舞台修正4
「……マシュー?」
大丈夫か、と首をかしげると、マシューは恥ずかしさから頬を紅潮させ、私から目を逸らす。
「だ、大丈夫!私と練習、しよ……?」
「ちっ、違う!僕はただ王子の婚約者候補に、本気じゃないとはいえ!口説くのはどうかと思って!」
「じゃあ他の令嬢に言うみたいにしてみて?それとも、他の令嬢にも、言えない?」
「いやそれは結局なにも変わらないっていうか……あーもう!あなたは僕の心を射止めてしまいました!どうか一曲踊ってくださいませんか!はい言った!これでいい!?」
マシューは顔を赤くさせ、怒鳴るように言った後、私から距離をとった。
態度は兎も角、言葉は口説き文句に使われそうだ。この年齢でその言葉を使えるとは上出来だ。
しかしそうじゃない。マシューのその言葉では、軽さを感じないのだ。心を射止めて、だとまるで相手に恋をしているみたい。ランディが言った方が似合う。
「……ちょっとちがう。ね、私の事、可愛いって言ってみて」
「またそれ!?なんでそんなに言わせたがるの……」
そう言った後、マシューは何かに気づいたようで、恐る恐る、といった感じで聞いてくる。
「もしかして、僕に言ってほしいの……?」
「そうだけど……」
今頃何を言っているのだ、と首をかしげると、「もしかして、練習はただの口実ってこと?」と、もごもごと小さな声で呟く。
「ん?口実?」
「ふーーーん。そんなに言ってほしいんだ?まあ、いいけど?そっか、ミランダ様は”僕に”可愛いって言ってほしいんだ?」
先ほどの態度が嘘のように上機嫌に言いながら、こちらをちらちらと見るマシュー。よくわからないけど、なにか勘違いされているのはわかった。
マシューはこちらに近づくと、耳元に口を寄せる。
「かっ……、かわいい、よ。ミランダ……」
「……緊張してる?」
「なっ……!あ、当たり前じゃん!……んで、ミランダ姫はこれで満足?」
「もっと軽く言って?」
「は?」
緊張したマシューも可愛いけれど、マシューにはもっとチャラく言ってほしい。
「マシュー、可愛いね」
すっと近づき、彼と同じように、耳元でセリフを吐く。そして顔が見れるように離れ、にっこりと笑う。
「……は、ああああ!!?馬鹿にしてる!?」
「え!?ち、違うよ……!さっき、私がやったみたいに、軽く可愛いって言ってみて……?」
「意味わかんないんだけど!僕がさっき頑張って言ったのはお気に召さないってこと!?」
「まあ、うん……」
「なんで!!」
「チャラい方が、好きだから……?」
そう言うと、マシューはふるふると震え、「馬鹿にするな!!」と言い部屋から出て行ってしまった。
なぜかわからないけど、マシューを傷つけてしまったようだ。
なんでだ、と思い返せば、自然に「あっ」と声が漏れる。
いきなり可愛いって言って?じゃ、私自身がマシューに気があって、どうしても言ってもらいたいみたいじゃないか。違う、違うんだ。私は可愛いという言葉が一番軽くて言いやすいかなって思って、だから違うんだ。
確かにマシューに言ってもらいたかったけど、それは練習としてだ。"すらすら言えるの?じゃあ可愛いって私に言ってみて?"みたいなニュアンスだったのだ。それを口実、なんて言葉で回収されてしまえば残るは「可愛いって言って!」と強請る私のみだ。
マシューはそれに付き合ってあげたのに私が「そういう言い方好きじゃない!」と言ってしまえば気分を害するのは当たり前だろう。
難しい、どうすればいいんだ……。




