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065マヌエル・ムヒカ=ライネス『七悪魔の旅』

ラテンアメリカの文学を読み始めてまだ日が浅い頃に読んだ、アルゼンチンの作家です。

洒脱で軽快な文章は是非こういうのがかけたらなと、憧れている作家でした。

日本では『七悪魔の旅』の他には『ボマルツォ公の回想』の他にはボルヘスの編纂した『バベルの図書館』に短編が少し翻訳されているだけです。

もと読まれても言い作家だと思うのですが、はてさて。

「ライトノベルですか、小学生の頃はよく読んでいましたけれど、暫く読んでいないですね」


 栞の部屋で本棚を見て回っている時に、そういえばハードカバーの本がほとんどで、アニメ風のイラストの載った所謂ラノベを見かけたことがないなと思い聞いてみた。


「別に嫌いだとかそういうことはないのですが、そういえば自然と読まなくなっちゃいましたね……」


「それから漫画も見かけないよね」


「んー漫画も好きですし、それなりの冊数はあるんじゃないかと思いますが、生憎ご覧の通り本棚の容量がいっぱいいっぱいなので、自室にはあまりおいてないですね」


 漫画なら自分も読むんだけどなあと思い、どこかに一冊ぐらい漫画ぐらいないかと探してみるのだが見つからない。やっぱりハードカバーの本が多いようだ。


「私も別に純文学みたいな本しか読まない訳ではなくて、ベストセラー作家の本なんかも読むには読んでいるのですが、話しの俎上に載せたことは確かに記憶にないですね」


「えー、漫画いいじゃん。わたしこれでもアニメとか結構見てる方だよ。ラノベのアニメとか原作読んでなくても面白いのあると思うのになあ」


「そうですねえ。ラノベが何であるかという話になるとカテゴライズ論争とかはよく見かけますけれど、ラノベ自体はレーベルで分けるのが一番無難な方法だと思いますし、読みやすいとかコミック的表現があるからといって何でもかんでもラノベにしたりするのはいただけないですが、うーん、そうですねラノベっぽくて面白い本っていうのも確かにありますよ」


「ラノベみたいに読みやすくて、読書家っぽく見せられる本知りたい! 教えて栞右衛門!」


「誰が栞右衛門ですか」


 栞が苦笑いをしながら本棚に手を伸ばす。

 そうして栞が手にしたのはラノベらしい文庫本ではなく、やはりその場にあったハードカバーの本であった。


「本日私がレコメンドするのはこちら。マヌエル・ムヒカ=ライネス『七悪魔の旅』です!」


「マヌエル……誰? ってかラノベっぽい作品なのに日本人じゃないの? なんかベストセラー作家の隠れた名作みたいなのがお出しされると思った……」


「ベストセラーなのに隠れた名作ってちょっと矛盾してますよ。まあ発売から何年も経っているのにずっと売れ続けている本とかは確かにありますけれども」


 いわれてみればベストセラーなのに隠れているも何もないもんである。

 まあそれは置いておくとして、栞の取り出した本が本当にラノベ的読みやすさがあるものなのかどうかは未知数である。ってか外国の作家でハードカバーでそんなもんあるんかいな? というのがわたしの率直な感想である。


「まあ……じゃあ聞かせて貰いましょうか、その読みやすくて、文学通ぶれる作品を……」


「それじゃあまず七柱の悪魔といったらどんなものを思い浮かべますか? ここら辺の名前はラノベとかでも使い尽くされていると思いますけれども」


 頭をボリボリと掻きながら考える。


「えーと、七つの大罪とかそういうヤツ?」


「ハイ正解! よく出来ました」


 なんか褒められたので「でへへ」と笑ってみた所「調子に乗らない」とバッサリ斬られてしまった。


「本とか設定によって七柱の悪魔が誰なのかというのはガッチリとは固まっていないですが、この本では章ごとに悪魔が振り分けられていますね。つまりルシフェルすなわち倨傲、マンモンすなわち貪欲、レヴィヤタンすなわち嫉妬、ベルゼブルすなわち暴食、サタンすなわち憤怒、アスモデウスすなわち淫乱、ベルフェゴールすなわち怠惰……と目次にある通りですね」


