第2話 最強運気の後継者
どすっ
小屋に向かう途中も、何匹か単体のゴブリンと遭遇したが、ブンターさんが持っていた杖による直接打突で撃退してくれた。
「魔力を使わなくても、強いんですね・・驚いた」
「賭博魔法は、複数の敵を殲滅したい時にだけ使う。ラックは、有限だからな」
「賭博魔法・・?」
森の一部が開けた場所に出ると、木製の小屋がポツンと建っていて。
「さあ、着いたぞ。ここが、我が家だ」
「も、森のど真ん中じゃないですか⁉︎本当に、こんな場所で暮らしてるんですか?」
「慣れれば、快適なもんさ。ここなら、人目に触れることもないしな。隠居生活するには、もってこいの立地だよ」
ブンッ
小屋の周囲に足を踏み入れると、何か薄い幕のようなものが、全身を通過する感覚に陥る。
「今のが・・破邪の結界?」
「そうだ。下位のモンスターなら、ここから先に通るどころか、近づくことすらままならないだろう」
「やっぱり、ブンターさんって・・高名な魔法使いだったり、するんですか?」
「ふっ。ただの、しがない魔術オタクさ。さ、入りなさい」
意味深な笑みを浮かべながら、扉を開けて小屋の中へ俺を招き入れてくれるブンターさん。
「お邪魔しま〜す」
小屋の中は、木製の家具で統一されており、立派な暖炉の横に、薪が積まれているのが印象的だった。
「ここに来てから、休む間も無かったんだろう?温かい茶でも、入れてやる。座って、待ってなさい」
「あ、ありがとうございます!」
すぐ隣にあるキッチンへ、上着のローブを脱ぎながら歩いていくブンターさんに、ペコリと頭を下げて、近くの椅子に腰を下ろす。
「賭博魔法を、検索してみたよ。聞きたいかい?」
ずっと黙っていたと思ったら、調べ物をしていたのか。ナビが、謎のドヤ顔で、話しかけてきた。
「すぐに、ブンターさんが戻ってくる。手短に頼む」
「OK。賭博魔法とは、簡潔に言うと・・魔力を使わない、特殊な魔術体系なんだ」
「魔力を使わない⁉︎」
「正確には、多少の魔力は消費するみたいなんだけどね。それよりも必要となってくるのが、幸運値なのさ」
「ラック・・そういえば、さっきブンターさんも言ってたな」
コトン
ナビとの話に夢中になってたあまり、テーブルの上に湯気の立ったお茶を置かれてから、ようやくブンターさんが戻っていたことに気付く。
「まるで、歩く国立図書館だな。便利な魔法生物じゃないか」
「ブンターさん⁉︎き・・聞こえてましたか?」
「賭博魔法とは、その名の通り・・何が起こるか分からない、ハイリスクハイリターンのギャンブル魔法だ。成功すれば、少ない魔力で絶大な効果を生むこともあるが、逆もまた然り。己が身に、危害が加わることだって、十二分にある」
「じゃあ、さっきの魔法も・・もしかしたら、失敗してたかもしれないんですか⁉︎」
「そのリスクを回避する為に、賭博魔導師は自らの幸運値をベットするのさ」
「幸運値を賭けると、失敗する確率が減る・・?」
「さっき、最初に使ったサイコロの魔法。あれの場合、5の幸運値を賭ければ、失敗する確率が0になる。更に、最大値である10まで賭ければ、より良い結果が出やすくなる・・といった仕組みだ」
「幸運値が尽きたら、どうするんです?」
「まだ、知らなかったか。幸運値は、24時間でリセットされるんだよ。まあ、それまでに使い切ってしまえば、回復するまでベットは出来なくなるが、賭博魔法自体は使用可能だ。危険は、伴うがな」
「一日経てば、回復する・・それって実質、ノーリスクみたいなものなんじゃ?だって、たったの5やそこらの幸運値で、安全が確約されるんですよね?」
テーブルを挟んで、対面に座ったブンターさんが、俺に煎れてくれたお茶と同じものをすすりながら、ニヤッと微笑んだ。
