2学期開始!
夏の暑さがまだ残る、9月上旬。始業式に向かう高校生の中に、久城一真は居た。
「……はぁ」
溜め息を吐きながらとぼとぼと歩くその様子は、ゴールデンウィークの終わりを嘆いていた、かつての一真と瓜二つだ。
空は清々しい程に青く、雲もそれなり、陽射しは真夏よりも和らぎ、過ごしやすい。そんな陽気と一真のテンションは、完全に反比例だった。
「一真、凹み過ぎじゃない?」
一真の隣を歩く、黒髪ショートカットの少女。今城梨紅が言った。
赤いネクタイ、ピンクで半袖のワイシャツに、赤いチェックのスカート。貴ノ葉高校の夏服を着た梨紅を見るのは、実に1ヶ月ぶりになる。
「夏休みが終わったら、みんなこんなもんだって」
「いやぁ、それにしても凹み過ぎだよ一真は……夏休み、いっぱい遊んだじゃん」
「まぁな」
この夏休み、一真たちは遊び倒した。宿題も早々に終わらせ、海に山に異世界に、プールに夏祭りに異世界に、天体観測にオールに異世界に……
「異世界での思い出が目立ち過ぎるけど、楽しかったな」
「でしょ!」
「ホント、夏休みを終わらせない魔法でも世界に掛けようかと……」
「それは止めて、色々な意味で」
梨紅が真顔で言うので、一真は溜め息を吐く。
「そのぐらい楽しかったってことだよ、冗談だっての」
「いやいや、一真ならやりかねないよ」
「まぁ、魔力さえあれば発動出来るけどな」
「冗談なんだよね!? 魔力が足りなくて出来なかったんじゃないよね!?」
「だから冗談だって、ははははは……はは」
「本気だったでしょ! あわよくばエンドレス○イト再現したかったでしょ!?」
「視聴者目線で、それは勘弁して下さい」
色々と怖い会話をしながらも、2人は歩く。十字路に差し掛かると、左右から見覚えのある顔が現れた。
「よぉ、おはよう」
「みんなおはよう!」
一真は軽く手を上げながら、梨紅は満面の笑みを浮かべながら、それぞれ言った。
現れたのは、MBSFメンバーだった。
「おはよう、久しぶり……というわけでは無いがな」
「おはよう、2人とも」
黒髪で短髪の眼鏡男子……桜田正義と、肩より少し長い、薄い栗色の髪の少女、山中沙織が言った。
『……おはよう』
残りの5名は、力無く挨拶するだけだった。
「正義、山中、なんだよそのゾンビ共」
「夏休み終了と同時にゾンビとなった、哀れな被害者たちだ」
「その場合、加害者は誰かしらね……」
「夏休みを終わらせたのは……学校だよね?」
『……学校?』
梨紅の言葉に、ゾンビ5人が反応する。全員が顔を青くし、ガタガタと震え始めた。
「まずいぞ一真、禁断症状だ」
「いやいや、おかしくね? 禁断症状って、薬やってるわけじゃあるまいし」
「学生にとって、夏休みは麻薬に近い物があるのね……」
「上手いこと言ってんじゃねぇよ! なんか納得しかけたぞ!」
「……ねぇ、そろそろ行かないと遅刻するよ?」
退屈そうに、梨紅が言った。すると……
『遅刻!』
ゾンビ5人は人間に戻り、学校に向かって駆け出した。
「なんなんだあいつら!」
「オレたちも行こう、新学期早々に遅刻は勘弁願いたいからな」
「待ってよみんな!」
「慌ただしいのは変わらないわね、夏休みでも、新学期が始まっても」
それぞれ呟き、4人も5人の後を追って走り出す。
それは本当に、いつもの光景……普通の高校生の日常だった。
だが、彼らの日常が普通で終わるはずが無い。
「やべぇ、校門が閉まるぞ」
一真が言った。一真たちの学校の校門は、8時15分に完全閉鎖される仕組みになっているのだ。更に言うとこの校門、無駄に高く、10mはある。
「問題ないわ!」
そう叫んだのは、足元まで伸びるストレートな超長髪に茶髪の少女、涼音愛だ。
「閉じるなら、壊せば良いのよ!」
説明は不要だろうが、性格は極めて凶暴である。
「バカやめろマジで! どこのアントワネットだお前!」
「じゃあカズがなんとかしなさいよ!」
「壊すぐらいなら"飛び越えろ"よ! 暖以外は行けるだろ!」
