実力テスト!
始業式も滞りなく終了し、一真たちは教室に戻って来た。「校長は相変わらず話が長い」などと話ながら、生徒たちは担任の田丸教諭を待つ。
「んにしても、ホントに夏休み終わっちゃったんだな……」
「まだ言ってんのかよ、気持ちはわかるけど」
机に突っ伏しながらぼやく暖に、一真が言った。
「すぐに冬休みになるよ」
「そうよ、たった3ヶ月半じゃない」
「長いよ、具体的な日数を出されると何か更に凹むよ……」
女性陣に言われ、暖はより一層落胆する。
そこへ、田丸教諭が教室に入って来る。暖の席に集まっていた一真、梨紅、沙織は自分の席に戻り、田丸教諭の発言を待つ。
「では、ホームルームを始める」
今日は2学期初日の為、このホームルームで終わりだ。そんなことを考えながら、一真は頬杖を着き、田丸教諭に視線を向ける。
「2学期は学校行事が多い、明日の"実力テスト"を始め、体育祭や文化祭など……」
「……はぁ!?」
驚愕の声と共に、暖が立ち上がる。それに驚いた田丸教諭は、一歩後退した。
「どうした? 川島」
「実力テストって何すか!?」
「夏休み前に言っただろう、夏休みの宿題の範囲でテストを行うって」
教諭の発言に絶望したのか、暖は泣きそうな顔で一真の方を向いて……
「一真ぁぁぁぁぁぁぁ!」
とりあえず、一真の名を叫ぶ。
「どうしたんだい? の○太君」
「○び太じゃねぇよ!」
「いや、完全に『ドラ○も~~~ん!』みたいな感じでオレの名前を呼んだだろ」
「なんでもいいよ! オレを今すぐ夏休みに戻してくれ、そして夏休みが終わらなくしてくれ!」
「本当にお前らエン○レス○イトが好きだな……無理だっつの、テストぐらい受けろよ、どうせ成績には関係無い」
「あ、マジで? 0点でも良いのか?」
「構わな……」
「いや、0点は勘弁してもらえないか?」
一真と暖の会話に、田丸教諭が口を挟む。
「それから、ホームルーム後の清掃だが……久城、今城、山中、川島の4人は校門の清掃だ」
『やっぱり……』
一真と沙織が、同時に呟き、頭を抱えた。
「ってわけで、暖の鼻血清掃を開始する」
「校門の清掃で良くね!? なんでわざわざ生々しくすんだよ!」
「うるさいぞ、鼻血」
「鼻血って呼ぶなよ! 人間だよ!」
一真と暖がふざける中、他のメンバーはデッキブラシ片手に気だるげに立って居た。
「一真、そろそろ始めようよ」
「おぉ! 梨紅が何かやる気になってる……鼻血、感謝しろよ?」
「だから鼻血はやめろって! いや、でもホント、ありがとう今城」
「まぁ、仕方ないよ……一真が魔法失敗したんだから」
「おっと、流れ弾がこっちに」
「遊んでないで、"水"」
「はい……"波音の名の元に、我に従属せし清らかなる物を……アロ・アロア=ウェンド"!」
梨紅に言われ、一真は空中に魔法陣を描く。
ヴェルミンティアの魔法を一真がアレンジした物で、本来のヴェル式魔法を、魔法陣から放てるようにしたのだ。
魔法陣が完成し、青く輝き、魔法陣の中心から水が放たれた。しかし……
「ギャアアアアアア!」
あまりの水圧に、暖が吹っ飛んで行く。
「一真!?」
「いや、悪い……あれ? 威力強すぎ……」
「アバババババ……」
「久城君! 暖君が溺れそうよ!」
「わかってる! ……あれぇ?」
一真は首を傾げながら、指先に魔力を集め、魔法陣に突っ込む。
「ここは問題ない……水量調整はここ……じゃない、何処だ? ここからこっちに繋がってて、ここがこうでこうなるから……あ、これか!」
一真は魔方陣の内容を強制変更し、水の勢いを弱める。ようやく解放された暖は、ぐったりと横たわって居た。
「暖! 大丈夫か!?」
さすがの一真も暖に駆け寄り、その身体を支える。すると……
「……はい、私は大丈夫でございます」
「駄目だこいつ、頭打ったっぽい」
「いいえ、本当に大丈夫でございます、むしろ清々しい……清らかな気持ちです」
暖の発言に、メンバーは漏れ無く顔をしかめる。
「あぁ……神よ、感謝します」
「いや、礼には及ばな……」
「お前何もしてねぇだろ! しかもあくまで神様候補だし」
照れる勇気を一喝し、一真は再び暖に視線を向ける。
