表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/16

第1話 賭博魔法は、突然に

次の瞬間、俺が飛ばされたのは、ジャングルのように四方を木々で囲まれた場所で・・・。





「ここは・・異世界なのか?」



「そうだよ。ここが、異世界バクアスター。フクネが、新たな人生をスタートさせる場所さ!」





俺の独り言に、返事をしてくれた声は、肩から聞こえた。





「な・・ナビが、喋ったのか⁉︎今!」



「そうだよ、フクネ。この大地には、マナが溢れているからね。ここだったら、キミとも会話で、意思疎通が出来そうだ」



「そ・・それは、助かる。当面、ナビの情報だけが頼りだからな」





運命の女神やら、異世界転生やらで、もはや動物が話したくらいでは、さほど驚かなくなっていた自分が、ちょこっと怖い。





「早速だが、まずは・・ここ、どこだ?」



「ここは、名も無き小鬼たちの森みたいだね」



「小鬼⁉︎嫌な予感が、プンプンするんだが・・」





ガサガサッ





言ったそばから、近くの草叢から物音がして、慌てて警戒しようとするも。





「待て!武器とか、何も無いぞ⁉︎服装だって、地球の物のままだし‼︎」



「あちゃ〜。今日は、相当な転生者がいるみたいだから、手間を省かれちゃったみたいだね。ラケシスに」



「あの人、大事な部分、省きすぎじゃない⁉︎」





草叢から、姿を現したのは、全身緑色の化物が三匹だった。





「あれが・・小鬼こおに?」



「そう。又の名を、ゴブリン。下級種のモンスターだけど、レベル1のフクネからしたら、十分命の脅威となる相手だね」



「相手だね・・じゃなーい!魔法とか、戦闘に使えそうなスキル、積んでないのか?俺⁉︎」



「さっき、自分のステータスは確認したよね?今のキミには、何のスキルも備わってないよ。逃げるのが一番の、得策かな」



「それを、先に言え!あと、その妙に余裕たっぷりの態度を・・・」





ヒュンッ




マイペースな魔法生物に、ガツンと言ってやろうと思ったら、俺の顔のすぐ真横を通って、弓矢の矢が、背後の木に突き刺さる。




「⁉︎」





見ると、先程のゴブリンの一匹が舌舐めずりしながら、手作り風の弓を構えていて。






「驚いた。この森のゴブリンは、独自の文明を築いているみたいだね。弓を使うタイプなんて、かなりの希少種だよ」




もはや、ナビへのツッコミは諦め、俺は大急ぎで踵を返し、逃亡を試みる。





ヒュンッ




続けざまに放たれる矢が、またしても俺の顔を横切る。





「ひいいっ!第二の人生が、秒で終わる‼︎」



「すごい、すごい!全部、矢を紙一重で避けてるよ?しかも、逃げながら‼︎」



「避けてるわけじゃねえ!たまたま、外してくれてるんだ‼︎あっちが‼︎!」



「なるほど。これも、幸運値の恩恵なのかもね・・だとすると、興味深い」



「そんなことより、この近くに町とか無いのかよ⁉︎ナビの役割を、果たせ!」



「一番近い町は、この方角を真っ直ぐに行って・・ざっと、30分ってところかな」



「30分⁉︎」





絶望的な数字を聞いて、注意力が散漫になったからか、足元にあった木の根に、突っ掛かってしまう。




ズザアッ




「いってて・・⁉︎」




転んだ痛みを感じたまま、後ろを振り向くと、ゴブリン達が諦めることなく、こちらを追跡していて。



慌てて、立ち上がろうとするも、思った以上に靴が木の根に強く挟まっていて、なかなか抜け出すことが出来ない。





ザッ、ザッ、ザッ・・・





動けなくなった獲物を見て、余裕の笑みを浮かべながら、ゴブリン達が一歩ずつ、ゆっくりと距離を縮めてきた。





「ナビ!お前、魔法生物なんだろ⁉︎何か、出来ないのかよ‼︎」



「ごめんよ、フクネ。僕の能力は、ナビゲート専門なんだ。戦闘に使えそうなスキルは、持ち合わせてない」




「そんな・・マジで、終わるのか?俺の、第二の人生」






三度、弓を引き絞るゴブリンの姿に、半ば諦めの気持ちに苛まれそうになった、その時・・!





