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063ジョージ・オーウェル『動物農場』

ジョージ・オーウェルの傑作『動物農場』です。

こちらは短編と中編の間ぐらいかなと言う長さなので、すぐ読めてしまいます。

オススメしますよ!

「この前授業で『1984年』ってヤツが出たんだけれど、そんな凄いの、その本?」


 いつも通り図書室で、小春日和のボンヤリとした暖かさの中で、これまた頭がボンヤリとしていながら、頭の中に入るのか入らないのか分からないぐらいの調子で本を読んでいるときに、これまた正体を得ないボンヤリとした質問を投げかける。


「詩織さん、さては今頭の中ふわふわしていますね?」


 栞の指摘にちょっと気まずいというか、やはりボンヤリとした頭のままで、えへへと笑い「そーすね」といって、その後続けて「ごめんごめん」と謝る。


「ジョージ・オーウェルですね、面白いですよ。全体主義国家の話ですね。歴史の授業の話ですかね?」


 「そーそー」と、これまたぼんやりとしたままで頷く。


「なんか社会主義とか共産主義とかそういう話なのかな?」


 今度は栞が、うーんと唇の所に人差し指を当てて小首を傾げる。

 栞お得意の考えるときにやるポーズだった。


「そうですね。架空の全体主義国家のお話ですね。現代史とかで見るとソヴィエト連邦とか東欧の国とかであったような話ですね」


 栞の真似をして唇に人差し指を当てて考える振りをする。


「やっぱりジョージ・オーウェルってバリバリの自由の闘士みたいな人だったのかしらん?」


「そうですね、自由の闘士というのとはちょっと違うんですが、オーウェルはバリバリの社会主義者でした。独裁者を肯定はしないけれど反共産主義ではないし社会主義者であるといっていたそうです。そのことについては本当に徹底していたらしくて誠実にその生き方を貫いていたため「正直なオーウェル」と呼ばれていたぐらいだそうです」


 へー凄いと、なんとなく頭の中でオーウェルという人がどんな人なのか、本を読んでいないのでイメージが結実しなかった。


「『1984年』という小説は、ディストピア小説の代表作という感じですね。これに影響を受けた作品では村上春樹の『1Q84』という小説もありますね!」


「あ、タイトルだけは知ってる!」


「タイトルだけじゃなくて是非読んでください!」


 といって、栞は胸を張るようにちょっとした伸びをした。

 そして、あ、そうだといってこう続ける。


「『1984年』もいいんですが最初にオーウェルの作品を読むなら『動物農場』をお勧めしますよ!」


「えーとなんか牧歌的な話なんですの?」


 春先のなんとなくぶよぶよしたような柔らかい空気の中で私も胸を張るようにのけぞり、深呼吸をする。

 少しは頭が冴えてきた……ような気がする。


「いえいえ、中々過激な話ですよ。イギリスのとある農場の話なんですが、年老いたある豚が、他の豚や馬、鶏、犬など様々な農場にいる動物たちを集めて、人間は我々動物たちをこき使い、食料は生きていくのにギリギリだけ、そしてミルクや卵などは全部奪っていく、生産性のない生き物だ、いつか我々動物のために団結して人間を追い出そう……というようなことを宣言するのですね」


「それでそれでどうなるんです?」


「結論から言うとこの革命は成功します。そしてその後動物の中で一番賢い豚が動物たちのリーダーになり、農場を運営していくのですが、最初に人間を追放しようと言い出した豚が、七つの掟を作っているのですが、その中に動物は全て平等だとか、動物は動物を殺してはいけないだとかそういう取り決めを宣言しているのですね」


 あれ?


「となると、豚がリーダーになって農場を運営するとかちょっと違うんじゃない?」


 栞がフフフと不敵に笑う。

 なんかのってきたようだ。


「そうなんです、最初はこれは仕方ないというように掟を少しずつ書き換えていき、それは確かに仕方ない……というような空気で変えていくのですが、豚の欲望はとどまることを知らず、どんどん掟を誰も見ていないうちに自分の都合のいいように書き換えていくんですね。これに気付いた動物もいるのですが、他の動物たちはあまり頭がよくないので、掟を改ざんされたことに気付かないというか、上手く丸め込まれてしまうのですね。その上手く動物たちを丸め込むのがスクィーラーという豚なのですが、貴志祐介の『新世界より』という小説に出てくるバケネズミという種族のリーダーの元ネタだったりします。まあこれはおいておくとして、豚にどんどん都合がいいように掟やルールが書き換えられてゆきます」


「うわ、なんか怖い……」


 そうなんですよと、人差し指をピンと立てて、私の目の前に突き出してくる。

 近い近い!

