第8話 転移魔導師vs転生魔獣
「まずは・・罪もないアナタの仲間達を手に掛けてしまったこと、謝らせて欲しい。申し訳ありませんでした!」
対峙するなり、深々と謝罪を始める目の前の男に、いぶかしげな表情をみせるミノタウロス。
『頭を下げれば、慈悲を恵んでもらえるとでも思ったか?』
「正直、少しだけ。せめて、この女の子たちだけでも見逃してもらえないですかね?」
『・・貴様一人で、拙僧と戦うというのか』
「はい・・正々堂々、俺と一騎討ちの決闘をしましょう。あなただって、本当は女子供に手を出すのは気が進まないんじゃないですか?」
『・・・よかろう。貴様の勇気に免じて、その女子らだけは、見逃してやる』
見事に交渉が成功し、俺は心の中でガッツポーズを決めた。予想通り、敵は典型的な武人気質の性格だったようだ。これで、一騎討ちに敗北しても、アシュレイたちの生存は確約される。
「ちょ、フクネ!何、勝手に話を進めてるのよ⁉︎」
「悪い。万が一、俺がやられたら・・一人で、レジスタンスに合流してくれ」
「ふ、ふざけないで!私も、一緒に戦うから‼︎」
「足手まといなんだよ!分からないのか⁉︎」
「!」
語気を荒げた俺の言葉に、前に出て来ようとしたアシュレイの足が止まる。
「さっきの魔法だって、全く効いてなかっただろ?正直、二人を気にしながら戦って勝てるほど、甘い相手じゃなさそうだ。絶対に手を出さないで、そこを動かないでいてくれ・・頼む」
「本当に、モンスターが約束を守ってくれるとでも思ってるの?」
「それは・・多分、大丈夫だ。俺の勘だけどな」
「勘って・・」
ブンッ
そんな話をしていると、ミノタウロスは近くで震えていた奴隷少女を、こちらへ軽々と投げ飛ばし、反射的に俺は彼女を受け止めた。体重が軽くて、助かった。
「だ、大丈夫?ルーネ・・だっけか」
「は、はい。ありがとうございます!」
「さっきの話は、聞いてたね?後ろに、下がってて」
彼女は何か言いたげな表情をしていたが、俺がポンと背中を押したことで、その言葉を呑み込み、黙ってアシュレイのもとへと向かってくれた。
『仲間との別れは、済んだか』
「はい。別れるつもりは、さらさらありませんけど」
『ふん。玉砕覚悟というわけでは、ないということか』
「薙刀は、拾わなくてもいいんですか?待ちますけど」
『構わん。せめてもの情けだ、無手で戦ってやる』
ゴキゴキッと指の骨を鳴らし、戦闘準備万端といった様子のミノタウロス。俺は、小声で服の中にいるナビへ話しかけて。
「奴の強さは、どれくらいだ?」
「レベルは45。さっき見ての通り、土属性の精霊魔法に加えて、【威圧】や【薙刀術】のスキルを持っている。ステータスも軒並み、高いし・・正直、一騎討ちはオススメしないね。今のフクネとじゃ、レベル差がありすぎる」
「こっちだって、戦いたいわけじゃないわ。やるしかないから、やるだけだ・・よし、お前も安全なところに避難してな」
「フクネ・・死なないでよね」
「縁起わりーこと、言うな。さっさと、行けい」
何度か、俺の方を振り返りつつ、走り去っていくナビ。
この勝負、ただの勝利でも難しいというのに、ノーダメージで勝たなければならないという条件付きだ。【バフ・ダイス】で防御力を上げた状態でも、ボスゴブリンの一撃にダメージを受けたことを考えると、あのミノタウロスなら一発でも貰えば、致命傷になりかねない。
『決闘ならば、最期に名前を聞いておいてやる。名乗るがよい』
「フクネ・・明神福音!あなたは?」
『ベンケイ。ミノタウロスのベンケイだ!』
「弁慶・・まさか、あの歴史上の弁慶⁉︎」
『何を言っとるかは、分からんが・・拙僧が歴史に名を残すとしたら、これからの未来よ。ゆくぞ!フクネ‼︎』
有無を言わさず、己の魔導印を輝かし始めるベンケイ。微かに、足下の地面が揺れだして、すかさず俺は【アジリティーダイス】を振り込む。
『土槍!』
ズドンッ
すると、フクネのいた地面から、先ほどゴンザを貫いた鋭く大きな土の槍が突出して。
「フクネ⁉︎」
思わず、彼の名前を叫んでしまう王女だったが、すぐにフクネの無事を確認して、胸を撫で下ろす。敏捷力を上げるダイスの目は[6]を出しており、一瞬の加速で逃げ延びていたのだ。
