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092『『その他の外国文学』の翻訳者』

お世話になっているスペイン語翻訳者の方が居るのですが、その方曰く「原文と邦訳で文章が目減りしない翻訳を心がけている」との事でしたが、読んでみるとスタンスは様々なようです。

ただひたむきに一字一句をおって翻訳文をよい物にしたいという考え方はどの翻訳者の方も同じようです。

たまには親書(?)の紹介もいいかなと思って題材に取りました。

「日本人の平均読書量ってご存じですかな?」


「はい? また唐突に」


「いやぁーなんかね、ネットで話題になっているの見てさ、調べてみました! ってヤツですよ!」


「あー定期的に調査しているみたいですね。なんか半数近くが月に一冊も本読まないとかそんなだったような……」


「そうそう! でね、週に二冊ぐらい読むと日本人の読書家の上位五パーセントに入れるらしいんですよ!」


 うーんといいながら栞は眼鏡を外して、レンズにふっと息をかけてふきふきする。


「まあ、ああいう調査で読んでいますっていう人は大体二時間ぐらいで読み終わる薄いビジネス書だとか自己啓発本が殆どなんじゃないですかね? 一冊読み切るのに毎日読んでても半月ぐらいかかる本とかもありますからねぇ……」


「えー……しょうなのぉ?」


「しょうなのですぅ。大体ビジネス書を効率的に読んで仕事に活用しよう見たいなブログとか引っかかりません? 速読出来る人とかは実際にいますけれど、年間百冊以上読んでいます! とかそういうプロフィール付けている人って大体コンサルとかじゃないですかね?」


 いわれてみればと思い出してみると、そんな感じの記事ばっかりだったような気がしてきた。


「ビジネス書は極々希にしか読んだことないですが、内容の善し悪しはそれこそ玉石混淆だと思いますけれど、ブランクや改行が多くて、図やイラストも多かったりと読みやすくされている分読むのにかかる時間も大してかからない本が多い印象は受けますねー。別にそれが悪いっていう訳ではないんですが、ちょっと厚めの単行本なんかと比べると、純粋な文章量は二倍三倍は当たり前だと思いますので、その調査の本の基準とかよく分からないですねー。因みに本と冊子やパンフレットの違いって、四九ページ以上か以下なので五〇頁ぐらいの薄さでも本は名乗れるんですよねー」


「数字のマジックだねぇ……」


「でも、詩織さんが読んでいる本って私がお勧めした本が多いんですよね?」


「はい」


「まあ後はエンタメ向きの本も読んでらっしゃるようですけれど、私のお勧めしている本メインに読んでいるなら、ガイブン好き名乗っていいんじゃないですかね?」


「ガイブンとはなんぞね?」


「海外文学ですよ。カイガイのブンガクです」


「へーそういうことならガイブン結構読んでるんじゃないかな? 一般的なJKよりは多分読んでいると思う……読むの遅いし分かっているんだかいないんだかよく分かっていないけれど……」


「ガイブンファンは中々多いと思いますよ。日本の明治から昭和にかけての文豪ファンとどっちが多いのかは分かりませんけれどガイブン・ファンって一ジャンルになっていると思います」


「へー海外文学に詳しいって何か頭良さそうに見えていいかも、でへへ……」


「そんな詩織さんに、今さっき読み終わった所なんですけれど丁度いい本がありますよ」


 などといって手元に何冊か積んである本の山から一冊取り出してくる。

 栞は大体何冊か平行して読んでいて、読むのに飽きたら別な本読むとか言う訳の分からない読み方をしているようだった。

 渡されたのはソフトカバーの白い本で、何冊も本が積んであるイラストがのっているけれども、本に書かれた文字は何一つ読めない。


「ちょっと前に出たばかりで、結構評判のいい本ですよ。『『その他の海外文学』の翻訳者』というタイトルですね。文字通り、本屋さんにいって、アメリカ文学とかフランス文学とかラテンアメリカ文学とかのメジャーどころのコーナーに並ばない《その他のジャンル》の本を邦訳している人たちのインタビュー集みたいな本ですね」


「その他の文学って例えば何なの?」


 本をパラパラとめくりながら聞いてみる。


「まあ目次見ていただければ分かりますけれど、ヘブライ語やノルウェー語、タイ語、チェコ語、恐ろしくなじみの薄い物になるとマヤ語とかチベット語なんてのもあって、全部で九カ国語の編訳者の話が出ています」


「こう言ったら失礼なんだろうけれども、チベットとかに文学なんてあるの……?」


「それがあるんですねぇー」


「あとマヤ語って古代マヤ文明とかのあれでしょ? まだ残ってたの!?」


「残ってたんですねぇー」


 ほへーと感心しながら、パラパラめくっていくと、なんだか読みやすそうだし、ちょっと面白そうかもと思った。


「知っている本とか読んだことのある本がちょいちょい出てきて、その話題になると何となく嬉しくなりますね。それと意外な話ではありますけれども、日本語話者が一億二千万人ぐらいで、メジャー文学どころみたいな顔していますけれども、そこにのっているベンガル語とかはバングラディシュとかの国語なので二億六五〇〇万人とかいて、メジャーさでは日本語なんかより圧倒的に多いハズなんですよね。日本でベンガル語の作品っていうとラビンドラナート・タゴールの『ギタンジャリ』ぐらいしか思い浮かびませんけれど、詩作をする人が非常に多い文化だそうですよ」


「ギタ……なに?」


「アジアで初めてノーベル文学賞取ったタゴールという人の詩集ですね。長編小説も書いていますけれど、やっぱり詩人としての名前が有名ですね。意外という事のほどでもないですが『ギタンジャリ』は青空文庫にも入っているので簡単に手が出せますよ!」


