4.言葉
賢人は内心ワクワクしていた。なぜなら、“魔法”が使えるからだ。ひたすらラノベを読んでいた人にとってこんなに嬉しいことはないだろう。そして賢人は、魔法について詳しく知るために本を読まなければならないと思った。
「フルール、この家に魔法について書いている本ってある?」
「ありますよ。ですが、リュカ様には難しいと思われます。本を読まれたいのですか?」
「まあ、うん。」
(本当は魔法を早く使いたいだけなのだが…)
「それなら、私が絵本を読んでさしあげますよ?この家には国立図書館にも負けないぐらいの書庫があるのでたくさんあると思います。」
「あ、そうだね!じゃあお願いしようかな?」
「ええ、ぜひに。では、今日はもう遅いですし、まだリュカ様も病み上がりなのでお休みください。」
「はい!」
次の日、さっそく絵本を読んでもらうことにした。賢人は、前世が高校生なだけあって、少女に本を読んでもらうという行為が恥ずかしくて仕方がなかったのだが、書庫の場所を教えてもらうにはそうするしかなかったのだ。
「リュカ様、これとかどうですか?」
書庫に入ると、恐ろしいほどの書籍が揃っていた。魔法の本を探し、キョロキョロしていたが、突然声をかけられ、いわれた本を見てみると、ドラゴンの絵が描かれたものだった。なぜ本のタイトルを言わないのか…それは、‘読めなかった,からである。前世の記憶をたどっても一度も見たことがない文字だったのだ。賢人は妹を守るため、必死に勉強をしていた。それは学校で学ぶこと以外にもあり、特に言語に関しては7ヶ国語までマスターしていた。いや、するしかなかったのだ。妹の容姿は日本人と思えないような中性的な顔立ちだったため、よく外国人に話しかけられていたのだ。『日本で』だ。最初は賢人が小学生6年生の時だった。外国語がほとんど話せず、妹が引っ張られていきそうになるのを見て、無力さを感じた。ただそれだけの理由だったが、賢人には十分だった。それから毎日必死で勉強し、気づけば7ヶ国語も習得していた。この知識もいつか役立つだろう。そう思っていたのに、この世界では全く通用しないのだ。しばらくショックで呆然としていたが、賢人は一から学ばなければいけないと思い、フルールに頼んだ。
「フルール、僕は字の読み書きを習得したい。自分で本が読めるようになりたいんだ。」
「リュカ様…。かしこまりました。ではさっそく、絵本を読みましょう。そうすれば字が読めるようになります。」
「はい!よろしくお願いします!」
「こちらこそ。リュカ様の熱意、しかと受け止めました。そうですね…リュカ様にはフィリア様よりも先に文字の読み書きを習得していただきましょうか…」
賢人はゾクっとした。フルールがものすごく黒い笑いを浮かべていたからだ。というのも、フルールは平民の出である。そして、侯爵家に仕える者はたいてい金持ちの子だ。つまり、一部の使用人たちがフルールの陰口を言っているのだ。その一部の使用人というのがフィリアに仕えている者たちだった。賢人はそのことを知らないので、理由もわからずスパルタな勉強が始まったのである。