「いいか?フクネ。この世界での幸運値というのは、ステータスの中でも、特殊な項目でな。どんなに戦闘経験を積もうと、他のステータスと違い、上昇することがないんだ」
「・・えっ⁉︎」
「ほとんどの人間が、レベル1の幸運値のまま、生涯を終えていくのさ。成長させる方法もあるにはあるが、大体は過酷な試練が待ってる上に、幸運値がもたらす恩恵といえば、モンスターがレアなアイテムをドロップしやすくなったり、呪いや即死魔法にかかりづらくなるくらいだ。それなら、その間に他の数値を上げた方が効率的だろ?」
確かに、そうだ。かくいう俺だって、本来ならばボーナスポイントを、攻撃力や防御力に割り振るつもりだったわけで。
「だから、この世界の冒険者たちの間では、幸運のステータスは“捨てステータス”と呼ばれるほど、軽視されている」
「“捨てステータス”か・・確かに。ここに来てから、不幸続きだもんなぁ。幸運値の高さなんて、何も役に立たないんだ。やっぱり」
「いいや。お前は、やっぱりツイてるよ」
「へ?」
「こうして、私と巡り会ったじゃないか。賭博魔法最後の伝承者である・・この、ブンター・サンライズとな」
「最後の伝承者⁉︎ブンターさん以外には、もう賭博魔法の使い手は、いないんですか?」
「この世界の人間はな。どんなに運が良いと呼ばれてる奴でも、幸運値の数値は100前後。私のように、特殊な訓練を積んだ者でも200が良いとこだ。種族でいっても、長年生きたエルフやホビットが、ようやく400に届くかどうか」
「!」
「さっき、お前のステータスを覗かせて貰った時・・一瞬、自分の目を疑ったよ。幸運値999、異常な数値だ」
手が滑って、ボーナスポイントを間違えて振り分けてしまった・・なんて、恥ずかしくて言えやしない。
「これも、神様の巡り合わせかもしれん。どうだ?私の賭博魔法を、継承してみるつもりはないか。フクネ」
「えっ⁉︎い、良いんですか?そんな凄い魔法を、今日会ったばかりの異世界人なんかに・・」
「かまわんさ。どのみち、誰も欲しがらない・・いずれ、滅びゆく魔法だったんだ。仲間も傷付ける可能性がある魔導師なんて、冒険者たちも好んでパーティーに迎え入れようとはしないしな」
「 ・・ありがたい話ですけど、少し考えさせてもらえませんか?こっちに来てから、怒涛の展開すぎて」
「そうだったな。いきなり、すまなかった・・狭い家だが、今日は一晩ゆっくりと身体を休めるといい」
「ありがとうございます!何から何まで」
こうして俺は、この世界でのジビエ料理のようなものをご馳走になってから、地下にも作られていた空き部屋を貸して貰えることに。
「こんな広い地下室まで、あるなんて・・驚いたな」
地下はテーブルとベッドだけの簡素な部屋だったが、何やら大きな五芒星が刻まれた扉が存在していて、 よほど開けてみたい衝動にも駆られるも、踏み止まった。
「どうして、すぐに申し出を受けなかったんだい?賭博魔法・・覚えておいて、損はないと思うんだけど」
ベッドに腰を掛けた俺の懐の中から、ひょっこりと顔を出してくるナビ。全く、いつの間に潜り込んだのか。
「そうなんだけどさ。ウチの親父・・ギャンブルで借金作って、俺と母さんを置いて逃げやがったんだよ。 そのトラウマからか、ギャンブルって響きはどうも苦手で」
「へぇ・・見かけによらず、複雑な家庭環境で育ったんだね。フクネは」
「お袋が、やたら明るい人だったからな。貧乏だったけど、二人でも楽しく暮らせてたよ。高校卒業して就職して、ようやく恩返しが出来ると思ってたんだけどなぁ・・今ごろ、寂しい思いしてんのかなー?」