(今日の残りの幸運は、940・・【ブラフ・ビジョン】の多用が、響いてるな。出し惜しみは、してられなそうだ)
単なる偶然かもしれないが、ベンケイのような特徴的な名前に、武器の薙刀、そして武人的思考・・様々な要因を加味すると、俺の知る歴史上の英傑・武蔵坊弁慶を、どうしても思い浮かべてしまう。
もしかして、敵は弁慶の転生体なのでは?前世の記憶は失ってたとしても、その特徴は顕著に現れている。俺が転移されたことを考えれば、十分にあり得る話であり、この仮説が正解だった場合、希少種であり、インテリジェンス・モンスターであり、過去の英霊である超魔獣が相手ということになるわけで。
「【キングダム・シャッフル】!ベット50‼︎」
チャリーン(残運890)
思考を張り巡らせながら、俺は賭博魔法を発動させた。オープンされたカードは、[4]。4本の剣が宙に創造され、弁慶へと射出される。
『【岩壁】!』
ガガガガッ
あわや命中かと思われたが、寸前に防御魔法を唱えた弁慶。敵を取り囲んだ岩の堅牢に、4本の剣が突き刺さると、儚く剣たちは消失してしまった。
(やっぱりか・・正面からの遠距離攻撃は全て、あれに阻まれてしまう。例え、ダイヤのAを引き当てても、直撃させられなくては、恐らく奴は倒せない!)
今の攻撃は、防がれるのを折り込み済みの、いわゆる“捨て攻撃”というヤツだ。岩壁が出現してる間に、次の魔法の準備を済ませる為である。
「一か八か・・奴を倒すには、これを使うしかない!【サモン・フィーバー】‼︎ベット120ッ」
チャリン、チャリーン(残運770)
それは現段階では、まだ修得していない賭博魔法。スロットの揃った目によって、ランダムで召喚獣を呼び寄せる・・シャッフルカードと並び立つ、賭博魔法の主力魔法の一つである。
しかし、敵の岩壁が鎮まっても、スロットのエフェクトが一向に始まらず、焦燥感が強まっていく。
(やっぱり、今の俺じゃ使えないのか?でも、幸運は、消費された・・だとしたら、きっと!)
ギュルルルルル!
すると突如、スロットのリールが出現し、勢いよく回り始めた。しかし、今度は物理攻撃を仕掛けてこようとしているのか、何回か足で地ならしをしてから、ベンケイが一直線に俺へと突進してきて。
(あ奴は、速さを向上させる術を心得ている。ならば、【威圧】の効果範囲まで距離を縮め、まずは足を止める!)
これも前世の恩恵なのかは分からないが、ベンケイは人間並の知能に加えて、戦の立ち回り方にも長けていたようだった。敵を観察し、すぐに対抗策を練っていく。
ゴゴゴゴゴゴ・・・
再び、【アジリティーダイス】を使用しようと構えたが、ギリギリでスロットのリールが止まる。見事に揃った絵柄は、俺の元いた世界でいうハニワのようなマーク。次の瞬間、俺とミノタウロスの間に割り込む形で、土の中からベンケイに勝るとも劣らないほどの巨躯を持った土人形が誕生した。
『貴様・・付与魔法だけでなく、召喚魔法まで扱えたのか!』
「いいや。俺が扱える魔法は、たった一つ・・賭博魔法だけさ!行け、ゴーレム‼︎」
《オオオオオオン‼︎》
『賭博魔法・・だと?くっ!』
ガシィッ
がっぷり四つの体勢で両手を合わせ、真っ向勝負の力比べをするベンケイとゴーレム。そのパワーは、ほぼ互角のようで拮坑したまま動かない両者。
『ぐぬぬっ・・こんな泥人形ごときに、遅れをとってなどたまるか!』
グググ・・
鼻息を荒くしながら、ベンケイが両腕を膨張させると、徐々にゴーレムの背中が反り返り押され始めてしまう。
「まだだ!【ストレングスダイス】、ベット10・・対象:ゴーレム‼︎」
チャリーン(残運760)
赤いサイコロが[6]の目を出すと、押し負けていたゴーレムの力が倍増し、形勢を逆転させた。これが【バフ・ダイス】の第二段階、仲間に魔法効果を譲渡する完全支援形態である。
《オオオオオオン‼︎》
『召喚獣に付与魔法を、かけたのか!おのれ、こしゃくな・・ぐっ、ぬうううん‼︎』
(同系統のパワー型だったけど、なかなか良い召喚獣を引き当てた。だが、まだ・・油断は、出来ない!)