「……そうか、"清らかなる物"だ」
「どういうこと?」
梨紅に問われた一真は、未だ水を出し続ける魔法陣を指差した。
「"清らかな"水で、心が清らかになったっぽいな」
「……浄化の効果のある水」
一真の言葉に、豊が続ける。それを聞いたからか、豊の頭の上に乗って居た、黄緑の獣……風のカーバンクル"雅"は、気持ち良さそうに水浴びを始めた。
「楽しそうねぇ、雅」
「精霊だから、清らかな物が好きなんだと思う」
2本の尻尾を振る雅を見て、愛と豊が微笑む。その一方で、何かに目覚めつつある暖を見て、一真と梨紅は眉間に皺を寄せていた。
「あれかな、退魔力で戻せるかな?」
「いや、更に可笑しくなる気がする」
「じゃあもう気絶させちゃう?」
「いや、気絶したってなぁ……清らかな心に、暖の心が勝たなきゃ戻らないわけで……あぁ、そっか」
何かを思いついたらしき一真は、暖を指差し、言った。
「おい、"鼻血"」
「鼻血じゃねぇっつってんだろ! ……あれ?」
『釈然としない!』
暖は戻って来たが、梨紅と沙織は納得いかないようだ。
余談だが、暖の鼻血は一真の魔法により浄化され、校門は綺麗に……清らかになっていた。
「清らかな水と、風の精霊……ちょっとしたパワースポットだよ」
清掃終了後、豊がそんなことを言って居た。
放課後になり、メンバーは全員、MBSF研究会の部室に集まって居た。
ちなみに、MBSFとは……
「魔法使いと退魔士と一般人その他諸々で、勉強したり遊んだりその他諸々をする、SF研究会……それが、MBSF研究会よ!」
「急にどうした?」
梨紅の発言に、一真が首を傾げる。
「ってわけで、今日の活動を始めます」
「シカト? まぁ、いいけど」
一真は机に頬杖を着きながら、メンバーを見渡す。
「そんで? 今日は何を……」
「はいっ!」
一真の言葉を遮り、暖が挙手する。しかし……
「却下」
「おぃぃぃぃぃぃぃ! せめて話ぐらい聞けよ!」
「却下」
「だから! おま……」
「却下!」
「えぇ……」
暖は、どうしようもないと言った様子で手を下げる。
「どうせ、明日の実力テストの勉強とか言うんだろ」
「わかってんじゃん!」
「わかった上での却下だ」
「何故に!?」
理不尽な物言いに、暖は驚愕の連続だった。
「でも、仕方ないんじゃない? 我が部から0点は出したく無いしさ」
梨紅の呟きに、一真は腕組みをし、不意にメンバーを見回す。
「今日の活動はテスト勉強……賛成なら挙手」
一真の言葉に9人中5人が挙手する。
「過半数行ったか、じゃあテスト勉強だな……各自、全力を尽くすように」
一真がまとめ、それぞれが勉強を開始するべく、問題集を取り出すのだが……
「……なんてタイミングで来るんだ」
突如、一真の背後の空間に、蒼い穴が空いた。それに、一真はため息を吐く。
夏休みの間もあったのだが、一真はしばしば、異世界に呼び出されるようになっていた。ヴェルミンティアから帰って来てから、何度も異世界間を行き来しているのだ。
「今日は何処の異世界?」
「初めての所っぽいな、召喚呪文が聞こえないし……」
「気をつけてね」
「あぁ、すぐに帰って来るよ」
梨紅にそう言って、一真は背後の穴に吸い込まれた。同時に穴は消え、室内に静寂が戻って来た。
シャーペンで文字を書く音、難問に唸る声、頭を掻く音が聞こえ始める。一真が異世界に呼び出されてから、10分が経過した。
「……一真、遅いなぁ」
『え? ちょっと早すぎない?』
暖と沙織が、同時に言った。
「まー君、かず君が行ってから何分?」
「10分14秒……日に日にタイムは上がって来ているな」
「いや、むしろ下がってるんじゃないの? それ」
恋華、正義、愛の言葉に、梨紅の顔が赤くなる。
「最終的にあれだろ? 行って5秒で遅いなぁってなるんだろ?」
「それが末期だな」
「いいえ、最終的には異世界への穴が現れるのを察知するようになって、『今日はどのくらいで帰って来る?』ってなるわ」
「そこまで行くと、予知能力的な力が目覚めてるよね!? ないない!」
勇気、暖、沙織の言葉に、さすがの梨紅も反論する。