「・・大丈夫さ、きっと!ラケシス様が、良い運命を与えてくださるよ。フクネのママさんにもね」
「・・だと、いいけど。なかなか、適当そうな人だったからな〜。あの女神様」
「言っとくけど。たまに、転生者の様子を、天界から伺ってるからね?ラケシス様。発言には、注意した方が良いよ」
「なぬ⁉︎それを、早く言わんかい!」
フクネがキョロキョロと、見えるはずのない女神様の目を探している時・・地下の入口付近で、密かに気配を消して、話を盗み聞きしていたブンターは、満足そうな表情を一瞬見せてから、その場から足音も立てず消えていったのだった。
チュンチュン・・・
小鳥の囀りが聞こえる森小屋で、ブンターさんの用意してくれた朝食を食べる。とても、周囲を恐ろしいゴブリン達が徘徊してるとは思えないほど、穏やかな朝を迎えた。
朝食は、馴染みある目玉焼きと小麦のパン。食事の内容は、元いた世界と、さほど違いはないらしく、ひとまずやっていけそうだ。
「昨日の話だが・・やはり、私はお前に賭博魔法を継承したい。ダメか?」
しばし雑談した後、一緒に朝食を摂っていたブンターさんが、真剣な表情で、昨夜の話を持ち出してきて。
「・・どうして、そこまで?」
「賭博魔法は、最高の結果を引き当てれば、あらゆる魔法を凌駕する可能性を秘めている。その為に、私は出来る限り幸運値を上げる試練に望んだ・・しかし、辿り着いた数値は198。人間からしたら高いかもしれんが、この数値では賭博魔法の真価を100%発揮することは出来ない」
「俺の幸運値なら、可能だ・・と?」
「そうだ。単純に、賭博魔法を滅ぼさせたくない理由もあるが。強い力は、時に多くの人々を災厄から守ってくれる。お前なら、世界の救世主になる素養をも秘めていると、私は信じているんだ」
「俺が・・もし、その賭博魔法を、私利私欲の為に悪用したら?その可能性は、考えなかったんですか?」
「そういう質問をしてくる時点で、お前は信用に足る男だよ。少なくとも、私の勘はそう言っている」
「・・・!」
「なーに、厳しい修行などは必要ない。私の魔導印を譲渡すれば、その時点で全ての賭博魔法は継承できるからな」
「魔導印?」
「魔導師が研鑽した魔術の知識が、全て記録されている紋章のことだ。魔導師ならば、必ず身体のどこか一部に刻まれている。これを他の誰かに譲渡することで、その情報を一瞬で受け渡すことが出来るのさ」
ブンターさんが、自身の右腕の服をを捲り上げると、太陽のような印をした紋章が、刻まれていた。
「でも、それを受け渡しちゃったら・・ブンターさんは」
「賭博魔法は、使えなくなるな。だが、大丈夫だ。サブの魔導印として、多少の黒魔法は残してある。この辺のゴブリン共を相手にする分には、支障はないだろう」
「・・・」
「どうだろう?フクネ」
「・・分かりました。ただ、魔導印はいりません。どうせだったら、一から俺に賭博魔法を、教えて下さい」
「それは、構わんが・・いいのか?」
「ブンターさんだって、これから大切な人を守らなきゃいけない場面も、やってくるかもしれない。その時の為に、魔導印はとっておいて下さい。それに・・」
「それに?」
「受け継ぐなら、ブンターさんの思いも一緒に受け継ぎたいので」
「!」
かくして俺は、しばらくの間、ブンターさんの元で賭博魔法を学ぶことになった。ギャンブルという響きには抵抗もあったが、ブンターさんの人柄に触れて、この人が使う魔法なら大丈夫な気がしたからだ。
どのみち、目的もないし、時間はたっぷりある。一から賭博魔法を学んで、それからでも異世界を渡り歩くのは、遅くないだろう。
そして、時間ははあっという間に過ぎ・・二年の月日が流れた。