「自殺志願者かと思ったが、そうでもないみたいだな。助けてやろう」






黒いローブに付いたフードを、目深まぶかに被った初老の男が、俺とゴブリンの間に割って入るように、木々の影から歩み出てきた。




ギリギリギリ・・・




すると、ゴブリンの一匹が、俺に向けて引き絞っていた弓の矢先を、ゆっくりとフードの男へと方向転換する。





「あ、危ない!」



「見りゃ、分かる。少し、黙ってろ・・ディフェンスダイス!」





男が叫ぶと、彼の前に、緑色のサイコロと思われる立体映像が浮かび上がった。





「な・・何だ、あれ?」



「魔法の類だろうけど、僕のライブラリーには無いものだ。マイナーな古式魔法かな?」





ナビが、あてにならない説明を挟んでいると、ゴブリンの放った矢が、真っ直ぐ男へ向かって飛んでいき。





「ベットするラックは、5だ!」




チャリーン




今度は、男の体からメダルが5枚放出され、それと同時に緑のサイコロが自動で回り始めるも・・。





ドッ




その間に、ゴブリンの矢が、男の腹に直撃してしまい、俺は反射的に目を伏せてしまう。





「なっ⁉︎」





間を置いて、静かにまぶたを開けると・・驚いたことに、男に当たった矢の方が、ひしゃげているではないか。





「次は、こっちの番だ。エレメント・シャッフル!」





男が只者ではないことを、小鬼たちも悟ったのか、明らかに動揺した様子を見せていると、今度はサイコロに代わって、トランプのようなカードが出現する。





「ベットするラックは、10・・カード、オープン!」





複数枚が、裏側で表示されたカードがシャッフルされ、その中で一枚がランダムにオープンされると。





「サイは、四の目。カードは、8か・・ラックの割には、良い出目だ。今日は、ツイてる」





雷のマークに、8と書かれたカードが光り輝き、次の瞬間・・頭上から、複数の雷がゴブリン達に降り注いだ。





ズドドドドッ





「「「グギャアアアアア!!!」」」



「す、凄い・・一瞬で、ゴブリン達を黒焦げに」





初めて生で見る魔法の迫力に圧倒されていると、さも当然とばかりに、俺の方へと振り返ったフードの男。





「東方の人間のようだが、見たことのない服装だ。小型の魔法生物といい、さてはお前・・異世界人だな?」



「そっ・・そうです。この世界では、珍しくないんですか?俺みたいな転移者は」



「いや。噂に聞いてたくらいで、私も実際の異世界人と会うのは初めてだ。嬉しいよ・・名前は?」



「あ、そうなんですね。名前は、明神福音みょうじんふくねと申します。ハイ」



明神福音みょうじんふくねか・・変わった名だな。私は、ブンター。ブンター・サンライズだ、よろしく頼む」





フードを外し、露わとなった彼の素顔は、温厚そうな普通のサラリーマン顔で、少しだけ親近感が湧いた。






「ブンターさん。助けていただいて、ありがとうございました」



「かまわんさ。しかし、異世界人なら何かしら、特殊な才能を授かってるという噂を、耳にしたことがあるんだが・・キミのスキルは、戦闘向きではないのかな?」



「残念ながら、何一つスキルは保有しておりませんで。いて言うなら、人よりもちょっと運が良いぐらいなんですよ。はは・・」



「ほう。それは、興味深い・・ちょっと、覗かせてもらおうか」



「へ?」



キイイイイン





更に接近してきたブンターさんは、俺のことをジッと見つめると、その瞳が妖しく輝き出す。






「【観察眼】か。フクネのステータスを、覗き込んでるみたいだよ」






初めて、小声で有意義な情報をくれるナビに、無言で頷き返す。





(そんなスキルも、あるのか。ま、見られたところで困るようなステータスでもないし、良いけど)



「くっくっく・・あっはっは!」





俺のステータスを確認したブンターさんが、急に悪党みたいな声を挙げて笑いだす。





「平凡すぎて、笑えましたか?」



「人よりも、ちょっと運が良いくらい・・か。確かにな」




「?」





瞳が正常な色に戻ったブンターさんは、温かい笑みをフッと浮かべてから、口を開いた。





「とにかく此処では、いつまた新たなゴブリンが出現するやも分からん。ついてきなさい」



「ど、どこへ行くんです⁉︎町は、反対側なのでは?」





ナビが検索した町のある方角とは、反対側に歩き始めるブンターさんを、慌てて問いただす。





「町よりも、私の住んでる小屋のが近い。それに、持ち金だって無いんだろう?行ったところで、宿には泊まれないぞ」



「この近くに・・一人で、住んでるんですか⁉︎」



「そうだ。破邪の結界も敷いてあるから、寝込みを襲われるような心配はない。安心しなさい」



「は、はあ・・」





なぜ、そんな場所で暮らしているのかなど、聞きたいことは山積みだったが、とにかく今は安全確保が最優先だ。俺は黙って、ブンターさんに同行することにした。








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