プロローグ5
しかし母は本気で私をルーク王子の婚約者にしたいようで、マシューが帰った後、お稽古の数を倍に増やすと言われた。私の性格も直そうとしているのか、それ以降「ハキハキ話しなさい」やら「上を向いて歩きなさい」とか色んなお叱りを受けた。
母の気持ちはわからんでもない。ただ、その期待に応えられるほど私の心は強くないのだ。
無理だと思ったら、努力もせず諦める。それが私だ。
突然増えたやりたくないお稽古に心身共に疲れながら自室に戻っていると、屋敷のメイド長が私に話しかけてきた。
「ミランダお嬢様、ご機嫌いかがですか?」
「アッ……。普通、です……っ」
「左様でございますか。明日のご予定をお伝えしに参りました」
ああ、いつもの。
しかしそれはこのメイド長ではなく、就寝時間に私専属のメイドが報告することだ。なのにどうしたのだろうか。
「ルーク王子がミランダお嬢様にお会いしたいとのことで、一週間後、この屋敷にお迎えが来ます」
「えっ」
あの王子が私にお会いになりたいと!?
「あっ、あのっ!ルーク王子のご用事ってなんでしょう!?」
「ミランダお嬢様をエスコートし、星の良く見える丘でゆっくり過ごされたいようです」
メイド長は私がルーク王子と親しくなるのが嬉しいのか、いつも冷たいその表情を和らげた。
「で、デートのお誘いですのね……わかりましたわ……」
まさかあのルーク王子からデートに誘われるなんて。完全に今が幸せの絶頂期だ。
前世だと超イケメンで学校の人気物……には収まらず武道館でライブをやるような超人気アイドルの同級生に、一週間後デートな、と言われているようなもんである。ちなみにこの後デートがバレ、ファンの子に私のコミュ障っぷりを嫌味ったらしく言われるという未来がある。
「でーと?」
ここの時代では流行っていないのか、メイド長はその単語を意味わからげに復唱した。そんなメイド長に別れを告げ、私は自室へ戻った。