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昼間の少女と夜の街

 店長に勧められるままに、夜休みは外で過ごすことにした。しかし、改めて考えてみると明けのパートの人が来るには早いような。あ、もしかして気を遣わないように言ってくれたのかも。気付かないのも間抜けだったなぁ。あとでお礼言っておかないと。

 まあそれはともあれ。実際のところ私もあまり外でご飯を食べるタイプではないので、飲食店には疎い。どうしたものか……。

 「あれ、ユイさん、どうしたんですか?」

 「その声は救いの……じゃなかった。ヨダちゃん」

 思わず変なことを口走りそうになった。たぶんご飯のあともこの辺をぶらついていたんだろう、偶然ヨダちゃんと出会った。……まあ本当のところ、ほんの少しそういうこともあるかなーとは思っていたけど。

 「あれ、もう一人の」

 「ああ、マークですか?アイツはなんか調べ物があるって言っちゃいました。ああ見えてゴシップ好きなんですよ」

 確かにあまりそういう風には見えなかったな。もっとなんというか。

 「それでユイさんはなにをしてるんですか?」

 「え、ああ。夜休憩もらったからご飯を食べようかなと。そうだ、ヨダちゃん……はもういらないよね」

 さっき自分の店で食べてたところじゃないか。ご飯に誘ってどうする。でもヨダちゃんは何か少し考えてから。

 「お茶くらいならご一緒出来ます」

 中性的な微笑み。て、天使……?

 「うん!じゃあなにかデザートも出るようなところにしよう」

 「料理も出るなら、カフェとかもいいですよね」

 「カフェかー」

 そういえばずいぶん前にもヨダちゃんとカフェに……ってあれはあっちの地区だったか。考えてみれば初めてのカフェで待ち合わせっていうのもすごい。

 「どこがいいですかね?」

 「ヨダちゃんはどこがいい?」

 「どこ、ですか」

 尋ねたらヨダちゃんは困っちゃったみたいだった。……というか、よく考えたらそもそもヨダちゃんはこっちのお店のことをあまり知らないんじゃないのかな。

 あー、どうしよう。ここはお姉さんらしくエスコートするべきなのか。でも正直のところ私もあまり知らない……いや、一軒だけあった。

 「じゃあ、おすすめのところ連れてってあげる」

 「おすすめ……おいしいんですか?」

 大丈夫。味は保障されてる。


 *****


 くだんのカフェにたどり着くと、ちょうどエレナとすれ違った。

 「あらユイ。それにヨダカさん?」

 「エレナさん、こんばんは」

 「げ、エレナ」

 実はこのお店はエレナに教えてもらったのだ(ちなみによく分からないけど、エレナに言わせるとここはカフェではないらしい)。だから、当然こういうことは考えられた。でも、お昼にはちょっと遅い時間だから大丈夫だと思ったんだけど。

 「げ、とはご挨拶ね。ヨダちゃんは呼び出されたの?」

 「いえ、今日はお休みで偶然会ったんです。エレナさんもお休みですか?」

 「まあそんなところ。そういえばユイは仕事はどうしたの?」

 「休憩中!ほら、帰るところだったんでしょ」

 「あら冷たい」

 けん制しておくとエレナは素直に帰って行った。別に嫌って訳じゃないけど、エレナと一緒だとどうも子どもっぽく見られそうな気がする。

 「いらっしゃいませ。お二人ですか?」

 「あ、はい!」

 お店の人に連れられてテーブル席につく。テーブルに置かれたメニューを二人で見ながら。

 「あのね、ここはパニーニが――」

 言ってる途中で思い出した。ヨダちゃんはご飯食べた後なんだった。

 「あ、あのね、エスプレッソもおいしいよ?」

 ヨダちゃんも苦笑してる。

 「じゃあそれをいただきます。それに……ジェラートを。」

 それじゃあ私がパニーニにしよう。ここのはトマトやレタスのみずみずしさが生ハムの塩気とマッチして本当においしいのだ。

 ヨダちゃんは少し笑って、お店の人を呼んだ。


 *****


 