6倍化したゴーレムのパワーに、あわや押し倒されそうになるミノタウロスだったが、劣勢とみるや喉元を赤く発光をさせ、大きく息を吸い込んだ。
「・・何だ?何を、する気だ⁉︎」
ゴオオオッ
ミノタウロスの口から吐き出された業火が、ゴーレムの上半身を融解させてゆく。ベンケイの前には、虚しくも土人形の足だけが残った。
(炎のブレスまで、吐けるのか?ナビのやつ、肝心な情報を伝え忘れやがったな)
『今のには少々、肝を冷やしたぞ。他に、奥の手は残してあるか?フクネよ』
(土魔法に、ブレス攻撃・・大魔王かよ。スキル搭載しすぎだろ!)
『どうした?もう、諦めたか。ならば、拙僧から参ろう!』
スウッと大きく息を吸い込み、また喉元を赤くするベンケイ・・ブレス攻撃の予備動作である。しかし、一向に避ける気配がないフクネに、アシュレイが叫んだ。
「何やってるのよ、フクネ!早く、そこから逃げなさい・・さっきの炎が、来るわ‼︎」
明らかに聞こえているはずのアシュレイの声にも、フクネは反応することなく動かないでいると、そこへゴーレムを消炭と化した炎のブレスが襲いかかる。
ゴオオオッ
「フクネ‼︎」
「心配するな!まだ、生きてる・・ギリギリだけどな‼︎」
なんと、アシュレイの呼び掛けに応えたフクネは、背中に担いでいた[小鬼の盾]で、炎のブレスを防いでいたのだ。亡き師匠の鑑定で、この盾に【火炎耐性】が付与されているのを知っていたからである。
(ぐっ・・盾越しにも、熱さが伝わってくる。肌が、焼けそうだ)
ベンケイのブレスは持続性も高く、盾で防いでも止まる様子を見せない。次第に、【火炎耐性】のある[小鬼の盾]も表面からジリジリと溶け始めていく。
(魔導師が、盾を使うとはな・・つくづく、面白い小僧よ!しかし、いつまで耐え切れる⁉︎)
「・・今だ!【トラップ・カード】オープン‼︎」
『⁉︎』
ブレスに押されながらフクネが叫ぶと、ベンケイの背後から【キングダム・シャッフル】のカードが一枚、オープンされる。
(【トラップ・カード】は、【サポート・トリック】の一種。本来なら、術者の前でのみ発動できる【キングダム・シャッフル】を、目視できる範囲に“罠”として配置できる。死角からの奇襲で、岩壁を出させない!)
更に、わざと正面からブレスを受けることで、こちらへ注意を引きつけていたフクネ。オープンされたカードから8本の剣が生成され、ベンケイの背中に全て突き刺さった。
ザクザクザクッ
『グオオオオオッ!』
刃の刺さった跡から、どくどくと血が流れ出すと、さすがのベンケイも、たまらずブレスを止めて、膝を突く。
(よし、効いた!【キングダム・シャッフル】に80、【トラップ・カード】に30・・残り幸運は、650。かなり消耗したが、これで‼︎)
『まだだ・・まだだァッッ‼︎!』
とどめを刺そうとしたフクネだったが、背中に8本の剣が刺さったまま、ベンケイは元のように立ち上がり、手のひらを掲げると肩の魔導印が輝き出す。それは、まさに武蔵坊弁慶の“仁王立ち”を彷彿とさせる様相であった。
(くっ!エイトソードじゃ、火力が足りなかったか。これじゃ、まだトドメの一撃は与えられない‼︎)
『認めてやろう、小さき魔導師よ。貴様は、強い!だが・・これで、終わりだ‼︎』
何か、強大な魔法を唱え始めたのか。鉱山内の地盤が、グラグラと揺れ始める。
「いけない!これは、【地震】の予兆だ・・二人とも、もっと遠くへ離れて‼︎」
アシュレイの肩へと移動していたナビが、地鳴りに動揺する二人の女子に向かって叫んだ。
「【地震】って・・土属性の広域殲滅魔法⁉︎こんなところで使ったら、ここら一帯ごと崩壊するじゃない!」
「ボクに言わないでよ!それだけ、フクネに追い詰められたってことでしょ。とにかく、早く逃げるんだ‼︎」
「逃げるって、どこに?それに、フクネを置いて行けるわけないでしょ!」
アシュレイがナビと口論していると、ミノタウロスの足元から、泥の触手が伸び出して、その詠唱と動きを封じる。
『ぐっ⁉︎まだ、何か仕掛けていたのか?』
「違う!あれは・・ゴーレム⁉︎」
