う。




「……なんか、見下されてるみたいでムカつくわね」




「理不尽すぎない?」




 眉をひそめる愛に、涼しげな表情で豊が言った。すると、黒猫は耳をピクピクと動かし、後ろ足で梨紅の肩を蹴る。




 完全に梨紅の頭に乗っかった黒猫は、その場で跳躍し、愛の胸に飛び込む。




「おわっ! ちょっと……」




 顔をしかめながらも、愛は黒猫を受け止める。すると……




「にー」




 愛の顔を見上げ、黒猫は鳴いた。それを見つめる愛の顔が、徐々に赤く染まって行き……




「梨紅、この猫ちゃん……写真撮っていい?」




「いいんじゃないかな……多分」




「やった!」




『(あの猫、一真なんじゃないのか?)』




 首を傾げる梨紅、猫を抱き上げ喜ぶ愛に、男性陣は心の中で呟く。




 そんな中、女性陣4人は携帯電話を取り出し、写真を撮り始めた。






「……あの猫、写真慣れしてるな」




 椅子に座り、撮影会を眺めていた正義が呟く。




「慣れてるどころじゃ無くね? ポーズ決めてんじゃん」




 正義の横で机に腰掛けていた暖が、更に続けた。




 黒猫は、時にカメラ目線、時に欠伸、時につかまり立ちなどをして、会場をわかせていた。




「知能的には、普通に人間並な気がするね」




「一真なんだろ? だったら当然じゃねぇか」




 豊と勇気の会話を聞き、梨紅が視線を2人に向ける。




「それなんだけどさ、多分……この子、一真じゃないと思うの」




「それは、幼なじみの勘か?」




 正義の言葉に、梨紅は首を振る。




「退魔力が感じられないの……ううん、むしろ魔力しか感じられない、魔力で構成されてる感じ」




「じゃあこの猫ちゃん、カズの魔法なの?」




「に」




 愛に答えるように、黒猫は短く鳴いた。





結局一真は、その日に帰っては来なかった。梨紅たち予想外では、一真のことだから、黒猫の一真(仮)に何かを任せて飛ばして来たのだろう……という結論に至り、特に心配はしなかった。




 問題が起きたのは、一真(仮)が来た翌日だった。




 梨紅と共に登校し、一真の席に我が物顔で座った一真(仮)を見て、梨紅の顔は青ざめる。




「……一真、テストどうするの?」




 まさか、一真(仮)にやらせるつもりだろうか。どうやらそのまさからしいことは、直ぐに明らかになった。




「久城、おはよう」




 そう言って、一真(仮)と梨紅の間をクラスメートが通り過ぎる。




「に」




 クラスメートに返事をするように、一真(仮)は短く鳴いた。




「どうなってるの……?」




 梨紅が不思議そうに一真(仮)を眺めると、ちょっとした変化に気がついた。




 9本の尻尾の内の1本の先が、緋色に光っているのだ。




「魔法で一真に化けてるのね」




「にぃ」




 梨紅に答えると、一真(仮)は身体を丸めて眠り始めた。









 テストが始まると、9本の尻尾が高速で別々に動き、解答欄に凄まじい勢いで答えを書き込み始める。




 ものの5分でテストを終えた一真(仮)は、退屈そうに再び眠り始めた。




(みんなには、どう見えてるのかな……)




 テストを受けながらも、梨紅は一真(仮)のことで頭がいっぱいだった。




 梨紅には一真(仮)は黒猫にしか見えない。他の生徒のように、一真には見えないのだ。




(あぁ……無性に一真に会いたくなって来た)




 シャーペンをカチカチと鳴らし、ため息混じりに梨紅はテストに向かい始めた。





 テストも終わり、午後……MBSF研究会の部室に集まった梨紅たちは、部室奥の床に座り、一真(仮)と戯れていた。




「ってわけで、テストは一真の代わりに猫ちゃんが受けたの」




「へぇ……この猫、魔法が使えるのね」




 梨紅からテスト時の説明を聞きながら、沙織が一真(仮)……もとい、黒猫を撫でる。




 黒猫は沙織の膝で気持ち良さそうに眠っており、おそらくだが、一般人がその様子を見ると、一真が沙織に膝枕をしてもらっているように見えるのだろう。




「で、一般人の暖にはどう見えてるのよ?」




 沙織の隣で猫を眺めながら、愛が聞いた。




「どうもこうも、オレにも黒猫に見えてるよ」




「へぇ……一般人なのに?」




「きっと、MBSFメンバーには黒猫に見えるんだよ」




 首を傾げる愛に、梨紅が答える。




「そんな区分が出来るのかしら……」




「でも、かず君だし」




「あぁ、一真だしな」




「うん、出来るんじゃないかな」




「……そうね、久城君なら出来るわね」




 恋華、正義、豊に後押しされ、沙織は無理矢理納得する。




「それよりお前ら、テストはどうだったんだよ」




 不意に、勇気が問う。瞬間、一部の空気が凍りつく。




「まぁ、それなりか」




「私もよ」




「僕も」




 正義、沙織、豊が頷く。更に……




「オレもぼちぼちだよ」




 暖が言った。すると、正義たちが暖に視線を向ける。




「そうか……残念だったな、暖」




「大丈夫よ、成績には反映されないし」




「気にしない」




「え? 何、何で慰められてんの? オレ」




「何言ってんだ、お前のぼちぼちは赤点だろうが」




「違うわ! 失礼だなお前ら! オレは勉強すりゃ出来る子なんだよ!」




 暖が叫ぶが、正義たちはそれを聞き流す。そして改めて、残りのメンバーに視線を向けた。




「今城、涼音、恋華が厳しそうだな」




 正義に言われ、3人は視線を右下に向ける。そんな中……




「オレは大丈夫だからな!」




「暖、まだ言ってんのか」




「何度でも言うわ!」




 ため息を吐く勇気に言って、暖は梨紅たちを指差し、言った。




「オレはこいつらとは違う!」




『うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!』




 暖が言った瞬間、3人は床に手を着いて泣き出した。




「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!」




「うわぁ……暖君、サイテー」




「ぐわっ!」




 驚愕する暖は、沙織の言葉で撃沈した。






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