表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/189

090三島由紀夫『レター教室』

文学作品と言うにはかるーいユーモア小説ですが、そんな中でも三島由紀夫の面目躍如という感じの作品です。

「でけでけでーん!」


「んまっ! なんですか唐突に!」


「本日わたくしは栞先生に本をオススメしたいと思います!」


「んまっ! んまっ!」


 普段あり得ない事だけに、二重三重にビックリしたようで、栞がひどく驚いている。

 そのオドロキを隠せない顔を見て、ふっふーんと満足感が溢れ出てくる。


「栞は普段エンタメ向きの本読まないでしょ?」


「そうですねぇー。別に嫌いとかそういう訳ではないのですが、家に積んである本優先的に読もうとすると、どうしても後手後手に回ってしまいますね。最後に軽い感じのエンタメ小説読んだのはいつだったかなあ……という感じではあります」


「えへへ。まあこっちの分野ならわたしの方が上なんじゃないですかね、へへっ!」


 そういってカーディガンのポケットから文庫本を取り出し、勢いよく栞の眼前にババーンと提示する。


「詩織さん! 近い、近いです! タイトルが見えません!」


「あっ、ごめんごめん。わたしが読んだのはこれです。森見登美彦『恋文の技術』でーす」


「詩織さんから本を薦められる日が来るなんて私、嬉しくて今猛烈に感動しています!」


 そういって、洟をすすり上げ、目頭を押さえている。

 そんなに……。


「まあアレですよ、森見登美彦面白いっス。なんか日本文学に詳しいみたいだし、これも手紙のやりとりだけで構成されていて、話が短く切ってあるから超読みやすい。超読みやすくて超面白い!」


「いわゆる書簡体小説ですねー。森見登美彦いいと思いますよ!」


「なんかねー辺境の地でクラゲの研究している主人公が、今時珍しく手紙だけであちこちとやりとりしていて、ドタバタと色んな事が起きるって寸法です。まあ読みやすいこと読みやすいこと」


「ええ、森見登美彦人気作家ですからねぇ。守備範囲からは若干漏れますけれど、一応出版されている本は全部目を通しましたよ」


「えー……もう読んでたの……?」


 まだ読んでないと思っていたけれど、いや、もしかしたら既に読んでいたかも知れないと思ってはいたけれど、ちょっと気が抜けたというか、ガクッと力が抜けた。

 ガッカリしたとまではいかないけれど、まあ先読みされていたかぁーと、ボンヤリとした何かに負けたというような気分になる。

 それを見て栞が慌てて「いや、でも私も読んだの大分前ですし、詩織さんがお勧めしてくれたなら、また読みたいなって気分になってきましたよ!」と、フォローしてくれる。


「そうか……大分前に読んでいたのね……」


 栞がしまったなあというような、なんともいえない表情を浮かべる。


「いや、その。詩織さんが私のために本を推薦してくれたというだけで嬉しいですよ私は!」


 なんともかっこうのつかないフォローをしてくれるが、何となくますます惨めな気分になってくる。


「いやぁ、栞の読んでない本オススメして、精神的に上位に立ちたいなって思っただけだからそんな立派な思惑があった訳ではないんですけれどね……」


「んまっ!」


「それはそうとショカンタイ形式だっけ? なんかそういうジャンルがあったの? 森見登美彦読んで斬新な感じーと思ったんだけれど」


「そうですね、ほら以前古文の勉強で読んだ『堤中納言物語』にもお坊の手紙だけで話が完結する話あったじゃないですか。あれは手紙のやりとりではなかったですけれど、かなり古くからある形式ですね」


「しょうなのぉ?」


「しょうなんですぅ」


 頭の後ろで手を組み「わたしの情報古すぎかぁー」とぼやいた。


「まあ森見登美彦という人は日本の文豪。明治期から昭和にかけての作家に大変詳しい人のようですから元ネタになったのではないかなと言う本には思い当たる節がありますね」


「なにそれ。気になる」


 なんか精神的に優位に立とうと思っていたのに、いつの間にかいつも通り教えられる立場になっていた……。


「ちょっと待っててくださいね」


 といって、日本文学の棚にいくと、一冊の薄い文庫本を持ってきた。


「でけでけでーん! これですこれ。三島由紀夫『レター教室』です!」


「三島由紀夫ですか。大分前に『潮騒』読んだけれど綺麗な文章書く人だったよね、確か。あとホモ」


「そういう断片的な情報だけ頭に入っているのはどうかと思いますが、まあそうですね。美文といえば三島みたいな所はありますね」


「じゃあなんですか? 『レター教室』って事はウツクシイ日本語で雅なやりとりをするお手紙の見本みたいな?」


「それがこの作品ですね、馬鹿馬鹿しくてかるーく読めるユーモア作品なんですよ」


「あっ。そういうのだったらいい。聞かせて聞かせて」


「五人の登場人物の手紙のやりとりだけで話が完結する、書簡体形式の典型的な作品で、ゆるーい話ですね。お金持ちの未亡人と、お金持ちのデザイナー。それと若いOLと貧乏だけど劇団に情熱を燃やす青年。OLの親戚でのんびりとしたややボンヤリとした青年の人間関係があーなってこーなってという話です。全員に共通するのは筆まめな事ですね。まあ時代的にカラーテレビが普及しはじめの頃ということで、電子メールなんかない頃のお話ですからね。込み入った話を手紙でするのも自然な流れですね」