そう。その泥の触手は、まだ意思の残っていたゴーレムが半壊してなお、主を守ろうと突き動かしたもので。
『あの召喚獣か・・何という、忠誠心!』
「感謝するよ、ゴーレム。お前がくれた最後のチャンス・・絶対に、無駄にはしない!【キングダム・シャッフル】‼︎」
ゴーレムの残滓によって、身動きのとれなくなったベンケイへ、フクネが13枚のカードを展開させると、続けざまに新たな賭博魔法を詠唱した。
「更に!サポートトリック・・【ラケシス・ドロー】‼︎」
チャリン、チャリーン(残運400)
250もの幸運を捧げて使うその賭博魔法は、今まで引き当てたことのある出目を任意で選び、確実に出すことのできる“運命の女神”の恩恵を借りた“神引き“を実現させるもので。
「俺の選ぶカードは・・これだ!来い、ダイヤのA‼︎」
天空にプリズムが発生し、その中から金剛石の大剣が現れて、ベンケイのもとへ一直線に飛翔する。
『ウオオオオオッ‼︎』
ビタッ
ベンケイが“死”を覚悟した瞬間、金剛石の大剣は、彼の眉間の直前で、動きを止める。いや、フクネがわざと止めてみせたのだ。
『なんのつもりだ?なぜ、とどめを刺さぬ⁉︎』
「勝負は決した。元はといえば、先に縄張りを荒らしたのは俺たち人間の方だ・・これ以上、無用な血を流したくない」
大剣が消え去ると共に、崩れ去るゴーレムの残滓。解放されたミノタウロスからも、すでに戦意は失われていた。
「まさか、拙僧が慈悲をかけられるとはな。その甘さ、いずれ戦場では命取りになるやもしれんぞ?フクネ」
「平気っす。俺は、世界一幸運な男なんで!」
グッと親指を突き上げて、満面の笑みを浮かべる小さな魔導師に、ベンケイは笑いを堪えることが出来なかった。
「くっくっく・・あ〜はっはっ!拙僧の負けだ‼︎気持ち良い勝負だったぞ?フクネ‼︎!」
(何とか、勝ちにもっていけたか。正直、金剛石の大剣が効かなかったら、ジリ貧だったからな・・ラッキー、ラッキー)
無駄な血を流したくないというのも、フクネの本音ではあったが、寸止めすることで“今の一撃を喰らっていたら、やられていた”と思わせることが目的でもあった。卑劣な相手には、通用しない交渉ではあったが武の精神を重んじるベンケイならば、素直に敗北を認めるだろうという確信めいたものを感じていたのだろう。
一騎討ちが決着し、一部始終を見守っていたアシュレイはホッと止めていた息を吐いた。それを見て、ずっと黙っていたルーネが声を発する。
「すごいですね・・あの、フクネ様という方は」
「まあね。普段は、頼りないんだけど・・やる時は、やるタイプみたい」
「はい。とても、素敵でした!」
キラキラとした瞳で、フクネを見つめているルーネに複雑な表情を向けながら、アシュレイは自身の不甲斐なさを心で嘆いていた。
(結局、私は見ているだけで、何も出来なかった・・何の為に、剣術や魔法を習ってきたんだか。情けない)
すると、勝負を終えたフクネが、女子たちに声を掛けて。
「おーい、ルーネ・・だったっけ?確か、神聖魔法を使ってたよな。あれ、まだ使えるか⁉︎」
「は、はい!使えます‼︎今、治しに行きますっ」
「あ、いや。俺は、無傷だから・・こっちのミノタウロスに、かけてやってくれ」
「えっ⁉︎よろしいんですか?」
「ああ。回復したところで、また襲ってくるような奴じゃないから大丈夫だ」
血まみれのベンケイの背中に、そっと手を触れ、自身の十字架の模様をした魔導印を光らせるルーネ。その間に、呆れながらアシュレイがフクネへと歩み寄っていく。
「ったく。どこまで、お人好しなんだか・・普通、そこまで敵に塩を送る?相手は曲がりなりにも、モンスターなのよ⁉︎」
「人間にだって、良い奴と悪い奴がいるだろ?モンスターだって、全部が悪ってわけじゃないさ」
その言葉を聞いていたベンケイは、ふるふると体を震わせたあと、決意を固めた視線をフクネに送り、叫んだ。
『フクネ・・いや、フクネ殿!その気概、その強さ、惚れもうした‼︎』
「えっ⁉︎」
『是非、我が主君となってくれまいか⁉︎拙僧も、あのゴーレムと同じように・・フクネ殿に、忠誠を誓わせていただきたい!』
