次はお前だ
俺は、手野中央総合病院というところで、臨床工学技士として働いている。
臨床工学技士という資格の内容については、調べてもらった方が早いと思うが、簡単にいえば、医療機器の安全の確保や、しっかりと使えるように管理をするための職種だ。
病院にはたくさんの不可思議なことが起こるといわれているが、そんなことは実際にはめったに起きない。
ただ『めったに』といった通り、起きないわけではない。
夜間、もう午前4時になろうとしているころ、夜勤も眠気との勝負となってくる。
夜勤のリーダーをしている看護師は、眠気を覚ませるためのガムを1粒、2粒と口に放り込み、ついには5粒同時に噛みだした。
「あ、ラウンド行ってきます」
ラウンドというのは、装置がしっかりと動いているかを確認するためのものだ。
要は、それぞれの装置を確認してまわることになっている。
俺が担当しているのは1棟全体で、夜勤ということもあり、懐中電灯を片手に歩き回る。
「行ってらっしゃい」
夜勤リーダーは俺に軽く手を振りながらも、電子カルテへと何かを入力するためだろうか、パソコンを見つめながら、猛烈な勢いでキーボードを入力していた。
それについて何も触れないようにしながら、俺はラウンドを始めた。
1つ1つ、PDAを片手に動作しているかどうかを確認していると、6階へとやってきた。
俺が最初に出てきたのは3階で、そこから3階分上がってきたことになる。
物置が多い階で、空き室も今は多くある。
ここのフロアの患者さんは出入りが激しい。
これも手術室の回復室として使われていたり、末期の方がおられたりするためだ。
その中のある部屋から賑々しい声が聞こえる。
ひょっと覗くと、テレビが付いていた。
テレビには何も画像は映っていない。
ただ昔懐かしい砂嵐画面となっていた。
「……誰かが消し忘れたのか」
だが、次の部屋も、その次の部屋も。
ずっとテレビが付きっぱなしだった。
何かがおかしい、患者が寝ている部屋すら砂嵐が静かについていた。
そして、最後の部屋に入ると、バタンとドアが閉じる。
「なっ」
ドアをガチャガチャと開けようとする。
スライド式の引き戸なもので、思い切り開く方向へと引っ張るがピクリとも動かない。
そのうちに、テレビがついているのが目の端に見える。
砂嵐から、パソコンのブルースクリーンのように変わり、さらに黄色、赤、最後に黒となって文字が大量に表れた。
「次は、お前だ……?」
漠然としすぎていて全くわからない。
だが誰かが病室にいる気配がする。
誰もいないはずなのにだ。
「気を付けろ、次はお前だ」
男の声が響く。
耳では感知できず、ただ頭の中に直接響き渡ってきた。
「何がだよ」
「気を付けろ、誰もが狙われている。だが、次はお前だ」
「だから何がだ」
気を付けろ、声は反響を続け、そして次第に収まっていく。
気づけばドアは開くようになっていて、慌てて砂嵐になっていた部屋のテレビを切り、部屋から出た。
翌日、なぜか高熱が出て、家の近所の診療所に受診した結果、インフルエンザと診断された。