表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/189

055ハビエル・シエラ『プラド美術館の師』

ハブエル・シエラはスペインのベストセラー作家です。

単純な面白さの他に、オカルトやスピリチュアルな題材を取ることもありますが、あまりスピリチュアル一辺倒でもなく、スピリチュアルっぽいのが苦手な人でも読むことが出来ます。

面白いですよ。

「わたしもなんか頭イイっぽいことしたい!」


 わたしの唐突な魂の慟哭を聞いた栞が本から顔を上げると、信じられないものを見ているような顔でこちらに視線を投げかけてくる。


「信じられないほど頭が悪そうな発言ですね……って思ってる?」


 わたしが一流の読心術を使って問いかけた所、顔をさっと逸らす。


「あ、いやそんなことは……思って……ちょっとだけは……はい」


 なんか逆に申し訳なくなってきた。


「……ごめん」


「いえ、いいんです」


 と、いうことで頭良いっぽいとは何だという話になり、それは教養なのではないかという話になった。

 教養って何だろう?

 ということで検索したら、とりあえず古典文学や芸術に詳しくて、品位や人格が備わっていて、色んな事に対して理解力や想像力が凄いみたいなことが書いてあった。

 古典文学に詳しいなら栞は教養凄いと思うので水を向けてみたら「私も教養があるかといわれたら微妙ですよ」と苦笑いされた。

 栞なりの謙遜だと思ったけれど、いま彼女が読んでいる本のタイトルが『文学こそ最高の教養である』とかいう本なのを見逃さなかった。


「へいへい栞ちゃんよー! 教養あるなんか頭良いっぽい本読んでいるじゃないのー!」


「そんな凄い難しい本でもないですよ? 本当にざっくばらんにいうと色んな翻訳者の方の裏話が聞けるみたいな内容ですから……」


「へー、でも教養とか身につけたいしーなんか簡単で面白くて教養つく本ないのー?」


 またあの「とんでもなく頭が良いとはいえない人を見る目」でこちらに哀れみの視線を投げかけて来られた気がするので、やめてやめてと頭を振る。


「そうですね……、そうですねぇ、教養が凄い人の本なら一冊思い当たる節がありますね」


「レコメンドお願いします……」


「ハビエル・シエラ『プラド美術館の師』という本は、ちょっとミステリーやサスペンスっぽくて楽しめる上に、本物の教養をもった人の本で楽しく教養あるっぽいことを感じ取れるのではないかと思いますね! 明日持ってくるので是非ご一読頂けたらなと思います!


「……もっと読みたくなるように解説お願いいたしもす」


「……もす? まあ本当に娯楽教養作品的な側面があるので、楽しんで読めるとは思うのですが、そうですね、作者の実体験が元になっている作品なんですが、学生の頃世界三大美術館の一つでもあるスペインのプラド美術館に足を運んでいたのですが、そこで変わった老人に出会う所から話が始まります。その人の名はドクトル・ルイス・フォベル、君に聞く耳があり時間が許せばこの美術館の秘密を教えよう――といって学生シエラに数々のプラド美術館の至宝の解説をするという筋書きです」


「うわ、なんか美術の解説とかいかにも教養があるっぽくていいなあ!」


 栞は苦笑いをして「教養は別に身につけるのが目的ではなくて、色んな経験を通した結果身についたのが教養だと思いますよ」とか何とか仰るけれど、わたしとしては早く教養を身につけたいとか思っていたので先を促す。


「で、物語の構造としてはプラド美術館に行ったときに会えたら、フォベル師がダ・ヴィンチやラファエロ、エル・グレコ、大ブリューゲル、ヒエロニムス・ボスそれからティツアーノといった人たちの作品を、歴史や宗教的メタファーなどを解説してくれる日々……というのが物語の基本的な繰り返しのパターンになりますね」


「ダ・ヴィンチとラファエロしか知らないけれど他の人も有名なの?」


 いつも通り、人差し指を下唇につけて、んーと考えると「そうですねぇ、ブリューゲルとボスは間違いなく絵を見たことありますよ」


 といって、検索した絵を見せてくる。

 あっこの変な怪物が出てくるやつ知ってるってなった。

 やるじゃんプラド美術館とかなんかへんな感心をしていると、本の話に戻りますかといわれて現実に引き戻された。


「そんなこんなで、フォベル師と会うことを楽しみにしていたのですが、エル・カンナシオン修道院という所に調べ物なんかをしに出かけているのですが、そこで過去の修道院図書館の研究者の閲覧記録を見たら……という所でお話は急転回するのですが、それは読んでのお楽しみという所でしょうか、という訳で是非読んで頂きたいですね!」


