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072円城塔『Boy's Surface』

意味が全く理解できないで一部の人に有名な円城塔『Boy's Surface』ですが小ネタを一つ一つ拾っていくと壮大なギャグ作品だということがわかります。

わかるというか私はそう感じました。

ということで難しい部分は理解しなくていいから、言葉遊びとか伝わる人にだけ伝わればいいという感じのちょっとした読者への挑戦ともとれる壮大な洒落の群れとして捉えました。

本筋がつかめなくても細部のおいしいところだけ拾えればいいやという気楽な読み方でいいのでは無いでしょうかね。

 栞と出会ってからは、なんだか柄にもなく真面目に本を読む機会が増えてきたように思う。国語の教科書か漫画ぐらいしか読まなかったのが、なんだかブンガクめいた本も読むようになってきているので、これはメキメキと賢くなっているに違いないと愚考する。

 何というか知識や教養といった筋肉が鍛えられていると感じるので、知識的にマッスルになっているなあと思うわけです。

 自分の吸収力の早さが怖いぜ。


「と、いうことで栞お嬢様に質問なのですが、今まで読んだ本の中で一番難しかったのは何ですか?」


 と、問いを投げかける。


「難しい本と一口に言っても、兎に角長くて読むのが大変な本もあれば、専門的すぎて私たちの世代では理解するのに情報が足らない、まだ出会いが早すぎた本とかいっぱいありますからねえ」


「そうなのかあ……まあそうだよね。難しいといってもノーベル賞作家の作品とかも難しくて理解出来ないってわけじゃなくて、エンタメ的にも成功している作品が書けてないとそもそも受賞出来ないみたいな話していたよね」


「そうなんですよね。色々な賞を見ていると、この賞を取っている人の作品は基本面白いみたいな担保になることは多いですね」


「日本で一番凄いのって芥川賞とか直木賞辺り何かしらん?」


 と、水を向けると、形の良い顎に手をやって「うーんむ」と考え込んでいる。


「まあ直木賞についてはエンタメ作品の賞なので、何も考えずに面白くいられる作品はいっぱいあると思うのですが、芥川賞に関しては玉石混淆に過ぎると思うのですよね。飽くまで個人の感想ですが……」


「あれーっ? 何か日本で一番凄い文学賞なんじゃないのあれって?」


 芥川賞作家というものに対するイメージが崩れ落ちていきだす。


「面白い作品は当然ありますけれど、近年の作品に関しては、これってそんなに良いかなあという作品も割と多いですね。あくまで個人的な感想ですけれど……」


 珍しくどうにも歯切れが悪い。


「まあ芥川賞で面白い作品というと……あっありましたありました。最初のご質問であった難解な本で且つ芥川賞取っているのがありました」


 という事でお出しされたのが円城塔の『Boy's Surface』という作品であった。

 文庫だし薄いからすぐ読めちゃいそうですねと、薄いことに喜んでいたら苦笑いを浮かべた栞が「まあ兎に角何も考えないで少し読んでみてください」というので、何も考えないのは得意だからと読み始めてみた。


 十分も経たない内に頭の中に疑問符が浮かびまくる。


「ねっ? 難しいというか理解出来ないでしょ?」


 といって横から顔を覗き込まれる。


「えーととりあえずSFっぽいのは分かったけれど、何これ全く頭に入ってこない!」


「そうです。これが難しい本一つの例ですかね。まあ難しいというか難解というか理解させる気が一切ないように思えるのですが、ここまで来ると清々しいですね」


「完全にわからんちん状態なんだけれど、これ本当に絶賛作品なの……?」


「そうですねぇ、実際問題芥川賞の選考会で石原慎太郎は「意味不明」といっており、でも受賞させないと来年も来るだろうねという話しになってきたので、自分は降りるといって選考委員降板したなんて話があるそうですけれど、まあ実際に意味はよく分からないですよね。本当に。でもこれって凄い広範な分野からネタを拾ってきている作品なんで、ストーリーが全く何にも一欠片も理解出来なくても、何となく、それはそーいうものなんだ……と、頭の中を右から左へと転がすだけでも楽しい話ではあるようなんですよね」


