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042森鷗外『百物語』

新潮文庫『山椒大夫・高瀬舟』収録「百物語」を底本にした。

他、青空文庫に掲載されているため無料で読めます。

文庫では15ページ半ほどなので10~15分も有れば十分読めると思います。

 なんだか変な夢にうなされて起きた時に、これちょっと面白いかもと思い、ノートに粗筋を書いていったら、なんだか意味不明でちぐはぐな話ができあがり、更に伏線回収する美味しいポイントもなんだか書いている内に忘れてしまった訳である。


 どうも変な夢の元凶は、寝ている途中で切れてしまった空調のせいらしく、頭の先から爪先までベトベトになっている。

 メモ書きしている間は気にならなかったものの、下着類も全部水没したようにジワッとくる気持ち悪さがあったので、水シャワーを浴びてすっきりしたーといったところで時刻はまだ五時半である。

 もちろん十七時半ではなくて朝の五時半であり、我ながら変な時間に起きたもんだとため息をつきつつ、なんとなく眠れなくなったので、充電の切れたスマホをベッドの上に投げ込んで、朝からパソコンを開いて、面白いネットニュースでもないものかしら? と、ワチャワチャ検索してみた。


ピポンとアラートが鳴り、画面の下に「東風栞」という名前の窓が開く。


━おはようございます詩織さん。 こんな早朝から珍しいですね。


詩織

━ぉぁょー、そっちこそ変な時間に起きているのね、徹夜なんかしたら駄目よ!


━いえ、わたしは普段五時頃には起き出して、朝活というわけではないですけれどもストレッチしたり、本読んだり、課題をやっているので……。


詩織

━真面目か! いやあんたは確かに真面目だったわ、申し訳ない。


━褒めているんですか?


詩織

━いや、割とマジで褒めているけれどこんな時間に起きられるの凄いわー。エアコンの設定切れてなかったらまだまだ夕方近くまで寝てたと思う。


━寝過ぎです! 怠惰に過ぎる……。


詩織

━まあ見てください、今はシャワー浴びて綺麗なものですよ、わたしは。


 チャット画面にカメラの映像設定して、髪などをさらさらーっとする。


詩織

━どうよ?


━あ、はいサッパリしてたんですね。


詩織

━反応薄いなぁー。栞も動画送ってよ!


 うーんとか、えーと、とかいった後、しばし沈黙が続き……笑わないでくださいねというと、ピポーンと音が鳴り、栞の顔が映される。


詩織

━あら、あらあらあらあらあら、三つ編みじゃない!


━実はわたしも朝起きてすぐに冷水を浴びたので……髪はまだ編んでいないのです。失礼に当たるかなと思ったり、恥ずかしかったりと……。


 そこまで言うと、ノートで顔を隠してしまった。


詩織

━折角ならさ、髪型で遊んで見ればいいのに。三つ編みだけじゃなくてツーサイドアップとか、なんかポニーテールだとか……。


━そ、そんなこといわれましても……。


詩織

━まあレアな栞の顔が見られたからわたしは良かったけれど……。うん、いつもの三つ編みが一番しっくりくるかなぁ。


 冷房が効き始めてきて、やたらとリラックスした気分になる。

 わたしも割とサッパリ目が覚めてしまった。


詩織

━チャットだと面倒だから音声通話に切り替えようか?


━はーい。


「というわけで、もう眠れなくなってしまったし、今日は課題やるだけの日だから何かみじかーくて、それでいて面白いお話あったら教えてよ」


「詩織さんからそういってくるのは珍しいですね、いいことだと思います!」


「ほら、わたしも知的なこう女子力を高める何かがあればクラスの連中からプリン頭とか馬鹿にされずに、頭の切れる知的な女に見えるかなって」


「相変わらず読書への欲求が不純極まるところは置いておいて、そうですね、青空文庫から読める短編送りましょう。長さ的には文庫本で十五ページちょいかな」


「お頼みし申す」


「アドレスはこれですね。今回の作品は夕方から暮れが舞台ですけれど、丁度今日みたいなムシムシとした日に読むには丁度いいかもしれません」


「『百物語』? たった十五ページ程度で終わるの?」


「まぁとりあえず読んでみてください」


「短編ホラーかな?」


 と、いうことで読んでみたわけです、が。


「なんだろう、全然怪談話というわけでもないのになんとなく不思議な感じがする……。あと夕暮れ時の夏の蒸し暑さが凄い伝わってくるね。何というかだらりとした疲れがあるというか……」


「そうですね、一回読んだだけだとあまり気づかないんですが、その倦怠感の正体が誰の目線で語られているのかということを考えると、ちょっと面白い視線になってくるんです!」


