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062レーモン・ルーセル『ロクス・ソルス』

大分前に中途半端に書いたものを無理矢理続き書いたので何描こうとしていたか分からなくなりました。

「今日美術の授業でさ、シュルレアリスムっていうの? ずっとシュールリアリズムっていうんだと思ってたけれどまあいいや、あれ面白いね、よくわからんちんだけれども」


「まっ! 詩織さんが美術の話するのはじめて見ましたね」


「何よその、まっ! って、わたしだって美術鑑賞ぐらいするのですよ!」


「じゃあどんなのが気に入ったのですか?」


 美術の教科書を開きながら、なんだかゆるキャラみたいな絵を指さす。


「なんかこれ変なの。面白いなって」


「ああ、マックス・エルンストですね! 私も好きです!」


「あ、作者の名前は知らなかった……」


「まあまあ、こう言うのは第一印象が重要ですから。シュルレアリスムで印象といったらレーモン・ルーセルを思い出しますねー」


「なんか面白い画家なの?」


「いえ、ルーセルは作家ですね、印象繋がりで思い出したのが『アフリカの印象』という作品です」


「作家? なんか画家以外でもシュルレアリスムっていうの?」


 こくこくと頷く。


「むしろ、シュルレアリスムは文芸運動が出発点なんですよ」


「文芸? どんな内容なの?」


「アンドレ・ブルトンという人が打ち出した『シュルレアリスム宣言』というのがあるのですが、この宣言で文芸だとか芸術で理性や今までの価値観を全て捨て去った思考を書き取りましょうというようなことなんですが、まあ口で説明してもよく分からないですよね」


 分からん、全然分からん。

 と、いう表情がありありと浮かんでいたようで苦笑いされる。


「じゃあどんなのがありますので?」


うーんと栞が唸る。


「解剖台の上のミシンと蝙蝠傘の不意の出会いのように美しい……」


「何言ってんですか?」


「ロートレアモン伯爵という人の『マルドロールの歌』という作品の一節なんですが、出ペイズマンという技法が使われています。環境の異なる場所に置くという意味で、絵でいうとこのマグリットの絵が分かりやすいですね」


 といってわたしの美術の教科書を捲る。

 なんだか狭い部屋にでっかい岩が閉じ込められている絵だった。


「へーデペイズマンねぇ、なんか面白いかも」


「シュルレアリスムは面白いですよ、例えば先ほど名前を挙げたルーセルの代表作の『ロクス・ソルス』なんかでは実に奇想天外な世界が繰り広げられていますね!」


「『ロクス・ソルス』とは?」


「ラテン語で「人里離れた場所」という意味らしいです。科学者のカントレルという人が客人に奇想天外な発明を見せて、解説しながら進んでいくというストーリーです。例えばアカ=ミンカスという特殊な水の中で泳いでいる、伝奇ネコのコンデクレンとか、何の悼みも無く抜歯してくれる機械と、その機械が作り出す、抜いた歯で出来たモザイク画とか、へんちくりんとしかいいようのない発明が出てきます」


 へー、面白そう。

 と呟いたら、即「明日持ってきます」との返答が帰ってきた。

 そんなに読み切れるのかどうか怪しい。怪しいので。


「なんか読みたくなる雑学教えてください」


 栞は「しょうがないですねぇ」といって笑う。


「昔「イノセンス」というアニメがあったのですが、ロボットやアンドロイドに関するアニメ……というとちょっと語弊があるのですが、それに登場するアンドロイド、ハダリーというのは以前ご紹介した『未来のイヴ』に出てくる女性型アンドロイドから取っているのですが、このハダリーを作った会社の名前が「ロクス・ソルス社」なんですね、この作品で一気にルーセルは有名になった感じがしますね。あとチェスが大好きでレーモン・ルーセル式なんて戦法を生み出したりしたようですよ」


「難しくない?」


「ルーセルは文章に関しては全く飾らない質でした。比喩表現も凄く簡単なものしか使わずに、暗喩の類いも使わずにいたので、文体がないなんて批判を受けていたようなのですが、ルーセルが方法プロセデと読んでいた手法によると、簡易な言葉だけでどれだけ複雑な情景を描けるのかということに心血を注いでいました。これは精神科にかかった時の主治医に「私は一行毎に血を流している」とまでいったそうです。このプロセデを厳格に守りきったのがルーセル文学の真骨頂かも知れません。シュルレアリストというと奇抜なことをしているイメージがありますが、先ほどのマグリットなどは毎朝決まった時間に起きて、決まった時間に散歩して、決まった時間に寝るという活動サイクルを厳密に定めていたそうです。なにか変わったことをしようとする人は、意外と、平々凡々としているのかも知れないですね。とはいってもマグリットは逆に厳格すぎておかしいのですが」


「まっ! 変わった人だねぇ」


「何ですか「まっ!」って」


 といって栞がまた微笑む。

 シュルレアリスムが何なのか分かったような分からないような感じだけれど変わったことをする人たちだというのは、分かった。


「因みに哲学者のイマヌエル・カントはマグリット同様、異常なまでに時間に正確で、皆カントの姿を見て時計代わりにしていたそうですよ。彼が時間を守らなかったのはだった一度だけ、ジャン=ジャック・ルソーの『エミール』を読んでいて、あまりにも面白すぎて、読みふけってしまったときだけだそうです。シュルレアリスムとは何の関係も無いですけれど、知っているとちょっと人との話題に出せるトリビアルな小話ですね」


「へー、そんな人もいるんだね。とりあえず間に合えばいいやって感じで生きているから、時間余り正確に守っていないんだよねー」


 栞はまたおかしそうに笑った。


「まあ間に合えばいいというのは確かにありますよね。日本人は時間にうるさいですが、来る時間には厳しいのに、帰る時間はルーズなんて話もありますしね。時間に間に合えば何も文句は出ないですよね」


 今度は二人して笑い合った。

 今まで読んだこと無かったけれどシュルレアリストの文学? というものにもちょっとチャレンジしてみようと思った。

 文学って奴と絵画や音楽なんかの芸術が全部どこかで繋がっているというのは知らなかったなあと思う。

 栞と付き合っていると知らない話が色々と知れて面白いと思った。


「これからも色々と教えて欲しいなぁ」


「え、何ですか急に!」


「いえいえ、これからも末永くお付き合い頂ければなと思いまして、へへへ」


「まっ!」


 といって栞が顔を赤らめる。


「お付き合いってそういう……」


「いや、お付き合いといってもそういう訳ではなくてですね!」


 二人して誰もいない図書室でワチャワチャとしているのはとても楽しいと思った。規則正しい昔の人のように、毎日こういうことが続けばいいのになあとボンヤリ考えていた。

 そしてたまには自分から栞にお勧め出来る本があればいいのにと考え……考えた所であまりなさそうと考えてただただぼやーっとしていた。


「私の顔に何かついていますか?」


「いや可愛いなって思って見てた」


「まっ!」


 ボンヤリとした一日が最高に楽しい。

時々ならず自分が何書きたいのか良く分からなくなるときがポツポツとありますが、まあ良いでしょう。

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