「でもワケワカメだよ……もしかしてわたしは阿呆の娘なんじゃないかって心配になってきたよ……」


「おーよしよし、アホだとかそんなことはないですからねー、はいよしよし」


 幼児のようにあやされつつ、本に目をやる。

 なんか数学の定理がどうたらこうたらという話らしい。

 らしいけれども話がどんどんあっちへこっちへと回収されないまま広がり続ける。

 ストーリーらしきものもあるようだけれど、今ひとつ自分が今どこに立っているのか分からないという感覚に襲われる。


「理解する必要なんて一切ないですよ。ただこの人独特のユーモアセンスというものがあって、何というか素面のまま酩酊している酔っ払いが、周囲を気にせず真面目な顔して剛速球を投げ込んでくるというような不思議な洒落が効いているんですよね。なので読んでても意味は分からないけれどなんだか面白そうという不思議千万な状況に陥る訳です」


「そういうものなんだ……」


「そういうものなのです。滅茶苦茶難解だけれども文の語り方が独特で読者を飽きさせないし、好きな人にはたまらないってポジションに落ち着いているわけなんですね『Boy's Surface』は決して読みやすくはないけれど、雰囲気だけで流して読むのにはもってこいなんです」


「でも世の中の人は理解バッチリと理解していたりするんじゃないかしらん?」


「そういう人もいるかも知れないですが、ネットの書評見る限りだと、兎に角理解不能ということで低評価している人が殆どのようですね。何というか広範にネタを拾ってきているので、幾つかでも分かるだけで面白さが段違いになると思うので、それは自分の興味の範囲とどれだけ被ってくるかでまた受け止め方は変わってくると思います。例えは仏教説話だとかキリスト教史観だとか和歌とか数学用語だったり、元ネタが全部分かるのって作者だけじゃないのかなと思う所もありますけれど、知識や教養を要求されるようなネタが凄いとかじゃなくて、割としょうもないストレートなというか考え無しとも思える駄洒落としてお出しされたりするネタも多いので、本当にここら辺は興味のある分野の相性の問題なのかなとは思いますね。例えば難しい本の代表で行くとジェイムズ・ジョイスの『ユリシーズ』何かがパッと思い浮かびますけれど、あれも色々と小ネタが散りばめられてあって、そういうの研究したりしている人もいますからね。百年以上も前の作品なのに、未だにネタ探しなんかでちゃんと研究者として生業になっていたりするらしいので元ネタの確認は大切ですね……。それに比べるとまだ『Boy's Surface』は分かりやすいと思います。まあ意味は不明な文章には変わりないですが独特の語り口が癖になってくるのですよね」


「そうかあ、難解と見せかけつつ駄洒落を飛ばしている作品なのね……頑張って読んでみようかな……」


 栞は大いに頷くと、頑張れ頑張れと声をかけてくれるので、理解できないところはそのままスルーしてフックする所だけ見つけていきましょうという考えで攻略に望むことにした……というかあれ? いつの間にかわたし何かやたらと理解しがたいつかみ所のないこの作品を読むことに自動的になっちゃってない?

 なんだか解せないと思いつつも、こうして栞の掌の上でいいように操られているような気がしてきた……。


 とりあえず読んだ結果分かったのは分からないことが分かったという事だったけれど、なんか難しいにも色々種類があるけれど、とりあえずその中でも特に訳の分からないらしい難しい本を読んだという実績は解除されたので、また知性に磨きが掛かった一つ上の女になってしまったという成長が見られた様な気がしないでもないので良しとしよう……。

 と、思いました

いきなり言い訳になりますが、書いている途中でうつらうつらと船をこいでしまった為になんかいつも以上にとりとめもなくなってしまいまい、本来的には作者の良心としては没にするべき何でしょうけれど、出来はどうであれ公開することによって得られる経験もあろうということでアップします。

後悔ばかり得ることになるきもしないではありませんが、そういう日もあるさということで恥はさらしていきたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連続更新お疲れ様です。 おや、作者さん少々お舟を漕いでいたご様子。個人的には日常物や一話完結系などだったら、そんな作者さんの状態が反映されたお話も、いつもとは違った味が出てそれはそれで面白い…
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