「誰の目線って、この主人公っていうか森鴎外? の目線じゃないの?」


「そうですそうです、主人公の森鴎外ではあるんですけれども、どちらかというと登場人物としての森鴎外ではなくて、作者としての森鴎外といった感じはしませんか?」


「うーん……なんとなくいいたいことは分かるかなあ……」


「森鴎外の作品で割と特徴的なのが超然としたというか、ずっとカメラを持っている人間が徹底的に傍観を決め込んでいる……というのがあると私は思います」


「ほー傍観者……」


「そうですね、例えば百物語の宴会で適当に飲み食いして、面倒になって帰ってしまい、後にしとみ君から、顛末を聞かせて貰っても、なんとなく鴎外は、主催者の飾磨屋しかまやという人物に対して、親の遺産を継いだお大尽だの放蕩三昧して金はどこから来るのだろうかという考えは持っていたわけですが、そんなゴシップも、なんとなくまあいいやという感じで流してしまい、最後には太郎という芸者……太郎という源氏名で女性なのはちょっと混乱しますが、その女生と会場二階のスペースに蚊帳をつって二人してボンヤリと寝ている話を聞いて、傍観者というには人を馬鹿にするにも極まっていないかというのですが、飾磨屋にしても蔀にしても森鴎外にしても全員が全員物語の中まで入り込まず俯瞰している傍観者なんですよね、その傍観者のレイヤーで一番上に来ているのがもちろん執筆者としての森鴎外なのだと私はおもいます」


「なんか難しいことをいわれた気がするけれど、まあいわれてみればそんな感じが……」


 栞がふふふと笑う。

 蜩がうわっと一気に鳴き出している。

 これが早朝のもつ魔力なのだろうか?


「まあ傍観者というのは明白に『百物語』の主題なんですよね。例えば新潮文庫の解説ではこの傍観者というのは作家であると同時に批評家であるという一種冷めた視線が森鴎外の中にあって、実はこの物語の主人公は、語り部である森鴎外ではなくて、千金をはたいて人を集めたのに、それを冷笑的に見下している飾磨屋だったりするのですよね。何というか人間観察的なことをしつつも、さっさと引っ込んでしまうという批評家らしい視点なんですね」


「んおーん! 朝からなんだか難しい話! ああ、蝉うるさい!」


「まあまあ、そんなこんなで難しく考える必要もないのですけれど、なんとなく今の時期に良く合う短編というか掌編小説だったとは思いませんか?」


「うん、冷房入れてるのにまた蒸し暑くなってきた……気がする」


「それと、もっと手軽に読みたい場合は、詩織さんも知っている作家さんだと思いますけれど森見登美彦という方の『新釈・走れメロス』という本があって、文豪の作品のパロディというかマッシュアップ的なお馬鹿短編作品集があるのですが、この中にも『百物語』が題材として取り上げられてて、こちらの方は何というかちょっとした怪談話というか奇妙な感じの話になっていて、他の作品も楽しめる、流石ベストセラー作家という感じの本なのでもし良かったら読んでみますか?」


「んー、わたしにはそっちの方が向いている感じがするなあー」


「ふふ、では今日いつもの喫茶店で会いませんか? 持って行きますので……」


「うーん暑いの嫌だけど、我が家の父様と母様からいくら何でもたまには外に出ろとかいわれているし、そうだね、じゃあお昼頃にでも!」


「はいはい、よろしくです!」


「お互いシャワー浴びてから行きましょう! 栞の使っているシャンプーって何なの? なんかいつも凄いいい匂いがするから、わたしはメロメロよ!」


「め、メロメロって……サンダルウッドですよ、白檀ですね……線香みたいといわれたりしますが私はこの匂いが大好きなんです……よくそういう所見ていますね……いや嗅がれていたというかなんというか……」


「ふふふ、私は傍観者なのです!」


「んもー、私は朝食にしますけれど、大方詩織さんはまた仮眠取るんですよね、そういうのはお見通しですからね!」


「はい……遅れないように行きます……」


 蜩が鳴き終わった後には今度は油蝉が鳴いている。

 外に出るのは億劫だったけれど、栞と遊ぶのなら気にしないでいられる。


 そして、わたしは栞のいうとおりに二度寝三度寝を繰り返し、時間ギリギリに慌てて外に出るのであった。


 栞曰く。


「人に行動を読まれるにしても極まっているじゃないか!」


 と、笑っていたので、ふと恥ずかしくなった。


 今日も暑い。


挿絵(By みてみん)

イラスト提供:

赤井きつね/QZO。様

https://twitter.com/QZO_


『百物語』なので季節を巻き戻してみました。

それにしても更新が遅すぎました、足を運んでくださった皆様には

申し訳無いことをいたしました。


感想あれば頂けると励みになります。

気が向いたらよろしくです、こんな本取り上げろでも結構ですし

もっと更新はやくしろでも、とりあえずおひねり感覚で一言だけでもありがたいところです。

よしなに。


読むの面倒!

という方にはこちらをよろしくお願いいたします。

『図書室の二人』をシナリオに京阪ラジオ/802で朗読劇された珍しいコンテンツです。

気軽に聞いてみたいという方は是非。

https://funky802.com/service/homepage/index/1626/116342

https://twitter.com/802Palette/status/1302900369039654913


あとTwitterとかは有った方が良いのですかね?

特に私とコンタクト取りたいという人もいないと思いますが

何かあれば適当に感想にでもご意見ください。

ではなるべく早い内に更新いたします。

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