(ビックリした〜・・告白されたんかと思ったわ。てか、これベンケイとヨシツネの件ってヤツ?もしかして)
突然のベンケイの懇願に、二人の女子もフクネに注目して、その回答を待っている。
「わかった!これから、よろしく頼む。ベンケイ」
「受け入れんのはやっ!相手は、モンスターなのよ⁉︎もっと、悩みなさいよ‼︎」
「来るもの拒んでる場合かよ。戦力は、少しでも多い方が良いだろ?いつ、帝国の追手に遭遇するかも分からん状況なんだから」
「そ、それは・・そうだけど」
「ベンケイの強さは、その目で確認したよな。こんなに心強い仲間が加わってくれれば、千人力だ!」
渋々と受け入れるアシュレイの横で、全快したベンケイが嬉しそうにフクネの前に跪いた。
『ありがたき幸せ!これから、粉骨砕身の覚悟でフクネ殿の為に戦うことを、誓わせて貰おう‼︎』
「おう・・あんまり、無理しない程度にな。でも、本当に良いのか?同じ魔族とも戦うことにも、なるかもしれないぞ?」
『お気になさらず。さすがに、同種のミノタウロス達には手は出せませんが、他の種族相手ならば、例え魔族であろうと全力で薙刀を振るってみせましょう』
「それは、頼もしい。んで、この先にもいるんだろ?まだ、仲間のミノタウロスは」
『ご心配には及びませぬ。拙僧が話せば、無用な戦闘は避けられるでしょう・・して、フクネ殿の目的地は何処で?』
「ビザン砂漠へ行きたいんだ。そこまでの案内、頼めるか?」
『お安い御用!最短ルートで、ビザン砂漠までの道を御案内いたしましょう!』
「その前に!」と、俺たちの会話に割り込んできたのは真剣な顔をしたルーネであった。
「ジェイルさん達と、ベンケイさんのお仲間方の供養をしてあげたいのですが・・ダメでしょうか?」
「そうか・・そうだな。やってあげよう。ベンケイは仲間のミノタウロスの分、お願いしてもいいか?」
俺の言葉に、コクリと静かに頷くとベンケイは金貨やアイテムに変化してしまった亡き同胞たちのドロップアイテムを拾い集め、土に埋め始める。
「アシュレイも、手伝ってくれるか?」
「はいはい、分かりましたよ。しかし、奴隷にされてた男達の供養だなんて・・ルーネも、どっかの誰かさん並みのお人好しね」
皮肉混じりに言ったアシュレイの言葉に、亡骸の前で天に祈りを捧げながらルーネは答えた。
「仮にも、神職者ですから・・それに、この方々も根っからの悪人というわけでも、ありませんでしたし」
「そう?根っからの悪人臭、プンプンさせてたけど。てかさ、ルーネはどうするの。これから」
「私・・ですか?」
「まずは、ストラーダに戻って・・それから、故郷にでも帰れば?今なら、一人で帰れるくらい安全だと思うわよ。ここの鉱山も」
「故郷には・・帰れません。もう、私には戻る場所なんて、ないんです」
「・・そっちも、そっちで色々とワケありみたいね。深くは、聞かないけどさ」
「お気遣い、ありがとうございます・・あの!よろしければ、私も皆さんの一行に加えていただけないでしょうか⁉︎」
「はぁ⁉︎言っとくけど、めちゃくちゃ危険な旅路よ?こっちも」
「それは薄々、感じています。ガルキメス帝国に追われているんですよね?理由は、分かりませんが」
「その通り。帰る場所が無いなら、無いで・・どっかの町で、新しい生活を始めた方が賢明な判断だと思うわよ」
「あなた方には、命を救っていただいた恩義が残っています。せめて、それを返させてもらわないと、私の気が済みません!」
「ぐっ・・意外に、頑固なタイプ?ルーネって」
埋葬する為の穴を掘りながら、二人の話を聞いていた俺が進言する。
「そこまで言うなら、仕方ない。仲間に入れてしんぜよう」
「またかよ!軽いな‼︎」
「 強力な前衛に、回復専門の後衛が一気に増えて、ようやくパーティーらしくなってきたな。うんうん」
「おい、聞けよ。可愛い子が入って、嬉しいだけだろ?この、スケベ魔導師!」
「誰が、スケベ魔導師だ!俺は、純粋に戦力補強できて嬉しいだけであって・・」
まるで兄妹喧嘩のような二人のやり取りを傍観しながら、新たな仲間となった一人と一匹は、温かい笑みを浮かべていたのだった・・。