「ほうほう。お手紙かあ。大分長いこと書いてないなあー。あ、そういえば今更ながら栞から年賀状来てたけれど返すの忘れてた……」


 栞は苦笑いしながら「それは最初から帰ってこないと思っていましたから」と、やや情けなくなる評価をいただいた。


「まあ短い話なので、あらすじについては触れないでおきますが、三島由紀夫という人の、こういう人はこういうこと書くだろうという、今でいうとエミュレートですかね。そういうのが実に上手くて感嘆するやら気持ち悪いやらで凄いです」


「ん? 気持ち悪いってどんなん?」


「えーと、デザイナーがですね。OLを口説く手紙があるのですが、まあその恥ずかしいんですが、こんな感じです……」


 そういって本を見せてくる。


「えーと、呼吸に合わせておっぱいが上下したり、生意気な唇……乳首の隠喩ですね。これを満足させるためにピンと指ではじいてやったらどんなに怒り出すだろう……OLがじゃなくておっぱいのことですが、そういうのを考えると甘い気分になってくる……一緒に寝てくれれば今まで感じたことのない満足感を与えて云々……」


「ハレンチ! 栞ハレンチ!」


「んまっ! 私だって声に出して読むの恥ずかしいんですから!」


「ってかそのオジサン、超もいきー。なにその何? セクハラで訴えられるんじゃないのマジで! そんなオジサン構文ネットでしか見たことないわ!」


「そうですね。三島由紀夫並みの文豪にかかれば気持ち悪いオジサンの書く文章も、リアルに再現出来るということですね……。まあこのオジサンは別にこれで絶縁されることもなく、後々意外といい仕事してくれるので、捨てたもんじゃないのですが、まあ気持ち悪い以外の感想思い浮かばないですよね」


「キモい……キモすぎる……」


 栞は、まあそれは置いておいてと、いいつつページをパラパラとめくる。


「当時のご時世的な話題も色々と出てくるのですが、確かに三島由紀夫という文豪が、ユーモアやギャグに振り切って話を書くとこういう怪作ができるといういい見本ですね。というか他の作品は割合重い話や真面目な話ばかりなので、他に軽い話というと三島本人は気に入っていたSF作品で『美しい星』というのがあるのですが、これなんかはドナルド・キーンに英訳して出版してくれと頼んだけれど、出来が気に入らなかったようで断られたりしたなんて小話のある作品があるぐらいですかね」


「へーSFなんて書いていたのね」


「まあこのドナルド・キーンがノーベル賞選定委員会に入っていて、三島由紀夫を強く推薦していたのですが、まだ若いという理由で、川端康成が選ばれたなんてノーベル文学賞裏話もあったりします。SF的要素の強い作品書くノーベル文学賞受賞者というとカズオ・イシグロまで待たないといけないので、三島が受賞していたら、その後の自決も含めて色々と歴史は変わっていたかも知れないですねー」


「ほーそーなん」


「そーなんです。と、いうことで森見登美彦の『恋文の技術』読んで楽しめたならこちらもきっと気に入りますよ! 気持ちの悪いオジサン構文はさっきの所だけですからご安心を。まあアレはアレで何度か見直していると味わい深く感じても来るのですが……」


「へーじゃあわたしも、栞のその生意気な唇をピンとはじいて怒らせてやりましょうか、うへへ」


「ハレンチ! 詩織さんハレンチ!」


 以前から羨ましかった形のよい胸をばっと両腕で防御して体をぐいと背ける。

 まあ、おっぱいならわたしの方が大きいんですけどね、ブヘヘとか思っていたら、ふと我に返ったときキモいオジサンの手紙とあんまり変わんない発想だなと思って若干凹んだ。

 でもまあ、女の子特権というか、わたしも男子の目がない所で偶にクラスのアホな女子同士でそういうことあるし、その時の手触りで頭の中で上下関係を構築している節がないとはいえないので、いつか栞のおっぱい揉みしだいてやろうと心のどこかでボンヤリと思いつつ、三島由紀夫の『レター教室』を手に取った。


 最近暖かくなってきて性欲に忠実になり始めているというか、変に発情期を迎えているのかよく分からないけれど、何かそういうエッチなのは良くないと思うので、ちょっと冷静にならないと……なんの話してんだわたしゃ。

アホな女子高生は大体こんな感じの性欲の発散の仕方をしている。

等という情報筋からの極めて怪しい話を元に、頭の中春全開にしていますが、果たしてこれが正しいのかどうか分かりません。

あまり百合とかそういうの意識はしていないのですが、参考にネットで読める漫画とか読んでみると、結構攻めた描写しているのが多いので、まああまり腥くなりすぎなければいいだろうという感じで、匙加減も良く分からないままアレしています。

もっとプラトニックでういういしい感じのがいいのかどうか私にはもう分からないので、聞いた話をもとにこのぐらいはやっているだろうという感じでなかば投げ槍に書いています。

それはそれとして『恋文の技術』も『レター教室』も短くて面白いのでエンタメ向きの作品ご所望の方は是非ご一読を。

あ、あと気付いたらだいぶ前っぽいですが30万字こえてましたね、やったね!

全開から一週間以上空いてしまいましたが、一週間に一回更新ペース(通年での回数)は守っていきたいと思いますのでよろしくお願いいたします。


感想など有ればお気軽に。

この本ヤレとか推薦図書があれば可能であれば取り上げたいと思います。

感想とかまでは書きたくないと言う方は「いいね」ポチッとしていただけると、ふふってなります。

「いいね」集めは健康によい影響を与えると聞きますので、よければお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