 相変わらず距離感がおかしい。未だにちょっと馴れない所でもある。


「この豚による農場運営は最初の頃こそ上手くいったものの、どんどん豚ばかりが優遇される内容に変わり、他の動物たちは人間の支配よりよっぽどキツい生活に転落します。でもスクィーラーの、生産がこれだけ上がっただとか、豚は他の動物たちに比べ過酷な頭脳労働を行っているから、これこれこういう優遇は仕方のないことだ……と、丸め込まれていきます。そして豚同士の中で対立が起こって、追放されるものが出たり、支配していた豚の施政に疑問を投げかけたものを容赦なく殺し、それまで忠実に働いていたけれど怪我や加齢で働けなくなったものを、病院で高価な治療を行うためと偽って膠の原料にする廃動物業者に売り飛ばしたり、豚だけが贅沢を楽しんだりと……まあ全体主義国家で起こる様々なことが一通り起こっていくのですよね」


「豚に誰も反旗を翻さないの?」


 「それが!」といって顔を更に近づけてくるので思わずドキドキとしてしまう。

 なんだか栞の甘い吐息が口元に集う。

 心臓の鼓動がより早くなる。

 その音を聞かれそうでなんだかとても恥ずかしくなった……。


「それがですね、誰しもが人間に支配されていたときよりましだと考え、豚のいうことは絶対となってしまい、疑問すら覚えずに唯々諾々として従ってしまうのですね。そもそも疑問を呈するとすぐに死が待っています。食料はカツカツで、豚ばかりがどんどん太っていくのに誰も疑問を覚えることをしなくなってしまいます。本当にここら辺は全体主義国家の流れで、ジョージ・オーウェルという人が強固な社会主義者だったということを忘れさせてしまいます」


「そんなに」


 そんなに……ですといって体を引く。

 顔が離れてほっとしたけれど、ちょっとだけ、ちょっとだけなんだか残念に思ってしまう自分がいた。

 なんだろうこの気持ち。


「最後はどうなるの?」


「まあそこは読んで頂かないといけないんですが、明るい未来が見えるような終わり方ではないですね、それでこそという部分はあるのですが、ちょっとモヤモヤする所でもあります。ただ現実の独裁者の国ではこういうことが起こっているんだろうなという事がひしひしと肌に刺さるように伝わってきます」


「コワ……」


「まあ怪談の落ちで良くある人間が一番怖いという奴に似ていますが、農場の動物たちは豚と人間の見分けがつかなくなってしまうんですよね。恐ろしい話です。以前にもヘルタ・ミュラーの本なんかでもありましたけれど全体主義の独裁国家は心底寒くなるのですよね」


「人間が一番怖いのは確かなのかも……」


「そんなこんなで『動物農場』お勧めしますよ! 開高健もいっていましたけれどオーウェルの中では『1984年』よりも読みやすいというか完成度の高い作品ですね」


 栞はそういうと、また伸びをする。


「なんだか詩織さんではないですが、私もちょっとボンヤリとしてきたというかちょっと眠くなってしまいましたね……」


 その伸びをしている所に無防備になった脇腹を人差し指で突っついた。


「ひゃっん! 何するんですか!」


 ビクビクッと体を痙攣させて栞が抗議の声を上げる。

 ちょっとエロい。


「秘孔を突いたのだ……」


「ひこう? 何ですそれは」


 ビクッと痙攣して体を震わせたときにズレた眼鏡を慌ててかけ直しながら怒るとも笑うともつかない、震える声を上げる。


「ふふふふ、なんとなくだ」


「なんとなくって……えいっ!」


「ひゃふん」


 今度は私が情けない声を上げる。


「秘孔を突いたのだ……」


 栞が私の真似をしてぷすぷすと指で突いてくる。

 やったなこいつ!

 といいながらお互いの体を突っつきあいはじめた。

 まあ私たちの間で隠し事やだまし合いなんかはないだろうな……と小春日和のボンヤリとした空気の中で、またボンヤリとお互いの体を弄り合っていた。

大分間が空いてしまいました、無駄足踏ませてしまった方は申し訳ありません。

割と本は読んでいるのですが、あまりバチッとネタに出来る話が思いつかないのなんなのですが、もう少し更新は早くしていきたいと思いますので、お付き合いいただければと思います。

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