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だって僕はNPCだから 2nd GAME  作者: 枕崎 純之助
第五章 『魔獣使いキーラ & 暗黒巫女アディソン』
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第11話 ネオ・ウイルスとネオ・ワクチン

 激しい戦いが終わった地下空洞は静寂に包まれていた。

 地面が凍りつき、冷たい空気がピンと張り詰めている。


「一か八かでしたが、うまくいきましたね。アル様」

「うん。危うく自分史上最悪のマグマ・エンドを迎えるところだったよ」


 僕とジェネットは顔を見合わせてホッと安堵あんどの白い息をつきながら、互いの無事を喜んだ。

 僕らのかたわらには立ったまま全身を凍結させて氷の像と化したアディソンの姿があった。

 僕は双子相手にかなり危うい戦いを繰り広げたんだけど、新しく手に入れた不思議な力とジェネットの機転のおかげで、どうにか双子に勝利することが出来たんだ


「アル様の氷の腕を見て、アリアナの力だと思いました。ただどうやってアル様がその力を手にされたのか方法が分からなかったのですが……」


 ジェネットは僕がアディソンの魔神の吐息(サタン・ブレス)を左手首のIRリングで吸い取ったのを見て、ヒントを得たらしい。


「倒れたままのアリアナでしたが体から冷気を放ち、すぐそばには輝く氷の玉がありましたから」


 やっぱりアリアナの涙だ。

 ジェネットはそれを拾って僕に投げ渡してくれたんだ。


「おかげで助かったよ」


 僕はジェネットにお礼を言うと、双子がアリアナを含めたNPCたちのコピーを作り出してミランダの襲撃イベントを有利に進めようとしていたこと、黒幕の報告書について、そしてこの力を手に入れるに至った経緯を話した。

 IRリングが復活してなぜか僕の左手首と一体化したこと。

 そのIRリングがアリアナの氷の涙を吸い取り、僕は氷の右腕とそれに伴うタリオの新たな力を手に入れたこと。

 それを聞きジェネットはたいそう驚いた。


「……アル様のその力の源は何なのでしょう。私、常々思っていたのですが、アル様はただの一NPCではないような気がするのです」

「そ、そんなことないでしょ。僕ほど平凡なNPCはいないと思うんだけど」


 僕は自分が特別だなんて思ったことは一度もない。

 だけどさっき双子のアジトで古びたパソコンの中から発見した黒幕の報告書にも、僕は危険な存在だと記されていた。

 それにジェネットの疑問も少しは理解できる。

 ここ最近、というかタリオを手にしてからの僕には、不可解なことばかり起きているからだ。

 僕、どうしちゃったのかな。

 そんな僕らの疑問に答えたのは、唐突にこの場に現れた人物だった。


【その答えはアルフレッドの出生にヒントがある】

 

 僕とジェネットは同時に振り返った。

 背後に広がる地下空洞の壁のそこかしこから多くの小動物が現れたからだ。

 再び懺悔主党ザンゲストのメンバーが戻ってきてくれたんだ。

 そしてその中からすぐにブレイディとエマさんが人間の姿に戻り、僕に声をかけてくれる。


「ごきげんよう~。オニーサン」

「アリアナのことは任せてくれ。無事に地上まで送り届ける」


 2人はそう言うと倒れているアリアナの元へ向かってくれた。

 アリアナを小動物化して地上まで運んでくれるみたいだ。

 よかった。

 

 ホッとする僕の前方には続々と小動物たちが集まってくる。

 その中に、ひときわ目立つ黄金色に輝く毛並みを持つ小動物がいた。

 僕とジェネットにメッセージを送ってきたのは、その黄金のフェレットだった。

 ジェネットはそのフェレットの前に膝をつき、両手を胸の前で組む。


「主よ。わざわざお越し頂き感謝いたします」


 へっ?

 主って……まさか?


【ご苦労だったな。ジェネット。それにアルフレッド】

「か、神様? 神様なんですか?」


 僕は驚いて目の前のフェレットをマジマジと見つめた。

 すると 黄金のフェレットは鷹揚おうよううなづき、右目を閉じて左目だけを大きく開けるという人間のような真似まねをした。

 するとフェレットの左目の中にキラキラと輝く美しい紋章が浮かび上がっていた。

 

 僕はその紋章に見覚えがある。

 それは「GOD」の3文字を1文字にまとめて作ったような、そんな紋章だった。

 ……そうだ。

 神様とメッセージのやり取りをしていた時に、アイコン代わりに使われていた紋章だ。


「神様なんですね」

【そうだ。こうして面と向かって会うのは初めてだな。平凡な兵士かと思っていたが、間近で見ると思っていた以上に平凡な面構えで驚いたぞ。その平凡さには感服する】


 やかましい!

 これでもかというくらいに「平凡」を散りばめるな!