「へーなんかゲームとかアニメっぽい」


「まあストーリーは単純で地獄の大魔王様が、地獄で仕事もせずに毎日下らない言い争いをしている七柱の大悪魔に、お前らの司る職能に因んだ仕事を授けるからお使いに行ってこいという話しなんですね。もうちょっと具体的にいうと、過去から現在、果ては遠く未来までの人類の歴史において、それぞれ役割を担う人々を、その悪魔達のもつ能力で堕落させなさい! と、いうお話です」


「なにそれ、面白そう」


 栞がふっふっふと得意そうに笑みを浮かべる。

 この女珍しくノリノリである。


「話の構成としては、前に読んだブラッドベリ『火星年代記』の様に、一話ごとに短い章を挟んで、ずんずん進んでいくという形なんですが、これがまた社会風刺が効いていて、実に洒脱な内容になっています」


 詳しく聞こうじゃないかと腕を組み話しを促す。


「マヌエル・ムヒカ=ライネスは新聞記者だったそうで、その影響もあるんでしょうかね。社会問題を下敷きにして、ユーモア溢れる寓話を作り出しています。例えば七悪魔の乗り物として羽の生えた獣たちがいるのですが、悪魔達があまりにもこき使うので、疲れを訴え、定期的な休みや労働環境の向上を訴えて労組を作ったりなんて、今の世の中にでも通じそうな事をするんですね。まあ顛末はどうなるか読んでみて頂くとして、大悪魔達がお使いにかり出されていくというのはなかなかコミック的というか、アニメチックではありますよね」


「へー。それで難しくないんですのん?」


 難しくないんですのんといって栞がかぶりを振る。


「悪魔達のドタバタ珍道中ですよ。思いっきりエンタメに振られています。全力で面白くしてやろうという気概が感じられますね」


 へーと思って感心した。

 栞はいつも小難しい本ばかり読んでいるのかと思ったけれど、そういう完全に娯楽というかエンタメに振った本も読むのかと感心した。


「まあ何度も言っていますけれど、結局世界文学といわれる本は基本的に読んでいて普通に娯楽として面白い本が多いんです」


 と、仰る。

 その中でも特にエンターテイメントに振られたのがこの作品だとか。


「何でもかんでもラノベというのは憚られますけれども、実際にするすると読める軽い口当たりで、有名な大悪魔や幻獣、それから有名な実在の歴史上の偉人達が喧々諤々として登場して、生き生きと活躍する思わず笑みがこぼれる内容ですよ。かなりラノベ的なエンタメだと思いますよ私は」


 帯を見ると「地獄の大魔王に叱責され七つの大罪をになう悪魔たちは獲物を探して時空を超える旅に出た」と書かれている。

 なるほど。

 漫画的というかアニメ映えしそうな惹句である。

 と、思いました。


「今日はお泊まりの許可は出たんですか?」


「うん。家の両親も栞のこと気に入っているから、お泊まりで勉強会するっていったら、じっくりお教えて貰えっていわれました。はい」


「そうですかそうですか。じゃあじっくりとお厚い旅へとでましょうか……今夜は寝かしませんよ!」


「やーん。栞大胆ー!」


「じゃあまず数学から行きましょうか! 詩織さんが苦手な所ですし。私も実はよく飲み込めていない所があるので、しっかりと理解出来るまでやりましょう! その後でじっくりとお楽しみタイムの読書が待ってますよ!」


 とか何とかいって、この女勉強しっかりやった上で、本もじっくり読ませるつもりだという腹が見えたので、そこに気付きそうになって、戦慄しかけたので、慌てて自分を騙すために意識を別な所に背けた。

 まあ、ですよねーというのも正直な所ではあったけれど、栞が薦めてくる本はやっぱりちゃんと読んで二人で盛り上がりたいなと思ったのも本当のことなので、わたしの生活は半ば栞に占拠されているのかも知れない。


「ん、どうしました?」


「うん、何でもない何でもない。これからもよろしくね」


「はい? はあ、こちらこそ?」


 なんか変な感じになってしまったけれど、なんとなくお互いよく理解していないままアハハと笑って誤魔化した。

 いいんだ、わたしはこれから栞と詩織の二人旅で読書の海へと漕ぎ出すのである。


なんか最近更新速度遅い割にはワンパターンなので少し時間をかけてもうちょいちゃんとした話を書きます。

反省反省……。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「栞と詩織の二人旅で読書の海へと漕ぎ出す」って表現いいですね~。なんか、しっくりきました。 タイトルに添えても良さそうな感じ。『図書室の二人~栞と詩織の二人旅、読書の海の航海日誌~』みたいな…
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