一真の言葉に、全員が沈黙する。そして……
『あぁ、なるほど……』
「いや、ならオレは?」
メンバーが口を揃える中、黒髪短髪の少年、川島暖が一真に視線を向ける。
「お前は知らん」
「放置!? まさかの置いてきぼりか!」
暖が叫ぶ中、他のメンバーはそれぞれの能力で空を飛び始めて居た。
梨紅は"天使化"の能力を使い、正義は"風"を操る力を使い、沙織は赤い翼を出して羽ばたく。
「暖君、私が連れて行ってあげようか?」
「駄目よ恋華、甘やかしちゃ」
重力を操り、ふわふわと浮きながら言う、黒髪ツインテールの少女、重野恋華に、愛が言った。
「母親か!」
「違うわよ、何言ってんの? 馬鹿? 馬鹿なの?」
「馬鹿じゃないよ!」
「いや、お前は馬鹿だろ」
「うるせぇぞ勇気! お前だって馬鹿だろ!」
"天使"の力で空を飛ぶ、金色と茶色の短髪の少年、進藤勇気に、暖が言う。
「お前より馬鹿じゃねぇよ」
「馬鹿って言った方が馬鹿なんだよ!」
「……五十歩百歩」
短めの黒髪に細い目、頭に黄緑の仔猫らしき動物を乗せた少年、寺尾豊が、愛を持ち上げながら呟いた。
この段階で、空中に居ないのは一真と暖だけになった。
「仕方ないな、オレが連れて行ってやるよ」
「マジで!? やった!」
「後悔すんなよ?」
「喜びが一瞬で吹き飛んだよ!」
暖の叫びを無視し、一真は腕を振るう。
「"風よ"!」
「うぉあぁぁぁ!」
一真の放った突風により、暖は前方に飛んで行った。一真はその風に乗り、空中に上がる。
「やべぇ、角度間違えた」
一真が顔をしかめる中、他のメンバーは吹っ飛んで行く暖を目で追う。よく見ると、校門は既にしまっており、暖は真っ直ぐ校門に向かっているように見えて……
『うわっ……』
甲高い衝突音と共に、暖が校門に激突した。
「……この魔法は、もうちょい練習が必要だな」
「暖君、流石に可哀想だよ」
「仕方ない、回収して来るか」
言って、一真は一足先に学校に向かって飛んで行った。
「だーかーらー、悪かったって、機嫌治せよ暖」
「お前の謝罪には"仕方なく"感が否めねぇんだよ!」
鼻にテープでガーゼ張り付けた暖の叫びが、教室に響く。だが、クラスメートは誰も気にしない。
「事故だ事故、マジで」
「それにしたって謝り方があんだろ!?」
「超すまん」
「馬鹿にしてる!? お前にとって謝罪って何ですか!?」
「今、この場では、"心を偽る行為"に他ならな……」
「悪いと思ってないんだ! 新学期早々、校門を鼻血で染め上げた親友に対して謝罪の念は皆無なんだ!」
一真が暖を回収しに校門に降り立った時、暖の鼻から大量の鼻血が吹き出しており、殺人現場ばりに校門が真っ赤に染まっていた。
「あの惨劇現場を見て、お前は何を思った!?」
「1、この出血量はヤバいだろ、大丈夫か? という暖への心配」
「……よ、予想外にオレを心配してくれてた」
一真の言葉に、暖が少し嬉しそうに照れる。
「2、校門に近付けない生徒や先生方へ、申し訳ないと」
「あぁ……謝罪はそっちに行ったのか」
残念そうに呟く暖に、一真も残念そうに続ける。
「3、この後始末はMBSFでやるんだろうな……と」
「うわっ、何か申し訳ない」
「とりあえず、謝れよ」
「本当に申し訳……待てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
暖の絶叫が、再び教室に響く。
「お前のせいだろ!? 被害者だぞオレは!」
「黒幕は梨紅だ!」
「なんで私を巻き込むの!? そ、それなら計画を考えたのは沙織よ!」
突然巻き込まれ、慌てた梨紅は、沙織を道連れにした。
「これ、計画的な犯行だったのか……」
「オレ、計画的に命を狙われてたの?」
一真と暖が呟く中、沙織は満面の笑みで一言だけ告げた。
「私が計画を考えるなら、証拠が残らないようにもっと完璧な物を作るわよ」
『ごめんなさい』
「勘弁して下さい」
一真と梨紅は謝罪、暖は懇願しながら、沙織に頭を下げた。