 自分も栞の真似をして下唇に指を当てて、んーんーと唸ってどうしようかなと思ったけれど、栞が「教養云々は置いておいて、ミステリとしても十分楽しめる凄い面白い本ですよ!」とプッシュしてくる。


「更にいうとこの話は、作者の実体験という触れ込みで売られて、スペインではかなり話題になったそうです。因みにスペインでは国内フィクション賞での受賞となっていますが、基本的には実話だという話です。本当かどうかは分かりませんが、実話として見た方がより楽しめますね」


 と、いった。


「うーん、そういわれると楽しそうな気がしてきたけれど、もうちょっと何かアピールポイントあれば嬉しいです!」


「んもー欲張りさんですね!」


 といいながらも、わたしが読みたい感じの空気を漂わせてみたら、なんだかノリノリになってきたようである。


「まあ本の内容とは一切関係ないんですが、ちょっとだけ変わった話をしますと、ツイッターでこの本の感想を呟いたら作者のハビエル・シエラ氏から英語で読んでくれてありがとう! って突然声を掛けられて、気が動転したことがありますね。翻訳者の方がたまたまそれを見てて間に入って頂き意思疎通が出来たということがありました」


「なにそれ凄い……って栞ツイッターなんかやってたの?」


 栞が「しまった!」という表情を見せる。

 ツイッターをしているというのは秘密だったようだ。

 というか栞がツイッターやってたというのが意外すぎる。

 SNSとか全く縁遠い生活というか性格というかそんな感じのイメージがあった。


「いやあ、本の感想を書き込んでいるだけのアカウントなんですが、現実でお付き合いのある方に知られたらちょっと恥ずかしいかなって思っていまして……」


「ツイッターとかしていないんだけどそんなに面白いの?」


 んーといっていつもの指を下唇に付けるポーズをとる。


「そうですね。海外からの方はちょっと驚きましたけれど、本の感想呟いていると作者だったり翻訳者の方だったり、編集の方だったりと、そういう方々から何らかの反応があることは実際にありますね」


 へー、となんか感心する。

 作家とかそういう人ってなんだか実在の人物という感じがあまりしなかったからだ。

 でもそういう人たちと出会うきっかけになるのは凄いなと思ったので……「わたしもツイッターはじめてなんか頭イイっぽいこと呟いて、作家の人とかと話してみたりしたいな」といってみた。


「そうですね。読書をどこまでしたかという整理はつきやすいかも知れないですし初めて見ても良いかもしれないですね。割と同好の士も結構見つかるようですし……」


「じゃあさ、栞アカウント教えてよ!」


 といった瞬間、真っ赤になって「駄目です! 恥ずかしい!」と顔を伏せてしまった。

 そんなに恥ずかしいかなと思ったけれど、栞の反応を見る限り恥ずかしいもののようである。


「そんなことないってば教えてよ教えて! 秘密の花園教えてよー」


「んまっ! イヤラシい!」


「えっ!? いまのってイヤラシい判定なの?」


 そうこう押し問答していたけれど、栞は鉄壁の構えで、わたしの教えてコールに耐え抜き、アカバレを防ぎきったのである。


「フォベル師も自分の存在を隠しきったのです……」


 そういって栞は遠い目をした。

 とりあえずわたしもツイッター登録してみて本のこといっぱい呟いていたら、栞みたいに馴れるかなと思ってとりあえず登録だけしてみようと思った。

 最初の一冊は多分『梶井基次郎全集』になるだろうという予感めいたものがあった。

ハビエル・シエラ氏から直接声をかけられたのは実話です。

何でも色んな原語で検索をかけて、世界中の読者に突然声をかけるのが趣味だそうです。

お世話になっている翻訳家の八重樫ご夫妻に間に入っていただき、事なきを得ましたが、本の感想を書いていると作者の方から声をかけられたりすることは実際ままあります。

今月内は毎日更新したいと思っていますが、題材が偏りそうでどうした物かなと……。

Twitterのアカウントはさらした方がいいのかなとも思ったけれど需要は中々なさそうでもありますね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