【ここに来る途中で、ジェネットの目を通しておまえの戦いぶりを見ていた。かなり型破りな戦い方だが、素人ならではの戦法が功を奏したな】

「と、とにかく必死だったんで……」


 不格好ぶかっこうでも死に物狂いで全力を尽くす。

 僕にはそれしか出来ないからね。

 結果としてそれが双子に対して有効だったってことだろう。


【今おまえがジェネットに教えてくれた事実、これは重要な証拠となる。おまえが入手してくれた黒幕の報告書を写した写真も決定的だ。よくやってくれたな。さて、今からやるべきこと、話すべきことがたくさんあるぞ。そのためにわざわざ私がここまで直接出向いたんだからな。まずはやるべきことからやろうか】

「やるべきこと?」

【ジェネットやミランダの身に起きている異変。それはネオ・ウイルスによるものだ】


 ネ、ネオ・ウイルス?

 何それ?

 

【ウイルスを消去すべきワクチンがウイルスと結合してしまい、新たなウイルスに変化してしまう。今、ミランダとジェネットが不調に陥っているのはそのネオ・ウイルスが原因だ】

「そ、そうだったのか……でもどうしてそのことが分かったんですか?」

【黒幕の奴はウイルスをここぞという時に効果的に使って、事態を有利に進めようとしていた。そんな奴がウイルスに対抗するワクチンのことを考えないはずがないだろう? あらかじめワクチンへの対抗策を練りこんでいて当然だと思った。そこまでは推論だったが、ワクチンでウイルスを浄化したはずのジェネットに今回の不調が起きたことでそれは確信に変わった。それを確かめるために砂漠で双子の刺客に襲われた際、ジェネットはあえてウイルスに感染したんだ】


 そういうことか。

 僕は黒幕が作成した報告書の最後に残された不可解な一文を思い返した。

 ウイルスがワクチンと結合した時の動きについては……。

 そこで唐突に報告書は途切れていた。

 あの報告書を書いていた時点で黒幕は恐らくそのネオ・ウイルスを実現させる方法を得ていたってことじゃないだろうか。

 僕は思わずくちびるを噛み締めた。


「せっかくワクチンを投与したのに、それが裏目に出てしまったなんて……」

【そうだな。ワクチンが開発されることを見越して作られた二段構えのウイルスだったということだ。だが、そのネオ・ウイルスに対抗するネオ・ワクチンを生成できる可能性があるんだ】

「ネオ・ワクチン?」

 

 そう言う僕にうなづくと神様はジェネットを見上げた。


【ジェネット。ワクチン・スタンプを使ってアルフレッドの左手首、IRリングにワクチンを注入するんだ】 


 え?

 IRリングを通してワクチンを摂取するってこと?

 それってどうなるんだ?

 神様の話に目を白黒させる僕の隣で、ジェネットも少し心配そうな表情を見せた。

 

「あの……主のお言葉ならば間違いはないと思いますが……そのことでアル様にどのような影響があるかお聞かせ願えないでしょうか。恐れ多いことですが」

【おまえらしくもないな。アルフレッドのこととなると心配性の虫がうずくか】

「い、いえ……」

【案ずるな。アルフレッド自身に悪影響はない。アルフレッドは先ほどIRリングによって氷の力や毒の力を手に入れ、それを独自の力に変化させてタリオで攻撃しただろう? 同じことがワクチンの力でも起き得る。ネオ・ウイルスに有効なネオ・ワクチンが生み出せると私は考えている】


 神様の話には説得力があった。

 

【アルフレッドの出生の秘密。その事実を知ったことが今回の私の確信をより強固なものにしてくれた】

「さっきも言ってましたけれど、僕の出生の秘密って一体何なんですか?」

【まあ待て。あまり時間がない。今この時もミランダは不調を抱えたままアリアナのコピーと戦っている。早々に地上に向かわねばならん】


 そうだ。

 ミランダがまだ戦っている最中なんだ。

 僕がネオ・ワクチンを生み出せるなら、ミランダを苦しみから救うことが出来るなら、一刻も早く駆けつけてあげたい。

 僕は決然と口を引き結び、ジェネットに左手首を差し出した。


「ジェネット。ワクチン・スタンプを」


 僕の決意を見て取ったジェネットはおごそかにうなづき、ワクチン・スタンプを取り出すとそれをIRリングに注入してくれた。

 今回はアリアナの涙を取り入れた時のように、体の中に何かを感じることはない。

 だから僕は少し不安になった。

 本当にネオ・ワクチンを作り出せるんだろうか。


 だけど僕が固唾かたずを飲んで自分の体を見守っていると、すぐに変化は訪れた。

 青白い氷の右腕が乳白色の腕に変わっていく。

 神様はそんな僕の腕の変化を見ると満足げに目を細めた。


【アルフレッド。それこそがワクチンをネオ・ワクチンに変化させたことで生じた腕だ】

「これが……僕の新しい力」


 僕は乳白色に染まったその新たな腕に力を込め、拳を握り締めた。

 大事な人たちを守るための運命の糸をつかみ取るために。

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