プロローグ8
馬車から降りると、そこに広がっていたのは綺麗なお花畑だった。丘じゃないんだ、と思いながら、寂れた様子はないが人の気配のないお花畑を歩いていく。
これはああだ、それはああだという説明を受けながら、見たことのない美しい花を眺める。
「ルーク王子は博識ですのね」
説明を終えたルーク王子に感心しながら言うと、ルーク王子は馬車を運転していた男性をチラリと見る。男性は背を屈め、耳元で「色んな事を知っている、という意味です」と小さな声で伝えた。
ルーク王子はこちらを見ると、「そうでしょうか」と嬉しそうに笑った。
夕方頃出かけたからか、お花畑を回り終えた頃には日がいい具合に沈んできていた。馬車へ戻り、ここの近くにあるのだと言う丘へ向かう。走る速さを遅くしているのか、暗くなった頃に着いたけれど。
目的地に着くと、そこには綺麗な星空が広がっていた。これは王子がお気に入りになるのも頷ける。
「美しいですわね……」
その光景に、ほぅ、と息をつきながら眺める。
「……もう、知られてしまいましたが、ここは私がとても気に入っている場所なのです」
「ええ、とても美しいもの。私も気に入ってしまいましたわ」
「それはよかった。実はここ、見つけにくい場所にあるので、あまり知られていないんです。勉学に疲れた時なんかに、こっそり抜け出して来て疲れを癒すんです」
「まあ」
勝手に抜け出すなんていいのか、そんなことを考えていると、それが伝わったのか彼は自身の口元に人差し指を当てる。
「2人だけのナイショですよ?」
「あっ、はい」
「だから、ここは私にとって特別な場所。……そこにあなたを連れてきた意味、わかりますか?」
「えっ」
なんで突然クイズが始まったんだ、と彼を凝視する。
「……婚約者候補だから?」
「婚約者候補ってだけで誰彼構わず連れてきたくないですよ。今後あなた以外とここへ共に来ることはない。つまり、あなたは私の特別だと言いたいんです」
彼はそう言うと、私の全てを視界に入れるよう、向かい側へ立つ。
「私は、あなたと婚約を結びたい。私と共にいてほしい。……この気持ちは、どれだけ歳を重ねても変りません」
真剣な眼差しで、私を見る。
「これから、どれだけ候補が増えようとも、選ぶのはあなたにしたい。だから、真剣に考えてくれませんか?」
「ア……ハイ」
乾いた声でなんとか返事をすると、ルーク王子は目を細めて微笑んだ。その笑みは、あの天使かと疑うほど、男らしかった。