「へー割と有名な作品あるんだ」


「まあ読んでいただけると分かるのですが、ベンガル語の翻訳者の方は、というか他の方もそうなんですが、古典よりも今生きて活動している現代の作家の本を紹介していきたいという心構えの方が多いですね。日本翻訳大賞というのがあってその大賞を取った翻訳者の方というか作品も結構その本に出てきます。私も読んだことがあったり、まだ読めてないけれど所持している本も多数ありますね」


「ふーんそんなに凄いんだ……」


「凄いんですよ!」


 といって身を乗り出してくると栞はニコニコは笑いながら、パラパラと頁を繰っている所に人差し指をスイと突き刺して止める。


「例えばこの頁ですが、ポルトガル語の翻訳者の方ですけれど『ガルヴェイアスの犬』というのが翻訳者大賞取っていますね。こちらの本は私も持っていて、いつか詩織さんにお勧めしようと思っていたのですが、ポルトガルの文学なんて、今まで『白い闇』ぐらいしか知られていなかったので、これは凄いことですね。映画にもなっていてウイルスパンデミック的な話を扱っているので、最近ちょっと話題になりましたね。作者のジョゼ・サラマーゴがポルトガル圏で初のノーベル文学賞作家なんですが、本当にこの一冊ぐらいしか知られていないような状況が長らく続いていました。なので《現代の日本人では自分しか知らない凄い作家》が日本で評価されると嬉しいということなんですねぇ」


「この作家はワシが育てた! みたいな感じなのかな?」


「まあそういう部分は少なからずあるんじゃないですかね。あと全部の翻訳者の方に共通しているのは、マイナーすぎて日本語での教材や辞典、辞書がないので、まず別な言語から覚えて、それを経由して現地の言葉を学んだり、自分で私家版の辞書を作ってしまったりと、なかなか想像出来ない苦労があるようですね。ここまで来ると言語学者のフィールドワークみたいですけれども」


 ほへーんとなって栞の話を聞いていたけれど、自分は流石に英語だけでもよくわからんちんなのでそんな別なマイナー? 言語を覚えるのは無理なので、日本語訳してくれる人がいるというのはありがたい限りだと思った。


「まあ、これ以上内容について話すと、面白みが失せそうですからここまでにしておきますけれど、これは中々面白い本ですよ! ガイブン好きの詩織さんならば、間違いなく興味深く読めると思いますね! あと出たばっかりだからフレッシュな話題ですしね」


 ほーんとかへーんとかいいながら聞いていたけれど「わたしってガイブン好きだったの?」という疑問が頭をもたげてきた。


「私のお勧め全部ではないにしても読んでいるんですから、立派なガイブン・ファンといっていいんじゃないですかね? 最初の話に戻ると、日本人の平均読書数よりもずっと上いっている上位者になっているんじゃないですかね?」


「えーマジで!? なんか本を沢山読む人の方が平均年収も高くなるって記事に書いてあったからわたしもイケイケのお金持ちになれるってこと?」


 そういうと栞は哀しそうな目で「それはその人次第ですよ……」とぽつりと呟いていた。

 わたしも「そうか……」と答えて黙ってしまった。


「まあ、普段あまり重たい本はお勧めしていませんでしたけれど、たまにはこういう新書もいいんじゃないですかね? 教養は新書の中にあるなんていう人もいるぐらいですからね」


「そうか、教養のあるJK目指しますかー」


「役に立たないようでいて、あればあったでいいことがあるのが教養ですから、それを目当てにしていなくても、吸収出来る部分は吸収するといいと思います! 辺境文学とか希少言語収集家とかそういう人でなくても十分楽しめますよ!」


 と、いうことで教養ある女を目指すべく読んでみたら、意外と読んでみたくなるような内容の本の紹介がされていたので、ちょっと興味がムクムク湧いてきたけれど、栞にそれを言うと、メチャクチャ本を渡されそうになったので、湧いた興味は蛇口からポトポトとしずくを垂らすように少しずつ興味を開いていこうとそう思った次第であります。

 あ、因みに本は凄い面白かったです。

 後でネットに感想とか書いてちやほやされるようにしようと思ったが、それを言うと雑念が酷いと詰られそうなのでそれも黙っておくことにした。

 沈黙は金というヤツでありますな!

 まあ感想はゆっくりと栞に聞いて貰うことにしよう。

 この二人だけの図書室で二人だけの話題として……。

辺境文学というと欧米中心主義に聞こえるような向きも有るかと思いますが、敢えて辺境文学という言葉を使いました。

特に後書きで補うこともないのですが、6カ国語以上使える人をハイパー・グロットというらしいですね。

何度かお会いしたことのある先生に8カ国語いける人が居ましたが、やっぱり文学作品の邦訳は難しく、メイン部研究している言語の作品でも、翻訳文見てみたら「自分にはこれだけ精緻な訳をするのは難しい」なんてなることは結構あるようです。


感想、なんか突っ込みとかこんなの書けというのが有りましたら感想欄までお気軽にお願いします。

感想つけるの面倒だなあという方は「いいね」ボタンぽちっと押していただけると、私がき気持ちフフッとなるのでよかったら併せてお願いいたします。

次は何を書きますかねえ……。

変わったところだとエストニア発のファンタジー小説なんて有りますし、ソローキンの長編もやってみたいし、まあまずは本読み終わらせてからですね。

くどくどしくなりましたがまたよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] マヤ語ってまだ残ってたんですね~知りませんでした。 二人だけの図書室……傍から見たら、ギャルと文学少女の秘密の逢瀬に見えなくもない、気がしちゃったり。(笑)
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