 まずはヨダちゃんのエスプレッソが届く。よし。飲んでいる間に考えよう。まず、私はヨダちゃんの口調を直したい。そのために

 「あ、おいしい」

 「でしょ!私苦いのはあまり得意じゃないんだけど、ここのはおいしく飲めて」

 まあ私はいつでもカプチーノだけど。でもおいしいお店を紹介出来てちょっと鼻が高い。

 「そういえばもう日傘には慣れた?」

 「あ、はい。晴れてるのに差すのはちょっと変な気分でしたけど」

 「最初はなんとなく戸惑うよね。片手塞がっちゃうし」

 でも思った通りヨダちゃんには日傘がよく似合っていた。なんというか、昔本で読んだ高草の精霊のようだった。


 ヨダちゃんが飲み干したところに、ちょうどパニーニとジェラートが届いた。届いたそばからパニーノにかじりつく。うん、おいしい。

 パニーノに舌鼓を打っていると、ヨダちゃんがこっちを見ているのに気付いた。

 「どうしたの?あ、もしかして顔に何か付いてる?」

 そうだとしたら恥ずかしいな。でもどうやら違うらしい。

 「その、おいしそうに食べるなと」

 「ん?だっておいしいから。あそうだ、一口食べてみる?」

 持っていたパニーノをそのまま差し出すと、ヨダちゃんはなんだかちょっと遠慮している様子。

 「遠慮しないでいいよ」

 「いえ、その……」

 ヨダちゃんが控えめに見ているパニーノを見る。あ、私のかじった方を差し出してた。確かに気にする人は気にするよね。それでかじってない逆側を向ける。

 「はい。ごめんごめん。私こういうの気にしないたちで」

 「いやでも……」

 気にしたそぶりも見せながらもついに一口かじった。それでぱっと顔が明るくなる。

 「おいしい!」

 「でしょう?だからいっつもこればっかり頼んじゃって」

 そこでちょうどジェラートも届いた。そういえば食べたことないけど、これもおいしそうだ。

 でも、何かを忘れているような。


 思い出した。ヨダちゃんにもっと砕けた言葉遣いになってほしいんだった。……いや、でもべつに話し方なんてなんでもいいんじゃない?

 というか、そもそも何て言えばいい?「敬語とかなしで喋ろう」って?……なんというか、それも変な感じ。私は敬語使ってないし。別に困ることがある訳じゃないし。

 食後のカプチーノを飲みながらどうしたものかと考えていると、とうにジェラートを食べ終えていたヨダちゃんがこっちを見ていた。

 「あの、何か悩み事ですか?」

 「え、まあ……でも大丈夫。たいした話じゃないし」

 というか、ヨダちゃんに相談できるわけがない。

 でもヨダちゃんは気にしている様子だった。というかごまかすの下手くそか私。何か話題を。

 ヨダちゃんがまた口を開こうとしたところで、カフェのドアベルが鳴った。

 「やっぱりヨダじゃん。なにしてんだ?」

 「マーク。なにって普通にお茶してただけだけど。そっちは調べ物終わった?」

 「収穫なし、だけどな」

 マークさんと楽しげに話しているヨダちゃん。ちくり、胸が少し痛む。……思い出した。なんというか、……羨ましかったんだな。久しぶりに出来た友達に、もっと仲のよさそうな友達がいた。それがちょっと、いやだったんだ。

 うわ、そう考えるとなんか嫌な女って感じじゃないか。せめてマークさんに嫌な態度を取らないようにしないと。

 「あ、えーっと、ユイさん、だっけ。なんか邪魔しちゃった?悪いね」

 「あ、いえいえ。邪魔なんてことは。はい」

 「ならいいけど。なんか思いつめたみたいな顔してっから」

 そんな顔してた?ていうか、この人見かけによらずいい人だ。……逆にやりにくいな。なんとなく。

 「じゃあそろそろ戻るか」

 「もうそんな時間?」

 「帰る頃には朝飯の時間だからな」

 言われて時間を確認する。朝ご飯にはまだ早いように思えるけど、まあ二人の地区はちょっと遠めだからそんなものなのかも。

 「それじゃあユイさん、すみませんけどお先に」

 「あ、私ももう仕事に戻るから」

 本当は仕事に戻るのにも早いけど、別に一人でやることもないし。

 それで今日のところはヨダちゃん達と別れた。……まあ、言葉遣いに関してはおいおい伝えよう。うん。


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